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エッセイ119:韓 京子「ジェネラルドクター:病院とCaféの結合」

ソウルにちょっとかわった病院が登場したという記事を見かけました。ソウルには教会も多いのですが、病院もとてもたくさんあります。特に整形外科や歯医者。日本では美容整形といって「整形」という漢字を使いますが、韓国では「成形」を使います。韓国では「整形」というと骨、筋肉、関節関連の分野です。「形を整える」と「ある形をつくる」、意味は随分違いますが、韓国の美容整形はもとの形をちょこっといじるだけでなく、別のものを「創り出す」ということなんでしょうか。歯医者も虫歯などの治療というより、矯正、歯の美白など美容の方に力を注いでいますが、こちらも見た目重視の韓国社会では需要が大きくなる一方かもしれません。ちなみに日本では産婦人科の不足が大問題となっていますが、ソウルは今のところまだ大丈夫そうです。

 

さて、この病院を紹介することにしましょう。取材をかねて実際に行って診察してもらいたかったのですが、最近体調が悪くなかったためコーヒーだけを飲みに行くのもどうかと思い断念しました。でも、この病院のお医者さんは病気になる前から遊びに来る感覚で来てほしいらしいです。

 

場所はソウル市内の弘益(ホンイック)大学前。この大学は美術学部が有名なせいか、学校の周りにはおしゃれなお店が多く、ちょっとしたデートスポットとなっており、わざわざ遠くからもカップルがやってきます。そんな街にできたこの病院、知らない人はコーヒーショップと思い、お茶だけして帰ることもあるそうです。

 

では、どうしてこのような病院が作られたのでしょう? それは日本と同様、韓国の病院、特に大学病院などの総合病院での「3分(いや、1分)診療」に疑問を持った奇特な若いお医者さんの発想によるものでした。最近日本でもカルテが手書きじゃない場合が多いかも知れませんが(以前東大病院にかかっていた時は先生がいっしょうけんめい手で書いていました)、韓国(大学病院)では医者ではなく看護婦が患者の症状などをパソコンに入力するのを見てびっくりしました。この大学病院の医者は担当の患者数が多いため真ん中に仕切りのある二つの部屋を行き来しながら診察をしていました。医者が他の部屋で診察をしている間、もう一つの部屋では看護婦が待機している患者の症状などをあらかじめ聞いてパソコンに入力しているという状況です。結局、医者と患者の対面時間は1分というわけです。心理的な要因による疾患の場合、もうちょっとお医者さんと相談したいものですが、追い出されるように診察室を出るしかないのです。(ちなみに韓国にはまだ心療内科がありません)

 

ジェネラルドクターはこのような非人間的な医療状況について悩んだ結果だといいます。病気になる前から病院に「遊び」に来て医者と友達になったり、お茶を飲んでちょっと休憩しに病院に行ったりすることが可能になることを望んで建てたそうです。そのため、一人あたりの診察時間が30分以上になることが当然なようで、結果、多くの患者を診ることができない分、コーヒーショップの収入に依存するということらしいです。収入に頼るというより待ち時間にコーヒーを飲みながら緊張をほぐす意味の方が大きいのかもしれません。

 

病院の診療時間は午前10時30分から夜12時までという、ソウルのコーヒーショップ並みの時間です。もちろん、日曜日もやっています(最終日曜のみ定休日)。内科と小児科が診療科目なのですが、精神科の治療や人生相談もやっているとか。まだ、1年も経ってないのですが、医療コミュニケーションに関心をもってこれからも様々な試みをするつもりだそうです。医療デザイン会社も運営していて、子ども用のキャンディー付の舌圧子なども直接デザインしたということです。大学病院も徐々に改善されていくのでしょうが、これからどんどんこのようなお医者さんが増えてほしいものです。

 

この病院の写真や韓国語の情報は下記URLよりご覧いただけます。

 

http://healthlog.kr/303?_best_tistory=trackback_bestpost

 

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<韓 京子(ハン・キョンジャ)☆ Han Kyoung ja>
韓国徳成女子大学化学科を卒業後、韓国外国語大学で修士号取得。1998年に東京大学人文社会系研究科へ留学、修士・博士号取得。日本の江戸時代の戯曲、特に近松門左衛門の浄瑠璃が専門。現在、徳成女子大学・韓国外国語大学にて非常勤講師。SGRA会員
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