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エッセイ487:謝志海「上海で思う日中関係」

私は中国人で現在は日本在住。研究は日中関係、米中関係などの国際関係。なので、なるべく中国を自分の目で見ておきたいと思っているが、日々の仕事に追われ、日本を出るチャンスは多いとは言えない。先日1年ぶりに仕事で中国に行く機会があった。場所は上海。相変わらずの国際都市。行くたびに高層ビルが増え、地下鉄はさらに延びている。今回、短い滞在の上、慌ただしいスケジュールであったが、日本では得られない中国の研究リソースを得た。

 

日中関係は2012年に日本政府が尖閣諸島(中国では釣魚島)を国有化することによって劇的に悪化した。以来、日中関係は大きくは変わっていない。中国人旅行客がこれ程日本に訪れていても、日本人と中国人の間には相変わらず距離がある。中国語を学びたいという日本人も減少の一途をたどっている。

 

ところが、ひとたび上海に来てみれば、日本企業の出店の多いこと!どのデパート、ショッピングモールに行っても、必ず一つは日本のチェーン店がお店を出している。日本企業は日中関係の悪化などどこ吹く風で、果敢に中国でビジネスを展開しているではないか。日本のファストファッションの紙袋を手にした中国人を地下鉄やいたる所で目にする。

 

昼休みの時間帯には、デパートの地下にあるフードコートの日本のうどんチェーン店に長蛇の列ができている。ここは日本かと錯覚してしまう。中国人、少なくとも上海の中国人には日本の製品、衣料品、飲食店は受け入れられている。中国に行ったことが無い日本人には想像もつかない光景ではなかろうか。日本人の中国に対するイメージは今でも、中国で日本のお店が中国人によって破壊された時期から更新されていない。

 

最近の日本のメディアが中国人について報道するのは、決まって「爆買い」。中国人が今、日本をどう思っているかまで掘り下げてはいない。

 

日本人が上海に旅行に行ったとしたら、街中に点在する、日本の見慣れたお店や企業の看板に安心感を抱くことが出来るのではないだろうか。しかし私は上海で観光客らしき日本人は見かけなかった。レストランで偶然隣に居合わせた日本人たちは、流暢に中国語を操り、私よりもそのレストランに慣れていた。上海に住んでいるのだろう。中国の生活に馴染んでいる日本人もいる。これも日本にいる日本人にはあまり知られていないのではないだろうか。

 

日本人に今の中国に行って見てもらいたい。日本企業は外交や政治的緊張を跳ね除けて、中国でビジネスを展開している。中国に来て、日本企業のたくましさを見れば、改めて自分の国を誇りに思えるのではないか。そう思うべきだ。

 

中国に進出しているのは日本企業だけではない、欧米や韓国の企業も中国にしっかり根を張ってビジネスをしている。上海の溢れんばかりの経済の活気を若いうちに目の当たりにすれば、日本の若者も中国語や英語等外国語を学ぶ必要性を感じるかもしれないと私は感じた。問題は日本人の中国への観光客が減っていることなのだ。この点については日本と中国の双方から解決しなければならない。

 

上海で思ったことは、中国と日本は関係を悪化させている場合ではない。互いの良い部分をもっと認め合えたら良いということ。春節が終わっても、東京にはまだ中国人観光客がいる。日本人ももっと中国に行って、今の中国を見て欲しい。そして私は自分にも言い聞かせる、中国について研究している限り、中国に足を運び自分の肌で中国を感じよう。今回の中国出張で、日中関係には回復の望みがあると思えた。日本と中国の心の距離が縮まることを願う。

 

 

<謝志海(しゃ・しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

 

2016年4月7日配信