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エッセイ022:羅 仁淑「日本の生存権保障と外国人労働者の租税負担を考える」

地方税の滞納により給料日に銀行口座が差し押さえられた。たまたまお米も交通費もない状態だったのに、口座には75円しか残っていなかった。ショックだった。区役所に電話をした。恥を忍んで現状を説明し執行停止を求めた。『国税徴収法』に預貯金を差し押さえる場合の下限はない、生活のことはご自分のことですからご自分で考えなさい、本国から送ってもらったらどうですか、という答えしか返ってこなかった。

 

翌日、仕事にも行けず、区役所の生活福祉課に生活保護を申請した。「一時的」な滞在資格者は対象外だと言われた。これから一ヶ月間のことを考えると目の前が真っ暗だった。

 

寂しさにふける余裕はなかった。そのような状況に追い討ちをかけるかのように、残りの未納が完済されるまで差し押さえ続けると言われた。分割を申し出た。分割の場合でも職場に聞いて給料額を調べなければならないと最も恐ろしいことを言われた。急遽、知人に工面して残りを払った。返さなければならない負担はあるものの、これで悪夢は終わった。

 

ようやく国による生存権侵害について冷静に考えてみる余裕が持てた。日本国憲法第25条には「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と条件のない純粋な生存権が保障されている。もはや国民の生存権より財政の確保を優先しなければならなくなったのか。昔の救貧法時代に遡りつつある現実の主人公になってしまった自分が嘆かわしい!

 

話を少し変えて、国民負担と歳出について考えてみたい。財務省が公表したデータによると2005年度の対国民所得の国民負担率は37.8%(同年度潜在的国民負担率45.1%)であり、所得の多くの部分を国に納めていることが分かる。一時的滞在資格で働いている外国人労働者にもまったく同じ負担が課される。そのため、一部の高所得階層を除けば、内国人外国人を問わず、窮屈な生活を強いられている。幸い内国人にはいざという時、生活保護制度なり、低所得者を対象とした貸付制度があるが、外国人には絵に描かれた餅である。

 

国民の生活を圧迫しながら集めたお金はどこに使われているのか。2005年度の歳出項目(括弧のなかは歳出総額に占める比率)は、社会保障関係費(24.1)、国債費(21.9)、地方交付税交付金(18.6)、公共事業関係費(9.8)、文教および科学振興費(6.7)、防衛関係費(5.7)、地方特例交付金(1.8)、改革推進公共投資事業償還時補助金など(1.3)、恩給関係費(1.2)、経済協力費(0.9)、食料安定供給関係費(0.8)、エネルギー対策費(0.6)、中小企業対策費(0.3)、産業投資特別会計へ繰入(0.1)、その他(6.2)などであり、負担されたお金は直接・間接的にほとんど国民に還元されることが分かる。

 

それでは、職がなくなると容疑なく本国に戻らざるを得ない外国人労働者にはどれほど還元されるであろうか。上記歳出項目から道路使用や治安など間接的な還元を別にすれば、彼らに直接関連するのは「社会保障関係費」のみである。社会保障関係費の内訳(括弧のなかは社会保障関係費に占める比率)は社会保険費(78.0)、生活保護費(9.6)、社会福祉費(8.1)、保健衛生対策費(2.5)、失業対策費(1.9)であるが、社会保険(年金・医療・介護・雇用・労災)とくに年金・医療・労災以外は一時的外国人労働者との関連は薄い。しかし、年金制度は最低25年以上加入しないと受給資格が得られないため給付を受けることは非常に難しく、医療保険の場合でも仕事ができないほどの病気すなわち本当に医療費がかかる病気にかかると滞在許可が得られない。このように歳出項目から一時的外国人労働者に該当しない項目を消去法で消していくと労災保険だけが残る。要するに還元できないと分かっていながら一時的外国人労働者に内国人と同じ負担を強要していることになる。

 

今度の差し押さえ騒ぎは底辺の生存権保障問題と一時的滞在資格者の負担問題を考えてみる機会となった。

 

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羅 仁淑(ら・いんすく)博士(経済学)。SGRA研究員。
専門分野は社会保障・社会政策・社会福祉。
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