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新刊紹介:範建亭著「中国の産業発展と国際分業:対中投資と技術移転の検証」

新刊紹介

 

SGRA「人的資源・技術移転」研究チームのサブチーフの範建亭さんより、下記のご本とその紹介文お送りいただきましたのでご紹介します。

 

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範建亭著「中国の産業発展と国際分業:対中投資と技術移転の検証」
風行社 A5判 約250頁 定価3675円(本体3500円)
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■出版に寄せて 上海財経大学 範 建亭

 

このたび、拙作の『中国の産業発展と国際分業―対中投資と技術移転の検証』が出版されました。本書は、一橋大学経済学研究科に提出した博士学位論文を基礎に、国際分業の視点から中国の発展要因を明らかにしようとするものであり、特に日本企業の対中直接投資や技術移転を通じた日中間の分業関係に着目しています。

 

1970年代末に改革・開放を実施した中国は、驚異的な経済成長と産業発展を遂げつつありますが、中国経済における際立った変化の一つは、海外から大量の直接投資と技術が導入されたことであります。日本を含む世界各国の対中投資は、資金の導入や輸出入の拡大などへの貢献に限らず、様々な製造技術や製品技術、および生産管理の手法などが合弁パートナー企業や現地企業に移転、波及し、中国の産業発展に寄与していることは明らかであります。そして、外資系企業の現地生産活動を通じて、中国企業との間に緊密かつ多様な分業・協力関係が築かれつつあります。しかしながら、中国経済論の文献は多数刊行されているにもかかわらず、国際分業との関連から中国の発展要因を研究したものは必ずしも多くないです。

 

そこで、本書は国際分業を後発国の発展要因として捉え、貿易や直接投資などの展開が中国の産業発展にいかなる影響を及ぼしたのかということを考察しています。研究対象の一つは、日本企業の対中直接投資を通じた技術移転の効果であり、第Ⅱ部では、機械工業企業を対象に行った独自のアンケート調査に基づき、日系企業内外の技術移転構造とその決定要因についての検証が展開されています。もう一つの研究対象は中国の産業発展と国際分業との関わりであり、第Ⅲ部は中国の家電産業を取り上げ、その追いつき発展の特徴と諸要因を輸入代替化のプロセス、日本家電産業の技術供与や現地生産との関連から検証しています。

 

私は日本語学校から学部を経て大学院の博士課程を修了するまで、合計12年の留学生活を送りました。以前、私は建築関係の仕事に従事しており、経済学とは全く無縁でした。もし日本に留学していなかったら、新しい学問に挑戦する機会もなかったでしょう。長年の留学生活を恵まれた研究環境のなかで送ることができ、そして著作としてまとめることができたのは、渥美財団をはじめ、大勢の方々からのご指導とご援助のおかげであり、ここに改めて御礼申し上げます。

 

私は昨年の夏に帰国し、大学の先生として久しぶりの現地生活をスタートしました。故郷の上海は十数年の間にとてつもない変貌を遂げており、激動の中国経済を象徴するような大都市となっています。近年、海外から戻った研究者は増えつつありますが、経済学に関しては日本留学組はまだ少数派であります。今後、教育と研究の両面において日本で学んだ知識を生かし、日中間の経済関係と分業体制のあり方を幅広く考えていきたいです。

 

■目次
序 章:研究課題と方法
第I部:理論的アプローチと現状分析
 第1章:理論と先行研究の検討
 第2章:中国の外資導入と日本企業の進出
第II部:対中直接投資を通じた技術移転
 第3章:日系現地企業の技術移転構造
 第4章:技術移転の決定要因分析
第III部:中国家電産業の発展と国際分業
 第5章:家電産業の輸入代替メカニズム
 第6章:家電産業の発展における日中間分業関係
終 章:総括と展望