SGRAかわらばん

エッセイ105:マックス・マキト「マニラ・レポート2007年12月」

今回のフィリピンへ帰省中、僕としては初めてのスタディーツアーを行った。僕の日本の大学の学生たち7人(性別的にいえば女性5人、男性2人、出身国的にいえば日本人5人、ポーランド人1人、インドネシア人1人)と先生2人(SGRA顧問で名古屋大学教授の平川均先生と僕)の参加で、12月5日から14日までの合宿旅行を、フィリピンのアジア太平洋大学(UA&P)のユウ先生とマニラにいる家族の協力を得ながら実施した。幸いに今回のプロジェクトの一部は、平川先生の名古屋大学の産業集積の研究助成金から支援していただいた。

 

12月5日に、名古屋発の平川先生と東京発の僕がマニラ国際空港で合流した。学生さんたちは期末試験のため、マニラ到着(台湾経由)を一日遅らせた。参加者は9日まで、マニラ市内のホテルをベース・キャンプとした。師走という時期だったので、残念ながら、平川先生は9日に日本にお帰りになった。

 

ツアー前半の主な目的は、昨年から続いている経済特区におけるフィリピンの自動車産業の研究調査を行うことである。昨年、平川先生とユウ先生と一緒にフィリピン・トヨタの工場を見学し、僕は特区に関する研究を発表した。その後の交流の結果として、自動車産業を中心とした研究方向が固まってきた。12月6日(木)に、僕らの研究を支援してくれているフィリピン・トヨタの方の手配で、トヨタの下請け企業であるPhilippine Automotive Components、Fujitsu Ten、Toyota Boshoku Philippinesを見学させていただいた。さらに、8日(土)には、週末にも関わらず、Yazaki-Torres Mfg. Inc.という合弁会社を見学できた。この場を借りての幹部社員の皆様の暖かい歓待に感謝を申し上げたい。以上の見学によって僕達が行っている研究の分析結果を現場で確認することができ、今後の研究に役立てるヒントを得た気がする。

 

7日(金)の午後1時半から5時半まで、UA&P・SGRA日本研究ネットワークの第6回目の共有型成長セミナーがUA&Pの会議室で開催された。最初に平川先生がフィリピンの自動車産業を他の東南アジア諸国と比較した。日本のダルマに例えて、フィリピンの自動車産業は7回転んでも8回立ち直す。東南アジアからみても遅れているということがわかるが、部品調達先としての役割を深めているということだった。次に僕が経済特区の比較分析の結果を発表した。この分析はこれから特区を超える産業ネットワークにも適用できるので、そのための研究支援を訴えた。休憩を挟んでユウ先生がフィリピンの半導体産業と自動車産業の比較分析の結果を発表した。この観点からみてもフィリピンの自動車産業は遅れていることがわかる。ただ、世界の観点からみれば、自動車産業は部品などの調達で中小企業に大きく頼っているので、共有型成長の潜在力が非常に高いという。最後に、フィリピン自動車産業協会のホマー・マラナンさんがフィリピン自動車産業の現状について報告した。輸入車の量が現地生産高とほぼ同じことが現地自動車産業に大きいな打撃を与えていることがわかる。最近、フィリピン国産車の啓蒙活動が進められ、法律も作られているというが、輸入車がビジネスとして成り立っている限り、今後の展望はまだまだ難しいようである。セミナーの最後に僕が司会をして、会場のみなさんを混じえてパネル・ディスかションを行った。色々なことが議論され、フィリピン自動車産業の研究の将来性を感じた。

 

トヨタの役員の方に誘っていただいたセミナー終了後の食事会でも、同じように前向きな印象を受けた。フィリピン自動車産業のこれからの戦略立案において大学やNGOという中立的な立場が必要とされている。そこでUA&P・SGRA・名古屋大学のネットワークが活躍できると思う。東京に帰る前に研究助成を含む話し合いが予定されている。また、できるだけ早く戦略政策案を提出するよう要請されている。

 

スタディーツアーの後半(9~12日)は主に地方で過ごした。マニラの東南、車で約4~5時間の太平洋に面するビーチ・リゾートがベース・キャンプである。リゾートといっても主な客層は地元の人々で、決して一流の観光地ではない。一行は、僕と学生7人、父と妹とその長男、運転手の総勢12人だった。初めての試みだったので不安がたくさんあったが、その心配は無用だったように、みんなが明るく、フィリピンの地方での3日間を過ごしてくれた。

 

地方の視察は共有型成長をテーマとする僕の研究の一貫である。都会から地方への発展をいかに進めるかということをが、僕の研究の基本的な目的である。ツアー前半の経済特区はまさにその一つの有効な手段である。製造業の経済特区は大体地方に位置しているからである。引き続き、地方における農林水産業部門やサービス部門においても、僕の研究を展開しようと試みたわけである。今回は農林水産業部門では養魚場を一ヶ所視察し、サービス部門では、今後の研究の可能性を探るため、ベース・キャンプにしたリゾートを中心とした観光施設を訪問した。

 

未開発の海や豊かな雨量に恵まれているこの地方は、養殖業の可能性が十分あると思われるが、商業ベースで営んでいる養魚場はどうも少ないようである。観光地としても理想的なところであるが、地元の人たちは、この地方の住民か、たまたまやってきた観光客しか狙わない。立地は良いのに、どうもこれ以上発展したいという住民の熱意が感じられなかったというのが率直な印象である。確かにフィリピンの地方では、ノンビリというのは当たり前だとよく聞く。しかし、地方でも機会があれば発展したい気持ちはあると思う。隣の県と比べると、今回の視察先では遊んでいる土地が多いようであるし、観光の観点からみてもさまざまな点で遅れている。

 

このビーチ・リゾートは、妹の友人に紹介してもらったものだが、合宿中も色々と親切にしていただいた。彼らにとって精一杯のもてなしをしてくださったと思う。同時に、このプロジェクトを手伝ってくれた僕の家族にも感謝している。日本から行った学生さんたちから事前に了解を得て、今回の合宿旅行の余剰金は、妹の3人の子どもたちへの奨学金とさせてもらった。他のパック旅行と比べても低予算という制約の下で組んだスタディーツアーであるが、家族のボランティアと全力をあげての経費節減により、いくばくかの支援金を得ることができた。実は今までのSGRAでの僕の研究成果は、殆ど妹(と父)が手伝ってくれたデータ収集が基本になっている。妹の明るい性格は、参加した学生さんたちに非常に受けて、みんなに親切に付き合ってくれた。

 

嬉しいことに、今回参加してくれた学生さんたちは、地方から帰ってきた後、マニラでの滞在期間を2泊延長した。そして、日本に帰ってからも優しい言葉を一杯くれて、このような合宿を近いうちにもう一回やろうという自信を芽生えさせてくれた。いうまでもなく今回の合宿には問題点も多くあって、いわゆるトヨタの「カイゼン(改善)」を習って、東京へ帰ったら反省会を行うと同時に第2回目のツアーの企画も始めたい。今回の訪問先と比較するため、次回はまた家族のネットワークに頼ってマニラから北西のほうを調査してみたい。

 

このスタディーツアーを企画している間に、フィリピンではモールの爆発や、クーデターなど、いくつかの事件が報道されたために、何人かが参加を中止した。そんな状況でも、暖かく支援してくださった企業はもちろん、それでも参加してくれた7人の学生さんたちと平川先生に心から感謝している。色々大変だったと思うが、僕まで驚かせたこのグループの前向きな姿勢によって、一人残らずフィリピンの訪問が勉強になり、良い思い出ができたそうである。

 

SGRAのみなさんからも、東海の真珠と呼ばれるフィリピンへの冒険旅行はいかがでしょうか。

 

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<マックス・マキト ☆ Max Maquito>
SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師。
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