SGRAかわらばん

エッセイ686:謝志海「脱炭素社会を先導する民間企業あれこれ」

前回のSGRAかわらばんで、レジ袋をもらわないことによってエコになるかどうか、個人に環境問題を問うたが、日々の生活で痛感するのは地球の温暖化をくい止めるのは個人だけでは難しいということだ。

 

日本政府は今年4月の「気候変動サミット」で、2030年までの二酸化炭素排出量削減目標を2013年度比46%減とする新目標を発表した。これは日本政府がパリ協定後に国連に提出した削減目標の2013年比26%減から大幅な引き上げだ。同サミットでの米国の目標は2030年までに2005年比で50—52%削減。中国は2030年までにGDPあたりの二酸化炭素排出量を2005年比65%以上削減することや、2060年のカーボンニュートラル実現を掲げている(ジェトロ調査レポートより)。

 

日本がこの数値を達成するには、我々は今の暮らしをどのように、そしてどのくらい変えなければならないのか正直わからない。政府の掲げたこの大きな目標と、同じく政府が打ち出したプラスチック使い捨て品の有料化が国民にうまくリンクしていない。あくまでも私の推測だが、学校教育ではしっかりSDGsという大きな枠組みを教え、学校生活を通じ学内でリサイクル品の分別など行うことで、環境問題に真剣に取り組んでいると思う。しかしすでに成人し、社会で働いている人々は日々の忙しさにかまけて、環境問題なんて二の次のような人も多いのではないか。

 

その理由としては2つあると思う。まず社会人の新聞、テレビ離れの激しいこと。誰もが自分の欲しい情報しか取りにいかないので、環境問題に興味の無い人にはエコな情報など皆無であろう。もう一つは捨てられた家庭ごみの山からもわかるが、今でも生ゴミの日にダンボールやペットボトルを出す人があとをたたない。(住んでいるエリアによってごみ分別の意識が違うことは重々承知している。都会に住む人は人の目が多いからか、ごみ分別はしっかり行っているように感じる)環境問題を真摯に受け止め、行動する市民がどれだけ頑張っても、2030年に二酸化炭素排出量が今より数十パーセントも減るとは推測しにくい。

 

しかし、「日本はすごい!」と思うのは、政府と市民の間にどれだけ大きな隔たりがあっても、民間企業はいつだって頑張っているし、民間企業がそれぞれ独自の環境問題への取り組みを行っているところだ。私は日本が目標に近いレベルまで到達できるのも夢ではないかもしれないと期待している。挙げるときりがないが、私が感動したいくつかの企業の環境問題への取り組みを紹介したい。

 

まず、プラスチック(PETボトル)の循環利用事業を構築した三菱商事。なにがすごいのかと言うと、リサイクルするのがキャップラベルを外され、ボトルの中がきれいなものだけでなく、ラベルやキャップはそのまま、ボトルには飲み残しが入ったままという質の悪いものをもリサイクルできる手法(ケミカルリサイクル技術)をスイスの企業から取り入れ、三菱商事と付き合いの古い台湾の企業と協業し、タイで再生PET樹脂の製造に取り組むことができるまでにしたこと。商社の強みを活かして環境問題を解決に向けた好例だと思う。さらに全く同じ手法を用いた事業を日本でも立ち上げたそうで、期待が高まる。

 

ここで気になるのが、工場が稼働に必要とするエネルギーではないだろうか。エコなことをして電力を使い、CO2を排出しているようでは元も子もない。三菱商事は2020年に欧州で総合エネルギー事業を展開する会社を中部電力と共に買収し、低炭素社会へ向け次世代の電力事業モデルを構築しようとしている。欧州では遠浅の地形を活かし、洋上風力発電が日本より進んでいるし、消費地の近くで小規模な発電を行う分散型太陽光発電の新規事業に取り組んでいる。エネルギーの地産地消モデルなどを日本に持って来ることができれば、日本国内でCO2の排出が抑えられるだろう。

 

商社だけが多角的に環境問題に取り組んでいるかというと、そうではない金融サービス業で知られるオリックスは再生可能エネルギー事業にも注力している。オリックスのすごいところは、グループ全体を通してのモニタリング力である。オリックスグループとして2020年3月末時点で、国内において約130万トンのCO2を排出していた。一方、同社がグローバル展開する再生可能エネルギー事業を通じ、約300万トンのCO2排出量の削減を可能にした。この再生可能エネルギー源の内訳としては、風力、地熱、太陽光発電がメインで、太陽光発電においては大規模な太陽光発電所やメガソーラーを日本国内でも100カ所ほど設置し、風力発電や地熱発電は欧州、北米、アジアの企業に出資している。

 

もちろんこの2社だけでなく、数多くの会社が脱炭素社会を意識した経営をしていて、どれも自社の事業とうまく組み合わせており、感心するばかりだ。何より素晴らしいと思うのは、天然資源の少ない日本だからと諦めずに、海外で先行する再生エネルギー会社を開拓し、パートナーシップを結び協業していること。その知見から、例えば、日本の深い海では不向きの洋上風力発電を、海面に浮かべた状態で風車を設置するという開発を行っている。日本の地形を嘆くだけで終わらせないところがすごい。

 

このように企業の取り組みを一つずつ見ていくのはとても興味深い。今我々にできることも浮き彫りになってくる。とりあえず私はペットボトルを空にしたら、ラベルを剥がしゴミ箱へ、キャップとボトルはそれぞれのリサイクルボックスへ分別しようとここに誓う。

 

この論考を書くにあたり、下記の情報を参照しました。

 

三菱商事 電力ソリューショングループ

 

オリックス株式会社 サステナビリティレポート

 

<謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai>

共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

 

 

2021年11月11日配信