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エッセイ014:金 香海 「北朝鮮の核実験の衝撃」

前回のエッセイに、北朝鮮の羅津市に行くと書いた。しかし、ソウルから延吉市(延辺朝鮮族自治州の首府)に帰ってまもなく、10月9日に北朝鮮が地下核実験を行ったため、この計画は実行できなくなった。私の勤める延辺大学でも、延吉市内でも、北朝鮮の核実験の話でもちきりだ。それもそうだ。延吉市は今回の核実験の場所からわずか300キロしか離れておらず、中国国内の都市では一番近い距離にある。だから、北朝鮮核実験の衝撃は何処よりも大きい。

 

北朝鮮が核実験を発表してから二日後に授業に出ると、学生達が不安げな表情で「先生、北朝鮮が核実験をしましたが、放射性物質がここまで飛んで来るんじゃないですか?」と質問する。私は「今、確認中だけど、大丈夫だから安心して勉強しなさい」と学生たちを慰めた。学校当局も「内緊外松(国内に対しては宣伝教育をしっかりして学生を安心させ、対外的には平穏な姿勢をとる)」の方針を打ち出し、われわれ教師に対して、とりあえず学生を安心させるよう要求している。

 

中国の他の地域にいる友人からは「北朝鮮が中国の辺境地域を爆撃したという情報があるが本当か」という電話が掛かってきた。そして、海外から研究チームや通信社がこの小さな町に殺到し、中朝辺境地域の現状把握に忙しい。外国マスコミの報道のおかげで、辺境の町延吉は一挙に国際舞台で脚光を浴びるようになった。

 

当地の闇金融市場は北朝鮮の核実験に一番敏感に反応した。延吉市から韓国に出稼ぎにいく人が多いからだ。彼らは韓国で稼ぎ、韓国ウォンを持ち帰り、闇市場で中国の人民元に換える。しかし、北朝鮮の核実験直後に韓国ウォンが暴落したので、がっかりした人がたくさんいる。また延吉市は「西市場」という大きな日常生活品のマーケットがあるが、ここには北朝鮮の商品を販売するコナーがある。商人達の話を聞いてみると、最近は北朝鮮からの仕入れが減っているという。

 

現在、延辺自治州は北朝鮮との国境地域に5つの税関を設けており、中朝貿易全体の20%がこれらの税関を通じて行われている。先日、そのひとつである図門税関(対岸は北朝鮮の南陽)に行ってみたところ、表面はいつもと変わらない平穏さを保っているものの、国境の橋を通る車両と人の数が前より著しく減っていた。貨物検査について税関関係者に聞いたら、普通通りで特別の検査はしていないという。

 

中国の対北朝鮮政策は、2004年から大きな変化が見られた。その一つとして、従来のただの援助政策から利益志向の開発政策に重点をおいたことが挙げられる。中朝貿易は2005年には15億ドルまで膨らみ、北朝鮮にとって中国は第一の貿易相手国となっている。それと同時に、中国は北朝鮮の資源、社会インフラ及び物流への大規模な投資を行っている。2005年9月には延辺の琿春市が北朝鮮の羅津港の50年間の使用権を獲得し、この地域の総合開発に参入する計画である。延辺と北朝鮮の経済関係はますます緊密になっている真っ最中に、今回の核実験が起きたのだ。中国の対応はジレンマに陥り、政策の選択幅はますます狭くなっている。延辺の対外開放事業も曇りがちである。

 

その故、中国外交部スポークスマンは、今回の国連の対北朝鮮制裁決議の実行に対して、「中国はこの決議をしっかり実行していくものの、正常な貿易を通じての対朝鮮援助は制裁の内容に含まれていない」と発言したのである。

 

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金香海(きん・こうかい ☆ Jin Xianghai)
中国東北師範大学学部、大学院を卒業後、延辺大学政治学部専任講師に赴任、1995年来日。上智大学国際問題研究所の研究員を経て、1996年に中央大学大学院法学研究科に入学、2002年に政治学博士号を取得。現在は延辺大学人文社会学院政治学専攻助教授。2005.9-06.8ソウル大学国際問題研究所客員研究員。専攻は国際政治学。北東アジア共同体―平和手段よる紛争の転換について研究中。
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