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エッセイ171:包 聯群「中国の経済発展は農民たちに何をもたらしたのか:黒龍江省でのフィールドワークから見えたこと(その2)」

[農村でも街と同様な生活を]

 

今年も中国の東北地域では降水量が多く、農民たちにとっては収穫のよい年であった。物質的な向上は農民たちに精神的な向上をもたらしていると言える。ウンドル村から3キロ離れた解放村では、華麗なレストランとカラオケ、休憩所、銭湯などを完璧したお店ができた。この村だけではなく、条件があう多数の村(黄花村、長発村、永発村)には、このような娯楽施設ができている。農民たちは農産物の収穫の忙しい季節を終え、一年の疲れを取るのに、こういった場所を利用するようになった。

 

今年10月12日(筆者が中国滞在中)、北京で閉幕した中国共産党第十七期中央委員会第三回全体会議は、『農村の改革と発展を推進するいくつかの重要問題に関する中国共産党中央の決定』を採択し、農村の改革と発展に向け、新たな戦略的政策を打ち出した。

 

会議は改革と革新を大々的に推進し、農村の制度整備を強化し、近代的な農業を発展させ、農業の総合的な生産能力を高めること、農村の公共事業の発展を速め、農村社会の全面的な進歩を促すとしている。さらに2020年までに、農業の総合生産能力を著しく向上させ、国の食糧安全と主要農産物の供給を効果的に保障し、農民の一人当たりの純収入を2008年より倍増させるという。農村部の住民がすべて教育を受ける機会が持てるようにし、基本的な生活保障や医療・衛生制度をさらに健全なものにすると強調している。これらをみると、この地域の農民たちは良い土地や政策に恵まれていると言えるだろう。

 

[農薬に関する知識の重要性]

 

ウンドル村では、農薬の大量使用が人体に害をもたらすことを知らない人々がいる。今は、農業の高収穫だけを考え、化学肥料や殺虫剤、除草剤などを大量に使用する現象がでている。

 

ウンドル村では、昔、農民たちは化学肥料を使用せずに、自然の肥料によって農地を営んでいた。それに毎年、植えた農産物に対して、手作業で丁寧に「除草」作業をし、無農薬の農産物を作っていた。このような手作業は1980年代末まで続けられていた。

 

しかし、今は、無農薬の農産物が少なくなった。現在、多数の家庭は、農産物の高収穫を望み、また労働力を節約するため、すべての雑植物を大量の「除草剤」で「殺している」という。自分が食べる目的で自家の周辺に植えた野菜にさえ化学肥料や殺虫剤などを使用しているという。農薬の使用について農民Bさんから聞いたところ、Bさんは自分の庭園に自家用のため植えた野菜に化学肥料を使用しなかったことで奥さんと喧嘩になったと話していた。Bさんの奥さんは農薬について、その量が多ければ多いほど農産物の収穫がよいという考えを持っているそうである。このような考えを持っている人は少なくないという。

 

このように一部の農民が農薬に関する知識を全く持っていない状況が浮き彫りになってきた。化学肥料や殺虫剤を作っている人、あるいはそれを販売している人たちは、農民たちに農薬に関する知識をどれほど伝えているのかが疑問として残った。

 

○ 食の安全問題

 

中国の高度経済成長に伴い、農業が増収し、農村も著しい発展を成し遂げ、よい成果をあげているという喜ばしいことがある一方、食の安全問題が懸念されている。

 

人間にとって、食の安全は最も重要である。最近、中国のミルク粉に標準値を越えたメラミンが含まれていたことが中国メディアによって報道された。多くの業者が同様な手口でメラミンを故意にミルクに入れていたことが明かされた。この事件が人々に警報を鳴らし、食の安全に対する意識を高めるきっかけになったらと願ってやまない。

 

人々はこうした中で何を信じればよいのか。ある大学の教師は、「われわれは安全な食品、無農薬の食品を求めており、値段が高くても買って食べている。ときに、安全だと言われている食品、無農薬の食品を買い求める客で長蛇の列までできている」という。このように食の安全を求める人がいる一方で、食の安全に関する知識を持たない人もいる。これからは、「食」を作る人、「食」を買い求める人への知識伝達、食の安全意識への教育が必要となってくるだろう。

 

黒龍江省でのフィールドワークの写真

 

写真の中に出ているウンドル村の小学校の再建について書いた包聯群さんのエッセイ「火事で焼失した小学校の再建をみんなの手で実現させることができた」

 

このエッセイの前半

 

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<包聯群(ホウ・レンチュン)☆ Bao Lian Qun>
中国黒龍江省で生まれ、1988年内モンゴル大学大学院の修士課程を経て、同大学で勤務。1997年に来日、東京外大の研究生、東大の修士、博士課程(言語情報科学専攻)
を経て、2007年4月から東北大学東北アジア研究センターにて、客員研究員/教育研究
支援者として勤務。研究分野:言語学(社会言語学)、モンゴル系諸言語、満洲語、
契丹小字等。SGRA会員。
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