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エッセイ474:アブディン、モハメド オマル「2015年スーダン総選挙・大統領選挙からアフリカでの選挙の意義を問い直す」

調査期間:2015年2月4日から3月26日

調査地:スーダン共和国ハルツーム

 

今回は、2015年4月に実施されたスーダン総選挙、大統領選挙に向けた各勢力の動員戦略に焦点を当てることが調査の大きな目的であった。特に、選挙キャンペーンの状況と各種政党のマニフェスト分析を調査対象の中心とした。選挙キャンペーンが始まる前、2月4日にスーダンへ渡航した。選挙キャンペーンが始まる2月中旬に向けて、毎日の新聞チェック、ラジオ、テレビのニュースや討論番組の視聴が欠かせなかった。さらに、政治家、研究者、ジャーナリストなどへのインタビューも重要な調査活動の一つであった。

 

しかし、私が調査地であるハルツームに到着すると、主要な野党の選挙ボイコットが確実となってしまっていた。調査する身として、何のために来たのかなと失望を覚えたが、念のためそのまま続けることにした。

 

まず、スーダン政治に詳しい研究者、ジャーナリスト、および若者への非公式なインタビューを通じて、今回の選挙の意義を問うことができた。しかし、5年前の2010年の選挙と比べて、インタビューの対象者は、匿名での取材を希望したり、慎重に発言したりしていると感じた。それは、政権が選挙キャンペーンに合わせて、締め付けをし始めたからである。

 

さらに、選挙キャンペーンの観察を通じて、与党の政治動員戦略に関する情報を手に入れることができ、それを分析して、現在論文にまとめる作業をしている。

 

さて、野党が不在ならば、はたして選挙キャンペーンの分析は意味のあることだろうか。最初はそう思ったが、野党の不在が、逆に現政権にとって思いがけぬ形で負の影を落としたといえる。

 

◇選挙の正当性

 

特定の候補者の支持者が車列を作ってクラクションを鳴らしながら、候補者の宣伝をする姿は、過去に実施された複数政党制選挙の特徴だったともいえるが、今回の選挙においては、このような華やかなパフォーマンスが確認できなかった。選挙キャンペーンも、街頭演説もほぼ確認できなかった。

 

さらに、私が20名程の有権者に対して「投票する?」と聴いたところ、投票に行くという有権者は1名にとどまった。

 

以上のことから、今回の選挙が正当性を得られなかった原因は二つあると考えられる。一つ目は、2010年4月の選挙に勝利して大統領に再選されたバシール大統領は、2015年の大統領選挙に立候補しないと国民に約束したにも関わらず、2014年10月に、「国民の声に応えるよう、再度立候補する」ことを発表した。そのことが、国民の間でバシールへの信頼性に大きなダメージを与えたと考えられる。

 

二つ目は、2011年7月の南スーダン独立以後に、石油収入の激減の結果、スーダンの人々の暮らしが逼迫して、政府に対する不満が、若者を選挙ボイコットへと導いたといえる

 

◇分裂の危機

 

今回の調査の間、発行される新聞の選挙報道を毎日チェックしていたが、そこで以下のようなことがわかった。

 

野党の完全ボイコットが、政権党である国民会議党(NCP)内の足並みがそろっていない現実を露呈した。党内の意見の衝突がもっとも明らかになったのが、NCPの州知事の任命を巡るグループ間の意見の不一致である。

 

そもそも、2005年に制定された暫定憲法において、州知事は直接選挙で州民によって選ばれることになっていたが、NCPの州支部が党本部に推薦する候補者は、必ずしも党本部が予定していた候補者とは一致していなかった。州支部の推薦を受け入れれば、その分地元志向の強い知事が誕生してしまう。党本部の支持に完全には従わないことが党本部にとって懸念材料の一つであった。一方では、党本部が、別の立候補者を公認してしまうと、選挙における州支部のサポートを得られず、NCPの候補者が落選する可能性が高まるので、党本部は厳しい選択肢を迫られていた。

 

実際に、2010年の選挙以降、NCPの党本部の支持に背く州知事が多くあらわれ、大統領が憲法に反する形で知事を更迭したり、州の再編を行ったりして、党本部の考えに近い人物を、更迭した知事の後に据えるケースが紅海州、ゲジラ州、および、ダルフールの三つの州で見られた。

 

2015年選挙に先立ち、NCPが大多数派を占める連邦議会が、これまでに選挙で選ばれた知事を大統領任命制に選挙法を変更したことが、NCPの本部と地方との不和を物語っている。

 

◇選挙の結果

 

私は3月中に調査を終えて日本に帰ってきたが、4月中旬に実施された選挙は案の定、バシール大統領の94%の支持率による再選と、NCPとともに与党を形成していた小政党の連合の圧勝に終わった。投票率は46%と選挙管理委員会が発表したが、この数字は多くの専門家によって疑問視されている。

 

◇終わりに

 

選挙の意義は、国民の真意を問うことであるが、近年アフリカ各地でも見られるように、現職による選挙プロセスの操作、不正、野党政治家への暴力が、選挙本来の意義に大きな疑問を投げかけている。スーダンの選挙キャンペーンを通じて、ここでも、同じ傾向がみられたことを報告する。民意を反映しない選挙は、税金の無駄遣いだけといっても過言ではないが、このような選挙の結果でも、結局、国際社会は容認している。そのことは、現職による選挙操作に拍車をかけている。もう一度、アフリカにおける選挙の意義を問い直す必要が出てきているように思う。今後とも、学術雑誌において、積極的に論文を発表していきたいと思う。

 

 

<アブディン モハメド オマル Mohamed Omer Abdin>

1978年、スーダン(ハルツーム)生まれ。2007年、東京外国語大学外国語学部日本課程を卒業。2009年に同大学院の平和構築紛争予防修士プログラムを終了。2014年9月に、同大学の大学院総合国際学研究科博士後期課程を終了し、博士号を取得。2014年10月1日より、東京外国語大学で特任助教を務める。特定非営利活動法人スーダン障碍者教育支援の会副代表。

 

*本エッセイは、渥美国際交流財団の海外学会参加等奨学金の報告書としてご提出いただいたものですが、執筆者の了解を得てかわらばんで配信します。

 

 

2015年11月12日配信