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エッセイ169:今西淳子「留学生30万人計画と短期留学推進への期待」

5つの国立大学が世話人となって開催する「『留学生30万人計画』と『短期外国人留学生支援制度』の行方」という会合があったので行ってみた。各大学の短期留学プログラム担当者の会だったようだが、私は以前から、5年とか10年とかかけて日本の大学から学位を取得するための留学ではなく、1年未満の短期間の青少年の国際交流をもっともっと大量に増加すべきだと思っているので、短期留学の現状がどうなっているかを知りたいと思ったからだ。主催者から、参加者は全員、短期留学プログラムの資料を提出すべきということだったので、私も渥美財団とSGRAの紹介の後に、今年から始めた北京・ソウルでの面接による奨学生の現地採用について説明し、最後に次のようなコメントを付け加えた。

 

[短期留学推進への期待]

 

留学生30万人計画は、勿論悪くない。世界中の若者が、国境を越えて異文化に接する機会が増えれば増えるほどいい。でも、何故か、現場の方々は、あんまり喜んでいないように見受けられる。30万人なんて無理、10万人計画でも問題が山積みだったのにと。勿論喜んでいる人もいる。大きな政策があれば予算がつくから、その恩恵に預かろうと思っている方々。昨今は、ビジネス日本語や企業への就職斡旋や日本企業に相応しい高度人材の育成が大流行り。でも、少子高齢化の日本を救うための留学生受入政策って本物ですか?これから景気が悪くなったら企業の採用も激減するのでは?そうなったら外国人の方が使い捨てになる可能性が高いかも。青少年の国際交流は、異文化に接触することによって個々が成長し、異文化が融合することによって新しいものを創造するところに、その使命と醍醐味があるのでは?通信と交通手段が発達して、時間の流れが早くなった今日、人生の一番大切な20歳代の10年間をかけて日本の大学の博士号を取得しにくる留学生は、これ以上多くはならないでしょう。短期留学の促進にとても期待しています!短期留学促進には、奨学金よりも、英語(中国語も?)による授業、単位交換、宿舎の整備、リスクマネジメントなどがもっと必要なのではないかと思います。

 

セミナーの前半には、文部科学省高等教育局学生支援課留学生交流室の方による留学生政策の説明があった。留学生30万人計画骨子の3つのポイントは、1)「グローバル戦略」展開の一環として2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指す。2)大学等の教育研究の国際競争力を高め、優れた留学生を戦略的に獲得。3)関係省庁・機関等が総合的・有機的に連携して計画を推進、ということであった。最後に短期留学のデータが紹介されたが、2008年5月1日の時点で、留学生総数118,498人に対して、短期留学生は7.1%の8,368人。出身国は、留学生全体では圧倒的にアジアが多いのに対し、短期留学では中国韓国の次にアメリカ、台湾、ドイツ、フランス、タイ、イギリスと、欧米諸国からの留学生も多い。そして文科省の奨学金のひとつの枠である「短期留学推薦制度」については、1996年より2007年まで、採択者数は2千人前後とあまり変化しないが、応募者は2,464人から10,207人に急増している。尚、文科省による「短期留学」の定義は、3か月以上1年未満の留学である。3か月以上とするのは、それ以上滞在するためには留学ビザが必要になるので、留学生ビザによって正確な統計がとれるからだと思う。

 

セミナーの後半は参加した38機関が、それぞれ1分間で自分の短期プログラムを紹介した。部外者として聞いていると、国立大学と私立大学の差が明確で興味深かった。そもそも、この会合のテーマにある「短期外国人留学生支援制度」というのは、文科省のひとつの施策を意味するらしく、国立大学は、当然のことながら、その恩恵にどうやって与るかが大きな関心事らしかった。また、正確には把握できなかったが、この制度は大学間協定による交換留学に使われることが多いようでもあった。この施策の恩恵を受けることのできるプログラムを「短期プログラム(短プロ)」というらしいのであるが、留学生を1000人以上受け入れている大きな国立大学が、20人とか30人の短プロだけを1つだけ紹介しているので驚いた。このような大学には、それ以外にも1年未満の短期留学生がたくさん来ていると思うのだが、そのような留学生たちはどのように把握されているのだろう。また、留学生30万人計画の中では、そのような「短プロ」以外の短期留学の推進はどのように行われているのだろう。

 

 
一方、私立大学は、文科省の「短期外国人留学生支援制度」とはあまり関係なく、独自にいろいろな短期プログラムを工夫しているようだった。中には、自由研究を主体とし、キャンパスのない留学生受入をしているという報告もあり、ちょっと心配になった。一般的には、国公立大学も含め、地方にある大学も、それぞれ工夫して短期留学を推進しようとしているようであるし、何よりも日本に短期留学したいという希望者が増加しているようであった。奨学金がなくても来るという希望者も多いようで、むしろ宿舎の不足が問題という報告もあった。

 

 
このセミナーでは、参加者全員が発言することになっていたので、私の番がまわってきた時に、次の2点の感想を述べた。

 

 
まず、現在、日本に居る留学生11万人の留学生のうち8千人が短期留学というデータは、日本で受け入れている短期留学生の実態を正確に表していないのではないかという問題提起をした。日本で受け入れた1年未満の留学生の数を把握するのに、ある年の5月1日に、たまたま短期プログラムで来日して滞在していた人を数えても、今、グローバルに激増している青少年の国際交流の実態を把握できないように思う。しかも、3ヵ月未満の超短期留学や各種の交流プログラムを含めると、1年間に短期留学で日本にやってくる青少年の数は、8千人よりはかなり多くなるであろう。30万人計画を進めるために、好都合なトリックになってしまうかもしれないが、現在の国際社会のダイナミズムをもう少し正確に表すことができるデータを使った方がいいのではないかと思う。

 

 
そして、各大学の報告を聞いて、一番気にかかったことは、大学間協定を結んで交換留学プログラムを立ちあげても、海外から日本への留学したい希望者は増えているのに、日本からの海外留学の希望者が非常に少ないという、複数の大学からの報告だった。私が「日本全体、大学生までもが、とても内向きになっている。在学中に一度留学しなければ卒業できないというような、制度的な工夫が必要なのではないか」と、部外者の特権で勝手な発言をすると、大学の担当者の皆さんは大きく頷いて賛同してくださった。

 

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<今西淳子(いまにし・じゅんこ☆IMANISHI Junko>
学習院大学文学部卒。コロンビア大学大学院美術史考古学学科修士。1994年に家族で設立した(財)渥美国際交流奨学財団に設立時から常務理事として関わる。留学生の経済的支援だけでなく、知日派外国人研究者のネットワークの構築を目指す。2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立。また、1997年より異文化理解と平和教育のグローバル組織であるCISVの運営に加わり、現在英国法人CISV International副会長。
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