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エッセイ638:謝志海「今こそ考える地球環境(レジ袋編)」

 

2020年7月1日より、日本ではプラスチック製レジ袋の有料化が始まった。正直、遅きに失した感があると思うのは私だけだろうか。その理由は二つあり、一つ目として、この法令は先進国はおろか、諸外国よりかなり遅れをとった。二つ目の理由は、現在の世界中の関心事、コロナウイルスの蔓延とかぶってしまったことにより、なぜレジ袋が有料になるのかというコンセプトが伝わりにくくなってしまったこと。本来は地球環境を守るという観点からプラスチックゴミを減らすという目的だったはずだ。今では何を語るにおいても「コロナと共に」語られるので、主題がずれてきているように感じる。時にはコロナは頭の片隅にそっと置き、環境について考える時間もあっていいと思うのだ。

 

プラスチック製レジ袋に対し、税を課したのはデンマークが初めてで、1993年には法律として導入された。それにより、レジ袋の使用は60%も下がった。同様によく知られているのが、アイルランドのレジ袋税で2002年に施行された。今では主流となっているが、レジ袋一ついくらという形で消費者が(税を)払う仕組みは、これが最初だった。専門誌「流通ニュース」(2020年5月4日号、WEB版)で経産省の資源循環経済課の課長が次のように語っている。2015年のEU指令では、各国に軽量のプラスチック製袋の使用量を2025年末までに一人当たり40枚以下に削減することなどが定められた。このルールに則りEU各国では、スーパーでレジ袋は渡さない、もしくは有料化するなど独自の決まりを作っている。アメリカは郡や市によってそれぞれ法令が違うが、大抵のよく知られた州や都市ではレジ袋(紙袋を含む)を有料と定めているところが多い。カナダは日本と同様小売店などが自主的にレジ袋を有料にしているところも多いそうだ。

 

そう、日本の良い点は、法令が導入されるよりずっと前から自主的にレジ袋を減らす動きがあったこと。食料品スーパーやドラッグストアはレジ袋を断るお客さんにポイント加算してあげたり、2円引いたりするなど工夫していた。しかしコンビニあたりが最後の最後まで、レジ袋を提供し続けた。それすらとうとう有料となるのが、7月1日ということになる。

 

しかし日本の目下の関心ごとといえば、家から持参し、何度も使えるエコバッグにコロナやその他のウイルス菌が付着することへの嫌悪、付着した菌はエコバッグの表面でどのくらい生き延びることができるかなどに注目が集まってしまっている。アメリカの新聞社のウェブサイトニュースで読んだが、カリフォルニア州のロサンゼルスのスーパーではこのステイ・ホームの間は「エコバックを持参しないで欲しい、スーパーがレジ袋(プラスチック製)か紙袋を無料で提供します。」というルールに変えた。こちらもお客さんが持参するエコバックにコロナ菌が付着していたら?との懸念からであった。実際にロサンゼルスとそれより南のカウンティでスーパーの店員がコロナに感染した事例がいくつかあったからなのだろう。カリフォルニア州ではすでに数年前からレジ袋は有料化されていて、エコバック持参で買物に行く文化はすでに浸透しているので、コロナが落ち着けば、またエコバックの使用は自然と戻るだろう。

 

日本のテレビの情報番組ではレジ袋の有料化の特集において、ナイロン製などの拭き取れる光沢がある表面のエコバッグには、菌が付着したら4日間その表面で生き延びることができる、布製であれば1日と報道していた。プラスチック製のレジ袋が環境にどう影響するのかは語られないまま、エコバックをスーパー店員が触ることに対し、どう思っているのかとスーパーの店長や店員に取材した映像が流れていた。同じくスーパー店内のエコバッグ持参のお客さんに、(その)お持ちのエコバッグ洗っていますか?とも聞いていて、洗ったことのない方も多かった。

 

分解されず、自然に戻ることのないプラスチック。海へ流れ出たものはエサと一緒に魚が飲み込み、体内に蓄積されてしまう。そんな悲惨な現状を知ると、コロナだろうが、なかろうが、待ったなしの対策だと思う。エコバッグへの菌の付着が気になるのであれば、毎日同じエコバッグをつかわなければいいだけのことで、エコバッグが一個しかないというのであれば、家にある紙袋と交互に使うなど、ローテーションさせ、衛生面に留意しながら家にレジ袋を持ち込まない方法はあると思うのだ。

 

そしてレジ袋だけがプラスチックゴミではない。上述の流通ニュースのインタビュー内で、レジ袋が有料となる対象となった理由として、国民生活に直結しエコバッグで代替できるものであり、そして諸外国でもレジ袋から取組む先行事例が多いことも挙げられるとのこと。そう、代替できるものとしてのエコバックであって、エコバックはプラスチックごみを減らすための最初の小さな一歩に過ぎない。コロナが世界中に蔓延する前に、この法令が施行されていれば、世の中のプラスチックごみへの関心はもっと高かっただろう。

 

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<謝志海(しゃ・しかい)Xie Zhihai>
共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

 

 

2020年7月9日配信