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エッセイ574:陳龑「アニオタからアニメーション史の研究者へ」

(私の日本留学シリーズ#24)

 

「日本語の専攻でもなく、日本語学校に通ったこともありません。アニメを見て日本語を覚えました。」最初に日本へ来た時、これが私の定番の自己紹介でした。大学1年生の時、学生寮で海賊版アニメの「名探偵コナン」を見ていて、10分も経ってから突然あるセリフが分からなくなってはじめて、「あ、中国語の字幕がついてない」と気づいたのを今でも覚えています。いつの間にか聞けばわかるけど読み書きはできない日本語の「文盲」になっていました。それから日本語をまじめに勉強するようになったのです。

 

「平成生まれ」と同じように、中国では「八〇後」という世代があります。この世代は様々な特徴が指摘されてきましたが、「日本のアニメと優秀な中国のアニメの両方を見て育った」という代表的な特殊性は意外と注目されていません。私の親の世代は日本映画とドラマの「大熱愛世代」と言われ、日本でも研究されていますが、私が所属する「八〇後」は日本のメディアに注目されたものの、アニメの側面は殆んど語られていません(私の世代の後は中国の良い作品がなくなり、日本のアニメだけを見る世代もいましたが、2004年頃からは海外アニメがテレビで見られなくなって、ようやく最近になり少し柔軟になったのです)。

 

実際、「アニメ好き→日本文化に興味を持ち始め→日本で生活してみたい→日本留学」と、私と同じような道を辿ってきた中国人留学生がたくさんいます。正直なところ、最初日本語を自分で勉強しようと思ったときの目的は、字幕・翻訳なしで原版のアニメとマンガが理解できるようになりたかっただけでした。でも日本のコンテンツを見れば見るほど、作品の中で描かれた世界、様々な中国にない文化風習に憧れて、もっと知りたくなってしまいます。これが日本アニメとマンガの最大の魅力であり、その産業が国家のソフトパワーになれる理由でもあると思います。

 

なぜ日本ではいつも高校生が世界を救う?学園祭にはなぜ女装する男性が必ずいる?日本人が犬より猫を好きな理由は?ダメ男が主人公で素敵な女の子たちに愛されるという設定が主流になれる社会背景は?日本に来る前に、すでに頭の中で質問が溢れていました。高校時代は理系で、学部時代はマーケティング専攻で、文系研究に対する概念が全くなかった私はまだ知りませんでした――まさかこれらの正直な問いが「研究動機」になりうることを。

 

「Interest is the best teacher.(好奇心は最良の教師なり。)」この名言は昔から聞いていましたが、まさかアニメに対する情熱が研究につながるとは思わなかったです。アニメ研究はやはり日本でこそ成立する研究領域です。最初に日本語を独学し始めたときには絶対想像できなかったでしょうね、字幕なしでアニメをみたい気持ちが、20万字の日本語の博論を支えるなんて(笑)。

 

アニオタ(アニメーションのオタク)からアニメーション史の研究者に変身(或いは進化?)。これが私の日本留学です。

 

<陳龑(ちん・えん)Chen Yan>
北京生まれ。2010年北京大学ジャーナリズムとコミュニケーション学部卒業。大学1年生からブログで大学生活を描いたイラストエッセイを連載後、単著として出版し、人気を博して受賞多数。在学中、イラストレーター、モデル、ライター、コスプレイヤーとして活動し、卒業後の2010年に来日。2013年東京大学大学院総合文化研究科にて修士号取得、現在同博士課程に在籍中。前日本学術振興会特別研究員(DC2)。研究の傍ら、2012~2014年の3年間、朝日新聞社国際本部中国語チームでコラムを執筆し、中国語圏向けに日本アニメ・マンガ文化に関する情報を発信。また、日中アニメーション交流史をテーマとしたドキュメンタリーシリーズを中国天津テレビ局とコラボして制作。現在、アニメ史研究者・マルチクリエーターとして各種中国メディアで活動しながら、日中合作コンテンツを求めている中国企業の顧問を務めている。

 

 

 

2018年7月12日配信