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ボルジギン・フスレ「第11回ウランバートル国際シンポジウム『キャフタとフレー:ユーラシアからの眼差し』報告」

昨今、安倍首相とプーチン大統領による日露会談や北方領土をめぐる交渉が日本のマスコミに限らず、関係諸国のマスコミにもよく報道され注目を浴びている。実は、2018年は「ロシアにおける日本年」、「日本におけるロシア年」であり、また「シベリア出兵」百周年でもあった。この記念すべき年を迎えるにあたって、私どもは第11回ウランバートル国際シンポジウムのテーマを「キャフタとフレー:ユーラシアからの眼差し」に決めた。

 

歴史上、キャフタは単なる交易地ではなく、政治的あるいは軍事的な都市でもあり、北東アジアの秩序の形成に影響をあたえた重要な国際会議が何度も行われ、条約が結ばれた。また、19世紀半ば以降、多くのユダヤ人やタタール人などがキャフタを避難所とした。他方、明治以降、朝鮮半島、清朝を越えて、キャフタをはじめ、シベリアは、日本が深い関心をもった地域であった。19世紀後半から20世紀初期にかけて、榎本武揚や黒田清隆、福島安正など日本の多くの政治家や外交官、諜報将校、商人、唐行さんなどがキャフタを訪れ、日本商店や病院なども設けられていた。戦後の日本の経済成長が神話のように言われるが、その基礎は20世紀前半ではなく、19世紀にすでに築かれていたのである。あらたに地域研究、国際関係研究の視点からキャフタ、フレー(ウランバートルの前身)における歴史的空間を、ロシアと清だけではなく、日本とのかかわりをもふくめて検討することには、重要な意義がある。

 

シンポジウムの前日、すなわち2018年8月30日の夜、在モンゴル日本大使高岡正人閣下は、昭和女子大学学長金子朝子先生や東京外国語大学名誉教授二木博史先生、同大学講師上村明先生、高知大学湊邦生先生と私を大使館公邸に招いた。皆で食事をしながら、政治、鉱山開発、国際記憶オリンピック大会(この数年の大会でモンゴル国がトップに立ち注目されいる)、大相撲、そして日モ関係などについて歓談した。

 

第11回ウランバートル国際シンポジウム「キャフタとフレー:ユーラシアからの眼差し」は公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)と昭和女子大学国際文化研究所、モンゴル国立大学アジア研究学科の共同主催で、在モンゴル日本大使館、昭和女子大学、モンゴル科学アカデミー国際研究所、公益財団法人三菱財団、モンゴルの歴史と文化研究会の後援で、同年8月31日にモンゴル国立大学2号館学術会議室で実施され、モンゴル、日本、ロシア、中国、ドイツなどの国からの80名余りの研究者や大学院生、学生が参加した。

 

当日午前中の開会式では、在モンゴル日本大使高岡正人閣下、昭和女子大学学長金子朝子教授、モンゴル科学アカデミー副総裁G.チョローンバータル氏が挨拶と祝辞を述べた。その後、研究報告がおこなわれた。会議の公用語はモンゴル語・日本語であるが、モンゴル語の報告が主流を占め、日本語の報告にはモンゴル語通訳がつけられた。シンポジウムの質を高めるために、実行委員会は、招待研究者と応募者計22名の内、15本の報告を選んだが、ポーランドの若手研究者1名が旅費を得られなかったためか欠席し、実際には14本の論文が報告された。

 

本シンポジウムは、近年の研究の歩みをふりかえり、新たに発見された歴史記録に基づいて、ユーラシアの眼差しからキャフタとフレーにおける多様な歴史・政治・経済・文化的空間を考察し、その遺産を再評価しながら、今後、いかにその栄光を再興していくかなどをめぐって、創造的な議論を展開することを目的とした。

 

シンポジウム当日の夜の招待宴会では、馬頭琴やオルティンドー(長い歌)、ダンスなどが披露された。

 

本シンポジウムの成果を、以下の3項目にまとめたい。
第1に、従来、研究者が利用し得なかった、キャフタ、外モンゴルとかかわる地図を中心に検討する報告が多かったことは注目すべきである。
第2に、キャフタとかかわる国際条約についての研究が進展を見せた。
第3に、新資料を用いて、キャフタとフレーの近現代について検討した新説が提示された。

 

その詳細は2019年3月に刊行予定の『モンゴルと東北アジア研究』第4号と『日本モンゴル学会紀要』第49号にまとめたのでご参照ください。

 

また、同シンポジウムについては、モンゴル国の新聞『ソヨンボ』や『オラーン・オドホン』、モンゴルテレビなどにより報道された。

 

英訳版はこちら

当日の写真

 

<ボルジギン・フスレ Borjigin_Husel>
昭和女子大学国際学部教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員、ケンブリッジ大学モンゴル・内陸アジア研究所招聘研究者、昭和女子大学人間文化学部准教授などをへて、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945~49年)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、共編著『国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2016年)、『日本人のモンゴル抑留とその背景』(三元社、2017年)他。

 

 

2019年4月12日配信