SGRAメールマガジン バックナンバー

  • YUN Jae-un “The Challenges of Victim Relief”

    ********************************************** SGRAかわらばん993号(2023年11月30日) 【1】エッセイ:尹在彦「被害者救済という難題」 【2】催事紹介:朝河貫一生誕150周年記念シンポジウム 「戦争に向かう世界:1930年代と朝河貫一」(12月23日、東京) 【3】催事紹介:第19回INAFセミナー(12月6日、オンライン) 「ウクライナ戦争と日本有事―抑止の罠―『敵基地攻撃能力』保有は時限爆弾」 ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#752 ◆尹在彦「被害者救済という難題」 国内外の紛争や環境問題、政策等により多くの被害者が発生することがある。ただし、その被害者に対する救済はなかなか容易ではない。救済が進んでいない状況では被害及び加害の当事者に加え、支援者や政府、政治(政党・政治家)が絡み合い「解決」をより困難にする。後から「被害者」を名乗る人々が新たに出てくることもよくある。そのため、「いつまで、そしてどこまで救済すべきか」というのは被害者救済の最重要課題になる。救済の手法に対しても論争は起こり得る。金銭的な補償と加害者もしくは政府の反省的態度は救済のカギになる。 場合によっては国内問題にとどまらず国際問題に発展することもあり、それこそが両国関係を規定し得る。日韓関係や日中関係、日朝関係にはその被害・加害の問題が深く根付いており、それ抜きには語れない。人々のアイデンティティーがその問題に結びついている場合はなおさらだ。 今年9月27日、注目すべき判決が大阪地裁で下された。水俣病被害を受けたと訴える原告128人が国や熊本県、加害企業チッソを相手に起こした訴訟で全面勝訴した。まだ一審判決で、被告側が控訴したため、最終的な結果は見通し難いが、少なくとも同判決で「水俣病の被害ってもう歴史の話じゃない?」と驚いた人も少なくないはずだ。 1956年、熊本県水俣市で同病が初めて公式確認されて以降、被害者やその支援者、チッソ、政府、政治は対立と妥協を何度も繰り返してきた。1970年を前後として公害問題が拡散する中で、水俣病被害者への金銭的補償(主にチッソによる)や環境庁(後に環境省の前身)を中心とした制度的枠組み(行政認定制度)は確立したが、被害を訴える数多くの人々は取り残されたままだった。水俣病被害者として公式認定される基準は複雑で、それを満たさない人々への救済策はなかった。そこで始まったのが日本全国各地の裁判闘争だったが、国の法的責任が最終的に認められたのはなんと2004年の最高裁判決だ。何十年もの時間を要したのだ。 1990年代に入り政治改革が叫ばれ、政府は初めて水俣病被害者との政治決着を試みる。村山政権期の「政治解決」がそれで、約1万人が新たに救済された。当時の村山富市首相は談話を発表する。水俣病を「公害の原点」に位置づけ「当事者の間で合意が成立し、その解決を見ること」ができたと評価した。「率直に反省しなければならない」とも述べた。ただし、法的責任は回避された。これが大阪で起こされた国家賠償請求訴訟が続く背景となり、2004年に国が全面敗訴する。このように水俣病被害者は比較的症状の重い「認定患者」と相対的に軽症の「政治的に救済された水俣病被害者」に分類される奇妙な「二重構造」が出来上ったのだ。 最高裁の確定判決は2000年代に入っても水俣病被害が決して「解決されていない」ことをあらわにした。1995年に救済されなかった約3000人の被害者は新たに訴訟を起こす。「第1次ノーモアミナマタ訴訟」だ。政府は確定判決にも関わらず新たな救済の枠組みは設けなかったため、また新しい裁判闘争が始まる。 被害者救済への議論が進み始めたのは政治の変化があってからのことだ。政権交代を目前にして与野党が2009年7月に「水俣病特措法」(「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」)に合意する。水俣病被害者を救済するための戦後初めての立法措置だった。「2012年7月」という期限が設定された点は救済措置が一時的であることを示していた。同法の前文にはこうある。「地域における紛争を終結させ、水俣病問題の最終解決を図り、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現すべく、この法律を制定する」。つまり、この法律の制定こそが「最終解決」になるとの思惑が反映されていた。約5万人もの被害者が特措法により新たに救済される。2010年5月、鳩山由紀夫首相は政府の代表として戦後初めて水俣市の慰霊式に出席し「被害拡大を防止できなかった責任を認め、衷心よりおわびする」と謝罪した。 ところが、特措法による救済措置の終了後、またもや新しい訴訟が提起された。それが冒頭で紹介した裁判、「第2次ノーモアミナマタ訴訟」だ。「終わった」とされた水俣病問題が裁判での勝訴判決から再度注目されている。半世紀以上にわたる水俣病とその被害者の歴史は、救済や問題解決がどれほど困難かを物語る。金銭的補償や政府代表の謝罪・反省が行われたにも関わらず、被害者救済に関する議論は70年を経た現在も続いている。少なくとも問題の解決策(=救済策)を一時的な措置に留まらせないことが大事だ。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jae-un> 立教大学平和・コミュニティ研究機構特別任用研究員、東洋大学非常勤講師。2020年度渥美奨学生。新聞記者(韓国)を経て、2021年一橋大学法学研究科で博士号(法学)を取得。国際関係論及びメディア・ジャーナリズム研究を専門とし、最近は韓国のファクトチェック報道(NEWSTOF)にも携わっている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員で立教大学教授の佐藤雄基先生から公開シンポジウムのお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。 ◆公開講演会「戦争に向かう世界:1930年代と朝河貫一」 日時:2023年12月23日(土)13:00~16:40 会場:立教大学池袋キャンパス14号館2階 D201教室 https://www.rikkyo.ac.jp/access/ikebukuro/ ★事前申し込み必要|参加費無料 https://forms.gle/AVhdBuXbtW17nGwM7 本シンポジウムは、朝河貫一生誕150周年記念シンポジウムとして、日米開戦へと向かう1930年代アメリカにおける歴史学者朝河貫一(1873-1948)を中心にして、戦争に向かう時代の潮流に個人がどのように立ち向かうことができるのかを考える場としたい。朝河は国際関係や互いの国民性の理解を深めるために「歴史」を重視していたが、まさに現在、国際情勢が大きく変容し、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとガザ地区の戦闘と、戦争という危機が現実のものとなる中、戦争を回避して平和を目指した過去の人びとの経験に私たちは学ぶ必要がある。朝河の人生が現在の私たちに何を伝えてくれるのか、そしてどのように未来に伝えていくのか、このシンポジウムで考えていきたい。 13:00 開会 司会:佐藤雄基 13:05~1310 開会挨拶:福田康夫氏 1310~14:00 基調講演「朝河貫一と日系アメリカ人―C.ヤナガとの関係を中心に」:ダニエル・ボツマン氏 休憩 14:10~14:35 報告1「1930年代のキリスト教ネットワークと日米関係」:陶波氏 14:35~15:00 報告2「1930年代のアメリカ美術と朝河貫一」:増井由紀美氏 15:00~15:25 報告3「日米関係から見た朝河貫一」:三牧聖子氏 休憩 15:35~16:35 ラウンドテーブル「戦争に向かう日米関係と朝河貫一」:五百籏頭眞氏、ダニエル・ボツマン氏、三牧聖子氏、増井由紀美氏、陶波氏、山内晴子氏 16:35~16:40 閉会の辞 プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.rikkyo.ac.jp/events/2023/12/mknpps000002d4no.html ★問合せ先:[email protected] 又は [email protected] -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】催事紹介 SGRA会員で(一社)東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんより研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。 ◆第19回INAFセミナー「ウクライナ戦争と日本有事―抑止の罠―『敵基地攻撃能力』保有は時限爆弾」 日時:2023年12月6日(水)15:00 00~17:00 (オンライン) 講師:河信基(ハ_シンギ)・INAF顧問・作家・評論家 司会:李鋼哲・INAF所長 米一国支配から米中二国支配か、多極化か!? 決定的勝利が望めない〝特異な戦争〟ウクライナ戦争をめぐる国際政治の動向、特にプーチン、バイデン、習近平、ゼレンスキー、そして岸田首相の動きを軸に時系列的に詳述することで見えてくる戦争の行方とそれに伴って流動化する国際政治と国際秩序の今後を展望。断絶する日露、緊迫化する日中関係のなかで日本の選択は? 参加申込:INAFメンバー以外の方は、1日前までに参加申し込み(名前、所属、連絡先メルアド)を下記へ送ってください。なお、参加された方はINAFフレンドとしてMLに登録し、今後の研究会の情報発信をさせていただきます。情報発信不要の方はその旨をお伝えください。 Email: [email protected] 詳細は下記をご覧ください。 https://inaf.or.jp/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • JO Byeongwook “Excitement Might Be Important”

    ********************************************** SGRAかわらばん992号(2023年11月23日) 【1】エッセイ:趙炳郁「ワクワクは大事かも」 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(最終案内) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#751 ◆趙炳郁「ワクワクは大事かも」 この春、博士課程の卒業で大学と大学院の9年間の学生生活が終わり、教員としての生活が始まった。留学生活を終えてそれほど時間がたっていないが、教員として感じたことを書いてみようと思う。 子供の頃、ロボットが登場する漫画を見ると男の子はワクワクする感情に包まれ、部屋で大騒ぎするものだ。私も同じで10歳の頃に「ガンダム」という漫画を初めて見て、似たような感情を持った。10年くらいたって高校生になった時も精神的に成長できておらず、ロボットを見るとワクワクしたが、子供の頃とは少し違って、勉強を頑張って良い大学に行けば、いつかあんなロボットを作れるだろうという期待感でそのような気持ちになったと思う。 1年間浪人して、2012年にやっと希望する大学の希望する学科に入学することになったが、実際に大学に行ってみると考えていた学問と適性が少し違っていたようで、実習や実験の時間は、もっと知りたいという思いより、面倒くさいと思うことの方が多かった。学部時代は新しいことをすることに対して、ワクワクすることより義務感でやることが多く、大学院への進学は決まったものの将来への確信がなかったので、まず軍隊に行ってくることにした。 軍隊は大学よりもさらに退屈な義務感しかない生活だった。毎年決まった行事があり、マニュアルがあり、新しいことをするよりも現状を維持することが重要な集団なので、私のように思い通りに動きたい人には満足できない場所だったが、学ぶことは多かった。 無事に兵役を終え、2018年から大学院生活を始めた。不思議なことに学部4年生の時にも研究したことがあるのに、今回は自分が主体的に研究をすることになったからか、高校や子供の頃に感じたワクワクする感情を8年ぶりに感じた。私の研究分野は細胞に関するもので、予測される結果が分かりにくいからかもしれないが、結果的に興味を持つようになり、そのまま博士課程に進学した。博士課程では思ったより楽しく研究を行うことができた。もちろん帰宅はいつも深夜で、審査を準備する最後の半年は言葉で表現できないほど大変だったが、いつも私の意見を尊重して指導してくれた指導教員のおかげで無事に卒業することができた。 今は同じ研究室で助教として学生の研究指導をしており、学生の頃とは比べ物にならないほど義務と責任が増え、ワクワクする機会が少なくなった。しかし、皮肉なことに研究室のボスは「研究は常にワクワクする気持ちでやるものだ」という持論をお持ちで、今はどうやって人をワクワクさせるかを常に考えながら日々を過ごしている。最近、初めてオムニバス式の大学院の授業を行う機会を得た。理論の説明1時間と簡単な実験30分程度の授業だったが、やはり過去の学者が見つけた真理を面白く伝えるのは難しい。それでも実験では「これワクワクするね!」と言ってくれた学生がいて、少し嬉しくなった。これが最近のワクワクのポイントであり、しばらくは現状を楽しみたい。 <趙炳郁(ジョウ・ビョンウク)JO_Byeongwook> 2022年度渥美奨学生。2023年3月東京大学大学院情報理工学系研究科にて博士号取得。博士(情報理工学)。2023年4月より東京大学大学院情報理工学系研究科助教。専門は機械工学、組織工学、バイオエンジニアリング、マイクロ流体工学。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】趙京華(清華東亜文化講座/北京第二外国語学院) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • CHIANG Yung-Po “The 10th Nittai Asia Future Forum ’Sake and Shaoxing Wine’ Report”

    ********************************************** SGRAかわらばん991号(2023年11月16日) 【1】江永博「第10回日台アジア未来フォーラム報告」 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) ********************************************** 【1】江永博「第10回日台アジア未来フォーラム『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』報告」 2011年から始まった日台アジア未来フォーラム(JTAFF)は19年5月に国立台湾大学で実施された第9回までは連続して開催され、本来であれば20年5月に初めて日本で第10回が行なわれる予定であった。しかしながら、周知の通り日本では同年1月に最初の新型コロナウイルス感染者が確認され、イベントの中止・延期・自粛をはじめ、組織・機関も時短・利用制限による一時的閉館や立入禁止を余儀なくされた。その後は在宅勤務・オンライン授業・会議などの形式が活用されていった。オンラインの利便性・安全性のメリットにより現在でもハイブリッド方式が活用されているが、対面でなければ共有・体験できない場合がある。4年半ぶりに開催された本フォーラムは、その代表的な一例である。 前置きが長くなったが23年10月21日(土)に島根県のJR松江駅前施設「松江テルサ」で開催されたフォーラムがなぜ対面でないと真価を問うことが難しいかというと、『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』というテーマに尽きる。日本最古の歴史書『古事記』にも登場し日本酒発祥の地とされる島根県で、醸造酒をテーマに日台の関係者が相互理解を深めるために対面で開催することに大きな意味があった。 フォーラムは渥美財団今西常務理事の開会挨拶でスタートした。 最初は島根大学法文学部の要木純一先生の講演「近代山陰の酒と漢詩」。詩仙と称される李白の代表作の一つ「月下独酌」の冒頭「花間一壺酒 獨酌無相親 舉杯邀明月 對影成三人(後略)」(花間[かかん]一壺[いっこ]の酒、独り酌[く]んで相親しむもの無し、杯[さかずき]を挙[あ]げて名月を迎え、影に対して三人と成る(後略))からもうかがえるように、酒と作詩のような「知的創造」との付き合いは長い歴史を持つ。要木先生は明治36年(1903年)から戦後まで松江に存在していた「剪松吟社」の活動を通して、近代山陰地方に於ける事例を紹介した。明治30年代に入ると漢詩・漢学的教養はすでに衰退の兆しがあったため、剪松吟社は最初から漢詩・漢学的教養の振興を目標として、機関誌『剪松詩文』の発刊や詩人大会の開催を行い、一時的には全国的な漢詩復興運動の一拠点と見なされるほど、活発な活動を進めていた。 昭和に入ると高齢な指導者を相次いで失い、詩人の力量低下と相俟って活動は衰退に向かい、戦後自然消滅したが、今回取り上げたのは昭和5年(1930年)10月の『剪松詩文』に収録された「若槻克堂公歓迎雅集」。若槻克堂とは日本首席全権として同年のロンドン軍縮会議に参加した若槻礼次郎のことである。国内では一部反対の声もあったが、軍縮会議は難航の末合意されたため、松江に帰った若槻に対して剪松吟社は「錦衣帰郷」の歓迎雅集を行なった。そこでは柏梁体連句が詠まれ、その中に「詩酒応忘利名栄」「共仰高風挙杯迎」「一醉似忘衣錦栄」「誰是詩弟誰酒兄」「平和会裏闘酒兵」「対月豪飲気如鯨」のような句が見られ、酒と漢詩・歓迎雅会との相乗効果が句の内容から見て取れる。最後は若槻により軍縮会議後の心境をうかがわせる「詩中天地自和平」で締められたが、午後7時から始まった歓迎雅集は三更(午後11時~午前1時の間)まで盛り上がったという。 次の島根県産業技術センターの土佐典照先生の講演「島根県の日本酒について」は、「神様はお酒が好き」という島根と神話から展開された。島根県にある酒蔵30社および二つの酒造り職人集団を紹介した上で、日本酒の造り方についての詳細な説明があった。製造技術の基礎知識として環境と気象(気温・降水量)、水(硬度)、米(品種)とその処理(精米)、麹(生育・製造工程・品質)、酒母と酵母(製造操作)、仕込みと管理と搾りについて詳しく説明。普段何も考えずただ美味しくいただく日本酒の生産過程で、今まで「伝統」として引き継がれてきた酒造技術が更に科学的な技術を通して検証・進化されていくことに筆者は驚きを禁じ得なかった。 講演の後半では日本酒のラベルの見方、吟醸・大吟醸など特定名称の清酒の分類、甘辛度と濃淡度など「実用的」な知識のほか、島根の酒の味と食生活に於ける地域の特性に焦点が当てられた。日本列島沿いに北上する対馬暖流の恩恵もあって島根県で採れる日本海の漁業資源は豊富であり、その魚を活かした島根料理の代表として「へかやき」が取り上げられた。この甘辛い醤油で味付けられた魚のすき焼きに合うように、島根の酒も旨味重視の傾向が見られる。最後は魚料理に留まらず、今後は果実を使った和風料理にも合う香り高い吟醸酒に注目し、酒の新たな魅力の発見に力を注ぐという。 休憩時間には島根県の日本酒(きもと原酒)と台湾紹興酒・中国紹興酒・酒肴が供され、前半の講演を思い出しながら試飲・試食を楽しみ盛り上がった。 台湾煙酒株式会社埔里酒廠の江銘峻先生による最後の講演「台湾紹興酒のお話」は、台湾紹興酒の歴史から始まった。紹興酒は世界三大古酒の一つであり、中国大陸を起源とするが、いつ台湾に渡ったかについては定かではない。ただし、台湾総督府専売局時代にはすでに生産記録があった。戦後、1949年に蒋介石の指示により埔里で紹興酒の試醸造が始まり、50年代に入ると市場化に成功して世界30余国に輸出された。80年代には年間の最大生産量が230万ダースに達した。90年代以後は、国民の飲酒嗜好の変化により徐々に市場を失い、95年頃には紹興酒を使ったおこわ、煮物などの特色食品・料理が開発された。現在、製品の高度化に成功した「状元紅」・「女児紅」・20年以上の「陳年紹興酒」以外、台湾における紹興酒の主な用途は料理になった。 台湾紹興酒の歴史を把握した上で、「紹興酒の伝統的な醸造法」と「台湾紹興酒の作成工程」が紹介された。同じ紹興酒にも関わらず、伝統的な醸造法に対して、台湾紹興酒はどのように独自の進化を遂げたかが浮き彫りになった。さらに同じ醸造酒の日本酒と比較し、最後は「夏は常温か冷蔵」「冬は38~42度ぐらいまで間接加熱したら、より香り高い」「味変(あじへん)には台湾梅干し・生姜・レモン、カクテルにはソーダ・コーラ・ジュース」など紹興酒のお勧めの飲み方や、「適量の飲用では血液循環と新陳代謝を促進し、体力を増強し、耐寒性を増す」と言った紹興酒の栄養価など「実用的」な情報を教えてくださった。 質疑応答では、「中国紹興酒・台湾紹興酒・日本酒における仕込みの段数の差」「紹興酒の伝統的な醸造過程でヤナギタデの粉を入れる理由は何か」などの質問があった。筆者にとって一番興味深かったのは、台湾紹興酒の市場占有率であった。台湾では2002年1月まで煙草・酒の生産・流通・販売は煙酒専売局に独占されていたが、専売制度が廃止されてから、台湾煙酒専売局は「台湾煙酒株式会社」に変わり、煙草・酒の生産・流通・販売も国営の専売事業ではなくなったにも関わらず、生産・流通・販売する紹興酒は、台湾市場全体の99%を占めている。換言すれば前述した「台湾では現在製品の高度化に成功したが、主な用途は料理に取って代わられた」紹興酒の現在の位置付けも、これからの方向性もこの会社の方針に左右される。これに対して、冒頭で紹介したように日本酒を醸造している蔵は島根県だけでも30社に及ぶ。環境・気象・水・米と製造過程などの差によって「薫・爽・醇・熟」など多様な風味が味わえる日本酒は、「ボディが醇厚」で基本的に「アミノ酸味がメイン」の紹興酒とは異なる道を歩んできた。どちらが正しいか断言できないが、今回のフォーラムを通して得られた経験は今後互いにいかなる道を歩むかを検討する際に参考になるだろう。 質疑応答後、隣の会議室で懇親会が行われ、今回のフォーラムのテーマでもある島根の日本酒と台湾紹興酒のほか、講演の中で言及された島根の魚も大きな舟盛で提供された。参加者一同おいしい料理をいただきながら7種類の日本酒と6種類の紹興酒を飲み比べ、対面でなければ共有・体験できない貴重な経験を積むことができた。約4年半ぶりに開催された日台アジア未来フォーラムは、日本各地および台湾からの参加者が50名ほど集まった。台湾での開催と比べ規模は多少小さくなったが、筆者にとって会得できたものは決して少なくなかった。日本酒発祥の地とされている島根県で『日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒』に参加できたことは、まさに「百聞は一見に如かず」「万巻の書を読み 千里の道を行く」の体現だと信じている。今後は基本的に今まで通り台湾で行われるであろうが、時には今回のように地域の特性を活かしたテーマと内容を選定・計画すれば予想外の収穫が得られるかもしれない。 当日の写真は下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2023/18955/ <江永博(こう・えいはく)CHIANG_Yung-Po> 2018年度渥美奨学生。台湾出身。東呉大学歴史学科・日本語学科卒業。2011年早稲田大学文学研究科日本史学コースにて修士号取得。2020年10月から常勤嘱託として早稲田大学大学史資料センターに所属、『早稲田大学百五十年史』第一巻の編纂に携わった。2023年4月より助手として早稲田大学歴史館に所属、現在『早稲田大学百五十年史』第二巻の編纂業務に従事しながら、「台湾総督府の文化政策と植民地台湾における歴史文化」を題目に博士論文の完成を目指す。専門は日本近現代史、植民地期台湾史、大学沿革史編纂。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Hourieh AKIBARI “The 19th SGRA Cafe ‘Transcending Borders Long Distance Care’ Report”

    **************************************************** SGRAかわらばん990号(2023年11月9日) 【1】アキバリ・フーリエ「第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」報告」 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) **************************************************** 【1】アキバリ・フーリエ「第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」報告」 2023年10月14日(土)、「国境を超える『遠距離ケア』」をテーマに第19回SGRAカフェが開催されました。午後2時から約2時間にわたり、討論者による議論と参加者全員によるグループディスカッションが行われました。実際に財団に足を運んでくださった参加者とオンライン参加を合わせて約50名で開催され、非常に有意義な時間となりました。 5名の討論者は国籍や研究の専門分野が異なることもあり、さまざまな視点から課題について議論できました。司会と討論者であった私(アキバリ・フーリエ)以外に、長年にわたり日本の介護に関する研究を行っている張悦さん、そして2017年度の元渥美奨学生で、良き友人であり研究仲間でもある沈雨香さん(早稲田大学)、ファスベンダー・イザベルさん(関西外国語大学)、レティツィア・グアリーニさん(法政大学)が参加し、意見を交換しました。 私たちが生きている21世紀はグローバル化が進み、年齢や国籍を問わず世界中でキャリアを築く人々が増加しています。母国から離れて異なる地域で生活基盤を築くことで多くの成功を収める一方、通常直面することのない課題も出てきます。その中の一つが、母国に残る家族へのケアの問題です。 今回は、母国に残る家族への「ケア」を出発点として、育児や異国での自己ケアについてもディスカッションしました。ケア・コレクティブは『ケア宣言 相互依存の政治へ』(岡野八代・冨岡薫・武田宏子訳/解説、大月書店、2021年)の中でケアを「やりがいのあることと同時に、極度の疲労を伴う現実」と述べています。ケアには関心、不安、悲しみ、嘆き、困惑といったさまざまな感情が絡み合っており、現代社会において非常に重要なテーマであると同時に、忙しい現代社会ではどこかで見落とされがちな課題でもあると思います。 したがって本カフェでは「本日の議題」として3つの質問を討論者に投げかけました。そして、「国境を越えて日本で生活しながら、ケアについて感じてきた思いと経験」について議論し、今後の「日本における国境を超える遠距離ケアの実態と背後にある要因」を考えました。 まず、「ケア」とは何かについて議論が交わされました。討論者たちの発言から「家族へのケアと自己ケア」にはネガティブな側面がある一方で、いくつかの工夫をすればポジティブに変えることができるのではないかという意見が出されました。 張さんの考えは「個人の力だけでなく、皆さんと協力することによってより強力になる」です。例えば、日本では「包括ケアシステム」という言葉があります。多くの異なる健康関連サービスや専門家が連携し、総合的かつ包括的なケアを提供するアプローチを指しており、横断的な連携を強調しています。この視点から、在日外国人の遠距離ケアの問題を解決する一つの方法として、在日外国人自身も「多文化コミュニティの中での協力」を積極的に促進することを提案しました。 一方、イザベルさんは来日してから「ケア」という言葉が自分の中で徐々にネガティブな意味合いを帯びてきたと語り、その背後にはドイツの介護システムの充実があることを指摘しました。ドイツでは社会福祉システムや社会保険などが充実したサービスを提供しており、親の介護は子供の責任という考え方はあまり一般的ではないので、「ドイツの親のことよりも、日本でのケア(自分と夫の老後、日本の親のケアなど)の問題が非常に気になります」という言葉には在日外国人が直面する葛藤が見られました。 また、レティツィアさんもケアは単なる育児や介護といった活動だけでなく、そして「(核)家族」という個人の私的な領域に限らず、より多面的に考えるべきだと述べました。つまり、個人が家族の個人的な問題を解決するだけでなく、コミュニティによるケアや政策的なアプローチを含め、様々なレベルでケアの問題を考慮しながら解決策を模索する必要があるのではないか、と問いかけました。 沈さんと私は、韓国とイランには以前の風習が残っており、両親の介護は家族にとって重い負担であり、親を介護施設のような老人ホームに預けることは社会的にはまだタブーとされていることを実体験を通じて語りました。イランでは近年、少子化の問題や若者の海外移住(年間約6万5000人)が懸念されており、昔のように子供が親の面倒を見たり、両親に孫の世話をしてもらったりするということが期待できない状況にあり、家族の構造が変わりつつある時期に入っていると紹介しました。 その後、参加者全員が会場2つとオンライン3つの計5つのグループに分かれて本日のテーマについてディスカッションをしました。 グループワークに参加した方々の中には、もうじき自身が介護されるかもしれない立場になるという方もいらっしゃったため、「両親の視点」からも意見を聞くことができました。このテーマについて二つの世代が共に考えて語り合う場ができ、非常に興味深かったです。彼らは「健康の維持」と「独立して暮らせる環境の整備」を希望していました。また、あるグループの意見では「安心できるケア」というキーワードも挙がりました。どうしても日本に住む外国人という立場では、コミュニティの一員として認められたり、ケアを提供したり受け入れたりする一員として認識されたりすることが難しいことが多いため、実際に「安心できる」ケアが得られる可能性はかなり限られているかもしれません。 最後に、ケアという言葉が本来持つべき温かくポジティブな意味合いを実現するためには、一人だけの力ではなく、さまざまな知恵と協力が必要であることを学びました。そこには、一つの正解があるわけではありません。 「遠距離ケア」については、年明けに張さんと両親のケアについて話していた際、このテーマでより多くの人と語り合いたいと思ったことが発端となって、このような場を設けることができました。今後も「遠距離ケア」に関する議論を続け、一緒に語り合えるメンバーを増やしていきたいと思います。また今回、私の実母もたまたま来日していたため、イベントに参加してもらいました。両親とはなかなか面と向かって語り合う機会が得られないことから、このような場で話し合えたことは私にとっては深い意味があり、忘れられない思い出となりました。 当日の写真 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2023/18899/ <アキバリ・フーリエ AKIBARI,_Hourieh> イラン出身。千葉大学博士後期課程終了(2018年博士号取得)。千葉大学特別研究員、白百合女子大学国語国文学科非常勤講師。2017年度渥美奨学生。日本に在住している外国人、主にイラン人やアフガニスタン人難民の言語環境や言語問題の実態について社会学・言語学の立場から研究。多文化共生社会・異文化理解とコミュニケーションについて研究・教育活動。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • TAKEUCHI Kyoko “Continuing to be a ‘Researcher'”

    ********************************************** SGRAかわらばん989号(2023年11月3日) 【1】エッセイ:武内今日子「『研究者』を続けること」 【2】寄贈書紹介:小野亮介、海野典子編『近代日本と中東・イスラーム圏』 【3】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#750 ◆武内今日子「『研究者』を続けること」 先日、母校の高校で大学の研究生活について講演する機会があった。学生たちは私の話に対して「研究者をやってきて良かったことはあるのですか?」と尋ねた。学生たちが研究者にマイナスのイメージを持っているということではない。私があまりにも過労、ハラスメント、経済的な課題など、研究職に関した多岐にわたるネガティブな側面に焦点を当てすぎてしまったということである。 考えてみれば、私は何かになりたいと思ったことがほとんどなく、研究者になりたいとも研究職に就きたいとも思ってこなかった。私の研究関心はジェンダー・マイノリティ-の経験に関するものなので、日常における性をめぐる規範と深く関わり合っており、研究と生活を切り離すことが難しい。そしてジェンダーやセクシュアリティを巡る社会の状況に許せないことがとても多いので、どれほど日本の研究者の環境が良くなくても、やむにやまれず研究しなければならない、という気持ちが強くあった。 研究以外の仕事があまりにも多いと言われる日本を脱出して英語圏の大学に行ったり、国外の大学に就職したりする知人もたくさんいる。国際的な場に研究を展開していくこと自体は重要だし、私も日本で生活しながらも英語を日々勉強し、国際学会やシンポジウムなど可能な限り国際的な交流や発表の場面に関わるようにしてきた。他方で、多少の違和感も覚えてきた。一つには英語至上主義がある。翻訳ソフトが発達してきている現在においても、非英語圏を対象とする調査研究をしている人でさえ、英語圏の情報や研究だけに依拠して議論を進めることがある。 もう一つには、コミュニティーへの貢献がある。調査研究をしているからかもしれないが、調査を終えて成果を発表すると日本から離れ、協力者との関係も途絶えてしまうというふるまいは問題含みだと感じる。少なくとも大学や研究機関だけでなく、日本にいる対象者が理解できるかたちで成果を報告する必要があるだろう。また個人的には研究環境が良くないからこそ、自分が大学の環境を変えていったり、非常勤などを含む授業で研究成果を学生に伝えたりできたら良いと思うし、将来的には性的マイノリティーのことを研究する人たち、国外からの多様なバックグラウンドを持つ人たちが所属しやすい研究室の候補を増やすことに貢献したい。 そう考えると、あまり明確に意識できるほど強いものではないが、研究者をやって良かったと思える未来を遠くに見据えていると言えるかもしれない。その道中ではしんどくなることも多かった気がするが、知らなかったことに気付いたり既存の知識を更新したりする楽しさやもどかしさ、授業で得られる手ごたえ、研究で得られる新たな可能性と出会い、それを日々の燃料とする側面もある。いずれにせよ、研究者であることを今のところ続けてみるという選択肢を可能にしてくれた渥美国際交流財団に感謝したいし、これからもラクーン(渥美奨学生)たちとの交流を続けて縁を活かすことができれば良いと思う。 <武内今日子(たけうちきょうこ)TAKEUCHI_Kyoko> 2022年度渥美奨学生。2023年東京大学大学院人文社会系研究科博士号(社会学)取得。現在、東京大学大学院情報学環特任助教。社会学・ジェンダー論の視座から、トランスジェンダー/ノンバイナリー史を研究。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で日本学術振興会外国人特別研究員/国立民族学博物館外来研究員のモハッラミプール ザヘラさんから共著書をご寄贈いただきましたので紹介します。 ◆小野亮介、海野典子編『近代日本と中東・イスラーム圏:ヒト・モノ・情報の交錯から見る』 MEIS-NIHU_Series,_no.6 Studia_culturae_Islamicae, no.116 本論文集は単に日本と中東・イスラーム圏の相互交流にとどまらず、日本人による一面的あるいは不正確なイスラーム理解や日本人とムスリムの間の交渉に見られるすれ違いにも焦点を当てている。…これまで見落とされてきたこの分野の諸問題に、我々は新たな史料的可能性とともに取り組まねばならない。それはイスラーム/ムスリムとその諸要素を単に日本の枠組みの中で理解するだけでなく、中東・イスラーム圏、さらにより広範な、世界規模での文脈に結び付けて同時代の日本の歴史や文化、宗教のあり方などを理解することにつながる。(編者による序章より) 発行者:人間文化研究機構地域研究推進事業「現代中東地域研究」 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所拠点 発行日:2022年3月 ISBN:ISBN 978-4-86337-374-7 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Invitation to the 17th SGRA China Forum “The Birth of Modern in Southeast Asia”

    ********************************************** SGRAかわらばん988号(2023年10月27日) ********************************************** ◆第17回SGRAチャイナフォーラム「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」へのお誘い 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」 日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式 ◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php ◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象 言語:日中同時通訳 共同主催: ◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) ◇北京大学日本文化研究所 ◇清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■要旨 東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。 フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。 こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。 この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 【指定討論】 ◇熊燃(北京大学外国語学院) ◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【自由討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科) ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf 中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf ポスター https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • KATO Kenta “Rethinking ‘International Exchange Concerns'”

    ********************************************** SGRAかわらばん987号(2023年10月19日) 【1】エッセイ:加藤健太「『国際交流への関心』再考」 【2】催事紹介:第18回INAF研究会(10月29日、オンライン) 「アメリカの政治情勢と対東北アジア戦略」 【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#749 ◆加藤健太「『国際交流への関心』再考」 2022年度渥美奨学金に応募する際に自己紹介文として「国際交流への関心」について書くように言われ、私は以下のようなことを述べた。少し長くなるが、部分的に抜粋し、引用しよう。 国際交流は、私にとって、青年期からの憧れであると同時に、それが故に批判の対象でもありました。[…]留学を二度経験し異文化交流の楽しさを享受してきた一方で、国際的な環境の内部に存在する力関係を感じ取るようになりました。特に大学院に進学し学問と真剣に向き合うようになってから、学術的な言説空間における英語中心主義を実感しています。[…]英語を身につけ、映画学の文献を英語の原書で読み、海外の学会において英語で発表することに奮闘していた修士課程時代の私は、すぐにアカデミアに存在する不均等な関係性に気付かされることとなります。国際的に活躍できる学者になりたいと夢見ていたものの、まさにその「国際」という言葉を疑問視することがなかったがために、自分もアメリカを中心とした知の秩序を無批判に受け入れていたのです。[…]国際的な学術活動に積極的に参加することで、常にその「国際性」を疑問視できるような研究者になりたいと考えています。 1年以上前の文章ではあるが、今読むとなんて生意気なことを応募書類に書いたのだろうかと思う。ただ当時の気持ちとしては「国際交流は他国の社会・文化の理解促進につながりとても有意義である」というお行儀のよい薄っぺらな文章は書きたくなかったのだ。仮にこれで奨学金をもらえなくても自分の意見をしっかりと表明したい、という妙な意地もあったかもしれない。いずれにせよ、こんな生意気な自分を快く迎え入れてくれた渥美財団の懐の広さには今でも驚いている。 渥美財団で1年間過ごして、私の「国際交流への関心」に何か変化はあっただろうか。奨学生としての期間を終えた今、簡単に振り返ってみたい。 正直に言えば、そこまでの変化はなかったように思う。2022年度は16人が奨学生として採用され、内11人が留学生、5人が日本人である。十分に「国際的」と言える環境ではあるが、他の奨学生と接する際は、留学生ではなく、同じく研究者を志す学生として、研究や大学の話をしていた印象が強い。また、2022年度は初めて日本人を奨学生として迎えた年でもあり、何かある度に「初めての日本人奨学生として…」というフレーズが頻繁に使われていた。しかし、これも一種の枕詞と化しており、留学生が多くいることで逆に自分が日本人であることを認識させられるような体験とは異なるものであった。もちろん、「国際性」を意識せずに済んだのは、自分が日本人であり、使われている言語も日本語であったからで、留学生は違う体験をしたかもしれない。それでも、最初の集いの自己紹介テーマが「あなたは犬派?猫派?それとも何派?」であったように、あまり国際交流という側面は強調されていないように感じた(このテーマは今でも強く印象に残っている)。 しかし、現在の社会では国内利益のための「国際化」がより強くなっているように感じられる。外国人技能実習生の過酷な労働環境や、外国人が日本の素晴らしさを褒めちぎるテレビ番組の氾濫などは、その最たる例であろう。また、「反日・親日」といった、特定の個人・国家を「日本のことが好きか嫌いか」という単一な尺度で判断する国家主義的な言説も多くみられるようになった。もちろん、「国際化」(inter-nationalization)という言葉の通り、それは国家間の交流であり、そこでは国の存在が前提として置かれている。したがって、「国際化」が「日本」という想像された共同体を構築することは自明のことである。しかし、「国際化」が相互理解ではなく、自国の利益のために促進される傾向が顕著になっているのではないか。 この1年で、自己紹介文に書いたような、「国際」という言葉の実践からその「国際性」を疑っていきたい、という気持ちは更に深まったように感じる。しかし、渥美財団の集いでは驚くほどにそういったことを考えなかったのも事実である。基本的に悲観的な性格ではあるが、奨学生として1年間過ごしたことで、一時的にでも楽観的にさせてもらえたかもしれない。 <加藤健太(かとう・けんた)KATO, Kenta> 2022年度渥美国際交流財団奨学生。2023年9月早稲田大学国際コミュニケーション研究科博士後期課程修了。博士(国際コミュニケーション学)。2023年4月より早稲田大学国際教養学部助手。専門は映画研究で、主に日本映画をクィア理論、男性学の観点から分析している。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員で東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲先生から研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。希望者は主催者へ参加申込をお願いします。 ◆第18回INAF研究会「アメリカの政治情勢と対東北アジア戦略」 講師:イマニュエル・パストリッチ(アジア・インスティチュート所長・理事長) 日時:2023年10月29日(日)17:00~18:30 方法:オンライン パストリッチさんはアメリカ出身のユダヤ人で、中国語・韓国語・日本語が流暢で東アジアの文化に造詣が深い、ユニークな方です。現在のアメリカ政治に厳しい見解を持っており、前回のアメリカ大統領選挙にも出馬宣言されました。東アジア3国の協力を主張し、日中韓三カ国語で数多くの書籍を出版。 詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://inaf.or.jp/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(最終案内) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Chieko HIROTA “Me as a Part of the Universe”

    ********************************************** SGRAかわらばん986号(2023年10月12日) 【1】エッセイ:廣田千恵子「宇宙の一部としての私」 【2】寄贈書紹介:奥本素子編『サイエンスコミュニケーションとアートを融合する』 【3】第19回SGRAカフェへのお誘い(最終案内) 「国境を超える『遠距離ケア』」(10月14日、東京+オンライン) 【4】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#748 ◆廣田千恵子「宇宙の一部としての私―これまでの研究と財団での経験を振り返りつつ―」 先日、ご縁があってインド占星術というものを体験した。日本では日常的にテレビや雑誌で「占い」を目にするが、あれらはいわゆるライターによって書かれていると聞いてから、私は占いを「人生に対する上手なアドバイス」程度に捉えていた。そんな私がどうしてわざわざ自分を見てもらおうと思ったのか。それには2つの理由がある。 ひとつは、インド占星術そのものに関心を抱いたからだ。インド占星術とは、日本で一般的な西洋占星術よりも遥か以前に誕生していた星を読む方法である。インド占星術師は見る相手の生まれた時間の分数と場所を正確に知ることによって、その人が誕生したときにその人を中心とした空にあった星を調べ、この宇宙におけるその人の位置や人生の巡り方を示してくれる。それはまるで、私という人間がこの世に誕生した瞬間を覗くことのように思えた。 そして、もうひとつの理由は、ここ十数年程で目まぐるしく変化した私の人生が、自分の意思というよりはまるで何かに導かれているように感じていたことによる。 私の研究テーマは、モンゴル国にて少数民族として暮らすカザフ人の装飾・手芸文化の動態の解明である。具体的には、カザフ人が天幕型住居の内部を主な装飾の対象としている点に着目し、人々がなぜ住居内部を熱心に飾ろうとするのか、どのように装飾技法を継承してきたか、あるいはどのように変化してきたのかといったことを明らかにしてきた。 しかし、私は元々モンゴル好きだったから大学でモンゴル語専攻を選択したわけでもないし、ましてやモンゴルに行くまでカザフという人々の存在を全く知らなかった。とくに手芸に詳しかったわけでも、長けているわけでもない。つまり、この研究テーマを選んだのは、言ってしまえば不思議な偶然が重なった結果である。それでも、偶然の出会いは、今の私の人生を大きく動かしている。 振り返ってみると、私はある時期を境に、何かに導かれていると感じることが多々あった。今の研究テーマに出会うまでは、自分が研究者を志すとは夢にも思っていなかった。そうして調査や研究を進めていく中で、うまくいくときもあれば、困難に直面することもあった。しかし、その都度ぼんやりと、それぞれの出来事には何か理由があるように感じていた。 たとえば、渥美国際交流財団に採用されたことも、そう感じる出来事の一つだった。修業年限を超過していた私ははなから奨学金を受給することは無理だと思っていた。しかし、友人から渥美国際交流財団の募集要項を紹介され、まるで導かれるように面接を受けた。そして、この財団の奨学生として採用されたとき、「神様」が私に今が博士論文を終わらせる時期であることを教えてくれたように感じた。 神様からのメッセージは財団で出逢った人たちとのかかわりの中にも隠れていた。渥美財団で出逢った人たちは、所属も研究テーマもバラバラで、何一つ共通点はないようにみえる。でも「何かを深く探求する」という点において、私たちは皆同じだ。だからこそ、渥美財団で同期や他の奨学生に会って、それぞれの話を聞く時間は私にとっては楽しく、刺激的で、多くの学びを得た。良い同期に恵まれたことは偶然であり、しかし必然だったのかもしれない。 こうした中、博士論文の執筆が落ち着いて次の進路を意識し始めた頃から、公私共に明確に新しい変化が起こりだした。まるで何か大きな目にみえないものの動きの中で自分が流されているような感覚を覚えた。これがいわゆる「転機」というものなのだろう。そんな中で出逢ったのが、インド占星術だった。 占星術師から渡されたのは、私が生まれた時間に生まれた場所の空にあった星の位置を記号で示した紙数枚と、私が生まれてから120歳を迎えるまでの年月日が星の巡りごとに細かく分けられ示されたカレンダーだった。そして、その年月日の羅列こそが、私を最も驚かせた。カレンダーで示された私が生まれた時からの星の巡りの中で、「転換期」として示されていた時期は、いずれも私が初めて調査地を訪れた年、博士課程に進学した年、そして博士論文を提出した時期と一致していたのだ。私は人よりも時間をかけて得た博士号だったけれど、もしかしたらこれが私の星の巡りに合った時間の使い方だったのではと思うと、ふと笑いがこぼれた。私という人間の人生も、実は大きな宇宙の動きの一部に位置づけられているかもしれないと思えたからだ。 インド占星術ではその後の自分の行動に対して何か具体的な指針が示されることはない。けれども、私には十分すぎる体験だった。博士論文の執筆を終えた今、私は遂に一人の「研究者」としての道を歩いていくことになる。それは決して楽な道ではないかもしれない。しかし、自分の存在にこの宇宙の中で何かの使命が存在しているとするならば、私はただ恐れることなく、自分ができることにひたすら邁進して歩み続けるしかないのだ。 <廣田千恵子(ひろた・ちえこ)HIROTA_Chieko> 2022年度渥美国際交流財団奨学生。2023年3月千葉大学博士後期課程修了。博士(学術)。2023年4月より日本学術振興会特別研究員PD(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)。専門は文化人類学、民族学、地域研究。主な調査対象は中央ユーラシアにおけるカザフの装飾文化動態および牧畜研究。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で北海道大学特任講師の朴炫貞さんから共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆奥本素子編『サイエンスコミュニケーションとアートを融合する』 先端的な科学技術が社会に実装される際に、その間をつなぐものがサイエンスコミュニケーションである。そこにアートを取り入れたとき、どのようなコミュニケーションが生まれるのか。本書ではアートとサイエンスコミュニケーションの交差の歴史を紹介しながら、アートを活用した活動のデザインについても触れていく。 執筆者:奥本素子、仲居怜美、朴炫貞、室井宏仁〈日本学術振興会助成刊行物〉 発行 ひつじ書房 定価5000円+税 A5 判上製カバー装 272頁 ISBN978-4-8234-1175-5 ブックデザイン 三好誠(ジャンボスペシャル) 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1175-5.htm -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」へのお誘い(最終案内) 仕事や子育てなど日々の暮らしを支えている要素は様々ですが、自分を育ててくれた家族の存在も年齢を重ねるごとに実感します。コロナのように渡航ができなくなればなおのこと、そばにいないでどこまで家族をケアできるのかが問題になります。今回のカフェでは、進学やキャリアで母国から遠く離れて暮らす世代が、親や家族をどうケアできるかを出発点として、グローバル化、ITの力、そして、家族の寄り添い方など多様な観点からいろいろな体験談を交えて議論します。 参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「国境を超える『遠距離ケア』」 日 時:2023年10月14日(土)14:00~16:00 方 法:会場(渥美財団ホール)およびオンライン(Zoomミーティング) 言 語:日本語 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA] ※参加申込:下記リンクより参加登録をお願いします。 https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEldeGvqDIoHtGhPStPxtyAE8hKB4YAyGdw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 社会がグローバル化する中で世界を移動する人々の数も急激に増加している。国連の2013年の調査によると世界人口の約3.2%が移動人口に当たると言われている。日本に目を向けると、外国人移住者数も年々増加しており、滞在の長期化も進んでいる。出入国在留管理庁のデータによると、2022年6月末の在留外国人数は296万人で、前年末に比べ20万人(7.3%)も増加したことが分かった。 こうした変化の中、在日外国人移住者もまた新たな課題に直面している。在日外国人移住者は日本での生活基盤を自ら構築することはもちろん、母国に残る家族の健康、介護問題も考えざるをえない。こういった外国人ならではのライフワークバランスはキャリアにも影響する。またコロナ禍では、日本における外国人の(再)入国制限のため自由に日本と母国の間に行き来できず、帰国したくてもできなかった事例や、家族のために日本での生活を諦めて帰国を選択した者も見られる。 今回のカフェでは ・日本における国境を超える遠距離介護の実態と背景 ・海外における事例と取組み ・課題の改善策 の3点について参加者と一緒に考え、ディスカッションを通して継続的に成長するグローバル社会に有意な示唆を得る事を目的とする。 ■プログラム 14:00 開会挨拶 14:05 ケア状況や遠距離ケア問題について紹介 14:55 質疑応答 15:10 ディスカッションの準備(グループ分けと課題の提起) 15:15 グループディスカッション 15:35 ディスカッション内容の報告 15:55 閉会挨拶 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Cafe19_Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/cage19_poster.jpg -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【4】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • Nora WEINEK “Grimm’s Fairytales and Archetypes”

    ********************************************** SGRAかわらばん984号(2023年10月5日) 【1】エッセイ:ノーラ・ワイネク「グリム童話とアーキタイプ」 【2】寄贈書紹介:林少陽『戦後思想と日本ポストモダン』 【3】第19回SGRAカフェへのお誘い(再送) 「国境を超える『遠距離ケア』」(10月14日、東京+オンライン) 【4】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】SGRAエッセイ#746 ◆ノーラ・ワイネク「グリム童話とアーキタイプ」 グリム童話はヨーロッパの文化的遺産であり、世界中で愛されている童話の一つでもある。グリム兄弟が編集した童話には、豊かな人間の内面に対する洞察が含まれている。しかし、昔の人の単なる物語ではなく、無意識に常識を共有し、感情やトラウマを昇華する重要なツールでもあった。 グリム童話は人間の共通の心の構造であるアーキタイプ(心理的原型)を体現する物語を多く含んでいる。アーキタイプは人間に生まれ持ってそなわる集合的無意識で働く「人類に共通する心の動き方のパターン」である。ユング心理学の中核的な概念で人間の共通の心の構造でもあり、無意識に作用する力を持つ。人間の不可解な部分を理解し、何を望んでいるか、そして何を恐れているかを理解するための重要な要素だ。 名作『シンデレラ』を分析してみよう。アーキタイプを象徴する要素がたくさん含まれている。主人公は母親を失った孤独な少女であり、悪意ある義母と義姉たちに虐待されている。家庭の状況に対して自分自身を犠牲にしているように見えるが、彼女の真の力は内面にある。彼女は偽りのない心、博愛、そして自己犠牲精神を象徴するアーキタイプを体現している。 シンデレラは魔法使いである「フェアリーゴッドマザー」というアーキタイプともつながっている。フェアリーゴッドマザーは無限の可能性を象徴し、新しい始まりと成長をもたらす力を代表する。シンデレラに魔法をかけ、魔法のカボチャの馬車と美しい衣装を与える。これらのシンボルは新しい可能性と、自己変革を象徴する。また、シンデレラに「真実を言いなさい」という言葉を残すが、これは自分自身を認識し、自分自身を表現するための重要性を強調するアドバイスでもある。 そして王子との出会いを通じて、シンデレラは愛のアーキタイプを体現する。王子はシンデレラの魂の深い部分を理解し、彼女を愛することができる。この愛の関係は自己認識と成長を促し、シンデレラを真の幸福へ導く。ユング心理学的な観点から見ると、私たちが内面に持つアーキタイプを通じて、潜在意識の深い部分を認識することが可能となる。 『白雪姫』は美と嫉妬というアーキタイプを体現する物語である。白雪姫の美しさは彼女を破滅に追いやり、王妃の嫉妬心を引き起こす。王妃は魔法の鏡に自分の美しさを問い、鏡が白雪姫を美しいと答えたことで、白雪姫を殺すために彼女を追い詰める。この物語は美と嫉妬のアーキタイプが、人間の深層心理にどのように作用するかを示している。 『ラプンツェル』は自由、成長、そして愛のアーキタイプを体現する。主人公は塔に閉じ込められ自由を奪われている。しかし、自分自身を表現する方法を見つけ、自分自身を解放する。王子との出会いを通じて愛を見つけ、自分自身の成長につながる新しい始まりを迎える。この物語は人間が自由を手に入れ、自己表現を追求するプロセスが、成長と愛につながることを示している。 このように、グリム童話は人間の深層心理に影響を与えるアーキタイプを体現する物語を多く含んでいる。ユング心理学的な分析を通じて隠された意味を理解することができ、私たちは自分自身をより深く理解し、自己受容と成長を促すことができる。グリム童話は人間の心の深い部分を探求するための貴重な資源であり、人生の新しい始まりを迎えるためのヒントを提供している。私たちの人生において何か障壁に直面した時、グリム童話を読むことをお勧めする。きっと様々な問題に対して、より深い理解を与え、何らかの解決策もしくはヒントを提示してくれるだろう。 <ノーラ・ワイネク Nora_Beryll_WEINEK> オーストリアのウィーン出身。2011年日本文化研修留学生として琉球大学に1年留学。2013年オーストリアのウィーン大学日本学学部卒業。2017年一橋大学大学院社会学研究科の修士課程卒業し、博士課程に進学。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員で澳門大学教授の林少陽さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆林少陽『戦後思想と日本ポストモダン:その連続と断絶』 70年代末からおよそ40年にわたるポストモダンの流行は日本の思想界に何をもたらしたのか。丸山眞男「悔恨の共同体」から柄谷行人「世界史の構造」へと至る戦後思想の連続と断絶を、東アジアの視点から描く現代日本思想史。 発行 白澤社、発売 現代書館 定価 3,300円(本体3,000円) 体裁 四六判上製、264頁 ISBNコード 978-4-7684-7998-8 発売日 2023年8月 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://hakutakusha.co.jp/book/9784768479988/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」へのお誘い(再送) 仕事や子育てなど日々の暮らしを支えている要素は様々ですが、自分を育ててくれた家族の存在も年齢を重ねるごとに実感します。コロナのように渡航ができなくなればなおのこと、そばにいないでどこまで家族をケアできるのかが問題になります。 今回のカフェでは、進学やキャリアで母国から遠く離れて暮らす世代が、親や家族をどうケアできるかを出発点として、グローバル化、ITの力、そして、家族の寄り添い方など多様な観点からいろいろな体験談を交えて議論します。 参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「国境を超える『遠距離ケア』」 日 時:2023年10月14日(土)14:00~16:00 方 法:会場(渥美財団ホール)およびオンライン(Zoomミーティング) 言 語:日本語 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA] ※参加申込:下記リンクより参加登録をお願いします。 https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEldeGvqDIoHtGhPStPxtyAE8hKB4YAyGdw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 社会がグローバル化する中で世界を移動する人々の数も急激に増加している。国連の2013年の調査によると世界人口の約3.2%が移動人口に当たると言われている。日本に目を向けると、外国人移住者数も年々増加しており、滞在の長期化も進んでいる。出入国在留管理庁のデータによると、2022年6月末の在留外国人数は296万人で、前年末に比べ20万人(7.3%)も増加したことが分かった。 こうした変化の中、在日外国人移住者もまた新たな課題に直面している。在日外国人移住者は日本での生活基盤を自ら構築することはもちろん、母国に残る家族の健康、介護問題も考えざるをえない。こういった外国人ならではのライフワークバランスはキャリアにも影響する。またコロナ禍では、日本における外国人の(再)入国制限のため自由に日本と母国の間に行き来できず、帰国したくてもできなかった事例や、家族のために日本での生活を諦めて帰国を選択した者も見られる。 今回のカフェでは ・日本における国境を超える遠距離介護の実態と背景 ・海外における事例と取組み ・課題の改善策 の3点について参加者と一緒に考え、ディスカッションを通して継続的に成長するグローバル社会に有意な示唆を得る事を目的とする。 ■プログラム 14:00 開会挨拶 14:05 ケア状況や遠距離ケア問題について紹介 14:55 質疑応答 15:10 ディスカッションの準備(グループ分けと課題の提起) 15:15 グループディスカッション 15:35 ディスカッション内容の報告 15:55 閉会挨拶 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Cafe19_Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/cage19_poster.jpg -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【4】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • KIM Kyongtae “Kokushi Dialogue#8 Report”

    ********************************************** SGRAかわらばん983号(2023年9月21日) 【1】金キョンテ「第8回国史たちの対話レポート」 「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか―教育・メディア・研究」 【2】第19回SGRAカフェへのお誘い(再送) 「国境を超える『遠距離ケア』」(10月14日、東京+オンライン) 【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送) 「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市) ********************************************** 【1】 金キョンテ「第8回国史たちの対話レポート」 8月8日、やや曇った空の下で第8回韓国・日本・中国における国史たちの対話の可能性「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか―教育・メディア・研究」が対面とオンラインで始まった。 早稲田大学に設けられた会場では一般参加者も席を埋め尽くした。初日は4つのセッションで構成され最初のセッションは村和明先生(東京大学)の司会で行われた。本格的な報告に先立ち、劉傑先生(早稲田大学)の開会挨拶と三谷博先生(東京大学名誉教授)の趣旨説明、発表討論及び参加者の自己紹介があった。劉傑先生は20世紀の戦争と植民地支配、和解が各国でこれまでどのように語られていたかについて過去に開催された「国史たちの対話」に基づき「冷静かつ落ち着いた議論を続けることができると期待している」とし、相手国の歴史認識に耳を傾ける機会になると強調した。 三谷先生は「未来のために」というキーワードをまず提示。国史たちの対話に関する企画が出た時から今回のテーマをどうしても試みたいと思っていたが、今になってようやく話せるようになったことを嬉しく思うと話された。続いて、このような大きな学術的な集いを立ち上げたきっかけについて説明してくださった。日本だけでなく、様々な国が歴史に関する対話を積み重ねていく中で、政府の対決政策により逆風が吹いたこともあったが、それでも歴史対話が再開されたということに意味があると話された。 第2から第4セッションは、それぞれ教育、メディア、研究をテーマにした3つの発表と相互討論で構成。2番目の「教育」セッションは南基正先生(ソウル大学)の司会で進行された。最初は金泰雄先生(ソウル大学)の「解放後における韓国人知識人層の脱植民地への議論と歴史叙述の構成の変化」だった。この発表では、韓国における解放(1945年8月15日の独立)後の歴史教科書の記述の変遷過程を説明しながら、韓国の国内外の政治と歴史教科書の内容との関係を緻密に追跡した。唐小兵先生(華東師範大学)は「歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理―20世紀半ばの中国に関する『歴史の戦い』」と題して長春包囲戦に対する相反する記憶及び評価を紹介し、歴史と啓蒙との緊張関係という問題を提示した。 塩出浩之先生(京都大学)は「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか―教科書と教育現場から考える」と題して日本が戦後において教科書を制作する過程で経験した変化と変化のきっかけについて説明したが、特に教科書が教育現場でどのように認識され使用されたかについての部分や、現在進行形の課題(加害者と被害者としての両面性等)はこれまで聞くことができなかった内容であり、韓国と中国の研究者にとって大いに参考になった。 続く討論では、日本の教育現場で働いている教師の方々の課題を聞くことができた。新しい歴史総合科目をどのように教えるか、歴史教育において史料の重要性が非常に大きいにもかかわらず現場で集中的に扱うことが難しいという(受験等による)現状等が挙げられた。韓国と中国も似たような経験や課題があるという事実を共有することができた。記憶が啓蒙や共感のために(厳密な歴史的事実と異なるかもしれない方向で)使われる事例があり、個人の多様な記録のような(やはり歴史的事実とは異なる可能性があり得る)資料が注目されている問題も議論されたが、必ずしもそれを否定的に捉える必要はないとの意見が少なくなかった。これは今回の「対話」の主要な論点の一つだった。 第3セッションは「メディア」をテーマに李恩民先生(桜美林大学)が司会を担当した。江沛先生(南開大学)は「保身、愛国と屈服:ある偽満州国の『協力者』の心理状態に対する考察」で、中国における日中戦争は国家対国家の戦争として明確に記録されているが、果たして当時中国に住んでいた人々もそうだったのかという点について、ある人物の日記を通して考察した。当時の人々には生存が重要であり、様々な顔(反国と愛国)を持った人も存在していたということであった。歴史学者は弱者である民衆に目を向け、人間の尊厳を尊重すべきだと指摘した。 福間良明先生(立命館大学)は「戦後日本のメディア文化と『戦争の語り』の変容」で映画を中心にメディアが戦争を語る手法の変化の流れと時代的背景を同時に説明した。被害と加害、その両方の立場があり得るということへの葛藤を詳しく紹介し、このような葛藤が薄れている現在、そしてその中間の市民社会の間で歴史研究者がどのような役割を果たすべきかを考えなければならないという課題を投げかけた。 李基勳先生(延世大学)は「現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響―映画、ドラマを中心に」というテーマで韓国の戦争映画を分析した。韓国において植民地と戦争は異なる経験であった。しかし、韓国が国民国家を形成する過程でそれらが一緒に語られることもあり、その過程で善と悪が二項対立する典型的なイメージが作られる様相、そして21世紀に近づき変化が発生する様相を映画を通じて示した。 第4セッションのテーマは「研究」。宋志勇先生(南開大学)の司会でこの日の最後のセッションが行われた。安岡健一先生(大阪大学)は「『わたし』の歴史、『わたしたち』の歴史―色川大吉の『自分史』論を手がかりに」で伝統的な歴史認識の「外部」にいる一般市民の歴史認識、そしてそれに関する歴史学の認識をテーマとした。「私の歴史」を書くことでステレオタイプの歴史に飲み込まれなかった物語が残ることもある。これをどのように生かすかを考えなければならず、これこそ歴史学が市民社会に貢献できる部分だという意見を提示した。 梁知恵先生(東北亜歴史財団)は「『発展』を越える、新しい歴史叙述の可能性:韓国における植民地期経済史研究の行方」と題して、まず韓国における植民地時代の経済史研究のいくつかの方向性(植民地収奪論、植民地近代化論、そして植民地近代性論)について説明した。21世紀に入り、既存の研究動向の速度が下がり、学術的な議論を越えた強烈な政治的攻撃が登場し危機に直面しているが、環境と生態のような批判的な代案が登場しているという事実に希望を示す研究だった。 陳紅民先生(浙江大学)は「民国期の中国人は『日本軍閥』という概念をどのように認識したか」で、用語に付与される歴史性について問題提起をしながら、「日本軍閥」という用語に注目した。我々が知っている歴史用語の意味と当時の意味は異なることもあり、時代、発言の主体、陣営によって異なる文脈で使われたりしたという事実を想起しなければならないと述べた。データベースの構築と活用、ビッグデータの活用等が活発化している現在の学界で、このような問題意識に基づいた研究が積極的に試みられるものと期待される。 最後のセッションの討論では主に(歴史学者ではなく)個人の歴史叙述に関する問題(歴史と個人史の衝突可能性)、個人の歴史叙述に対する歴史学者の介入の仕方等をめぐる3カ国の研究者たちの課題について議論が交わされた。意見が一致したわけではなかったが、個人の歴史、自分史の歴史叙述に対する肯定的な意見は興味深かった。 最後に劉傑先生が初日の論点をまとめてくださった。3カ国が現代に経験してきた歴史的文脈が異なるため、各国で戦後の歴史像を作る際に異なる部分が現れたということ、この異なる文脈に基づいた様々な模索が(肯定的な方向にも)進んでいるということ、しかしこの異なる歴史観の間の距離をどう縮めるかという問題が残っているということだった。そして歴史教育において、いわゆる東アジアの新しい歴史像をどのように作るかについて、かなり共通した部分(日本の歴史総合、韓国の東アジア史、中国上海での試み)が見られるという点も取り上げた。このような状況において歴史家はどのような役割を果たすべきか、今回の発表では政治と歴史、歴史と道徳、史料の問題が論点として登場したが、そのような問題意識に基づいた努力が維持できれば、歴史和解は可能だという展望が提示された。 8月9日は総合討論が行われた。議論を始める前に三谷先生のコメントがあった。「パブリック」をどのように歴史につなげるかについての課題を個人的な研究経験に照らして丁寧に聞かせてくださった。すなわち、研究テーマによっては史料が存在しないこともあり得るが、史料に限界がある状況で物語を作って良いかというジレンマに注意してほしいという要望だった。 討論は2つのセッションに分けて行われた。第5セッションは鄭淳一先生(高麗大学)が司会を務めた。このセッションでは「3カ国のそれぞれ異なる文脈の被害者の敍事について」「日本の50~70年代のメディア文化は現代の代案になり得るのか」「満州の『協力者』に対する解釈の平面性」(金憲柱先生(国立ハンバット大学))、「満州国で作った映画はどの国の映画として見るべきか」(袁慶豊先生(中国伝媒大学))、「個人の目で見た歴史に関する事例(イギリスの鉱山経営者ネイサン)と戦争と植民地支配の多元的理解の可能性」「韓国と日本が政治的に対立していた時期に開かれた日韓共同展示から見られた可能性」(吉井文美先生(国立歴史民俗博物館))、「抗日ドラマの生成ロジックと伝播方式、そして一般人への影響」(史博公先生(中国伝媒大学))等の指定討論者からの質疑があった。 新しい教科書に対する議論も活発に行われ、歴史総合の場合誰が教えるか等現場で直面する様々な課題が残っており、内容に対する批判もあるが、以前の問題を乗り越えながらも学生たちが日本の歴史を好きになるよう努力してきたという事例が紹介された。三谷先生は世界史と日本史を融合することによってグローバル化と隣国との関係を重視するという要素がカットされる等の限界があったため、今後はきちんとした指導要領を作るために努力しなければならないという点を補足説明した。 フロアからも有意義なコメントがあった。川崎剛氏(元朝日新聞)がマスコミに掲載される歴史的記事が若い記者によって作成されるため問題もあり得るとの事例を紹介した後、それが事実とはいえ、大手マスコミの記者こそ大学で教育を受けているので教育界の責任がないとは言い切れないこと、若い記者たちは近現代史の主要な事件を経験することができなかったため限界がないわけではない点等に言及した。そして若い記者たちは困難を経験しながら記事を作成するしかないが、今後「関東大震災100周年」等多様な記事が配信されるので、学界も共に努力してほしいという要請で発言を結んだ。これは今回の対話の論点とも合致するコメントだった。歴史研究者はプロフェッショナルとしての自らの素養を守りつつも、新しい時代において求められる役割も担うべきであり、そのため様々な「集団」と意思疎通できなければならないということだ。 第6セッションは彭浩先生(大阪公立大学)の司会で行われた。「石明楼日記の真実性について」(張暁剛先生(長春師範大学))、「生態史が国民国家単位の歴史を越えられるのか」「共同体内の悪の陳腐さに対する省察と残された宿題」「歴史教育は『なぜ』、『どのように』を越え『どこへ』という方向も提示しなければならない」「歴史学の未来に関する議論が必要であり、それは人間への尊重を込めたものでなければならない」(金ホ先生(ソウル大学))、「国家の歴史と地方(地域)の歴史との関係」「地方でプロフェッショナルな歴史学者を育成する基盤に関する問題」「修学旅行を例に挙げた地方の歴史(教育)と観光のジレンマ」(平山昇先生(神奈川大学))等の指定討論者による発言以外にも、「中国の学生たちの近代化に対する認識問題の原因」(市川智生先生(沖縄国際大学))と史料批判を教材化する必要性に対する現場の教師の方々からの要請もあった。 最後に、趙珖先生(高麗大学名誉教授)の閉会挨拶と今西淳子渥美国際交流財団常務理事の振り返りの時間が設けられた。趙珖先生は久しぶりに開催された対面会議で比較的十分な討論時間が確保されただけに、最近では最も満足できる会議になったと評価し、2025年の「第2次世界大戦終戦80周年」を控え、3カ国でそれぞれ「光復」、「勝戦」、「終戦」という異なる用語と概念で理解されているこの事件に対し、それぞれ歴史的評価が行われるだろうが、「国史たちの対話」が役割を果たすことを期待すると述べられた。今西常務理事はこれまでの「国史たちの対話」を振り返りながら、来年のタイでの再会を約束した。 3カ国の研究者たちは各国が直面している現状とその背景からもたらされる各国の課題を聞かせてくれた。3カ国は20世紀の激動する国際情勢の中で東アジアという同じ地域に存在しつつも異なる困難を経験した。研究者はそれをどのように評価し記録するかについて葛藤し、それも歴史の研究対象になってきた。自国の歴史に対する評価と解釈をめぐる議論は今なお続いており、「解決」されていない部分も多いことが今回分かった。しかし、希望も見出せた。葛藤と課題の中には共通するものもあれば、他国との関係の中で発生したものもあった。自国史での議論と悩みを共有することから3カ国の歴史対話を合理的かつ肯定的な方向へ導く糸口を見出すこともできるという期待が生まれた。 筆者は中学・高校の歴史教師を養成する歴史教育科に在職している。今回の対話は筆者本人にも大いに勉強になった。この経験を生かして生徒、教師と共に努力していきたい。今回の対話では日本の教育現場の方々と話を交わす機会もあった。研究者たちと同様、日本の教師の方々もやはり韓国の教師と似た悩みを抱えていた。研究者だけでなく韓国と日本、そして中国の教師と研究者たちが共に意思疎通する場がより多く用意されるよう努力しなければならない。 最も多く取り上げられた論点は、個人の歴史と歴史教育現場に対するものだった。これは急変する時代、来たる未来に歴史学が担うべき役割への課題が込められたものだった。反知性主義の蔓延、AIの発展、出生率の低下等、急変する時代に「もはや歴史学の役割は終わった」と嘆く歴史学者たちもいる。歴史学はどのような役割を果たすべきで、何ができるのだろうか。歴史学は従来の研究手法も維持しつつ、新しい時代の要求にも答えていかなければならない。 個人的には金ホ先生の提言が記憶に残る。「未来の歴史学は相互の侮辱を止め、『人間に対する尊重』を抱え込むべき」「仁義の持つ排他性を警戒し、不仁と不義に対する感覚を鍛え、過度な義と偏狭な仁を制御しよう」。私は最近見た映画と本を思い出した。有名な「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は互いを慰め合い、他人に親切に接しようというメッセージを伝え共感を呼んだ。『なぜ魚は存在しないのか』という本で、ルルー・ミラーは「価値のない生命はない。我々の人生は全て大切だ」と叫んでいる。時代が望んでいるのはひょっとしてこのような考え方ではないか。そしてそれは、歴史学の新しい役割の一つになり得るものではないか。 歴史学が長年築いてきた学問としての基本原則を守りながらも、多様な可能性、方法論に門戸を開くならば、対決して誰かに(歴史的対象であれ、現在の隣人であれ)勝たなければならないという義務感を振り払うことができれば、そして学問の親切さを広めれば、歴史学は新しい生命力を持つことができるのではないか。今回の対話を通じてこのような期待が膨らんだ。 当日の写真 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Kokushi8_photos.pdf アンケート集計結果 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/kokushi8_feedback.pdf   ■ 金キョンテ(キム・キョンテ)KIM Kyongtae 韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員、高麗大学人文力量強化事業団研究教授を経て、全南大学歴史敎育科助教授。戦争の破壊的な本性と戦争が荒らした土地にも必ず生まれ育つ平和の歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)、虚勢と妥協 ¥-壬辰倭乱をめぐる三国の協商-(東北亜歴史財団、2019) -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」へのお誘い(再送) 仕事や子育てなど日々の暮らしを支えている要素は様々ですが、自分を育ててくれた家族の存在も年齢を重ねるごとに実感します。コロナのように渡航ができなくなればなおのこと、そばにいないでどこまで家族をケアできるのかが問題になります。 今回のカフェでは、進学やキャリアで母国から遠く離れて暮らす世代が、親や家族をどうケアできるかを出発点として、グローバル化、ITの力、そして、家族の寄り添い方など多様な観点からいろいろな体験談を交えて議論します。 参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「国境を超える『遠距離ケア』」 日 時:2023年10月14日(土)14:00~16:00 方 法:会場(渥美財団ホール)およびオンライン(Zoomミーティング) 言 語:日本語 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA] ※参加申込:下記リンクより参加登録をお願いします。 https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEldeGvqDIoHtGhPStPxtyAE8hKB4YAyGdw#/registration お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 社会がグローバル化する中で世界を移動する人々の数も急激に増加している。国連の2013年の調査によると世界人口の約3.2%が移動人口に当たると言われている。日本に目を向けると、外国人移住者数も年々増加しており、滞在の長期化も進んでいる。出入国在留管理庁のデータによると、2022年6月末の在留外国人数は296万人で、前年末に比べ20万人(7.3%)も増加したことが分かった。 こうした変化の中、在日外国人移住者もまた新たな課題に直面している。在日外国人移住者は日本での生活基盤を自ら構築することはもちろん、母国に残る家族の健康、介護問題も考えざるをえない。こういった外国人ならではのライフワークバランスはキャリアにも影響する。またコロナ禍では、日本における外国人の(再)入国制限のため自由に日本と母国の間に行き来できず、帰国したくてもできなかった事例や、家族のために日本での生活を諦めて帰国を選択した者も見られる。 今回のカフェでは ・日本における国境を超える遠距離介護の実態と背景 ・海外における事例と取組み ・課題の改善策 の3点について参加者と一緒に考え、ディスカッションを通して継続的に成長するグローバル社会に有意な示唆を得る事を目的とする。 ■プログラム 14:00 開会挨拶 14:05 ケア状況や遠距離ケア問題について紹介 14:55 質疑応答 15:10 ディスカッションの準備(グループ分けと課題の提起) 15:15 グループディスカッション 15:35 ディスカッション内容の報告 15:55 閉会挨拶 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Cafe19_Program.pdf ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/cage19_poster.jpg -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送) 日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。 テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」 日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分 会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18) https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8 言 語:日本語・中国語(同時通訳) ※参加申込(クリックして登録してください) http://bit.ly/JTAFF10 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ◆開催趣旨 東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。 ◆プログラム 講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授) 講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター) 講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社) 全体質疑応答 ※詳細は下記リンクをご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/taiwan/2023/18448/ ※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 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