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李鋼哲「北東アジア開発銀行、その成否のカギは朝鮮半島にあり」

少し前になりますが、李鋼哲研究員より下記のお知らせをいただきましたので、転送します。

 

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韓国のハンキョレ新聞から、大統領選の直前に、もし廬氏が大統領になったら北東アジア経済協力を積極的に進めると公言したので、開発銀行に関する特集記事を1月1日のコラムに載せるという依頼がありまして書き上げました。ハンキョレ新聞といえば、歴史は短いが韓国で最も進歩的な新聞であります。その記事は韓国語になっているので、日本語原稿を添付します。ご参考まで。

 

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한겨레 신문 기고
「北東アジア開発銀行、その成否のカギは朝鮮半島にあり」

 

北東アジア地域協力の要をなしている開発銀行設立構想は、10年前から議論されていたが、最近になっては実現に向けて動きが関連諸国で活発化している。3年前に中国天津市政府は開発銀行を同市に誘致すると宣言し、近年韓国でも大統領、及び大統領候補たちは同開発銀行構想を推進するとしている。それでは日本は乗り出すのかどうかが現段階のキーポイントとなろう。

 

同開発銀行構想について、日本国内では関心度がかなり低いのが現状である。日本は冷戦後に、北東アジア地域協力はさることながら、東アジア地域協力にも消極的であった。とりわけ、北東アジアにおいては日米同盟と日朝関係がそれぞれ大きな足かせとネックとなっている。それに日本国内の長引く不景気が、開発銀行構想のような前向き思考を停止させたと言っても過言ではないだろう。しかし、日本の地域協力への姿勢と政策はアジア通貨・金融危機をきっかけに変わっていることが注目される。「ASEAN+3」枠組み、及び日中韓3国枠組みの形成と拡大は、日本のこうした姿勢の変化なしにはあり得ない。さらに、朝鮮半島での情勢変化に日本の反応は俊敏であり、2000年6月の南北首脳会談の成功に対する日本の対応は積極的と言える。北東アジア開発銀行構想に関する本格的な調査・研究プロジェクトが東京財団により実施されたのもその現れでの一つであろう。

 

去る2002年7月29日、東京財団の北東アジア開発銀行プロジェクトチームは、小泉純一郎首相宛に「北東アジア開発銀行(NEADB)創設のための5つの政策提言」並びに『報告書』を進呈した。総理官邸で内閣官房長官福田康夫が首相に代わって提言の申し入れを受理し、研究代表の説明を受けた後、「この問題は何れ取り組まねばならない課題だ。貴重なご研究と提言に感謝する」とコメントをした。

 

同研究プロジェクトが日本のトップレベルの民間シンクタンクにより行われ、また域内外諸国や国際機関に発信されていることは、日本の対北東アジア姿勢は変わりうることを示した。ユニークなことは、同研究プロジェクトチーム構成メンバーが多国籍であること。日中韓ロなど域内4カ国並びに台湾、米国など関連国・地域の出身者、そしてアジア開発銀行、国連経験者など多国籍メンバーにより構成されされたチームは、国際的な視点から、日本の対外協力政策の焦点を北東アジアに当てる必要性と緊要性を日本政府に訴え、日本がイニシアティブを取るように働きかけたことは、日本国内では珍しいケースである。

 

同政策提言では、まず、北東アジア開発銀行の創設は同地域多国間協力のモデルとして位置づけるべきだと訴え、2006年を目途に北東アジア開発銀行の創設を推進することを提案し、その実現に向けた推進戦略とアクションプログラムを提示した。日中韓3カ国首脳会合で推進宣言を出し、日中韓協力政策の一環として位置づけ、同3カ国が中核となって共同でイニシアティブを取ることを進言している。

 

これをもって日本が北東アジア地域協力に対する姿勢を変えているとは言えないが、日本では北東アジア地域協力に関する最初の政策提言であることに注目されたい。その背景には、南北首脳会談が成功し、日本では朝鮮半島の問題が歴史的転換に向けて本格的に動き出したとの判断があったと考えられる。政府とマスコミに対する影響力が強く、政府に直接提言できる立場にある東京財団(当時は、現金融・財政大臣竹中平蔵が理事長)が一足早くこの動きに反応し、同プロジェクトを成立させた意味は大きい。

 

さらには、9月17日小泉首相平壌訪問の翌日に行った東京財団のNEADB研究プロジェクト発表会には、予想以上に政府関係者や国会議員、政府系シンクタンク、金融機関や財界などから幅広い参加者が見られた。首脳会談と「平壌共同宣言」の効果が現れたと考えられる。

 

しかし、この地域の複雑な歴史と国際関係の現状を考えると、日本が率先的に北東アジアを引っ張る可能性は少ない。戦前の「大東亜共栄圏」失敗の教訓、戦後の日米同盟が日本の足枷となっている。にもかかわらず、EUやNAFTAなどリージョナリズムの外圧は、日本にとっては近隣の中国や韓国などとの地域協力を進める推進力となる。また、日朝国交正常化に伴う日本の対北朝鮮経済支援を考えると、日本は何れ北東アジア地域協力に関心を高めるだろう。

 

一方、中国は大国を自覚した自制心から、北東アジア地域協力に関心を示しながらも慎重に対応している。国務院発展センター幹部の言葉から中国政府の姿勢を窺える。「日中は東アジア列車の二つのエンジン。日本は前頭エンジンで中国は後部エンジンだ。日本が引っ張れば中国は後ろで押す」。中国は先頭に立つことを控えている。

 

むしろ、北東アジア地域協力でイニシアティブを取れるのは韓国しかない。日中韓3カ国のなかでも韓国の立場が一番有利、日中両大国の間で調整者の役割を果たせるのだ。同時に北朝鮮が国際社会に入らなければ、北東アジア地域協力は成り立たない。そういう意味で「朝鮮半島が北東アジア開発銀行の成否の鍵を握っている」といって良いだろう