SGRAかわらばん

エッセイ396:マックス・マキト「マニラ・レポート2013年冬:フィリピンで戦いを繰り広げる日本」

3.11の直後、SGRAかわらばんにエッセイを書く機会があった。日本が今まで経験したことがない震災の中で必死に戦う日本の国民、そして、応援にやってきた地球市民たちの姿に、僕はとても感動したので、この危機は、今までに日本が世界へ提示した独自の理念を改めて見直す良い機会でもあると書いた。この「見直し」は、失われた数十年のように、日本の良いところまで批判的に扱う「抜本的改革」ではない。むしろ、あのとき僕の心に響いたのは、日本は守るべきところを見直して、それを更に活かしていくことができるということであった。日本が守るべきところとは、平和憲法、非核三原則、そして僕の研究対象でもある共有型成長である。これらを更に活かせば、震災に素早く、かつ効果的に対応できる自衛隊、原発ゼロを含む非核三原則、そして、海外にも展開する共有型成長という見直しができると思ったのである。

 

しかしながら、今、上記3つの見直しについて、日本国内では、まるで紛争勃発の様相である。そして、この戦いは海外にも展開しようとしていて、フィリピンにおいても、戦いが繰り広げてられている。

 

2013年11月7日にフィリピンを襲った世界最大と言われるスーパー台風30号は、甚大な被害を及ぼし、今も復興に向けて努力中である。多くの国の支援をいただいて感謝で一杯だ。日本からも、史上最大規模の自衛隊を被災地に派遣していただいた。この台風で一番被害を蒙ったレイテ島は、第二次世界大戦で日本軍に侵略された時に、マッカーサー将軍が、フィリピンに「私は必ず戻ってくる」と約束し、その約束を果たすために、大規模な連合国軍が上陸した島でもある。その島に、日本の国民を守る自衛隊が、フィリピン人を助けるために、こんなに大勢やってくることは、以前は誰も想像しなかったであろう。海外援助の透明さを確保するために、フィリピン政府がこの台風をきっかけに作成したウェブサイト(Foreign Aid Transparency Hub、2013年12月20日アクセス)によると、現在、この台風による被災地の支援に対して、日本は最大援助国の3カ国の内に入っている。イギリスが最大援助国で9600万米ドルを、日本は2番目で7400万米ドルを、米国が3番目で6200万米ドルを公約している。3.11からまだまだ復興中の日本からの寛大な援助は特に有り難い。東日本大震災の時のフィリピンからの支援に対する「お返し」ということもあるらしい。

 

フィリピンには、およそ30年前に国民の反対運動によって建設中止になった原子力発電所がある。中止になったのだから、その建物は劣化して殆ど売却されたか、或いは売却できなかったので設備は錆びついて敷地は草がボウボウだろうと、僕は想像していた。しかし、昨年10月にSGRAの福島スタディツアーに行った後に、フィリピンにおける原発をめぐる最近の議論を調べてみたら、驚いたことに、その原発は新築並みの状態に維持するために、フィリピン政府がメンテナンス予算を数十年にわたって組み続けていたことがわかった。理論的には、核燃料を投入するだけで、稼働可能のようである。福島スタディツアーの最後の日、ふくしま再生の会の皆さんに、「せっかくこのような体験をさせていただいたので、皆さんの力を借りて、フィリピンが永遠に原発ゼロの国になるように、微力ながらもSGRAフィリピンは頑張りたい」と申し上げた。その後、更に調べたところ、福島の高校生達が、一昨年、稼働中止中のフィリピンの原発を訪問したことがわかった。高校生達は、「こんなに綺麗な自然に恵まれたフィリピンで原発を稼働させるべきではない」というコメントを発表していた。日本の失われた数十年間の影響で、様々な問題を抱えている、そして、これから原発という「遺産」の担い手になる日本の若者が、このようにしっかりとした意見を述べたのは、あっぱれである。

 

僕の専門の共有型成長の面においても、日系企業の進出のおかげで、フィリピンにも共有型成長のDNAが伝えられている。SGRAかわらばんの読者の皆さんは既にご存知の方が多いと思うが、日本は高度成長期に、GDPは増加しながらも貧富の格差が縮まるという「東アジアの奇跡」を実現した。残念ながら、フィリピンはこの奇跡を経験できなかったが、僕の調査では、日系企業が進出しているフィリピンの経済特区やそこに立地する企業群、そして、それぞれの企業、というあらゆるレベルで、共有型成長が根付いていることが確認できた。

 

フィリピンにとって、共有型成長は夢のようなものである。東南アジア諸国と比べても、フィリピンの一人当たりのGDPは低く、貧困の格差は依然として大きな問題である。日本が実現可能と示したこの共有型成長についての私の研究は、SGRA設立時から継続して行い、たくさんの方から支持をいただいている。当初は、「グローバル化の中の日本の独自性」チームにおいてこの研究を進めさせていただいた。僕は、この共有型成長は(グローバル資本主義経済とは違う)日本の独自性に支えられていたと信じている。僕は日本から学んだことを伝えるべく、2004年から平均年2回、フィリピンでSGRAマニラセミナーを実施している。第17回日比共有型成長セミナーを2月11日(火)にフィリピン大学で開催するので、ご興味がある方はプログラムをご参照ください。

 

しかし、これで3つの戦いが終わったと考えたら大間違い。

 

温暖化により、気候変動がこれからも続き、益々大きな被害が想定外のところで起きる可能性がある。自衛隊のような、体系的な、しかも命がけの任務に対応できる組織がこれからも必要になる。ただ、東アジアでは政治外交の緊迫状況が高まり、自衛隊結成の基本理念である日本国憲法を改正する可能性までが浮上してきた。フィリピンもこの緊迫状況のど真ん中にいる。

 

福島で原発の問題が発生したあとでも、世界のいくつかの国々で原発建設が止まらない。フィリピンでも大物達が、再び原発を立ち上げようとしている。建設中止に至るまで、あれだけ膨大な借金や長引いた停電時代のコストを、フィリピン国民が払ったにもかかわらず、である。

 

そして、フィリピンにおける共有型成長は依然としてラマンチャの男の夢である。格差がなかなか改善できない。それに、いわゆる「中所得の罠」に陥っている。他の東南アジア諸国と比べて、日本の投資家にとってそれほど人気のない国である。国内においても、海外においても、成長が実現されても、それが全国民に共有されていない現状である。

 

この3つの戦いは結びついている。共有型成長が実現できていない国では、自然災害の被害が深刻で、そこからの立ち直りが遅い。国民の大半は構造が貧弱な住宅に住み、社会的インフラは乏しい。立ち直るための設備や貯金なども殆どない。共有型成長が実現できない国であるがゆえに、甘い誘惑でパッケージされた原発に弱い。いくら国民がNOと思っていても決断をする連中が便益をもらえば、原発が建設されたというケースがよく見られる。2月11日のセミナーでは、これらの課題を議論する。その上で、行動が起こればと思う。

 

英語版はこちら

 

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<マックス・マキト  Max Maquito>

SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表、フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。

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2014年1月22日配信