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  • QIAN Haiying “Embarking on a New Life”

    ********************************************** SGRAかわらばん983号(2023年9月21日) 【1】SGRAエッセイ:銭海英「新たな人生の船出」 【2】第19回SGRAカフェへのお誘い(再送) 「国境を超える『遠距離ケア』」(10月14日、東京+オンライン) 【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】 SGRAエッセイ#746 ◆銭海英「新たな人生の船出」 桜が舞う時期に、新たな人生へ船出する決意をした。でも、そもそも「新たな人生」とは一体何を指すのか、これまで生きてきた自分自身と一体何が違うのか、このエッセイを通じて発信したい。 2022年度の渥美国際交流財団の奨学生として、本来であれば、3月末に博士学位を取得するはずだった。同期の奨学生たちの多くが4月から新しい進路でそれぞれの道を頑張っていく。ポストドクターに進んでいく方もいるし、助教職、常任教員職を得た方もいる。しかし、私は引き続き博論の完成に向けて頑張っていくのであり、何も変わらないようにみえる。「新たな人生の船出」とはよく使われる新年度のフレーズでしかないと思われるかもしれない。 普段の私は、勉強以外では運動が好きで、常に体力をつけることを意識している。コロナ禍ではクロスバイクを買い、サイクリングを始め、今では電車を使うこともほとんどなくなった。体力をつけることを意識するようになった理由は、研究者にとって最後の踏ん張り時には体力が大事だと教わったからである。しかし、昨年2月のある日突然、アウトドア派の私にとって、予想外の病気が発覚した。 東京医科大学病院で乳がんのステージ2Bと診断された。乳腺科の主治医から「やっぱりがん(悪性)です」と腫瘍の病理診断(良性悪性を識別)を伝えられた際に、私は非常に冷静、そして理性的だった。冷静に主治医と治療方針について検討していくことができたのは、病理検査結果を待っている2週間に乳がんに関する医学知識を増やしたからだ。東京医科大学病院乳腺科の先生たちが書いた医療記事や論文を確認したのはもちろん、国立がん研究センター、北京大学腫瘍医院、アメリカがん研究センターにもアクセスして乳がんの最新治療および臨床データも確認した。確認すればするほど、乳がんに対する恐怖も次第に減少した。「恐れとは無知からくるのだ」と、改めて確認できたことは意外な収穫だったかもしれない。 とはいえ、腫瘍の病理診断を待っている間が心理的に最も辛かった。乳がんについて調べれば調べるほど、「私は、ほぼ間違いなくがんなのだ」と確信を深めるのは苦痛でしかなかった。しかし同時に「乳房の腫瘍は実は9割以上が良性だよ」という、気休めの声が自分に語りかけてくるのである。人生で最も長く感じた2週間は、「やっぱりがんです」という診断結果で終わりを告げた。悪性ではない可能性が現実に覆された時、目が醒めた。がんに直面して、これからは主治医が提案する治療方針に納得した上で取り組むほかない。そうしてこそ、患者として合格に値する。 乳がんと診断されて以降の1年間で、私は「未受精卵の凍結」、「抗がん剤治療」、「手術」、「放射線治療」といった一連の標準治療を受けてきた。その間一度も主治医に「私はあと何年ぐらい生きることができますか」と質問しなかった。なぜなら個人差があることを知っていたからだ。そのかわり、「先生、私のステージ及びサブタイプ分類から見れば、現在の臨床データから10年生存率はどのぐらいですか」と確認した。「90%ですよ」と告げられた際、嬉しかった。この90%は、あくまでも平均値で、自分は絶対にこの平均値以上だと思っている。 確かに、がんは厳密に言えば、治癒できない病気である。だから、医学では治癒に近い「寛解」を持ち出した。例えば、5年生存率、もしくは10年生存率。10年生存率とは10年しか生きられないという意味ではなく、10年以内にがんで死亡しなかったことを意味する。また、10年間で再発していないことも意味する。がんが10年たっても再発しない場合、その後再発する可能性は極めて低いということであり、ほぼ治癒に近いと理解してもいい。 がんの説明ばかりになってしまったが、知識を皆さんに伝えたかったのではない。30代前半で自分の死を意識した衝撃は本当に大きかった。「新たな人生の船出」とは、文字通り私にとってこれまでの人生とは違う人生を始めることだ。時間をより大切に使うようになり、そして、何を一番やりたいのかがより明確になった。怖がらず、侮らず、乳がんとともに生きる。これからは、さらに大望を抱いて残りの人生を積極的に生き、自分のために尽力したい。 <銭海英(せん・かいえい)QIAN_Haiying> 2022年度渥美奨学生。中国江蘇省出身。明治大学大学院教養デザイン研究科博士後期課程に在学中。近代中国政治思想史・教育思想史を専攻。現在、成城大学非常勤講師、有間学堂東洋史学専属講師。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」へのお誘い(再送) 下記の通り第19回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「国境を超える『遠距離ケア』」 日 時:2023年10月14日(土)14:00~16:00 方 法:会場(渥美財団ホール)およびオンライン(Zoomミーティング) 言 語:日本語 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA] ※参加申込:下記リンクより参加登録をお願いします。 https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEldeGvqDIoHtGhPStPxtyAE8hKB4YAyGdw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 社会がグローバル化する中で世界を移動する人々の数も急激に増加している。国連の2013年の調査によると世界人口の約3.2%が移動人口に当たると言われている。日本に目を向けると、外国人移住者数も年々増加しており、滞在の長期化も進んでいる。出入国在留管理庁のデータによると、2022年6月末の在留外国人数は296万人で、前年末に比べ20万人(7.3%)も増加したことが分かった。 こうした変化の中、在日外国人移住者もまた新たな課題に直面している。在日外国人移住者は日本での生活基盤を自ら構築することはもちろん、母国に残る家族の健康、介護問題も考えざるをえない。こういった外国人ならではのライフワークバランスはキャリアにも影響する。またコロナ禍では、日本における外国人の(再)入国制限のため自由に日本と母国の間に行き来できず、帰国したくてもできなかった事例や、家族のために日本での生活を諦めて帰国を選択した者も見られる。 今回のカフェでは ・日本における国境を超える遠距離介護の実態と背景 ・海外における事例と取組み ・課題の改善策 の3点について参加者と一緒に考え、ディスカッションを通して継続的に成長するグローバル社会に有意な示唆を得る事を目的とする。 ■プログラム 14:00 開会挨拶 14:05 ケア状況や遠距離ケア問題について紹介 14:55 質疑応答 15:10 ディスカッションの準備(グループ分けと課題の提起) 15:15 グループディスカッション 15:35 ディスカッション内容の報告 15:55 閉会挨拶 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Cafe19_Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/cage19_poster.jpg -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Invitation to the 19th SGRA Cafe “Transcending Borders ‘Long Distance Care'”

    ********************************************** SGRAかわらばん982号(2023年9月15日) 【1】第19回SGRAカフェへのお誘い 「国境を超える『遠距離ケア』」(10月14日、東京+オンライン) 【2】モロッコより―地震救援のお願い 【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」へのお誘い 下記の通り第19回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「国境を超える『遠距離ケア』」 日 時:2023年10月14日(土)14:00~16:00 方 法:会場(渥美財団ホール)およびオンライン(Zoomミーティング) 言 語:日本語 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA] ※参加申込:下記リンクより参加登録をお願いします。 https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEldeGvqDIoHtGhPStPxtyAE8hKB4YAyGdw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 社会がグローバル化する中で世界を移動する人々の数も急激に増加している。国連の2013年の調査によると世界人口の約3.2%が移動人口に当たると言われている。日本に目を向けると、外国人移住者数も年々増加しており、滞在の長期化も進んでいる。出入国在留管理庁のデータによると、2022年6月末の在留外国人数は296万人で、前年末に比べ20万人(7.3%)も増加したことが分かった。 こうした変化の中、在日外国人移住者もまた新たな課題に直面している。在日外国人移住者は日本での生活基盤を自ら構築することはもちろん、母国に残る家族の健康、介護問題も考えざるをえない。こういった外国人ならではのライフワークバランスはキャリアにも影響する。またコロナ禍では、日本における外国人の(再)入国制限のため自由に日本と母国の間に行き来できず、帰国したくてもできなかった事例や、家族のために日本での生活を諦めて帰国を選択した者も見られる。 今回のカフェでは ・日本における国境を超える遠距離介護の実態と背景 ・海外における事例と取組み ・課題の改善策 の3点について参加者と一緒に考え、ディスカッションを通して継続的に成長するグローバル社会に有意な示唆を得る事を目的とする。 ■プログラム 14:00 開会挨拶 14:05 ケア状況や遠距離ケア問題について紹介 14:55 質疑応答 15:10 ディスカッションの準備(グループ分けと課題の提起) 15:15 グループディスカッション 15:35 ディスカッション内容の報告 15:55 閉会挨拶 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Cafe19_Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/cage19_poster.jpg -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】モロッコより―地震救援のお願い SGRAの皆様、2022年度渥美奨学生のアキルと申します。 9月9日のモロッコの地震で被災された方々に心からお見舞い申し上げます。私は家族と一緒に首都ラバトにいますが、おかげさまでみんな無事です。マラケシュ地方から400kmで離れたラバトでも地震を感じましたが、被害はありませんでした。 しかし、マラケシュ地方のアル=ハウズ県では壊滅的な被害が発生しました。現在、死者数は約3千人になりましたが、被害状況は非常に悪いです。被災地域の面積は非常に広く、ベルギーの2倍です。山岳地帯の数百の村が非常にアクセスしにくく、一部の村はまだ救援を受けていません。多くの方が家や財産を失いました。特に山岳地帯の村々では、貧しい人々が多く住んでいます。彼らは冬の寒さから身を守るシェルターもなく、食料や水も不足しています。市民社会は被災者を支援するために協力しています。 被災者は私たちの助けを必要としています。そこで、多数の市民社会が被災者支援のための募金活動を始めました。この募金はモロッコ赤新月社や現地のNGOなどの信頼できる団体に寄付されます。被災者の方々に少しでも早く平穏な日々が戻ることを願っています。 もし可能でしたら、以下のリンクから募金にご協力いただけると幸いです。どんなに小さな金額でも大きな力になります。ご支援、心より感謝申し上げます。 日本赤十字 2023年モロッコ地震救援金 https://www.jrc.or.jp/contribute/help/2023morocco/ クレジット、銀行振り込みが利用可能。 GoFundMe:SOS_Village_d'Enfants_&_CARE_Maroc https://www.gofundme.com/f/soutien-aux-victimes-du-seisme-au-maroc 米クラウドファンディングのプラットフォームを通じた、アル=ハウズ県のローカルNGOへの寄付です。ApplePay、GooglePay、クレジットカードが利用可能。 Yahoo!ネット募金:ピースウィンズ・ジャパン https://donation.yahoo.co.jp/detail/925067/ 日本からの支援チーム派遣への援助。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Maria PROKHOROVA “The Way You look at Your Own Country”

    ********************************************** SGRAかわらばん980号(2023年9月7日) 【1】エッセイ:マリア・プロホロワ「母国を見る目」 【2】寄贈本紹介:オリガ・ホメンコ『キーウの遠い空:戦争の中のウクライナ人』 【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#745 ◆マリア・プロホロワ「母国を見る目」 私はロシアで生まれ育ち、大学もモスクワで卒業した。日本語教育専攻で、大学生のうちから2回日本(秋田と福岡)に留学することができたし、卒業してからは勉強の続きとして本格的に日本に住むようになった(横浜と東京)。日本での留学期間は8年以上になる。この8年で私には様々な変化が起きた。何が一番大きく変わったかというと、「母国を見る目」だと思う。 高校生や大学生の頃、自分の生まれ育った国にはそれほど興味がなかった。高校生の頃、あるいはもう少し前から日本に夢中になっていた。常に日本のドラマを見たり、日本の曲を聞いたりして、頭の中が日本で出来ているような状態だった。高校の卒業式では着物を着た(着付けは問題ありだったが…)。大学入ると日本に興味を持ち、日本語を学ぶ仲間が増えて、さらに日本に集中することになった。自分の関心を共有してくれる人たち、それをさらに伸ばしてくれる環境があるのは幸せだ。その幸せを糧にして、今も役立っているスキルを取得していったし、人生で一番温かい思い出かもしれない。でも、今思うと、とても未熟で視野が狭かったようにも感じる。 日本に来てから、ロシアのことを色々と聞かれるようになった。ロシアにも「方言があるのか」、「食文化はどうなのか」、などなど。自分がロシア人であることを初めて認識したのはその時だったのかもしれない。成人するまでロシアで暮らしていても、ロシアのことをほぼ何も知らなかったこと、ロシアは思っていたより謎が多く、言ってみれば「知りにくい」ということに気づいた。どの国にも何か不思議な特性があるが、ロシアの場合、地理的な大きさが重要である。例えばモスクワに住んでいると、6千キロ以上離れているウラジオストクのことはよく分からない。自分から行ったり調べたり、そこの人たちと交流したりしないとずっと分からないままだ。 国内からロシアのことを考えると、実際には「内」として、すなわち「自分の中のロシア」として考えているのは、ロシアのごく一部に過ぎない。自分の周りの環境と、親戚や親友の暮らす環境くらいである。外から見たロシアは、もっともっと大きくて、複雑で、面白い。ロシア語を専門とする日本の学生たちの話を聞いて彼らの質問に答えていると、私の中のロシアはモスクワ近郊などに限らない、より立体的な存在になっていった。一時帰国のとき、国内旅行や街の探索に出かけることも多くなった。母国のことは、最初から自動的に知っているのではなく、自分から知る努力をして関係を深めていくものだということに気づいた。 最近は特に、「母国」という概念が疑問視されることが多くなってきた。「母国」への感情、いわゆる「愛国心」などは非常に悪用されやすいので、私もこの言葉を聞くたびに少し警戒する。しかし、「私には母国はない」と主張する友人たちにも賛成できない。母国が複数だったり、「義母国」や「父国」と言った方が正確だったり、国というよりも地域だったりして、形がそれぞれ異なるだけだと思う。「愛国心」も、国家にとって都合の良い発想だから頻繁に取り上げられるだけで、「母国」の定義では決してない。 自分の育った家族に対して皆それぞれ異なる気持ちを抱いているように、「母国」に対する見方や考え方、感じ方は無限にある。愛せないと感じていても、その行動や性格に反感を覚えていても全く問題ない。でも、どこで生まれて、どこで育ったのか――それは大切な縁だ。自分のルーツをたどってみることで案外心が満たされることがあるし、人間関係と同じように自分と「母国」の間の関係性を認識することで、ここまでの背景を考慮した自分だけの道が見えてくる。自分とロシアの関係に目をつむった方が断然楽である今の状況でも、母国に本格的な関心を持ったこと、そして自分にとっての大切な存在として「受け入れた」ことを全く後悔していない。どこで生まれるかは選べないし、それで人を評価する意味も評価される意味もない。しかし、「母国を見る目」は自分で選べる。見ないという選択より、見るという選択をして、ピンと来る見方を模索してみようと本気で思えば、きっと何かしらかけがえのない発見に恵まれる。 日本に一途な青春を過ごした私は、今では、日本とロシアの現代文学をめぐる比較研究に取り組んでいる。また、2023年度からは東京外国語大学で教鞭をとり、日本の大学生たちにロシア語を教えている。私と同じように遠いところにばかり目を輝かせている学生がたくさんいるのではないか。彼らに伝えたいことがいっぱいある。たとえば、こう伝えたい。「遠いところへの憧れを存分にかみしめながらも、自分の住んでいる国、自分の生まれた国もよく見ておこう」。 <マリア・プロホロワ Maria_PROKHOROVA> 2022年度渥美奨学生。モスクワ市立教育大学の日本語学科を卒業した後、東京外国語大学で修士号(文学)ならびに博士号(学術)を取得し、現在は同じ東京外国語大学で特定外国語教員としてロシア語を教えている。主な研究対象は日本とロシアの現代文学における動物表象だが、ほかにも、翻訳論やロシア語圏のお笑い文化など、言語・文化に関連するテーマを幅広く扱っている。文芸翻訳家としても活躍中で、川上弘美、多和田葉子やまどみちおの作品をロシア語に翻訳した実績がある。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 昨年度1年間SGRAかわらばんで配信したオリガ・ホメンコさんのエッセイが1冊の本に纏まりました。オリガさんから「渥美財団の皆さんへの深い感謝の気持ちでいっぱいです。エッセイのおかげで本が成り立っただけではなく、書くことによって少し心も安らぎました。いろいろどうもありがとうございました」というメッセージを添えてご寄贈いただきました。 ◆オリガ・ホメンコ『キーウの遠い空:戦争の中のウクライナ人』 2022年2月24日。ロシアの侵攻が始まったあの日から私たちの生活は一変した。キーウに生まれ育ち、日本で博士号を取得したウクライナ人の著者が、戦争下で見たこと、考えたことを綴る。 発行:中央公論新社 初版刊行:2023/7/24 判型四六判 ページ数192ページ 定価1980円(10%税込) ISBNコードISBN978-4-12-005675-8 詳細は下記リンクからご覧ください。 https://www.chuko.co.jp/tanko/2023/07/005675.html -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • LI Kotetsu “Career and Calling”

    ********************************************** SGRAかわらばん980号(2023年8月3日) 【1】エッセイ:李鋼哲「キャリアと天職」 【2】第8回国史たちの対話へのお誘い(8月8~9日、東京・ハイブリッド)(最終案内) 「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#744 ◆李鋼哲「キャリアと天職」 大学のゼミに「キャリア・デザイン」という科目が設置された。その意味すら分からなかったので、担当することになった時に『大学生のためのキャリア・デザイン入門』を購入し、勉強した。「働き方、社会活動と生き方に繋がりをつけ、自分の人生の中でどう働き、どう社会活動をしていくかを考え、計画し実行するのがキャリア・デザイン」とある。職業人生に焦点を当てているので、学生たちに「将来就きたい仕事について」レポートを書かせた。以前、「人生100歳時代をどう生きるか」のテーマを出し、各自パワーポイントを作って発表させたこともある。今回も学生たちはいろいろな資料を調べて、それについて自分の考え方を発表した。 しかし、私は日本の学校教育において何か欠けているのではないか、といつも考えている。日本の小中高校教育に携わったことがないので、どのように教育を受けたのかは個人面談などを通じて推測するしかない。何が欠けているだろう?30数年間日本に住み観察しているが、日本の教育は「サラリーマン」を育てるのが主な役割のようだ。もちろん、社会が成り立つためには大勢のサラリーマンが必要であろう。それを進めているのが「キャリア・デザイン」かな、と思う。しかし、それでは物足りないのではないか。 その答えを韓国人の友人のエッセイに見つけた。昨年12月、「世界平和フォーラム」からフィリピンに招待された時、私の講演の姿をイラストに描いて私に見せてくれたので一緒に写真を撮り、その後も日本と韓国で2回お会いした方である。建設現場で日雇いの仕事をしていると聞いてびっくりした。現場で働く労働者を直に観察しながら、人間や社会の深層を探求し、イラストで表現して社会に訴えている。それ自体が素晴らしい生き方だと私は感心するばかり。 友人が送ってくれた韓国の新聞に掲載されたというエッセイを読んでひらめいた。人間の職は3種類あるという。1つ目はジョブ(Job)で、生存するための仕事。2つ目はキャリアで、会社や社会で自分の才能や技能を十分に発揮できる仕事。そして、3つ目のコーリング(Calling)が「天職」である。日本に来てから「学校の教師は職業なのか、それとも天職なのか」という議論を聞いたことがあったが、「天職」についてそれ以上のことは知らなかった。ましてや「コーリング」とは何か、辞書で調べた。「呼ぶこと、叫び、点呼、召集、天職、(神の)お召し、職業、強い衝動、欲求、性向」。 さらに、チャットGPTに「天職またはコーリングについてどう解釈しますか?」と聞くと、「天職またはコーリングは、個人が自身の生き方や仕事において本質的な目的や使命感を感じることを指します。それは単なる職業や仕事以上のものであり、個人の価値観や情熱と深く結びついています・・・」。この答えに大変満足した。中国の聖人孔子の言葉「五十にして天命を知る」に通じる。私も50歳で「天命」を知ることになったと考えている。 先週、大学の講義の前に、学生たちに「3つの職業」について話した。まず「キャリアとは何ですか」と質問を投げかけて学生の答えを聞いた後に、説明した。学生たちは目を丸くしていたので、全員の学生が初めて聞く話であることが分かった。 世間でよく言われる「日本の教育は学生に夢を抱くように教えない」、「日本の教育には哲学がない」、などの議論を考えると、学生には「職業」や「キャリア」だけではなく、「天職」についても教えるべきではないか。崇高な理想や夢をもって「Job」をこなし、「キャリア」を磨くような教育が必要ではないか? 自分の人生を振り返ると、小学生の時には「全世界に共産主義を実現し」、「世界の無産階級(プロレタリアート)の解放のために」勉強し、人生を頑張るという教育を受けていた。幼いころは、まじめにそれを受け止めていた。もちろん、今考えるとそれは「共産主義のイデオロギー教育」となって否定的に捉えることが多い。しかし、全人類の幸せのために頑張る人生観を身に着けるという意味では、今の「持続可能な開発目標(SDGs)」と通ずるところがあるのではないか。昨年、渥美財団関口グローバル研究会(SGRA)のフォーラムでも取り上げたように「誰一人残さない」というスローガンと、「良き地球市民」とは一致するのではないか?渥美財団との出会いは、私にとってはもう一つの「コーリング」に目覚めた機会だったと思っている。 その目標を、共産主義を通じて実現するのか、資本主義を通じて実現するのか、あるいは「第三の道」で実現するのかについて人々はそれぞれの考え方を持ってはいるだろうが、「誰一人残さない」というスローガンは立派なものであり、それをもって自分の人生観を育んでいたら、人類社会はどんなに素晴らしい社会になるだろう。 学校での教えで立派な夢を見て育ったが、いざ社会人になった私は、貧しい農村で如何に生存するかが重要な課題になってしまい、その貧しさから脱却するために4年間も農業労働をしながら受験し、「死ぬほど」勉強して、8億中国人民が憧れる首都北京の大学生になり、人生が180度転換した。大学では共産主義の教育を受け、率先して共産党員になり「全世界で共産主義を実現するために終生奮闘する」と党旗の前で宣誓した。 その後、北京で大学院に入り大学の先生になった。1989年の天安門広場での学生デモに参加して、政治改革を呼びかける学生を声援したが、それが武力により無慈悲に鎮圧されるのを見て、共産党や共産主義の理想に幻滅し、職を放棄し、資本主義で自由な国日本への留学を決意した。 目標や夢のないまま、そしてお金もなく裸一貫で日本に来て、10年間も「就学生」や「留学生」という在留資格を持ってアルバイトで生計を立てながら放浪していた。大学院まで卒業し大学の先生にまでなっていた私は、日本で学ぶ目標もなかった。何かのきっかけを見つけたかったかも知れないが、そんなに簡単には行かないのが現実だった。 日本語学校を経て、ビザを延期するためには日本の大学院に行かざるを得ない。大学院では国際経済学を学んだが、たまたま「図們江地域の国際開発構想」(「とまんこう」と呼ぶが、朝鮮半島では「豆満江」:どぅまんかんと呼ぶ)という研究テーマ(国連UNDPが関わる開発プロジェクトで、中国、北朝鮮とロシア参加国国境地帯を共同で開発する構想)に出会った。この地域の中国側は私の故郷であり、私はたまたま中国語と韓国語(朝鮮語)をマスターし、中国の大学院ではロシア語を独学していたので「この研究はライフワーク」と確信した。その時、天職(calling)という言葉は知らなかった。 東京の大学などでこの研究をする人はほとんどおらず、修士の指導先生からは「李君、そのようなテーマを研究しても日本では飯を食えないよ」と言われた。それでも私は諦めず、この研究に突き進んでいた。その後、素晴らしい出会いがあり、人生の転機を迎え、東京財団で「東北アジア開発銀行設立構想」について研究する研究プロジェクトの一員になり、当時の小泉純一郎首相へ政策提言した。「キャリア」としての人生が始まった。内閣府の国策シンクタンク総合研究開発機構(NIRA)の研究員にもなり、「東北アジアの未来を構想する」様々なプロジェクトに携わった。そして、大学の教員として「東北アジア経済」などを教えることになる。 3年前に一般社団法人・東北アジア未来構想研究所(INAF)を有志たちと設立し、将来はシンクタンクとして、この地域に平和と繁栄が実現することを目指して、生涯をかけて頑張ろうと決意している。結局、この研究と活動が私の「天職」なのかもしれない。 <李鋼哲(り・こうてつ)LI Kotetsu> 1985年北京の中央民族大学業後、大学院を経て北京の大学で教鞭を執る。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団、名古屋大学国際経済動態研究所、内閣府傘下総合研究開発機構(NIRA)を経て、06年11月より北陸大学で教鞭を執る。2020年10月1日に一般社団法人・東北亜未来構想研究所(INAF)を有志たちと共に創設し所長を務め、日中韓+朝露蒙など多言語能力を生かして、東北アジア地域に関する研究・交流活動に情熱を燃やしている。SGRA研究員および「構想アジア」チームの代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』、その他書籍・論文や新聞コラム・エッセイ多数。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(最終案内) 下記の通り第8回国史たちの対話を会場参加とオンライン参加のハイブリッド方式で開催します。参加ご希望の方は必ず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 日 時:2023年8月8日(火)9:00~17:50、9日(水)9:00~12:50(日本時間) 会 場:早稲田大学14号館8階及びオンライン(Zoomウェビナー) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会 共 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共 催:早稲田大学先端社会科学研究所・東アジア国際関係研究所 助 成:高橋産業経済研究財団 ※参加申込(参加費:無料) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Mc7ctZdQTRG2eCGPU7PFbA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 2016年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。 戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。 歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第8回の国史対話は、今までの対話をさらに深めることが期待される。 ◆プログラム 8月8日(火) 【第1セッション 司会:村和明】 ・開会挨拶:劉傑(早稲田大学) ・趣旨説明:三谷博(東京大学名誉教授) 【第2セッション サブテーマ:教育 司会:南基正】 ・金泰雄(ソウル大学)「解放後における韓国人知識人層の脱植民地への議論と歴史叙述の構成の変化」 ・唐小兵(華東師範大学)「歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理―20世紀半ばの中国に関する『歴史の戦い』」 ・塩出浩之(京都大学)「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか―教科書と教育現場から考える??」 【第3セッション サブテーマ:メディア 司会:李恩民】 ・江沛(南開大学)「保身、愛国と屈服:ある偽満州国の『協力者』の心理状態に対する考察」 ・福間良明(立命館大学)「戦後日本のメディア文化と『戦争の語り』の変容」 ・李基勳(延世大学)「現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響-映画、ドラマを中心に」 【第4セッションン サブテーマ:研究 司会:宋志勇】 ・安岡健一(大阪大学)「『わたし』の歴史、『わたしたち』の歴史―色川大吉の『自分史』論を手がかりに」 ・梁知恵(東北亜歴史財団)「『発展』を越える、新しい歴史叙述の可能性:韓国における植民地期経済史研究の行方」 ・陳紅民(浙江大学)「民国期の中国人は『日本軍閥』という概念をどのように認識したか」 ・論点整理:劉傑(早稲田大学) 8月9日(水) 【第5、6セッション:全体討議(指定討論)司会:彭浩、鄭淳一】 ・議論を始めるに当たって:三谷博(東京大学名誉教授) ・全体討議:指定討論者(アルファベット順) 平山昇(神奈川大学、日本)、金ホ(ソウル大学、韓国)、金憲柱(国立ハンバット大学、韓国)、史博公(中国伝媒大学、中国)、吉井文美(国立歴史民俗博物館、日本)、袁慶豊(中国伝媒大学、中国)、張暁剛(長春師範大学、中国) ・閉会挨拶:趙珖(高麗大学名誉教授) ※詳細は下記リンクをご覧ください。 日本語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2023/18402/ 中国語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2023/06/15/kokushi8/ 韓国語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2023/06/15/kokushi8/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • YEH Wenchang “About Sake and Shaoxingjiu”

    ********************************************** SGRAかわらばん979号(2023年7月27日) 【1】エッセイ:葉文昌「日本酒と紹興酒について」 【2】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) 【3】第8回国史たちの対話へのお誘い(8月8~9日、東京・ハイブリッド)(再送) 「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#743 ◆葉文昌「日本酒と紹興酒について」 2018年ごろだろうか、渥美財団関口グローバル研究会からこれまで台湾でやっていた日台フォーラムを島根でやってくれないかという打診が来た。自分の分野ならフォーラムをやっても良いかと思ったが、文系メンバーが圧倒的に多い関口グローバル研究会(SGRA)である。「文系にも分かるテーマで」という難題を突き付けられた。「文理融合」「文理相互理解」の印籠だ。でも思うのだが、理系人間は教養という名のもとに文系の言葉を理解することが求められるのに対して、多くの文系人間は理系の言葉を理解しようとしないし、しなくても許されているのはおかしくないか? 愚痴っても仕方がないので、どういうテーマなら私も参加者も楽しめるかを考えた。キーワードは「島根」と「台湾」、そしてSGRAからの注文として「文理融合」、さらに私も楽しめるテーマということで「ものづくり」とした。古代からのものづくりで島根県が誇るものとして「たたら製鉄」と「日本酒」がある。着任早々に地元のものづくりに敬意を表して司馬遼太郎の「砂鉄の道」を読んだことがあった。「日本酒」も親身に理解しようとしていた。この中で「酒」ならそれだけで文理融合できそうというわけで「酒」にした。では「台湾」の要素はどうするか?実は日本酒の近年の風潮に古酒がある。本来は鮮度が特徴の日本酒を数年間熟成させるのである。飲んでみたら紹興酒に似た要素があった。紹興酒を調べたら、紹興酒ももち米を主原料としていることがわかった。これでテーマを「日本酒と台湾紹興酒」とした。 かつて中国の文豪である李白や杜甫も、酒によって知的創造が盛んになったらしい。そして松江も江戸時代から漢詩創作が盛んだった。酒を多次元に捉えるため、さらに皆様の知的創造が盛んになることも願って、江戸時代から明治時代にかけての松江での漢詩創作についてお話できる講師もお招きした。 酒の成分はアルコールである。アルコールを作り出すには糖分を酵母で発酵させる必要がある。ワインの場合は、葡萄の糖分が酵母によってアルコールに変換される。一方で米は澱粉であって糖分は含まないので、酵母でアルコールを作り出すことはできない。そこで澱粉を糖分に変える方法が必要になる。唾液の酵素で糖化するのが昔から世界各地にあった口噛み酒である。もう一つの方法として麹菌で糖化する方式である。この方式が今の日本酒や紹興酒で使われている。澱粉と麹と酵母を混ぜて、糖化と発酵を平行に進行させるので、平行複発酵という。なぜ「複発酵」なのか?糖化も微生物の力を借りているので広義の発酵だからであろう。要するに日本酒も紹興酒も、米を平行複発酵で酒にしているのである。 日本酒の酒蔵はいくつか見学したことがあった。酒蔵のかなめは麹室である。それは檜部屋だった。なぜステンレスではなく木造なのか?木に生える常在菌をうまく生かして麹を作るそうだ。台湾の滷肉飯や日本の鰻屋の秘伝のたれと同じ思想だ。100年間洗ったことがない鍋。私は30歳までに「百年洗わない鍋はすごい、きっと美味しい」から目覚めた。一流のシェフが、神のサイコロに味をゆだねて良いはずがない。最先端の半導体工場でも、神が宿っているからと成膜室を洗わずに使い続けて良い半導体が作れるものか。これを酒飲みに披露すると大抵非難される。私は檜部屋や秘伝のたれを批判している訳ではない。伝統は大事だし、それで美味しいものを採算合って作れていれば変える必要はない。でもものづくりなら、神のサイコロにゆだねずに、1+2=3という風に、この菌とこの菌を混ぜてこう作ればこういう味になる、と神に頼らないで作ることを目指すのがロマンだろう。実は日本酒も、何人かの伝説的な先人によって、江戸時代の「きもと」から明治時代の「速醸」へ、それと戦後から泡なし酵母など幾度の革新があり、まさに合理化効率化の道を辿っていたのである。 一方で紹興酒はどうだろうか?フォーラム準備にあたって、台湾紹興酒を作っている台湾煙酒公司(元台湾煙酒公売局)の埔里酒廠で打ち合わせと見学をしてきた。日本酒の工程と非常に似ていた。同じ平行複発酵だから無理もない。しかし現代工場の麹室も檜部屋だったのは意外だった。「きもと」「酒母」「もろみ」、使う言葉は違うかもしれないが、説明すれば通じるものは多くあった。では日本酒と紹興酒の違いは何か?そして台湾紹興酒と中国紹興酒の違いは何か?特に台湾紹興酒は日本統治時代の日本酒を作っていた酒蔵を、戦後に中国から渡ってきた紹興酒職人によって紹興酒酒蔵に転換されたが、中国紹興酒との違いは何か?ここでは種明かしはせず、ぜひ会場に足を運んでいただき、味の違いを五感で感じながら、講師のお話を聞いて解き明かしていただきたい。 <葉文昌(よう・ぶんしょう)YEH_Wenchang> SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、2008年同副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科物理工学科准教授、2022年より教授。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(再送) 下記の通り第8回国史たちの対話を会場参加とオンライン参加のハイブリッド方式で開催します。参加ご希望の方は必ず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 日 時:2023年8月8日(火)9:00~17:50、9日(水)9:00~12:50(日本時間) 会 場:早稲田大学14号館8階及びオンライン(Zoomウェビナー) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会 共 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共 催:早稲田大学先端社会科学研究所・東アジア国際関係研究所 助 成:高橋産業経済研究財団 ※参加申込(参加費:無料) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Mc7ctZdQTRG2eCGPU7PFbA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 2016年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。 戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。 歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第8回の国史対話は、今までの対話をさらに深めることが期待される。 ◆プログラム 8月8日(火) 【第1セッション 司会:村和明】 ・開会挨拶:劉傑(早稲田大学) ・趣旨説明:三谷博(東京大学名誉教授) 【第2セッション サブテーマ:教育 司会:南基正】 ・金泰雄(ソウル大学)「解放後における韓国人知識人層の脱植民地への議論と歴史叙述の構成の変化」 ・唐小兵(華東師範大学)「歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理―20世紀半ばの中国に関する『歴史の戦い』」 ・塩出浩之(京都大学)「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか―教科書と教育現場から考える??」 【第3セッション サブテーマ:メディア 司会:李恩民】 ・江沛(南開大学)「保身、愛国と屈服:ある偽満州国の『協力者』の心理状態に対する考察」 ・福間良明(立命館大学)「戦後日本のメディア文化と『戦争の語り』の変容」 ・李基勳(延世大学)「現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響-映画、ドラマを中心に」 【第4セッションン サブテーマ:研究 司会:宋志勇】 ・安岡健一(大阪大学)「『わたし』の歴史、『わたしたち』の歴史―色川大吉の『自分史』論を手がかりに」 ・梁知恵(東北亜歴史財団)「『発展』を越える、新しい歴史叙述の可能性:韓国における植民地期経済史研究の行方」 ・陳紅民(浙江大学)「民国期の中国人は『日本軍閥』という概念をどのように認識したか」 ・論点整理:劉傑(早稲田大学) 8月9日(水) 【第5、6セッション:全体討議(指定討論)司会:彭浩、鄭淳一】 ・議論を始めるに当たって:三谷博(東京大学名誉教授) ・全体討議:指定討論者(アルファベット順) 平山昇(神奈川大学、日本)、金ホ(ソウル大学、韓国)、金憲柱(国立ハンバット大学、韓国)、史博公(中国伝媒大学、中国)、吉井文美(国立歴史民俗博物館、日本)、袁慶豊(中国伝媒大学、中国)、張暁剛(長春師範大学、中国) ・閉会挨拶:趙珖(高麗大学名誉教授) ※詳細は下記リンクをご覧ください。 日本語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2023/18402/ 中国語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2023/06/15/kokushi8/ 韓国語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2023/06/15/kokushi8/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Naheya “The 71st SGRA Forum Report: A special Space called GREEN UKRAINE”

    ********************************************** SGRAかわらばん978号(2023年7月20日) 【1】娜荷芽「第71回SGRAフォーラム報告」 「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」 【2】第8回国史たちの対話へのお誘い(8月8~9日、東京・ハイブリッド)(再送) 「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】第71回SGRAフォーラム報告 ◆娜荷芽「第71回SGRAフォーラム報告:20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」 2023年6月10日(土)日本時間午後2時より第71回SGRAフォーラム「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」が開催された。コロナ禍以降初めて、登壇者全員が会場の渥美財団ホールに対面で参加。また、長野大学の塚瀬進先生以外、全員が元渥美奨学生という特筆すべきプログラムとなった。 開催にあたり司会のマグダレナ・コウオジェイ先生(東洋英和女学院大学)より、様々な民族や文化を内包して20世紀前半の北東アジアに出現した「緑のウクライナ」と呼ばれた特別な空間をテーマに取り上げた趣旨説明があった。その後、講演と話題提供が行われた。 最初はオリガ・ホメンコ先生(オックスフォード大学日産研究所)の講演「『緑のウクライナ』という特別な空間」。ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約により極東の大きな領土を手に入れ、1861年の農奴解放令発布後、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの「過剰」人口問題に対する方策として「極東に家族ごと移住すれば、巨大な農地がもらえる」と宣伝した。その結果、1870年からロシア革命までの間に大勢のウクライナ人が土地と自由な生活を求めて移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1920年代になるとソ連から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み、1945年まで留まっていた。講演ではウクライナ人がコミュニティを築き、協力しあって多様な活動を展開していた歴史を紹介した。 次は塚瀬進先生(長野大学)による「マンチュリアにおける民族の交錯」。「マンチュリア」はどのように形成され、変容したのか。そこに暮らした人々はどのように近代を迎え、現在に至ったのかを各時代の地図を用いて15世紀~17世紀半ばを萌芽期、17世紀~19世紀半ばを形成期、19世紀半ば以降を変容期と捉え、1949年の中華人民共和国建国までの歴史を考察し、国史と地域史の両方のまなざしによる歴史理解を追究した。 続いて娜荷芽(内蒙古大学)が「中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に」を報告した。20世紀前半の瀋陽に創設された東北蒙旗師範学校を事例に、中華民国成立後の1912~1930年代の軍閥混戦期に、内モンゴルの有識者たちが各地方政権と取引を行わざるを得なかったこと、モンゴル人を主体とする文化及び教育団体は相互に連携し活発な活動を行なっていたこと、さらに漢語の著作や雑誌を通して漢族の有識者たちに自分の立場を訴えていたことなどについて考察した。 最後のグロリア・ヤンユー先生(九州大学)の報告「『マンチュリア』に行こう!」は視覚資料、小説、紀行文などを用いて20世紀前半の「マンチュリア」の生活空間の多様性を描き出し、この多様性に富む「越境する現場」空間の視覚表象は、日本帝国の拡張によって取捨され、単一化されつつあったことを説明した。講演と話題提供の90分間はあっという間に終わった。 自由討論は司会者が進行役となり、発表者4名が相互にコメントしあったり、会場からの質問に答えたりする形で進行した。会場の劉傑先生(早稲田大学)からの近代空間及び鉄道についての問題提起は、特に深く考えさせられた。松島芳彦様(共同通信社)、松谷基和先生(東北学院大学)、大野正美様(ネムロニュース)からも発表者へのコメントや質問があり活発な議論が展開した。総括で語られた塚瀬先生の「こうした議論の方向性は地域の歴史的要因の認識につながる」という話は興味深かった。会場とオンラインで参加してくださった皆様にもあらためて感謝を申し上げたい。 私にとってはコロナ後4年ぶりの日本で、雨中の東京を楽しんだ。十数年前の留学時代にお世話になった東京大学教務課国際交流支援チームの坪山様にもお会いでき、週末で賑わう人々の明るい笑顔に元気づけられた。世界中の人々が平和の中で安心して暮らしていけますように! 当日の写真 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/07/SGRAForum71PhotosLITE.pdf アンケート集計 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/07/SGRAForum71Feedback.pdf <娜荷芽 ナヒヤ Naheya> 2012年東京大学大学院地域文化研究科にて博士号取得。2011年度渥美奨学生。中国内蒙古大学蒙古学学院歴史系教授、研究分野は中国近現代史、近現代モンゴル史、日中関係史。著書『二十世紀三四十年代内蒙古東部地区文教発展史』内蒙古人民出版社、2018年。訳著『民俗学上所見之蒙古』(鳥居きみこ著)きなん大学出版社、2018年など。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性へのお誘い(再送) 下記の通り第8回国史たちの対話を会場参加とオンライン参加のハイブリッド方式で開催します。参加ご希望の方は必ず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 日 時:2023年8月8日(火)9:00~17:50、9日(水)9:00~12:50(日本時間) 会 場:早稲田大学14号館8階及びオンライン(Zoomウェビナー) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会 共 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共 催:早稲田大学先端社会科学研究所・東アジア国際関係研究所 助 成:高橋産業経済研究財団 ※参加申込(参加費:無料) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Mc7ctZdQTRG2eCGPU7PFbA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 2016年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。 戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。 歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第8回の国史対話は、今までの対話をさらに深めることが期待される。 ◆プログラム 8月8日(火) 【第1セッション 司会:村和明】 ・開会挨拶:劉傑(早稲田大学) ・趣旨説明:三谷博(東京大学名誉教授) 【第2セッション サブテーマ:教育 司会:南基正】 ・金泰雄(ソウル大学)「解放後における韓国人知識人層の脱植民地への議論と歴史叙述の構成の変化」 ・唐小兵(華東師範大学)「歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理―20世紀半ばの中国に関する『歴史の戦い』」 ・塩出浩之(京都大学)「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか―教科書と教育現場から考える??」 【第3セッション サブテーマ:メディア 司会:李恩民】 ・江沛(南開大学)「保身、愛国と屈服:ある偽満州国の『協力者』の心理状態に対する考察」 ・福間良明(立命館大学)「戦後日本のメディア文化と『戦争の語り』の変容」 ・李基勳(延世大学)「現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響-映画、ドラマを中心に」 【第4セッションン サブテーマ:研究 司会:宋志勇】 ・安岡健一(大阪大学)「『わたし』の歴史、『わたしたち』の歴史―色川大吉の『自分史』論を手がかりに」 ・梁知恵(東北亜歴史財団)「『発展』を越える、新しい歴史叙述の可能性:韓国における植民地期経済史研究の行方」 ・陳紅民(浙江大学)「民国期の中国人は『日本軍閥』という概念をどのように認識したか」 ・論点整理:劉傑(早稲田大学) 8月9日(水) 【第5、6セッション:全体討議(指定討論)司会:彭浩、鄭淳一】 ・議論を始めるに当たって:三谷博(東京大学名誉教授) ・全体討議:指定討論者(アルファベット順) 平山昇(神奈川大学、日本)、金ホ(ソウル大学、韓国)、金憲柱(国立ハンバット大学、韓国)、史博公(中国伝媒大学、中国)、吉井文美(国立歴史民俗博物館、日本)、袁慶豊(中国伝媒大学、中国)、張暁剛(長春師範大学、中国) ・閉会挨拶:趙珖(高麗大学名誉教授) ※詳細は下記リンクをご覧ください。 日本語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2023/18402/ 中国語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2023/06/15/kokushi8/ 韓国語ホームページ https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2023/06/15/kokushi8/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Invitation to the 8th Forum for the Kokushi Dialogue

    ********************************************** SGRAかわらばん977号(2023年7月13日) 【1】第8回国史たちの対話へのお誘い(8月8~9日、東京・オンライン) 「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか ――教育・メディア・研究」 【2】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性 下記の通り第8回国史たちの対話を会場とオンラインのハイブリッド方式で開催します。参加ご希望の方は必ず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか――教育・メディア・研究」 日 時:2023年8月8日(火)9:00~17:50、9日(水)9:00~12:50(日本時間) 会 場:早稲田大学14号館8階及びオンライン(Zoomウェビナー) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き 主 催:日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会 共 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共 催:早稲田大学先端社会科学研究所・東アジア国際関係研究所 助 成:高橋産業経済研究財団 ※参加申込(参加費:無料) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_Mc7ctZdQTRG2eCGPU7PFbA#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◇開催趣旨 2016年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。 東アジア歴史問題の起因は、20世紀の戦争と植民地支配をめぐる認識の違いと指摘されることが多い。しかし、公表された日韓、日中の歴史共同研究の報告書が示しているように、個別の歴史事実の解釈をめぐる違いはあるものの、20世紀東アジア歴史の大筋についての認識には大きな齟齬が存在ない。それでも東アジアの国際関係がしばしば歴史問題で紛糾している理由の一つに、相手の「歴史認識」への認識が不十分ということを挙げることができる。 戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。 20世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識は、国家の歴史観、家庭教育、学校教育、歴史家の研究と発信、メディア、文化・芸術などが複雑に作用し合いながら形成されたものである。歴史家の研究は国家の歴史観との緊張関係を保ちながらも、学校教育に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。今回の対話のテーマの一つは、歴史家が戦後どのように歴史を研究してきたのか、である。戦後東アジア各国では激しい政治変動が発生し、歴史家の歴史研究と歴史認識も激しく揺れ動いた。歴史家の研究と発信の軌跡を跡づけることは、各国の歴史認識の形成過程を確認する有効な手段であろう。 映画・テレビなどのメディアも国民の歴史認識の形成に重要な役割を担っている。戦後、各国は各自の歴史観に立って、戦争と植民地に関係する作品を多数創作した。このような作品が国民の歴史認識に与えた影響は無視できない。また、メディア交流が展開されるなかで、多数の映画やテレビドラマが共同で制作された。国民同士はこれらの作品を鑑賞することで、間接的に歴史対話を行ってきた。各国の文化、社会環境が歴史認識にどう影響したのか。確認したい問題の一つである。 歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第8回の国史対話は、今までの対話をさらに深めることが期待される。 会議概要、ポスター、中国語と韓国語のホームページ等は、下記リンクからご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2023/18402/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆フォーラムの趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」 江銘峻(台湾エン酒株式会社) 全体質疑応答 ※プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10Program.pdf ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Invitation to the 10th Nittai Asia Future Forum in Shimane

    ********************************************** SGRAかわらばん976号(2023年7月6日) 【1】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) 【2】催事紹介:第16回INAF研究会(6月27日、オンライン) 「近現代における中国トップ・リーダーの対日観と対日政策」 ********************************************** 【1】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478―18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆フォーラムの趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」 江銘峻(台湾エン酒株式会社) 全体質疑応答 ◆懇親会:会議室でケータリング、日本酒と紹興酒の試飲 参加費3000円(フォーラム受付時にお支払いいただきます) ◆発表要旨と講師略歴 【講演1】「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授) 要旨:江戸時代から、山陰特に松江は漢詩創作が盛んな土地であった。また、米も水もよいので、日本酒もおいしく、酒に強い人が多いところである。かくして、明治時代より、遠来の人士を招いて詩と酒を楽しむ詩会がしばしば催された。その様子が詳しく記された資料があるので紹介したい。松江出身で、二度首相になった若槻礼次郎も、激務の合間に酒と漢詩を楽しむ文人政治家であった。詩会などを通じて、故郷の人との交流を楽しんだ。単に楽しみと言うだけでなく地方における政治活動・選挙活動につなげていくという面もあった。彼の詩も多数残っており、飲酒・宴会の楽しみを詠った作品とその背景について、考察する。 略歴:京都大学文学部文学科卒業。京都大学文学研究科文学修士。1990年より島根大学勤務、現在は島根大学人文社会科学系教授。専門分野は日本中国学、中国文学。 【講演2】「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター) 要旨:まず日本酒の製造方法について、次に島根県の日本酒造りの環境条件(気候、水、米)と酒質の特性を説明する。水は、日本酒の成分で約80%を占めることから原料として、また洗米などの原料処理や機器の洗浄など製造工程でも重要な要素である。古来、適度な成分を含む灘の宮水のように、銘醸地には名水が存在する。島根県の酒造りを行う会社では複数の井水(地下水)や水道水、他の地区の湧水などさまざまな水を利用している場合が多いが、「軟水」が多く、宮水のような「軽度の硬水」はまれである。島根県の酒造りの特徴は、昔から原料である「酒米」の使用が多いことが挙げられる。「酒米」は「さばけ(蒸米の状態がベトベト引っ付かず、バラバラになること)」が良いので麹作りに適していて、消化性も良いので資化率が高く、酒質は濃醇傾向となる。ここでは、島根県における酒米の品種や使用量の変遷など、歴史的な経緯について述べる。最後に島根の日本酒の酒質の特徴と時代の変化を述べ、食事、特に魚食との関係について触れる。酒質は全国平均と比較して、昭和には濃醇傾向だったのが、最近は淡麗になっている。また食事(魚食)はブリ、アジ、サバの消費が多く、郷土料理である大田の「へかやき」など、基本的に醤油味が多い傾向がある。今後、島根県の郷土料理・産物と日本酒のおいしさが世界に発信されることが期待される。 略歴:広島大学食品工業化学科卒業、鳥取大学大学院農学博士。1982年より島根県産業技術センター勤務。専門分野は酒造技術、食品加工技術。 【講演3】「台湾紹興酒のお話」 江銘峻 (台湾エン酒株式会社) 要旨:本講演では、まず台湾紹興酒の起承転結について、台湾紹興酒の生産起源、転換、そして現在について紹介します。続いて台湾紹興酒の特徴について、醸造方法から台湾の紹興酒、中国大陸の紹興酒、日本酒の同じ所と違う所を説明します。最後に台湾紹興酒の飲食文化について、その栄養価値、台湾での飲み方、食事での使い方について紹介します。 略歴:国立成功大学化学工程系卒業。2009年より台湾エン酒株式会社埔里酒廠勤務、埔里酒廠製造課課長。埔里紹興酒生産工場で十年以上の経験を有し、紹興酒の生産と品質管理と紹興酒再生産立上げで生産試験プロセスに携わる。台湾エン酒株式会社埔里酒廠在職中は内部教育研修講師として、社員への清酒と紹興酒の醸造プロセスを教える。 ※プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10Program.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介: SGRA会員で(一社)東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接お申込みください。 ◆第16回INAF研究会のご案内 テーマ:「近現代における中国トップ・リーダーの対日観と対日政策」 趣旨:INAF研究所が2023年4月に立ち上げた「日中関係の150年:中国のトップ・リーダーの対日認識から見る」研究プロジェクトに関連する中国研究専門家による最近の研究成果報告を順次に行います。中国問題または日中関係に関心のある方は奮ってご参加ください。よろしくお願いします。 日時:2023年7月27日(木)19:00~21:00 方法:オンライン(Zoom) 発表者 1.白春岩(INAF理事/早稲田大学商学学術院講師) テーマ:近代日中関係史の幕開け―「日清修好条規」と李鴻章 2.兪敏浩(INAF理事/名古屋商科大学国際学部教授) テーマ:毛沢東の対日認識と日中関係(仮) 司会:陳柏宇(INAF理事/新潟県立大学国際学部准教授) INAFメンバーではない方で参加ご希望の方は、3日前までにお名前、ご所属、連絡先メールアドレスを下記に送ってください。 参加申込:[email protected] 又は [email protected] ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • XIE Zhihai “How to keep up with Chat GPT”

    ********************************************** SGRAかわらばん975号(2023年6月29日) 【1】エッセイ:謝志海「チャットGPTと付き合うには」 【2】催事紹介:「人新世統合学」研究会(7月5日、オンライン) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#742 ◆謝志海「チャットGPTと付き合うには」 日本では今年になってからだろうか、チャットGPT(生成AI)の存在(話題)である。実体が何だか分かったようで分からない間に、開発された当の米国では、地方自治体が学校での利用規制を定めたという。同時に「チャットGPTを上手に活用する方法」といった授業を用意し、積極的な活用を促す教員もいるらしい。チャットGPTの存在はアカデミックな世界では脅威とも言える。スマートフォンの新機能や最新家電に弱い私も、チャットGPTについては学生に使い方を教えてもらう場合ではない。むしろ先回りして授業、課題、テスト対策を考え直さなければならない。もちろんチャットGPTの存在はアカデミック界だけでなく「全ホワイトカラーに衝撃!」(「週刊東洋経済」の見出し)とも言われている。専門的なテクノロジー業界やAI研究者のものではなく、誰でもアクセスでき、使えるAIだ。チャットGPTよってAIがより身近になった2023年、「もう後戻りは出来ないんだよ」とチャットGPTに宣言されたかのようだ。 脅威だ衝撃だと怖がってばかりでは始まらないので、早速アカウントを作ってみた。Eメールアドレスと名前、生年月日の登録に加え、携帯電話番号を入力し、その携帯に送られる認証コードを入力する。携帯電話を持っている人にしか作れないということになる。難しいことは特になく、あっさり開設でき、すぐに使える状態となった。ここから以下のエッセイをチャットGPTに仕上げてもらえたらかなりの時短になるだろう。そういう訳にもいかないので、早速質問を打ち込んでみた。「大学生に向けて、チャットGPTを使うにあたり注意すべき点を教えてあげたい」。すると20秒足らずでものの見事に回答してくれた。 ----------------------- 大学生がチャットGPTを使用する際には、以下の点に注意してください。 ソースの確認: チャットGPTは2021年までの情報しか持っていないため、最新の情報を正確に提供できない可能性があります。重要な情報については、信頼性のあるソースで確認することをおすすめします。 個人情報の保護: チャットGPTは機密情報を保護するためのツールではありません。個人情報やプライベートな情報を共有しないようにしましょう。 バイアスの認識: チャットGPTはトレーニングデータから学習しており、バイアスの影響を受ける可能性があります。情報を判断する際には、客観的な視点を保ち、独自のリサーチも行うことが重要です。 時間管理: チャットGPTは非常に便利なツールですが、時間を適切に管理することも重要です。過度に依存せず、自分自身で問題を解決する能力を養いましょう。 クリティカルシンキング: チャットGPTの提供する回答はあくまで機械が生成したものであり、必ずしも正しいとは限りません。疑問を持ち、情報を疑ってかかるクリティカルシンキングを心がけましょう。 以上が、チャットGPTを使用する際に大学生が注意すべき点です。これらのポイントを頭に入れながら、ツールを上手に活用してください。 ----------------------- なんとも滑らかできれいな日本語に驚かされた。まるで人(もちろん日本人)が一生懸命に考え、まとめた文章にしか見えない。これまで出会った、どこかぎこちないAIの受け応えとはまるで違う。また、分かりやすく箇条書きにしてあることにも驚いた。私は「箇条書きで」とは指示していない。最も驚いたのは5番目にある、注意点というよりはアドバイスで「クリティカルシンキングを心がけましょう」。我々教員が常に授業中に言っていることだ。なんだか教員の手法を見抜かれたかのような気すらして、怖いぐらいだ。 チャットGPTへのたった一つの質問で私は大きなパンチを受けた。米半導体大手、エヌビディアの最高経営責任者(CEO)、ジェンスン・ファン氏が今年3月、開発会議での基調講演で、生成AIは「AIにとっての『iPhoneモーメント』が始まった」と発言したニュースを、ちょっと大げさだなと聞き流していた自分が恥ずかしい。でも今なら分かる。スマートフォンと同じで、使い過ぎるのも怖い、だからと言って全く使わないのはもっと怖いのがチャットGPTをはじめとする生成AIなのだろう。 5月にチャットGPTの開発元「オープンAI」のCEOが米連邦議会の公聴会で、AIを規制するように訴えた。これはどれだけ重い意味があるだろう。危険性と短所を一番認識している人がそう言うのだから米政府はすでに生成AI開発会社の代表者たちと対話を重ね、AI利用に関する具体的な指針の策定段階に入っている。実際のところ、チャットGPTの技術を取り入れた検索エンジン、ビング(bing)を提供しているマイクロソフト社の幹部も「AIを安全に人々に提供するための政府や規制当局の役割を歓迎する」としている。政府も開発側の企業も注意深く前進しようとしているようだ。日本はどう対応していくのだろう。4月に発行された週刊東洋経済の「チャットGPT仕事術革命」特集では「警戒する日本企業」として大手各社のチャットGPTの利用方針についてまとめている。パナソニックをはじめ、いくつかの企業は「社内規定を定めた上で利用可」という。日本の良い所はこのように「社内規定」を作って従業員がそれを遵守することだ。 大学はどうだろう。私の勤務先は文科省のガイドラインを待っていた。しかし、教育の現場ではもはや待てない状態になり、急遽、生成系AIに関する方針を検討し始めた。「早稲田大学」、「チャットGPT」をグーグルで検索してみると、大学ホームページの「生成AIなどの利用について」というページがヒットする。4月18日付の学生・教職員へ向けたメッセージだ。そこにはチャットGPTの使用を認めるか否かだけを明記したのではなく、生成AIの強み、弱み、活用の仕方、やってはいけない使い方を分かりやすく伝えている。 企業、学校が定めた規定を個人がどの程度守りながら誰でもアクセスできる生成AIを活用出来るかはまだ分からない。twitterやLINEが世に出た時も、まずはみんな飛びつき、その後使い方によって問題があらわになった。チャットGPTの場合は開発会社の代表自らが規制を求める仕組み作りを公の場で訴えている。そのぐらい「社会と人類に深刻なリスク」をもたらす可能性があるということだ。 実際に使ってみて思うことは、人間のように上手に言葉を操るチャットGPTよりも自分は賢くならないといけない、ということ。チャットGPTに頼り過ぎるのはもちろん、支配されてはならないと強く思う。あくまでも今のところではあるが、チャットGPTより賢いユーザーの在り方は前出の週刊東洋経済の表紙に記してある。「正しく恐れて、知ろう、使おう」。生成AIの開発はこの瞬間も世界のどこかで、いや世界中で行われているのだから。 <謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai> 共愛学園前橋国際大学教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師、准教授を経て、2023年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介: SGRA会員で埼玉大学名誉教授の外岡豊先生から研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接外岡先生にご連絡ください。 ◆「人新世統合学」研究会のお知らせ 発起人:外岡豊・西原智昭 地球システム・倫理学会会員 開催日(いずれもZOOM オンライン形式): (一回目)2023年7月5日(水)19時―21時 (二回目)2023年8月30日(水)19時―21時 本年3月14日(火)と4月18日(水)、二回に分けて星野克美著『人新世の絶滅学』(鳥影社)出版記念講演を、著者自身の解説で実施しました。その継続として、著者と<統合学>の先駆的な研究者である秋山知宏(氏も地球システム・倫理学会会員)とも相談して、人新世を統合的に考察する<人新世統合学>の提唱に向けて研究会を企画しました。 手始めに、二回の講演会の概要をお伝えし、その時の参加者からの質問や意見に対して、著者から回答し、討論する機会を二回程設けることにしました。それを踏まえて、今後<人新世統合学>として、どのようなテーマを主軸に、どのような方向性で研究を進めて行けば良いのかを模索して行く基礎にできれば幸いです。 この研究会では、上記一回目と二回目の講演会に参加されなかった初めての方も歓迎です。どうぞお誘い合わせの上、参加ください。また当日、あらたに質問や意見をいただくことも大歓迎です。 参加を希望される方は、お名前・ご所属・メールアドレス・電話番号を併記の上、下記までお知らせください。 外岡豊あて [email protected] 西原智昭あて [email protected] ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • AHN Eun-byul “Diary of Just One Day on a Hospital Bed”

    ********************************************** SGRAかわらばん974号(2023年6月22日) 【1】エッセイ:安ウンビョル「たった一日の病床日記」 【2】寄贈本紹介:梁誠允『西鶴奇談研究』 ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#741 ◆安ウンビョル「たった一日の病床日記」 3月17日。子宮筋腫とポリープの除去手術を受けた。簡単な手術でたった一日の入院だったが、博士論文で心の余裕がなかったことを口実に、ほぼ1年間先延ばしにしていた。しかし体を大事にしろというシグナルか、博士論文審査原稿の提出前日に、びっくりするほどの出血があって、急いで再検査を受けて手術を予約した。 日本での入院は初めてだったこともあり、10年前に韓国で入院した時の記憶を思い起こし比較することになった。韓国の大学病院は、賑わう複合施設のような場所で、医師も看護師も忙しそうで、患者をかすめていくような感じがある。しかし、今回お世話になった東京郊外の病院は、人が多い時間帯にもなぜかゆったりとしていて、そこで働く人たちは私に最大限注意を払ってくれているように感じた。最近、20年以上日本に在住している韓国人女性が、日本ではすべての病院で断られた手術を韓国の大きな病院に行ってようやく受けることができたという話を聞いたが、韓国では経歴を誇示するために手術を重要視し、日本の場合はなるべく手術を避けようとする傾向があるという。日韓の医療現場を比較してみると、韓国は手術を、日本はケアや介護をより重視するという文化的傾向が見つかるかもしれない。 また、問診票に答える時、これまで受けてきた健康診断のものと「想定されている回答者の身体的状況」があまりにも違うという点に気がついた。普段の痛みや病歴、体に装着している補綴物などを細かく問う問診票に答えながら、高齢者の日常や速度をほんの少し想像することができた。問診票が場所によってどのように変わるのか比較したらどうなるのだろう。 いかなる状況に置かれていても、このように「比較文化的レンズ」を通して観察したり、こんな研究をしてみたらどうだろうか、と思考を巡らせたりするのが、日本に来て大学院で勉強し始めた頃からの癖である。もちろん、だいたい有効な考えには発展せず終わるけど。今回と10年前の経験の「違い」の意味は、個人的なものでもあった。そもそも疾患も手術法も違うし、10年も過ぎたから記憶が風化したということはある。けれども2回、手術や入院を「違うもの」として経験したということは、これからの人生において重要な記憶の糧になるだろう。どんな記憶を残すのか、それでどのように想像するかは、未来に起きることを「対比する」だけではなく、その経験を作っていく「力」を持つ。 なかでも麻酔の覚め方の違いが、一番記憶に残る。 10年前に全身麻酔から覚めた時は直ちに回復室に運ばれ、30分間放置された。その時経験した恐ろしい気分と寒さが手術をためらわせた理由の一つでもあった。しかし、今回は手術後すぐ病室の(一時的だが)「自分の場」に移され、とても穏やかな気持ちでいられた。不思議な幸福感ともうろうとした気分、起き上がった時に何を読もうかといった空想などが混合し、これからは全身麻酔という言葉自体に怖がる必要はないと思った。 手術が終わったのは正午だったが、夜眠れないことを憂慮して昼寝はせず、本を読んだりユーチューブ動画を見たりした。読んだものの一つはジョルジュ・ペレックの『考える/分類する』。収録されている「読むこと―社会-心理的素描」で、ペレックは「読む<行為>」を「肉体」と関連させて、また周辺(状況的なもの)と関連させて分類している。後者のものとしては、「間の時間」(何かを待っている間に読む)、「交通手段」、そして「その他」の「病院に入院している時」などと分類されているが、私の状況はこれが一つにつながっているようだった。夜を待つ長い「間の時間」であり、身体的な不動性によって生まれる長距離飛行のような状況でもあった。退院という目的地に向かって、回復という通路を通る長距離飛行。この時間こそ、「読む」そのものだと思った。実は私は短い飛行や乗車においても「降りたくない」と思うことが多い。目的ではなく過程が重要だという表現は、私にとってはしばしば、ただの比喩ではなくなる。 入院中、先日亡くなった大江健三郎が中期に書いた『新しい人よ眼ざめよ』も読んだ。闘病中の「H君」は「僕」に、次のように言う。 「生きる過程で、他人を傷つける、あるいは他人に傷つけられる、ということがあるね。それをやはり生涯のうちに、貸借なしとする。…… しかし、生きてるうちに精算がつくという問題じゃないね。結局のところ、自分が傷つけた他人には許してもらうしかないし、こちらはもとより他人を許す。そのほかにないのじゃないかと思ってね。……」 この作品で、障害を持った息子がいる「僕」は生きることの恐怖を克服するために、英国の詩人ウィリアム・ブレイクの詩に頼る。「僕」の恐れは、自分の死後に息子のイーヨーが一人で生きていくことである。ブレイクを読むだけでなく、この小説を書くこと自体が「僕」にとって「克服する」旅程であっただろう。もちろん生きることの恐怖は、「生きてるうちに精算がつくという問題じゃない」。しかし、誰かが「言葉」に頼って生きている姿を記録した「言葉」を読んでいる「間」には、勇気と希望とともに歩んでいくことができる。 病棟は静かすぎてキーボード音も畏れ多いほどだったが、深夜には生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。病院の前には碑石があり、ヨハネ福音書の言葉が刻まれている。「私は復活なり、生命なり」と。 <安ウンビョル AHN Eun-byul> 2022年度渥美奨学生。東京大学大学院学際情報学府博士課程に在学中。学際的なモビリティ・スタディーズの観点から、鉄道に乗って移動する経験とそれが社会的世界を生産する過程を研究。韓国では元『PRESSian』出版担当記者で、現在も物書きとして活動中。韓国語での単著『IMFキッズの生涯』(2017)共著『拡張都市仁川』(2017)『研究者の誕生』(2022)『すぐ手を振るかわりに』(2023)など。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で檀国大学校日本研究所研究教授の梁誠允さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆梁誠允『西鶴奇談研究』 著者:梁誠允(ヤン・ソンユン) 発行所:(株)文学通信 2023年5月25日発行 A5判・上製・272頁 ISBN978-4-86766-012-6 C0095 定価:本体5,800円(税別) われわれは西鶴奇談がもたらす感動をどのように説明できるだろうか。 単なる典拠論、素材論を超えて、現代のわたしたちが見失ってしまった、あるいは忘れてしまった様々な表現の層位(可能性)をさぐりながら、西鶴を探る。西鶴は人情世態を描くための表現を新たに獲得しようと、どれほど奮闘していたのか。言葉が織りなす運動に注目して、西鶴奇談の一話一話を詳細に考察する書。 【西鶴奇談では、類似の題材を扱う場合でも、二番煎じのような方法は殆ど用いられていない。問うべきなのは、一話一話における創作の有り方である。すなわち一話ごとに西鶴がどのような問題領域(話題)を開き、そこに同時代の人情世態に関わる問いかけがいかに生成しているか。題材の比重が大きい西鶴の奇談において、その現在的意味はどのように見出されているのか。また、西鶴奇談の中には〈同時代の人情世態〉が素直にあらわれてはいない。作品の背後に隠されている当時の現実と、作品として形象化された虚構の世界とはどのように相関しているのか。これらを明らかにすることにより、後代の読者である我々も、創作された奇談世界のどこがどう奇異であり、西鶴は当時の読者に何を感得させようとしたのかを理解できるようになるだろう。 本書では、言葉が織りなす運動に注目して西鶴奇談の一話一話を詳細に考察し、作品の中の不可思議で説明できないものを可能なかぎり明確に説明することで、西鶴奇談の備えている表現の挑発力を再び活動させることをめざす。】...「序章」より 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-012-6.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************