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エッセイ464:謝 志海「どうなる地方創生」

地方創生はうまくいっているのだろうか?具体的には何をしているのだろうか?ぱっと頭に浮かぶのはゆるキャラ、町おこしのプロモーションビデオ。しかしこれだけで、都心に住む人が地方都市をどれほど知ることができるのか?行ってみたいと思う人はいるのだろうか?実際に地方都市の人口は増えているのだろうか? もちろん地方創生は地方だけの問題ではない、国の問題だ。政府は「まち・ひと・しごと創生本部」を設置していて、各府省庁はそれぞれの視点で地方創生の策を練っている。

 

例えば、総務省は地方へ若者の人口流入を促すべく、「地域おこし協力隊」として移住政策を推進している。移住先でローカルの仕事を斡旋する仕組みや、住居なども整えてあげている。あるいはその土地で起業する人への財政支援もしている。これらは大体1~3年という期間が設けられているところが多いが、約6割の人が任期終了後も同じ地域に定住しているそうだ。しかも若い人が多い(平成25年6月末時点。まち・ひと・しごと創生本部資料より)。 すでに実績も出ていて、素晴らしいプロジェクトだと思う。一方で有識者会議によるCCRC(Continuing Care Retirement Community)構想も発表されている。これは東京圏をはじめ大都市の高齢者が、本人の希望に即して地方に移り住むことを支援するというもの(まち・ひと・しごと創生本部資料より)。 こちらのすごい点は、移住した後の生活まで支援体制を整えているところで、引き続き健康でアクティブな生活を送れること、後に医療や介護が必要になった時の為の体制も確保することを目指している。定年後は首都圏から離れて穏やかに過ごしたいが、その術がわからずイマイチ踏み出せない、という人にチャンスを与えることができるはずだ。

 

このような素晴らしい地方創生のプログラムがたくさんありながら、都市部と地方には大きなギャップがあると感じるのはどうしてだろう。現在私は地方都市に住んでいて、東京には時々仕事で行くぐらいだ。この往復で思うのは、東京と地方の温度差(気候ではない)が未だに大きいこと。東京はやはりエネルギッシュな都会だ。オリンピックを5年後に控え、観光客で賑わい、衰えることを知らない感じがする。他方、地元にいると地方創生をしようという雰囲気は特に感じられない。

 

政府が地方の活性化にどんなにいいプログラムを策定しても効果はそれほど上がらない。やはり、元からいる住民がその土地で楽しく暮らし、住民たちの手で広め、呼び込むことが大事なのではないだろうか。例えば、東京の広告代理店に頼んで、地元活性化のプロモーションビデオを作ってもらって、YouTubeにアップロードして終わりでは、結局お金が東京の会社に支払われるだけで本末転倒になってしまう。プログラムを作った分だけ地元に還元されるべきだろう。地元の人々が、政府が用意してくれた様々な地方創生プログラム案をその土地に合うようにカスタマイズし、運用していく所から活性化していくのではないだろうか。実際、すでに地方創生が盛んな地域とそうでない地域の差が出始めている。地方創生がうまくいっている地域は、東京からのアクセスが良くなかったりする。ということは、きっとその地方の人々の努力の賜物だろうと私は勝手に推測している。

 

これから地方創生に求められるのはスピード感ではないだろうか。人口減少必至の日本、乗り遅れると一気に過疎化してしまうのでは?と心配になる。町が生き生きとするかどうかは、地元に住んでいる人が自ら動き出すかどうかによるのではないだろうか。

 

 

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<謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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2015年7月2日配信