SGRAかわらばん

エッセイ520:謝志海「新年の抱負との付き合い方」

新年早々、日本人から面白い質問をされた。「中国には新年の抱負ってあるの?(もしあれば)それは新年、それとも春節どちらに目標を立てるの?」とても日本人らしい質問だと思った。というのは中国では新年の抱負というものが一般的ではないからだ。誰も全くしないとは言わないが、年明けや春節に挨拶代わりのように「今年の抱負は?」と聞き合うことはない。

 

日本では正月を迎える前から「来年の抱負は?」という質問が飛び交っている。テレビを観ていても、芸能人だけでなく、政治家までもがこの質問をされている。また聞かれた側も普通に回答している。新年を新たな区切り、スタート地点として捉え目標設定することはとても良いことだと思い、とても興味深い。

 

では年の瀬、どのくらいの人が年初にたてた目標を達成できているのだろう。私に質問をしてきた日本人に「年末には今年の抱負をどのくらい達成できたか聞きあったりするの?」と聞いてみた。相手は「うーん、ないかなあ」と言葉に詰まってしまった。「その時期は師走でそれどころじゃないんじゃない。」というのが答えだった。そうか、日本では掲げた目標の達成度をレビューする機会があまりないのかもしれない。年末年始には抱負は?抱負は?とどこでも話題になるのに抱負を振り返るチャンスはシェアされていない。これもまた興味深いことである。

 

調べてみると、「新年の抱負に掲げるのは何か」というランキングは出てきたが、結果や、達成度についてのデータは出てこなかった。代わりにアメリカでの調査結果があった。アメリカのスクラントン大学の「新年の抱負」についての調査によると、2016年に立てた新年の抱負を達成出来たと感じられた人はたったの9.2%。日本で調査しても、案外似たようなものかもしれない。マクロミル社が2016年1月に日本で行った調査によると、過去に新年の抱負を立てたことがある人に挫折したことがあるかと聞いたところ、「挫折したことがある」と答えた人が87.6%と9割近い数になっている。目標を掲げることは簡単でもそれを実行するのは難しいということか。

 

日本の書店に行くとビジネス書のセクションには目標の実行の仕方、夢の叶え方等の自己啓発本がたくさん並んでいる。ということは日本人はやはり目標を掲げ、達成する為に日々奔走しているのではないだろうか。しかも海外からの自己啓発たぐいの本も日本語に翻訳され同じくビジネス書のコーナーにたくさん並んでいる。海外のメソッドまで取り入れようとしているのか、と感心する。

 

例えば、米国スタンフォード大学の心理学者、ケリー・マクゴニガル教授の著書「スタンフォードの自分を変える教室」では実践的で誰もがすぐに取り入れやすいように、目標達成へのステップを指南している。この教授の専門は健康心理学で、目標を叶えるプロなどではないのだが、彼女がよく提案するのは、大雑把に言うと自己分析や自分を振り返る時間が大切だということ。ということは目標を立てるだけではダメで随所に振り返りの作業を取り込むべきなのだろう。自己分析、すなわち自分を客観的に見ることは、難しいけれど目標を叶えるためには不可避なのだろうと感じさせられる。

 

日本には新年に抱負を掲げるチャンスがあり、それを実行する為の指南書も溢れている。日本に住んでいる私はこれらを活用しなくてはと思い始めた。新年の抱負としてではないが、私が立てた目標は実は数年前からずっと同じだ。ということは大多数の、新年の抱負を達成できていない人、挫折した人と同じになっている。年内に必ず自身の目標に対して振り返る機会を作ろうと思う。自己分析が上手になれば目標達成への近道となるはず。まずはそれが私の今年の抱負だ。

 

<謝志海(しゃ・しかい)Xie_Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

 

 

2017年2月2日配信