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エッセイ028:範 建亭 「中国の大学教育の現場から」

いよいよ新しい年を迎える時節となった。中国では、旧正月で新年を迎える習慣であるが、企業などはやはり新暦に従うのが一般的なので、年末はいろいろと忙しくなる。大学は企業とは違って、いつも各学期の始まりと終わり頃が忙しくなる。だが、私が勤めている大学は、最近急に余計な仕事が増えている。それは授業でもなければ、論文指導でもない。主に以前行った試験と卒論指導に関する資料の整理と手入れなど事務的な仕事である。

 

きっかけは二週間前に行われた学内の大規模な「点検」であり、その目的は学部の教育レベルなどを評価することである。他の大学からきた7名の専門家で組織されている調査団は、三日間ほど大学内に駐在し、教育施設、専門科目のカリキュラム、授業の方法、論文の指導、教員の構成など、細かいところまで調べた。

 

中国の大学では、政府や上級管理部門からの検査、調査は日常茶飯事となっているが、今回の様子は違う。これは、中国教育委員会(文部省相当)が各大学の学部教育レベルを総合的に評価するものであり、5年に一回実施される。その結果は大学の経費、専門学科の増減、学生募集の規模などに大きく影響するので、どこの大学もこれを無視するわけにはいかない。正式な検査は来年の5月のことであるが、今回はそのための予備テストであった。

 

3日間しかない点検作業は、結局資料のチェック、ヒアリングが中心となり、教育システムを深く考察することができないが、それにしてもたくさんの問題が発見された。その結果を深刻に受け止めた大学の主管部門は各学部に圧力をかけ、細かい指示に従って整頓するように求めた。すぐに直せない問題も結構あるが、とりあえず年内に過去何年分の関連資料を整えるように各教員に要求した。その殆どはくだらない仕事であり、例えば、試験用紙の点数の付け方を統一された方法で修正することなどである。これについて、当然、貴重な時間が無駄に使われると不満を感じる教員が多く、また、このような「インチキくさい」ことに反対する声も高い。

 

だが、冷静に考えてみれば、中国の現在の教育体制で、このような上級管理部門による検査はやむをえない側面もあると思う。全国には四年制大学だけで700校ぐらいあり、そのほとんどが国公立である。これらの国の予算に大きく依存する大学を差別化するには、やはり納得できるような基準が必要であろう。公表される大学の教育レベルに関する評価結果は、このような基準のひとつであり、またそれが大学の重点化政策にも繋がっている。

 

中国の大学は重点大学と普通大学に分別され、前者には政府から莫大な援助資金と研究資源が集中的に投下されている。大学の重点化政策のひとつである「211工程(プロジェクト)」は、21世紀へ向けて100校程度の重点大学と重点学科をつくることを目指しているものであり、1995年から進められている。さらに、1999年に実行された「985工程」は世界一流大学の育成を目的で、重点大学からさらに重点を選ぶようなものであり、現在38校の大学が選ばれている。

 

こうした重点大学は、当然、学部教育レベルは「優」でなければならない。本学も「211工程」の大学に選ばれた大学として、5年前に「優」の評価をもらったため、今回も同じ結果をとれないことは考えられない。大学当局のこのような焦る気持ちは理解できるが、その取り組み方には改善の余地が多くあると思われる。さらに、大学の真価は教育の内容にあり、決して上級管理部門からの評価ではないことを忘れてはいけないだろう。

 

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範建亭(はん・けんてい☆Fan Jianting)
2003年一橋大学経済学研究科より博士号を取得。現在、上海財経大学国際工商管理学院助教授。 SGRA研究員。専門分野は産業経済、国際経済。2004年に「中国の産業発展と国際分業」を風行社から出版。
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