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エッセイ632:謝志海「新型コロナウイルスと世界経済の行方」

新型コロナウイルスは世界規模で拡散の一途をたどり、まだ収束のめど立たない。米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、2020年5月4日の時点で、感染者数がすでに348万人を超え、死者は24万人に達している。これにより、世界経済は甚大な打撃を受けており、その影響がオイルショックやリーマンショックをはるかに超えることは、もはや明らかであり「コロナショック」とも言われている。

 

国際通貨基金(IMF)は4月14日に2020年の世界経済の成長率が前年比マイナス3.0%という見通しを発表した。JPモルガン・チェースも今後2年間、世界経済が日本のGDPに相当する5兆ドルの損失を被ると予測した。最近発表されたデータによると、すでに多くの国の2020年1-3月期のGDPが深刻な下落の影響を受けている。たとえば、中国、アメリカ、ユーロ圏、日本がそれぞれ前年同期比6.8%減、前期比年率4.8%減、前期比3.8%減、前期比年率3.4%減だった。医療の専門家は新型コロナウイルスの収束には少なくとも1年かかるだろうと指摘している。ゆえに、コロナショックも長引き、経済への影響が1年以上続く可能性がある。

 

さて、各国はどのようにコロナショックがもたらした経済危機を乗り越えようとしているのか。リーマンショックの際と同様、ほとんどの主要国家は大規模な財政救済策を講じている。果たしてこれらの救済策はどれほどの効果が見込まれるのか。現時点の経済対策は消費の冷え込みを防ぐことに注力しかちだが、生産の回復の方がより大変になるかもしれない。リーマンショックの時はまず金融が直接ダメージを受け、そこから実体経済に影響を及ぼしていったが、コロナショックの場合は、最初にダメージを受けたのが実体経済そのものだ。コロナショックから抜け出すのは、リーマショックよりも難易度が高いだろう。

 

また、コロナショックの脅威によるグローバル化の逆流や保護主義の台頭がもうしばらく続くかもしれない。コロナウイルスが収束しても、経済はすぐにV字回復を見込めないと推測する。実際のところ、経済協力開発機構(OECD)は、新型コロナウイルスの世界的流行による打撃から世界経済が回復するには、数年はかかるだろうと警告した。

 

日本経済はどうだろう。4月27日に日銀は2020年度の日本経済の成長率はマイナス3%?マイナス5%を見込むと発表した。2020東京オリンピックは日本経済の起爆剤として期待されてきたが、新型コロナウイルスにより延期を余儀なくされた。専門家の試算では、この延期により約6,400億円あまりの経済損失が出る。2021年夏にオリンピックが無事に開催されたとしても、訪日の観光客は当初の想定数を下回るだろう。この時のインバウンドが果たして日本経済を救えるかどうかはまだ断定できない。

 

とはいえ、コロナショックは、世界経済にとって決してすべてがネガティブとも言えない。少なくとも以下の4点のポジティブな面がある。第1に、マスクなどの医療物資の大量の不足にはサプライチェーン(Supply Chain)の不合理が反映されている。グローバル経済にとって、サプライチェーンの再構築が喫緊の急務だ。今まで中国に頼りすぎた分、いざとなると物資や商品の調達が難しくなる。今回我々が身をもって学んだことだ。例えば、日本のマスクの80%は中国から輸入していた。花粉症大国として常時マスクの需要が多い日本は、せめてマスクぐらいはもっと国内で生産すべきだ。

 

第2に、コロナショックは世界規模で働き方の革命を起こしている。在宅ワークを機に、すでに本来やらなくていい会議などがたくさんあると気づいた人も多いだろう。今後ムダな仕事が淘汰されることが望まれる。また、在宅勤務や短縮営業はコロナ収束後も一部を残すべきだ。例えば、人の来ない時間帯に店を開ける必要はないだろう。コンビニやファミレスの24時間営業体制も本格的に見直すべきだ。在宅や時短勤務が増えれば、公共交通機関の混雑も緩和されるだろう。

 

第3に、コロナショックが新しい技術革新(Innovation)を加速させるだろう。現にコロナの影響で5Gの到来が前倒しになるなど、様々な分野においてITの躍進は続くだろう。例えば、オンライン授業や会議の実施が日常となり、米Zoom等のIT企業が飛躍的に発展している。アメリカでは、食事や商品を配達するロボットがこの時期に大活躍しているという報道もあった。

 

最後に、コロナショックはグローバル化のあり方にとても大きな意味合いをなす。確かに、歴史上の伝染病の流行例と比べると、グローバル化の進展により新型コロナウイルスは瞬く間に拡散された。一方で、グローバル化のおかげで、国々の間で速やかに情報、技術、経験や物資の共有ができ、コロナ対策の役に立っている。グローバル化はコロナショックにより後退ということはなく、むしろ、これを機に、制度の改善や協力の強化を通じ、グローバル化がさらに推進されていくだろう。

 

<謝志海(しゃ・しかい)Xie Zhihai>
共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

 

 

2020年5月21日配信