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エッセイ341:葉 文昌「台湾のビール事情」

今、台湾ではマンゴビールとパイナップルビールが流行っている。台湾の最大ビールブランド「台湾ビール」を持つ台湾菸酒公司(昔のタバコ酒専売公社)が開発して今年出したビールで、月に50万ダース売れる大ヒット商品だそうだ。ビール会社でありながら正統ビール市場で勝負に出るのではなくビールと銘打ったカクテルで盛り上げたのにはビール造りとしてのプライドに疑問を感じてしまうのだが、何はともあれ、2005年にビールの輸入関税が0%になってから、台湾のビール市場は外国製ビールも入り乱れての戦国時代なのだ。

 

日本のコンビニのビールコーナーにはアサヒ、キリン、サントリー、サッポロの4ブランドが、プレミアムビール、ビール、発泡酒と違うランクの銘柄を出して競っている。一方で台湾では、国産の台湾ビールを筆頭に、日本勢はアサヒ、キリン、サントリー、サッポロ、欧米勢はハイネケン、カールスバーグ、ミラー、バドワイザー、更にその他に青島、コロナ、タイガーなどが置かれている。ビールは1987年までは台湾菸酒公司が専売だったのでシェア100%であったが、2010年には75%に下がった。それでも圧倒的なシェアではあるが、しかしそれまで専売制度で努力せずとも製品が売れていた甘い体制から自由競争に突入したので、シェア25%減と言うのは痛い打撃かもしれない。

 

シェア25%の外国ブランドの中では、ハイネケンがトップの13.5%で、キリンの6%、青島3-4%、そして残りをバドワイザー、アサヒ、カールスバーグ等が分けた(2011年、台湾酒訊雑誌)。第一線のビールにはハイネケン、スーパードライ、一番搾り、とバドワイザーがあり、これらの特徴はブランド国からの直輸入であり、値段も高い。量販店における350cc級の半ダース最安値を見ると、ハイネケンが350cc換算で90日本円、一番搾りが87円、スーパードライが81円、バドワイザーが86円であった。この中ではハイネケンが最も高い価格設定で尚且つ単一銘柄でありながらもトップシェアを誇っている。低価格帯では台湾ビールが69円、青島ビールが59円、キリンBarビールが72円、アサヒ乾杯が58円、サッポロビールが61円であった。これら低価格帯ビールは台湾メーカーによる代理生産か又は中国生産であった。これらの価格は日本人から見れば安いと思うかも知れないが、日本も台湾もマクドナルドでの20分間の労働分に相当するので台湾人にしてみれば安くはない。

 

日本では日本ブランドしか並んでいないので平和に見えるかもしれないが、台湾にいれば逼迫した世界ビールブランド競争を肌で感じることができる。一方で消費者は世界中のビールから自分の好きなビールを選ぶことができるので幸せと言えば幸せである。台湾のビール市場を経験すれば日本のビール市場が少し退屈に見えてしまう。日本でも銘柄は多く出ているものの、競争の土俵は第二のビールや第三のビールに移っている。でもこれら発泡酒は、材料も工法もビールとは異なるものの味をそれに似せる為の研究開発であって、歴史に残るものではないし、世界での競争も難しい。台湾でのビール価格から、日本のビール価格の大半が酒税であることがわかるが、消費者が酒税の安い発泡酒を求めるがために日本のビール会社の開発がそれに移っていることは残念な気がする。ビールの酒税を下げれば国民も発泡酒からビールに戻る上に、開発競争も本来のビールに戻る。そしてプレミアムモルツ、スーパードライや一番搾り等のような、世界で十分に戦える新しいビールの出現が期待できるのではないか。

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchang>
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。
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2012年7月4日配信