SGRAかわらばん

今西淳子「溝を埋める地道な作業を~チャイナフォーラム中止にあたって~」

大変残念なことに、9月17日にフフホト、19日に北京で予定していたSGRAチャイナフォーラムを中止しました。12年前にSGRAの活動を始めてから、プロジェクトの中止は初めてのことです。

 

フォーラムの準備が全て終わり、あとは中国へ出発するだけという9月14日(金)朝、フフホトフォーラム担当の内モンゴル大学のネメフジャルガルさんと、北京フォーラム担当の北京外国語大学の宋剛さんから、ほぼ同じ内容のメールが届きました。「昨日の夜、学校の幹部の緊急会議で、日本関係のイベントを自粛、延期するようにという決定が出ました」と。さすがに、皆さんのスケジュールを再調整するのは無理なので、中止せざるをえません。「今日はポスターの回収とキャンセルの説明に奔走しています」とのこと。講師の元ロータリー米山記念奨学会専務理事の宮崎幸雄さんも私も、「こういう時こそ民間の交流が大切」とはりきっていたのに本当にがっかりです。柳条湖事件の前日と翌日にフォーラムを組んだ思慮のなさを悔やみましたが、テレビが伝える今の様子を見ると1週間遅ければ大丈夫だったというようなものでもないかもしれませんね。

 

さて、今回の反日デモですが、おそらく多くの普通の日本人と同様、私も「どうしてこうなるの?」って感じなんです。日本国政府が日本人の所有者から購入した(=国有化)のは、東京都が買わないようにするためでした。都が買って「島の整備」などをしないように「国」が買いました。国でも都でもなくて右翼団体が買ったらもっと大変です。日本政府は、「当面何もしない、上陸も許可しない」と最初から公表していましたから、私も国が買ってほっとしたわけです。

 

つまり、日本の領土か中国の領土かという問題とは次元が違う話で、既に実行支配している日本の法律のもとで個人の所有者がいたわけです。(中国の法律のもとでの所有者が居るのかもしれませんが、そのことは今回の売買には関係しません。)日本の法律上で所有していた人が亡くなって、その家族が売却することにしました。最初は東京都と話していましたが、最後は国に売却することに決めました。ですから、日本の法律のもとで、所有者が変わったというだけ話です。その法律の効果があるかどうかは別の話で、個人所有も、国の所有も、同じ法律のもとで行われているのであって、その点では今回の「国有化」で日本政府の立場が変わったわけではなく、まして右翼と一緒になって領土を確定しようとしたわけでもありません。

 

ですから、中国政府が「日本が国有化した」と、すごく強い口調で非難することに、私自身は非常に違和感を感じます。政府関係者や報道機関は、もっとちゃんと説明してほしいです。少なくとも中国国民の大部分は誤解しているのではないかと思うのです。

 

勿論逆の「誤解」あるいは「すれ違い」も起こっていると思います。たとえば、韓国大統領の発言の日本での報道仕方は、もう少しなぜこのような発言がでたのか理解できるような説明をしてほしかったと思います。今の問題でも、なぜ中国政府のスポークスマンがこのように強い発言をするのか、なぜ中国の国民がこのように怒っているのか(デモをしている若い人たちの中には笑っている人も多いですけど)、もっと納得できる説明を聞きたいです。

 

50年前の戦争の時代と今が一番違うのは、交通と通信の発達によって国境を越える人と情報の交流が爆発的に増えたことだと思います。以前は国とマスメディアを通した限られた情報しかなかったのに対して、今はいろいろな方法で個人から個人へ伝えることができます。政府発表や報道をそのまま信じるのではなく、個人個人の意見のやりとりから少しずつ溝を埋めていくような地味な努力がもっともっと必要とされていると思います。ささやかながらもSGRAも貢献することができるかもしれません。

 

(SGRA代表)

 

 

2012年9月16日配信