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エッセイ644:謝蘇杭「コロナとの長期戦に備えて」

 

今年の4月4日、中国の清明節。中国における新型コロナウイルスとの戦いの初歩的な勝利を示すシンボルとして、政府は当日の午前10時、全国で3分間の黙祷を行い、1月23日の武漢封鎖を皮切りとした2か月にわたるコロナの防疫活動で犠牲になった医師と医療従事者たち、そしてコロナで逝去した人々に哀悼の意をささげた。中国におけるコロナの一時的収束と反対に、コロナの世界的大流行は4月を機にその傾向が顕著となり、日本も免れなかった。幸い、日本の感染者数は欧米諸国に比べると低いほうで、4月から5月の間、政府が発した緊急事態宣言によって、さらなる感染は一時的にコントロールできた。しかし思わぬことに、5月末の緊急事態宣言の解除に伴い、間もなくクラスター(感染者集団)が頻発し、東京都は連日、以前をはるかに上回る感染者が現れた。新型コロナウイルスの爆発の第二波はやはり現実になった。

 

日本における新型コロナウイルスの爆発の第二波は、まさしく次のような残酷な事実を我々に押しつけている――少なくとも、我々が当面予測可能な近い将来において、コロナは我々とともに生活し、我々の日常生活のあらゆる面でその影響の痕跡を残すに違いない――最初に我々が望んでいた、短い苦痛をしのげばきっともう一度普通の日常に戻れるという楽観的な夢が破れたのだ。したがって、この苦境のなかで新しい心構えを作り直さなければならないのである。我々は皆、自分の内面において、コロナとの長期戦に備えて粘り強い根性を持つと同時に、現実の日常生活での一挙手一投足において、所々に注意を払い、コロナの防衛策に自分なりの最善を尽くすべきである。これこそ、これからのウィズコロナの社会を生き抜くための、正しい態度だといえよう。

 

昔、ある記事を読んだことがある。その記事は、ひとりの人間、または一つの組織が、如何に長きにわたる困難にうまく対処し、やがて乗り越えることに成功したのか、という問題を検討している。そこで記事の著者が与えた答えは、「回復力」(立ち直る能力)である。では、この「回復力」は具体的に何によって構成されているのだろうか。

 

記事の著者はナチの強制収容所に収容されていたある生存者を対象にインタビューを行った。この生存者の話によれば、ほかの収容者と違って、彼は外の世界に希望を託しすぐにも救出されるという幻想を最初から持っていなかったという。それと反対に、彼は自分が生きてこの収容所から脱出できないかもしれないということを、真剣に受け止めていた。生存の限界状況に達する収容所において、彼が唯一考えていたことは、もし奇跡的に彼が生きて外の世界に戻ったら、必ず外の世界に対して、今彼が経験しているこの状況のすべてを暴き出さなければならないということであった。世界にここで発生している悲劇を伝えることで、このような悲劇を二度と起こすまいと、彼は心の中で強く願っていた。この信念をもって、彼は自分の創造力を最大限まで発揮し、収容所の冬を潜り抜けるありとあらゆる材料を収集し、最後にこの想像を絶する苦境を乗り越えたのである。

 

この生存者の経験は、「回復力」を成り立たせる3つの要素を明示してくれている。それはつまり、現実に向き合う勇気と、生きる意味への追求と、状況への柔軟な対処、という3つである。この3つの要素は、まさしく我々がこれからのコロナとの長期戦で向き合わなければならない苦境において、我々の生の価値を最大限まで引き出せるテーゼなのではないだろうか。

 

こうしてみれば、新型コロナウイルスの世界規模での横行は、世界中の多くの国の人々に災いをもたらしただけでなく、それと同時に、潜在的なウイルスの脅威、規制された不便極まりない生活、消費社会の一時的停滞、失業とともに失われた日常の達成感…などといった諸般の困難を我々皆に押しつけることで、我々にもう一度自分の生き甲斐と積極的な人生の態度を見極めさせ、拾い直させる機会でもあるのではないか。

 

今回のコロナの影響を引き金に、世界の情勢に急激な変化が発生する可能性は相当大きいといえよう。しかし我々は、この2020年に不運にも遭遇したコロナという災いを、悪いニュースとして受け止めるのではなく、良いニュースとして見るべきである。これから長期間にわたる限られた生活のなかで、無限の可能性を自らの手によって作り出そう!

 

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<謝蘇杭(しゃ・そこう)Xie_Suhang>
渥美国際交流財団2019年度奨学生。中国浙江省杭州市出身。2014年江西科技師範大学薬学部製薬工程専攻卒業。2017年浙江工商大学東方語言文化学院・日本語言語文学専攻日本歴史文化コースにて修士号取得。現在千葉大学人文公共学府歴史学コース博士後期課程在籍中。研究分野は日本近世史、特に日本近世における本草学およびそれと関連した近世社会の文化的、経済的現象に注目を集める。「実学視点下の近世本草学の系譜学的研究」を題目に博士論文の完成を目指す。

 

 

2020年9月3日配信