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エッセイ032:金 香海 「日中韓三国の旅」

2006年11月2日から15日まで、私は国際シンポジュウムに参加するため、中日韓三国を回るハードなスケジュールに挑戦した。まずは延吉から瀋陽に出て空港付近で一晩泊まってから、翌日10時に瀋陽空港を飛び発って2時間後に仁川空港に到着した。そこでしばらく休んで大阪に入ったのは夜の10時であった。一日で三国を回れるのであるから、三国は本当に近いと実感した。

 

大阪産業大学アジア共同体研究センターが主催した会議では、「北東アジアの経済連携強化の道を探る」というテーマで、日本を始め、中国、韓国及びロシアから来た学者たちが熱い議論を交わし、「北東アジアにおける国際協力は可能である」という結論を出した。上記のテーマは文部科学省の平成17年度私立大学学術研究高度化推進事業の「オープンリサーチセンター整備事業」に選定されたもので、今後5年間行われる計画である。私は「中国の対北朝鮮援助開発の現状と課題」について報告した。

 

5日の朝には「第6回日韓アジア未来フォーラム:親日*反日*克日」に参加するため、久しぶりに新幹線に乗って横浜に向かった。懐かしさと快適さで胸一杯であった。会議の会場であった鹿島建設葉山研修センターに着くと、今西常務理事を始めとする会議の関係者達が熱く出迎えてくださり、昼食の後には歴史を踏まえた日韓関係について議論した。宴会の後には酒を飲みながら面白い話、歌を交えながら葉山の美しい夜をすごした。先輩の李鋼哲さんが場を取り仕切って、故郷の「三鞭酒」を振舞い、飲み会は最高潮に盛り上がった。私はいつもお酒に自信を持っていたが、ここ葉山にきてはじめで自分の酒量が未熟であることを知った。

 

葉山で楽しい夜をすごして6日の朝、恩師に会うため上京した。東京は本当に懐かしかった。それはそうだ。ここで8年間、博士号を取るために家族と一緒に奮闘した。振り返って見れば、ここが私に名譽、地位、豊かさ、及び力を与えてくれたのである。東京では靖国神社と神保町の内山書店の二箇所を回った。靖国神社に行ったのはもちろん参拝のためではなく、今私が関わっている「北東アジアにおける歴史共通認識」プロジェクトの一環としての現地調査だった。就遊館を見学しながら、私は、歴史認識において日中はこんなに大きなギャップがあることを改めて確認し、これを克服するのはどんなに難しいだろうかと感じた。留学生時代にはお金がなくて、よく神保町にいって古本を買っていたが、今回は違う。私の博士論文がやっと本になったので、中国の大文豪魯迅と深い関わりがあり、中国図書専門販売店である内山書店に頼んで販売してもらうためであった。やっと8年間の努力の結実が日本の書店の本棚に並ぶことになって本当に嬉しかった。

 

東京の旅は余りにも短く、昔のいろいろな思い出を味わう暇もなく、羽田空港を発って韓国の金浦空港に向かった。先輩の南基正さんの招請により、済州島で開催された韓国国民大学主催の「外交文書公開による日韓会談の再照明」のシンポジュウムに討論者として参加させてもらった。ここでもやはり歴史問題がテーマであったが、私はこの分野における専門家ではないので、この会議に参加できたのは南さんの手厚い配慮であった。会議が終わったのは夜9時、葉山と同じ「爆弾酒」の爆撃を浴びながら、豪華なリゾートホテルのバルコニーにおいて、岸辺の岩にぶつかる波の音を聞きながら、日中韓のことについて議論した。

 

朝鮮半島は北の長白山(韓国名は白頭山)から済州島まで三千里江山といわれ、寒帯から熱帯の気候に恵まれている。だが、故国のこんな綺麗な南国風景を初めて目にして、私はすっかり感心し、「旅愁」に胸が痛かった。済州島には女、石、風が多いと言われ、有名な蜜柑の産地でもある。昔から粛清された官吏達がここに追放され、思想の蓄積も厚く、今になってもソウルの植民地だと言われるほど本土への抵抗と疎外意識が強い。仁川空港から延吉に向かう飛行機の窓から北東アジアの海と大陸を見下ろしながら、私はどうやってこの地域において「共生空間」を作れるかということを、ずーと考えた。・・・もしかしたら歴史を乗り越えた上で、お酒と疎外地域のイニシアチブで作れるかも知れない。心の壁をなくし、尊重し合うことが共同体構築の土台になるだろう。

 

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金香海 (きん・こうかい ☆ Jin Xianghai)

 

中国東北師範大学学部、大学院を卒業後、延辺大学政治学部専任講師に赴任、1995年来日。上智大学国際問題研究所の研究員を経て、1996年に中央大学大学院法学研究科に入学、2002年に政治学博士号を取得。現在は延辺大学人文社会学院政治学専攻助教授、同東北亜国際政治研究所所長。2005.9-06.8ソウル大学国際問題研究所客員研究員。専攻は国際政治学。北東アジア共同体―平和手段よる紛争の転換について研究中。