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エッセイ366:金キョンテ「韓国の新しい大統領」

韓国の新しい大統領、朴 槿恵(パク・クネ)の就任式が2月25日、韓国国会議事堂の前で行われる。朴氏は2012年12月19日に行われた大統領選挙で、52%の得票で、48%を得た民主統合党の 文 在寅(ムン・ジェイン)候補に勝利した。

 

全国の総投票率は75.8%。近年韓国で行われた選挙の中でもっとも高い投票率を記録した(参考として、2012年4月11日の国会議員選挙の投票率は54.2%だった)。それほど、多くの人々がこの選挙に積極的に参加し、両候補が得た投票率を見ても分かるように激戦だった。選挙以前から予測された通り、この選挙は保守と進歩(右派-左派の概念とは違う)、既成世代と若い世代という「陣営」間の対立が先鋭に表れる場となった。選挙結果に関しては、すでに多くの分析が行われ、その中には反省と自責、内部分裂などが混じっていた。

 

進歩陣営と(多くの)若い世代は、予想しえなかった選挙結果に大いに失望した。勝利は当たり前だと思っていたので、彼らが受けたショックは以前の「敗北」より大きかっただろう。開票速報を見ながら泣き出したとか、選挙以来テレビニュースを見なかったと言っている人もいる。既成世代に対する怒りを隠さない人達もいる。彼らがショックから立ち直って、彼らが望んでいる社会のために立ち上がるまでにはもう少し時間が必要だろう。

 

しかし、選挙はもう去年の事。もうすぐ就任式を迎える。現実否定はやめ、これからは新しい大統領について考えてみる時である。

 

朴氏は韓国初の女性大統領だ。最近、世界各国では女性最高指導者の選出が増えているが、全体的にはまだ男性の方が圧倒的に多い。女性大統領はアメリカにもなかったし、歴代の日本総理の中にもない。中国の最高指導者の中にもなかったし、もちろん、北朝鮮にもなかった。歴史の中の女王の話はさて置いて、女性に参政権が与えられたことも実は昔々の話ではない。ニュージーランドで1893年、最初に参政権が女性に与えられ、アメリカでは1920年、イギリスでは1928年、日本は1945年、そして韓国は1948年に与えられた。韓国はとにかくダイナミックで早い。

 

一方では、朴氏は女性を代表する人ではないと言っている。彼女は典型的な保守男性、経済的な既得権層を代表しているということだ。一理はある。ところで、進歩的で、経済民主化を追求する女性は果たしてすべての女性を代表するのか。典型的な男性はどういう人で、典型的な女性は誰なのか。そう考えれば、女性-男性といった「性」自体に注目することはもう古い発想かも知れない。一人の人間として、韓国を代表する大統領に適するのかを検証したらいいのではないか。 朴氏をかばうつもりはない。 朴氏は女性という要素を前に出して選挙戦に挑み、実際に、ただその理由だけで多くの女性票を集めた。もうそのような戦略はやめよう。多分、二度と女性という理由だけで得票する状況はないと思う。 朴氏には、男性と女性、そしてどちらにも属しないかも知れない第3の性、年寄りと若者、社会的な強者と弱者が皆で幸せになる社会を作って欲しいと、要求しなければならない。

 

すでによく知られているように、朴氏は朴 正煕(パク・チョンヒ)元大統領の娘である。進歩陣営、歴史学界などで、朴氏を極端に反対する理由のひとつである。満州軍官学校と日本陸軍士学校を経て、関東軍として服務し(「親日」、親日という単語自体に否定的な意味はないが、韓国では日本帝国植民地の歴史がいつもその用語を規定するため、肯定的な意味を持てない。代替用語として、「知日」が使われる)、経済発展を名目に、独裁政権を維持しながら、民主化を要求する人達を弾圧した(「反民主」) 朴正煕を、進歩陣営・歴史学界が支持できるはずがない。反対側の先端では、朴正煕を経済発展と反共産主義の先導者として神格化している(嘘ではない。彼の出生地は聖域化されたと言っても過言ではない)。

 

しかし、朴氏は朴正煕ではない。娘と父親を同じ人だと錯覚、または罵倒してはいけない。独裁政権の延長でもない。朴正煕は1979年に死亡し、朴氏は2013年に大統領になる。韓国はその長い期間に、着実に民主主義の道を歩いて来た。韓国の現在の民主主義は独裁政権の復活を認容するほど甘くはないだろう。怖がる必要はない。

 

朴氏は父親の否定的な面をそのまま認め、彼がおかした間違いを反省し、二度と繰り返さないようにすべきである。そのような努力を通じて、朴氏を支持しなかった、認められなかった 48%をどれほど説得し、包容するのかが要であろう。

 

 
現在進行中の国務総理、憲法裁判所長の選任過程は、人事聴聞会における与論と野党側の反対で(勿論、候補者個人の道徳性問題を含め)難しくなっている。ここでも分かるように、48%の反感はまだ強い。2月7日現在の 朴氏の支持率は52%。自分が選挙で得た投票率と変わっていない。彼女を支持しなかった勢力を包容できなければ、5年間の政局運営は困難になるだろう。

 

しかし、一方で、父親を否定し、反対側を説得する作業が支持者の離脱を招く可能性もある。包容と離脱防止。朴氏はこのジレンマをどう克服するのだろうか。候補者の時は聞きよい話ばかり言ってもよかったが、大統領になると話が違う。そして、時代はもう父親のような方法では動かすことはできない。

 

これから5年後、2018年には私も40歳に近くになる。この時、朴 槿恵 大統領は果たして成功した大統領になっているのだろうか。一方で、果たしてその時の私の投票性向はどうだろうか、どのような大統領を欲しがっているだろうか、またこのようなエッセイを書けるだろうか。まだまだ分からない未来の話だが、国民の手で大統領を選ぶという原則だけは変わらないでしょう。

 

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<キム キョンテ ☆ Kim Kyongtae>
韓国浦項市生まれ。歴史学専功。韓国高麗大学校韓国史学科博士課程。2010年から東京大学大学院人文社会研究科日本中世史専攻に外国人研究生として一年間留学。研究分野は中近世の日韓関係史。現在はその中でも壬辰戦争(壬辰・丁酉倭乱、文禄・慶長の役)中、朝鮮・明・日本の間で行われた講和交渉について研究中。
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2013年2月20日配信