SGRAメールマガジン バックナンバー

  • Abdin “Distress of Graduate Students”

    ********************************************************************** SGRAかわらばん600号(2015年12月24日) 今年もSGRAかわらばんを毎週お読みいただき、ありがとうございました。 新年は1月7日(木)から始めます。どうぞよいお年をお迎えください。 ********************************************************************** SGRAエッセイ#480 ◆モハメド・オマル・アブディン「大学院生の苦悩」 初対面の人間に「お仕事は何ですか」と言われ、「研究をやっています」と苦しまぎれの返事をすると、「大学の先生ですか」と詰め寄られ、「いいえ、大学院生」とあまり明かしたくない事実の表明を余儀なくされる。そうしたら、これまで熱心に聞いてきた相手が、落胆して、「あぁ、学生さんですね」と声のトーンを急降下させるのだ。 日本は仕事をしていない人間にとって居心地の悪い国である。将来研究者として社会に還元しようと思っていても、さすがに30代半ばになって学生を名乗ると、周囲の冷めた視線は見えずとも感じられるのだ。長くて孤独な作業の博士論文執筆に嫌気がさしてしまいそうな毎日。その上に、周囲の評価がわかると寂しい思いをしてしまうことは、多くの大学院生が経験していることではないか。 「何の役に立つ?」と思われている、私のような人文社会科学系の研究をしている身としては、なおさらその冷ややかな視線を感じる。そして、その冷たい視線は一般人の間の共通認識に留まらない。数か月前に、文部科学省は、国立大学の人文科学系の学部の見直しを進めることを宣言している。卑屈になっている私からみれば、この動きは「コストばかりかかって、お金になる成果物を出せない学問はいらない」を意味している。それでは、人文科学、または社会科学系の学問は本当に役に立たないのか。私の友人Hさんの研究を例に挙げて考えてみたい。  Hさんは30歳ぐらいの女性研究者で、専門は文化人類学だ。これぞ、おそらく文科省がターゲットにしている研究分野だろうと思われる。Hさんの研究テーマは、南スーダンのヌエール族の預言者の語りである。「へー」と言いたくなるような研究分野。いったいこの研究は、誰の何のためにあるものだろうかと思われても仕方ない分野だ。本人も、いつも研究テーマについて聞かれると、顔をひきつったまま、「ヌエールの預言者」について調べていますと答え、聞き手を圧倒してしまう。彼女は10年もこのことについて調査し続けており、南スーダンの僻地と思われる街に2年ほど住み着いて、粘り強く一生懸命ヌエールの預言者について研究してきた。そのために、学術振興会の奨励費、あるいは、民間財団の研究助成金を獲得している。彼女は、研究の重要性を認識しつつも、やはり周囲の冷ややかな視線を感じて、あまり積極的に研究内容について発言しようとしてこなかった。だが、ある出来事をきっかけに、彼女の研究の重要性が認識されることになった。 それは、2013年末の南スーダン内戦のぼっ発である。南スーダンがスーダンから独立した2011年以降、日本の自衛隊が南スーダンの国連PKOミッション活動の一環として送り込まれ、道路補修などの業務を展開している。自衛隊員の安全は、当然ながら日本人の最大の関心事だと誰しも思うだろう。そして、隊員の安全を保障するためには、当然ながら、現地の情報をいかに正確に獲得するかが重要なポイントであろう。自衛隊の活動が始まってから2年たった2013年12月に、デンカ族出身のサルファ大統領派と、ヌエール族出身の元副大統領のマチャール派が、首都などで軍事衝突し、その後、瞬く間に暴力が南スーダン全土に広がっていった。Hさんが研究の対象としてきた「ヌエールの預言者」らの語りは、まさに、ヌエールの人々を戦争に先導する大きな役割を担ったという見方もある。今回は、日本の自衛隊の隊員には被害がなかったが、仮に、犠牲者が出た場合には、きっと国民は「何であんな危ないところに派遣したんだ」と政府を攻め立てただろう。 何が言いたいかというと、自衛隊の派遣をする前に、南スーダンの専門家に、政府がもっときちんと南スーダンの現状について聞き取り、かつ意見を求める必要があったにも関わらず、「ヌエールの預言者」についてのHさんの研究と紛争の可能性の関連性について、政府などは気付いていなかった。要するに、彼女のこの地味な研究が役に立たないのではなく、その研究を活用する工夫や努力が政府などになかったということだ。 10年間以上、地道に紛争と関連の強いヌエールの預言者について調べてきたHさんの研究成果は、まさに、この時でなければ活用される機会がなかったかもしれない。たまたま日本の自衛隊がスーダンに派遣されなければ、彼女の研究の意義を理解してくれる人はいなかったかもしれない。 つまり、ことが起きてから研究するのでは意味がない。若い研究者が様々な分野で研究を積み上げて、初めて、その研究が活用される可能性が出てくる。仮に、実用化されなかったとしても、その研究成果が全く無駄かといわれると、そうではない。いま役に立たなくても、今後10年、20年、あるいは、もっともっと後に、いつかその研究が何かのために重要な参考となるかもしれない。だからこそ、国は、目の前の利益ばかり追求するのではなく、どっしり構え、研究に太っ腹になるべきではないかと思う。 それとともに、人文社会科学などの分野の研究者側も努力する必要がある。自分の研究の内容、または重要性について、国民に分かりやすく発信していくことが急務となっている。 ~日本政府へ~ 経済協力開発機構(OECD)加盟30か国のうち、教育機関に対する公的支出比においては、日本は最下位周辺をうろうろしている。これで良いのでしょうか?様々な分野の若手研究者が、自身の研究に劣等感を感じることなく、堂々と研究できる環境を国が作っていくべきではないのでしょうか? 「無意味な研究には金を出せない」と決めつけているようでは、先進国としてあまりに寂し過ぎます。限られた資金が、幅広い研究分野に適切に配分されるよう、国と研究機関の間で、もっと建設的な議論がなされることを切に願うばかりです。 尚、本エッセイはすべて私の主観に基づいて考えを述べたもので、科学的調査に基づいていないことをご了承ください。 <アブディン モハメド オマル Mohamed Omer Abdin> 1978年、スーダン(ハルツーム)生まれ。2007年、東京外国語大学外国語学部日本課程を卒業。2009年に同大学院の平和構築紛争予防修士プログラムを終了。2014年9月に、同大学の大学院総合国際学研究科博士後期課程を終了し、博士号を取得。2014年10月1日より、東京外国語大学で特任助教を務める。特定非営利活動法人スーダン障碍者教育支援の会副代表。 *本エッセイは、渥美国際交流財団の奨学期間終了時のエッセイとしてご提出いただいたものですが、執筆者の了解を得てかわらばんで配信します。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第20回共有型成長セミナー(2016年2月10日マニラ) 「人間生態学と持続可能共有型成長」<ご予定ください> ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Li Ting “Unauthorized Shooting and Children’s Rights”

    ******************************************************************************** SGRAかわらばん599号(2015年12月17日) (1)エッセイ:李てい「無断撮影から考える子供の人権」 (2)新刊紹介:孫建軍「近代日本語の起源:幕末明治初期につくられた新漢語」 ******************************************************************************** (1)SGRAエッセイ#479 ◆李てい「無断撮影から考える子供の人権」 品川駅で無断撮影の一部始終を目撃した。小学校の放課後の時間帯で、制服姿の私立小学校の男子生徒2人がホームで電車を待っていた。かわいいなあと思って、ホームを歩きながら、遠くから眺めていた。すると、子どもたちのそばを通りかかった2人の西洋人の女性が目に入った。彼女たちは子供の制服姿を珍しがって、スマホで男の子たちを真正面から撮ろうとしていた。子供たちはその行動に気づき、撮られないように後ろを向いたのだが、女性たちは目の前まで近づいて、バシバシと正面から写真を撮った。女性たちは嬉しそうに、お互いのスマホに収めた写真を見せ合いながら、はしゃいでエスカレーターに乗り、ホームを後にした。一方で、子供たちはどうしたらよいか分からない不安な表情で電車を待ち続けていた。 それを目の当たりにして、すぐにでも「やめなさい!」と叫んで止めたかったし、女性たちを追いかけて「写真を削除しなさい」と要求したかった。しかし、行動に移すことはできず、ただ素通りしてしまった。結局、何もできなかった。目撃者は少なくとも20人以上はいたと推測されるが、私も含めて、女性たちの行動を止める人は1人もいなかった。子供たちに「守れなくてごめんなさい」と言いたいくらい、罪悪感に襲われてしまった。 一瞬、自分自身が無断撮影された嫌な記憶もよみがえってきた。小学校を卒業した夏休み、北京の親戚を訪問した時、人生初の北京ダックを堪能することになった。大人2人と子供7、8人というやや変わったお上りさんのような組み合わせで、高級感のあるレストランに入った。値段があまりにも高く、北京ダックと僅かな料理しか注文できなかったが、私たち子供は素直に喜んでいた。やっと北京ダックが出され、一番盛り上がっている時に、どこからかフラッシュを感じ、外国の観光客に様々な角度から撮影をされていることに気づいた。外国人の目にどのように映ったのか、撮られた写真は外国のどこでどう見られ、何を言われるのだろうかと気になり、恥ずかしくて不快だった。しかし、誰一人やめてくださいと抗議する勇気がなく、気まずい雰囲気の中、気づいていないふりをするしかなかった。 20年以上も経った今も、子供の無断撮影がまだ続いているんだと感じた。人権が叫ばれて久しい今日において、子供の人権に対する意識がまだ高くないことを垣間見ることとなった。 近年、インターネットの発達で、SNSなどで無断撮影ないし盗撮した写真がアップされるようになってきた。地域や国も違えば、使用許可がなくてもばれない、問題にはならないだろうというのは、当事者の心理かもしれない。写真自体がいくら自慢できたとしても、無断撮影や盗撮という行為は許されるものではなく、人にどのような印象を与えてしまうのか要注意ではないだろうか。写真の悪用はないにしても、子供を尊重しようとしない態度と行動はやめてほしい。 単に無断撮影だけに過ぎないということで、看過されてしまうのはどうかと思う。また、外国人だからそこまでの語学力がないというのも言い訳にすぎない。無断撮影ではあるが、たまたま外国人が異国のことを珍しがって、記念に残したいという気持ちを理解できなくもない。それにしても、本当に写真を撮りたいのであれば、大人であれ子供であれ、簡単な言葉かボディランゲージで許可を取ってから撮るようにしたい。そうすることで、お互いに素敵な思い出になるし、相互尊重のできる社会づくりにも貢献できるだろう。 ------------------------------------- <李てい(り・てい)Li_Ting> 早稲田大学大学院日本語教育研究科博士後期課程在籍。中国の曲阜師範大学で日本語教員として4年間教鞭をとり、2009年キャリアアップのため来日。 ------------------------------------- (2)新刊紹介 SGRA会員で北京大学外国語学院日本語言文科系副教授の孫建軍さんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆孫建軍著「近代日本語の起源:幕末明治初期につくられた新漢語」 17世紀以来、西洋文化の受容過程に誕生した新漢語は、現代中国語と日本語の共通財産である。「洋学」「国際」「英国」「米国」「露西亜」「大統領」「国会」「民権」「義務」など、日本の幕末維新期に成立した社会科学用語を対象に、漢訳洋書の影響を踏まえながら、その形成過程における新漢語発生のメカニズム、伝播のルート及び定着の過程を分析する。西洋文化の受容における日中の相違を解明した一書。本書の特色として、従来注目されなかった漢訳洋書『致富新書』の日本における翻刻版と、同書の翻訳版『致富新論訳解』の分析が挙げられる。また、西洋人宣教師が幕末維新期の啓蒙知識人との交流などを通じて、東アジアにおける近代知の空間形成に触媒的な役割を果たしたことを明らかにした点も、先行研究にないユニークな特徴の一つである。 著 者:孫建軍 発行所:早稲田大学出版部 発行日:2015年9月10日 A5判 324ページ 本体 3,700円+税 ISBN:978-4-657-15012-7 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.waseda-up.co.jp/history/post-583.html ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第20回共有型成長セミナー(2016年2月10日マニラ) 「人間生態学と持続可能共有型成長」<ご予定ください> ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Maquito “Is it not delightful to have a friend come from afar?”

    ******************************************************************************** SGRAかわらばん598号(2015年12月10日) (1)エッセイ:マキト「朋あり遠方より来る、また楽しからずや」 (2)寄贈本紹介:包聯群「現代中国における言語政策と言語継承」 ******************************************************************************** (1)SGRAエッセイ#478 ◆マックス・マキト「朋あり遠方より来る、また楽しからずや」 ハロウィーンの夜、コスチュームなしの普通の格好で、今西さんを囲んで渥美財団一期生4人(Jin、Shi、Yaku、Max)が新宿の中華料理店に集まった。3人は悠久の歴史をもつ中国大陸から、1人は東アジアの若き島国のフィリピンから来て、20年前に渥美財団で出会った。今回は北京に住むJinさんが来日していることがわかって、今西さんが東京に住む同期生に呼びかけてくれた。 混雑する店内に4時間も居座り、健康や子どもの教育など話題は尽きなかった。集まりに行く前に僕の頭に浮かんだことは、言うまでもなく現在進行中の南シナ海の領土問題である。中国やベトナムやフィリピンなどが南沙諸島(Spratly_Islands)の領有権を巡って争っている。実効支配を図るためにどの国も島々に建設を進めてきた。ただ、この数年間に中国は軍事基地としても利用できる埋め立て建設を急ピッチで進めており、地域外の先進国まで巻き込まれて、緊張感が高まっている。 ビールと紹興酒が少し進んだところで、この話題が取り上げられた。12.5%中国系である僕は今のフィリピン政府の強硬姿勢を批判し、中国がいかに好きかについて話した。中国人と結婚している親戚もいる。この夏、フェイスブック上でこの問題について熱い議論をしたことがあった。僕は一所懸命理性的な議論を促したが、フィリピン人の大半は、やはり凄く中国に脅威を感じ、アメリカや日本などの域外先進国の支援を大喜びしている。 実は、僕は、以前、米国などの軍事存在がなくても東アジア地域が繁栄できると信じていたときがあった。フィリピンの反共政策に影響を受けた中国脅威論の中でずっと育てられた僕にとっては、自分でも意外なことであった。 しかしながら、ハロウィーンの夜に中国の友達にも話したように、中国は最近、南沙諸島を両手で掴みとろうとしているが、その砂は指の間から溢れでてしまっている。昨年バリ島で開催した第2回アジア未来会議での基調講演に対して、僕は、「中国は可愛いパンダから凶暴な龍に変身した」とコメントした。つまり、東アジアの団結は僕も心から望んでいるが、それは互いに尊重する友好関係に基づかないと成り立たないと思うのだ。数学が好きなShiさんもこの中国の行動について疑問を述べていた。 20年前と一番変わっていないYakuさんが、SGRAの「良き地球市民の実現」に言及し、最近、地球市民の理念が弱くなってきているのではないかという心配を分かち合ってくれた。僕はすぐに反応して、こんな時代だからこそ、この理念をもっと大事にして発揮しなければならないと言った。通じたかどうか、わからないが、本当に僕はそう思っている。僕らに続く渥美奨学生たちが、このことをどのぐらい意識しているのか、ちょっと心配である。 来年の2月10日、SGRAフィリピンが、マニラのアテネオ大学で企画している第20回共有型成長セミナー(テーマ:Human_Ecology_and_Sustainable_Shared_Growth人間生態学と持続可能共有型成長)を開催すると今西さんが告知すると、お酒が一番強いJinさんが「行こう!行こう!」とみんなを誘ってくれた。その半分は10杯を超えるビールの勢いだったと思うが、とても嬉しく思っている。たとえ実現しなくてもこうやってみなさんと話せれば幸いである。 夜が更けてお別れの時間がきた。僕の頭によく残っている20年前からのイメージと変わらない、陽気で酔っ払いの同期の仲間のJinさんを、仮装した人々で溢れている東京の街で、その賑やかな人込みで迷わないように地下鉄に乗せるまで見送った。 -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。 -------------------------- (2)寄贈本紹介 SGRA会員で大分大学経済学部准教授の包聯群さんから編著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆包聯群_編著「現代中国における言語政策と言語継承」第二巻 本書は、2013年12月9日に首都大学東京において実施された第三回日中ワークショップ(「現代中国における言語政策と言語継承」)で行われた口頭発表の内容を論文集としてまとめたものである。主に中国国内における満州ツングース系言語を中心としているが、モンゴル系言語その他の言語も含まれている。 発行日:2015年3月25日 編著者:包聯群 発行所:三元社 ISBN: 978-4-88303-382-9 <目次> 第一部:言語政策と言語継承 1.母語の継承について 田中克彦(タナカ・カツヒコ) 2.母語の平等化政策の政治的経済的効果 徐大明(シュー・ダーミン) 3.現代中国における少数民族の言語政策についての分析 黄行(ファン・シン) 第二部:満州ツングース系言語及び関係諸語 1.エウェンキー語オルグヤ方言の母音体系について 哈斯巴特爾(ハスバートル) 2.十八世紀満漢課本から見る満州語学習 落合守和(オチアイ・モリカズ) 3.ダグル民族における満州の影響及び言語使用の実態 呉人徳司(クレビト・トクス) 4.消滅の危機に瀕する満州語の社会言語学的研究 包聯群(ボウ・レンチュン)   ―中国黒龍江省を事例として― 第三部:モンゴル系言語 1.内モンゴル自治区におけるモンゴル語研究の現状 白音門徳(バイルモンド)   ―実験音声学研究の成果を主なデータとして― 2.モンゴル国におけるモンゴル語と方言 E.プレブジャブ 第四部:言語規範 1.中国におけるチベット語文近代化の現状と発展 黄行(ファン・シン) 2.モンゴル国におけるモンゴル語の近代言語規範 E.プレブジャブ ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第20回共有型成長セミナー(2016年2月10日マニラ) 「人間生態学と持続可能共有型成長」<ご予定ください> ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Miyanohara Yuto “Fukushima Study Tour Report”

    ************************************************************************ SGRAかわらばん597号(2015年12月3日) (1)エッセイ:宮野原勇斗「ふくしまスタディツアーレポート」 (2)エッセイ:李鋼哲「【までい】の精神は生きている」 (3)SGRAレポート第73号「アジア経済のダイナミズム-物流を中心に」紹介 (4)会員だより:2015年度・第58回「日経・経済図書文化賞」を受賞!          彭浩著「近世日清通商関係史」(東京大学出版会) ************************************************************************ (1)SGRAエッセイ#476 ◆宮野原勇斗「ふくしまスタディツアーレポート」 飯舘村に行き農業をして、人と触れ合って、私が抱いた感想は想像していたよりもシンプルでポジティブなものだった。未来は明るい。素直にそう感じたのだ。 「あるいは自分が被災していた側かもしれない」湊かなえの『絶唱』という本を読み、“被災者”という言葉の持つ偶有性に気づかされた私は、飯舘村に向かう心持ちを新たにした。“被災者”という必然的な事象は存在しない。“被災者”というラベルを見るのではなく、飯舘村の人、1人ひとりの持つ物語に想いを馳せようと決めた。そして、たくさんの人に出会った。 帰村が実現した後の飯舘村再興のために、“ふくしま再生の会”による自主除染後の水田で水稲を育て、その有用性を検証している宗夫さん。古くからの農家の知恵も活かしながら、放射線性物質という現代の科学技術から生み出された負の産物に打ち勝ち、自主除染を成功させた。(しかも彼の作る米は安全というだけでなく、これがまたとても美味しいのだそうだ。)「次の世代に何を残すか」朗らかな笑顔で話しながらも彼の瞳には強い想いが宿っていた。 ピンク色のコルチカムという花が咲き乱れるなかで、金一さんは語った。「水芭蕉、水仙、桜…四季を楽しめるハナゾノをいつか作る」彼は、再生の会のマキバのハナゾノ計画の中心人物だ。飯舘村を美しい花溢れる村にすることで、村に帰ってきた人々や訪れた人々の心を豊かにする。ボランティアや支援者たちが桜に思い思いの名前を付けてハナゾノに植樹している。その苗木たちはまだ細かったが、飯舘村の豊かな復興への第一歩を象徴しているようにも見えた。 「21世紀の地球におけるフィロソフィを作り上げよう」再生の会の目標をそう語った理事長の田尾さん。彼の目指すところは飯舘村の復興だけにとどまらない。科学者、物理学者としての視点から放射線汚染の問題に挑む彼の視界は世界に、未来に広がっていた。放射線による汚染問題、環境問題、農業、地域活性化…彼は飯舘村の復興を通して現代社会の様々な課題を解決の糸口を模索している。 「財政や産業の復興だけでなく、豊かな文化の復興をしたい」稲刈りが終わった収穫祭の席で、村民やボランティアに向けて復興の展望を述べた東京大学院生の聡太さん。彼は将来飯舘村の村長になりたいという。夢に燃える彼を見守る周囲の目はとても温かく希望にあふれていた。 ふくしまスタディツアーに参加して、学んだことは数多い。被災地の現状はもちろんだが、放射線による汚染問題や復興の方向性、今後の農業のあり方など、復興のその先を見据えた視界を一部分ではあるが共有することができた。また、同ツアーに参加した渥美国際交流財団の外国人研究者の方々と話す中で、日本人以外の人の意見や様々な学問分野の知見等を得ることもできた。実際に再生の会の方々と協働作業をすることも多く、稲刈りを始めとする農業の大変さや収穫の充実感も体験的に実感することができた。 これから社会に出て働く私に多くの刺激と縁と、未来を担っていくものとしての責任感を与えてくれた本ツアーに感謝したい。飯舘村、そしてそこで出会った人々が感じさせてくれた未来と希望を必ず社会に還元していきたい。 <宮野原勇斗(みやのはら・ゆうと)MIYANOHARA Yuto> 大阪大学人間科学部人間科学科臨床死生学・老年行動学講座学部4回生。伊藤謝恩育英財団奨学生。宮崎県出身。 (2)SGRAエッセイ#477 ◆李鋼哲「【までい】の精神は生きている」 「飯舘村の人々は原発被害に立ち向かって一所懸命闘っている。彼らは【までいの力】(「までい」とはこの地方の方言であり、漢字では「真手」と書く。両手を動かして頑張れば、いかなる困難も乗り越えられるとの意味)を発揮し、【までいの精神】でふるさとの再建に立ち向かっている。その精神に感銘を受けました。」 これは、3年前(2012年10月19~21日)にSGRA(関口グローバル研究会)の第1回福島被災地ツアーのレポートに書いた感想文の一部である。SGRAはその後も毎年このツアーを催してきたが、私は都合がつかず、3年ぶりに再び被災地に入ることができた。 今度のツアーは10月2~4日の3日間で、前回と同じように飯舘村に向かった。秋晴れの天候に恵まれ、有名な観光地へツアーする気分とさほど変わらない。違うのは、3年前に出会った菅野宗夫さんご家族と村人達、そして田尾さんたちの「ふくしま再生会」のメンバー達と再会できるという思いが、久しぶりに里帰りする気分にさせると同時に、被災地復興が進んでいるだろうとの期待感を抱きながら、福島駅からレンタカーに乗って飯舘村に向かった。 ところが、被災地に近づき車窓から見えるのは、黒いビニール袋詰めの除染土が田んぼの真ん中に並べられ、また積み上げられた、ゴミの野原ばかりであった。「あのゴミ袋はどうするのですか?」と田尾さんに聞いたら、「分かりません。国が莫大なお金を投入して除染作業を進めていますが、除染土を何処に処分するかはまだ決まっていないようです」。 震災と原発災害で日本全国の原発稼働を一時期停止したが、廃棄物処理の方法が見つからないまま進めていた原発を、政府は再開するという不思議な暴挙。国民が怒っていても無視される日本の政治。除染土の処理方法が見つからないまま、やたらに莫大な規模(約3兆円規模だという)の国民の税金を使って、進めている除染作業。しかし、それは被災地の人々に復興の希望すらも与えない。被災地の人々の独自の復興事業には目も耳も貸さないで、ゾンビが野原をやたらに歩き回るような幻の「震災復興策」。日本国民の多数が納得しているのだろうか? 里帰りの気分は吹っ飛ばされ、心の中から怒りが込み上げてくる。日本の政治、行政がここまで堕落していることを、改めて深く感じた。 とはいえ、飯舘村に入り、菅野さんの家に着き、再生実験で栽培した黄金色の稲の田んぼと野菜栽培のビニールハウスを見たら、なんとか里帰りした気分になった。そして、被災地がわずかでありながら復興に向かっていることを確認できた。 近くの田圃や畑には「ふくしま再生の会」の飯舘村再生モデル事業の「イネ栽培実験田」がある。実験用で栽培した稲が3年前は田圃に干され、それはただの実験用に提供されるものだったが、今度は、その稲刈り作業を皆さんと共同で行うこともできた。我々が刈った稲(米)は、検査を受けて安全が確認されれば、仲間内での食用になるという。 昨年収穫された米も、検査の結果は基準値以下で安全性が確認されている。今年も検査に合格して、12月になったら、われわれもこの米を食べられるかも知れない。 また、実験用ビニールハウスでイスラエルの技術である「点滴水耕栽培」で作られた菜っ葉類をご馳走になった。この「点滴栽培」による菜っ葉作りも見事に成功して、通常の基準値以下の放射線量をクリアーし、安全性が確認されているそうだ。 全国または外国では、未だに風評被害で福島産の農産物が敬遠されるなかで、我々は何の心配もなく、被災地この飯舘村で作った米と野菜を食べる日が、いつかくるだろう。多くの住民が避難し、他の地域に移住し、自分の故郷に戻って昔ながらの生活ができない情況のなかで、ここ飯舘村の菅野さんたちの努力と「ふくしま再生会」の応援で一筋の希望の光が見えてきた。「までいの精神」は生きているのだ。 百聞は一見に如かず。私だって、ここに来なければ、5年経っても10年経っても、福島産の農産物を絶対に口にしないだろうと想像した。今では福島産でも平気で買って食べることができるようになった。 3年前と同じように、線量計を携帯し、ところどころで放射線量を測りながら回ってみた。原発事故の30キロ圏の近くの立ち入り禁止区域まで移動し、そこで測ったら放射線量は最高約25マイクロシーベルトで、3年前の最高31マイクロシーベルトに比べると若干下がっていた。雨や風などにより放射線は土に染みこんだり、他の地域に飛んだりしていたということ。 自分たちの方法で除染作業を行い、そこに農作物だけではなく、「桜の園」を作って、全国の支援者達にさくらの木を植えてもらい、毎年そこで花見ができるような事業を考えた金ちゃんの発想もユニークで魅力的だった。 人間とは逆境に立たされたときにこそ、その精神力の強さが見えてくる。ここ飯舘村での「までいの精神」を再確認しながら、「里帰り」のツアーは終了した。来年もまた里帰りしてこの山の中で花見大会をしたいなと思いながら、「さようなら飯舘村!」。 <李 鋼哲(り・こうてつ)Li Kotetsu> 1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書に『東アジア共同体に向けて――新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、その他論文やコラム多数。 ★SGRAふくしまスタディツアー報告は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/2015/5388/ (3)SGRAレポート紹介 SGRAレポート第73号を発行いたしましたのでご紹介します。本文はSGRAホームページよりダウンロードしていただけます。SGRA賛助会員と特別会員の皆様には冊子本をお送りいたしましたが、その他の方で冊子本の送付をご希望の場合は事務局までご連絡ください。 ◆レポート第73号「アジア経済のダイナミズム-物流を中心に」 第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム講演録 2015年11月10日発行 <目次> 【はじめに】  金雄熙(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) 【基調講演】「アジア経済のダイナミズム」  榊原英資(さかきばら・えいすけ:インド経済研究所理事長・青山学院大学教授) 【報告1】「北東アジアの多国間地域開発と物流協力」  安秉民(アン・ビョンミン:韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長) 【報告2】「GMS(グレーター・メコン・サブリージョン)における物流ネットワークの現状と課題」  ド・マン・ホーン (桜美林大学経済・経営学系准教授) 【ミニ報告】「アジア・ハイウェイの現状と課題について」  李鋼哲(リ・コウテツ、北陸大学未来創造学部教授) 【質疑応答】  進行および総括:金雄煕  討論者:上記発表者、指定討論者(渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究者)、一般参加者 <ダウンロード> SGRAレポート73号(本文1) http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2015/11/SGRAreport73_1.pdf SGRAレポート73号(本文2) http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2015/11/SGRAreport73_2.pdf SGRAレポート73号(表紙) http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2015/11/SGRAreport73Cover.pdf (4)会員だより:2015年度・第58回「日経・経済図書文化賞」を受賞! ◆彭浩著「近世日清通商関係史」(東京大学出版会) SGRAかわらばん573号(2015年6月18日配信)でご紹介したSGRA会員で東京大学史料編纂所特任研究員の彭浩さんのご著書が、第58回日経・経済図書文化賞を受賞されました。この賞は過去1年間に出版された経済図書の中で特に優れた図書に贈られるものです。おめでとうございます! https://www.jcer.or.jp/bunka/bunka.html ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Xie Zhihai “China’s Policy Change”

    ******************************************************************************* SGRAかわらばん596号(2015年11月26日) (1)エッセイ:謝志海「中国の一人っ子政策廃止で思うこと」 (2)第50回SGRAフォーラム「青空、水、くらしー環境と女性と未来に向けて」報告 (3)SGRAレポート第72号「近代日本美術史と近代中国」紹介 ******************************************************************************* (1)SGRAエッセイ#475 ◆謝志海「中国の一人っ子政策廃止で思うこと」 自国を離れて暮らすことは、文化も言葉も違うので容易ではない。しかし良い面もある。それは自分の国を客観的に見ることができるという点である。先日中国が一人っ子政策を中止した。日本の新聞、テレビでもトップニュースで取り上げていた。そして思い出した。中国人留学生としてはじめて海外(日本)で暮らし、日本人や様々な国籍の人と触れ合いはじめた頃のことを。中国がしている政府による人口のコントロールを、はじめて彼らと一緒に客観視することができたのだ。外国人にとってこの政策がどれほど異質に映るのかと気付くのに、正直少し時間がかかった。 私の場合、一人っ子政策がすでに履行されていた80年代前半に生まれたので、周りが一人っ子であることに違和感も疑問もなかった。実際のところ、自分の国、中国が世界で唯一、一人っ子政策をとっているという意識すらなかったのだ。中国以外の国では家族計画は個人の意思で決めることができる。こんな大きな違いを、さして気にもせずにいたとは。これは何というか、今思えば恥ずかしいような気分だ。留学生時代は時間さえがあれば、日本語や英語で書かれた一人っ子政策に関する書物や記事を読んだ。 驚くべきことに、英語の言説は、一人っ子政策にともなう中絶の増加や、男性が多く女性が少ないという性別のバランスを欠く結果となった中国社会を痛烈に批判し、一人っ子政策が失敗だったとまで言い切っている。特に妊娠中絶の強制を深刻な人権の侵害であるとし、すぐに止めるべきだとの声も多い。さらに驚いたことは、これらはヨーロッパやアメリカ在住の中国人によって書かれたものが多かったことである。私には、まだその頃、自分の国で起きていることを直視し、言葉に書き出す勇気がなかったので驚きもひとしおだった。しかも、それらの英語で書かれていることは誇張ではなく、農村まで出向き取材し、事実に基づいて書かれている。私が住んでいた農村でも予定外に二人目の子どもができてしまった人々の苦悩をよく耳にしたりした。二人目の子を持つ家庭に課せる罰金も決して安くない。本や論文で、中国の一人っ子政策を失敗だったと嘆く中華系学者たちは、中国国外へ出てこの異様な政策に感情を揺さぶられ、研究をはじめたのだろうか? もちろん中国国内の人口学者も以前から、一人っ子政策を続けることによる労働人口の減少や高齢化を憂慮し、政策変更を訴えてはいた。経済学者の中でも、一人っ子政策が高齢化を引き起こし、国が豊かになる前に経済が減速するという見解は多かった。しかし地方都市や農村では、一人っ子政策違反の罰金が地方政府にとっての捨てがたい大きな収入となっていたり、学校などを増やすことの負担への懸念などで、対応は遅れていた。そうこうするうちに、都市部では一人の子に教育費等お金をかけて育てるスタイルが定着してしまった。2013年には、夫婦のどちらかが一人っ子なら、二人目を持つことが認められた。しかし、こちらは人口増加にさして影響が見られなかったようだ。たった2年で一人っ子政策を完全に廃止したことが答えだろう。 中国国内では一人っ子政策廃止のニュースを遅すぎたと冷ややかに受け止めている。我々80、90年代生まれは唯一の一人っ子世代となってしまった。これまで罰金を払った多くの人にとっても、今さらという感じだろう。ジャパンタイムズの2015年11月6日付、裴敏欣(Minxin Pei)氏の記事の最後の段落に「単純に、一人っ子政策が二人っ子政策になっただけ」とある。そう、あくまでも二人までという制限。一人っ子政策の廃止は国民に自由をもたらすものではないのだ。世界最大の人口国、中国の今後の動向を引き続き世界が固唾を呑んで見守るだろう。 <謝志海(しゃ・しかい)Xie Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 (2)第50回SGRAフォーラム報告 ◆「青空、水、くらしー環境と女性と未来に向けて」 第50回SGRAフォーラムin北九州が、第3回アジア未来会議(「環境と共生」をテーマに2016年9月29日~10月3日に開催予定)のキックオフとして、北九州市立大学で開催された。今回は「青空、水、くらしー環境と女性と未来に向けて」というテーマで、大気汚染や水質汚染など、1950年代に日本の四大工業地帯の一つであった北九州市が直面した環境問題と、その解決に立ちあがった婦人会の活動経験を踏まえて、北九州、中国、韓国などで展開する女性の活動について議論が繰り広げられた。 まず、今西淳子氏(SGRA代表)と近藤倫明氏(北九州市立大学学長)の開会挨拶があり、続いて日本、中国、韓国の事例が発表された。 最初は北九州市の事例で、神﨑智子氏(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員)より「『青空がほしい』運動に学ぶー現在に問いかけるものー」と題して、旧戸畑市の三六地区の煤煙による公害問題に対峙した婦人会の地道で活発な活動が紹介された。特筆すべきは、単なる金銭的な形での解決ではなく、1960年代に当時としては画期的であった工場の除塵装置やガス集合管の設置などの具体的な環境改善にまで至ったことで、それが今日の綺麗な空気や環境につながったとの報告であった。 次に北京在住ライターの斉藤淳子氏より「変わるのか、人々の意識」と題して発表があった。斉藤氏は、中国の大気汚染問題を訴えるために中央テレビ局キャスターの柴静さんが自費制作した番組の内容について紹介し、同国が直面する環境問題の深刻化と政治的・経済的実情とのジレンマを浮き彫りにした。またその反響の大きさから、現在の中国の若い世代の意識変化は外国メディア等の影響を大いに受けて変化していること等について報告した。 最後に李ユンスク氏(韓国YWCA運動局部長)が「絶え間ない歩みー韓国YWCAの環境活動と女性の社会参加―」を発表した。その中で、1922年に創立された韓国YWCAのこれまでの活動について、特に、女性の地位向上に関する活動や、最近活発な環境保護活動と反原発運動についての紹介があった。セッションの終わりに会場との質疑応答があり、「女性の環境活動に対して、夫は何をしていたのか?」という質問も飛び出した。  15分間の休憩をはさんで第2部のオープンフォーラムが始まった。冒頭にゲストの小林直子氏(NPO法人里山を考える会)から活動内容の紹介があった。里山の会では八幡東区東田地区の地産地消の理想のもと、エネルギーの自給自足を実現するために、夏季ダイナミック・プライシング料金を取り入れることでエネルギーのピークシフトを実現したこと、水素化社会を構築していること、まちづくりのために東田まつり、シェアポイントなどを取入れたことなどの紹介があった。 続いて田村慶子氏(北九州市立大学法学部・大学院社会システム研究科長)をモデレーターに、発表者を交えたフリーディスカッションが行われた。太陽電池電源が不安定であること、発展途上国のこれから増えるであろうエネルギー消費など、多くの質問があり、聴講者とパネリストとのディスカッションが行われた。 最後にSGRAメンバーの高偉俊氏(北九州市立大学教授)から閉会挨拶と第3回アジア未来会議について説明があった。17時から交流会が始まり、参加者は講師たちと歓談を楽しんだ。 (文責:葉文昌) 当日の写真は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/?p=5618 アンケート集計結果は下記リンクよりご覧ください。 http://goo.gl/WoIMfY (3)SGRAレポート紹介 SGRAレポート第72号を発行いたしましたのでご紹介します。本文はSGRAホームページよりダウンロードしていただけます。SGRA賛助会員と特別会員の皆様には冊子本をお送りいたしましたが、その他の方で冊子本の送付をご希望の場合は事務局までご連絡ください。 ◆レポート第72号「近代日本美術史と近代中国」 第8回チャイナフォーラム講演録 2015年10月20日発行 <もくじ> 〇第1日(2014年11月22日)於:中国社会科学院文学研究所 【講演1】 「近代の超克―東アジア美術史は可能か」  佐藤道信(東京藝術大学教授) 【指定討論1】  董炳月(中国社会科学院文学研究所研究員) 【講演2】 「工芸家が夢見たアジア:〈東洋〉と〈日本〉のはざまで」  木田拓也(東京国立近代美術館工芸館主任研究員) 【指定討論2】  李兆忠(中国社会科学院文学研究所研究員) 〇第2日(2014年11月23日)於:清華大学 【講演1】 「工芸家が夢見たアジア:〈東洋〉と〈日本〉のはざまで」  木田拓也(東京国立近代美術館工芸館主任研究員) 【指定討論1】  林少陽(東京大学総合文化研究科准教授) 【講演2】 「近代日本における〈工芸〉ジャンルの成立:工芸家がめざしたもの」  木田拓也(東京国立近代美術館工芸館主任研究員) 【指定討論2】  陳岸瑛(清華大学美術学部副教授) 〇本文および表紙は下記リンクよりダウンロードしていただけます。 SGRAレポート72号(本文) http://goo.gl/2cGkZG SGRAレポート72号(表紙) http://goo.gl/6LyX0q ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • SGRA Cafe #8 Report

    *********************************************************************** SGRAかわらばん595号(2015年11月19日) (1)催事報告:胡艶紅「第8回SGRAカフェ報告」     『女子大は要る?~「女」、「男」と大学について考えよう~』 (2)新刊紹介:「女教皇ヨハンナ:伝説の伝記」 (3)第9回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(最終案内)     「日中200年――文化史からの再検討」(11月20日フフホト、22日北京) ************************************************************************ (1)胡艶紅「第8回SGRAカフェ報告」 ◆『女子大は要る?~「女」、「男」と大学について考えよう~』 2015年10月24日(土)、渥美国際交流財団ホールで、第8回SGRAカフェが開催された。今回のカフェのテーマは「女子大は要る? 「女」、「男」と大学について考えよう」というもので、SGRA会員のシム・チュンキャットさん(昭和女子大学准教授)とデール・ソンヤさん(一橋大学特任講師)が担当した。 まずソンヤさんが、今回のカフェで取り上げるテーマについて説明した。日本には現在でも女子大学が存在するが、男女平等の機運が高まっているなか、女性しか通えない女子大は不要だと考える人もいる。そもそも、女子大は要るのだろうか? この問題意識をきっかけとして、今回のカフェでは、「大学」を通して「女」である、「男」であるとはどういうことか、その社会における妥当性とはいかなるものか、を考えてみましょうと。 カフェは2部に分かれ、第1部はシムさんによる発表が行われた。短い休憩のあと、ソンヤさんによる発表が行われ、参加者全員による小グループ・ディスカッションが開かれた。当日は、SGRA関係者のほかに、シムゼミを受講している昭和女子大学の学生も多数参加して、ゆったりとした雰囲気のなかで、多くの人々が活発に意見を交換した。 シムさんは、まず大学のジェンダーについての歴史を概観したあと、さまざまなデータを用いて日本の現状を分析した。かつて、ヨーロッパでは大学は男性のものであり、女性は高等教育から排除されていた。しかし18世紀中ごろになると女子大学が現われるようになり、広まっていった。だが20世紀中ごろ、男女平等に関する法律が制定されると、女子大の存在が問題視されるようになり、徐々にその数を減らしていくことになる。 次いで、日本の状況分析が紹介された。日本は、女性の社会進出・雇用や教育率について他国と比べて遜色はない。だが、研究者に占める女性の割合は14.6%であり、他の先進国と比べてもかなり少ない。また、東京大学の2014年度入学者のうち女性は18%しかおらず、ほとんど「準男子大学」の様相を呈している。学力はあるのに、なぜ大学に行かないのだろうか。アンケート調査によると、理由として挙げられているのは、男性にもてなくなる、結婚できなくなる、親が許してくれない、といったものだった。 次に、女子大の存在意義とは何か、ということが問われた。シムさんの調査によると、議論の場では、女性は男性がいないほうが積極的に発言する。そのため、ジェンダー問題や女性のありかたについて、より深く議論することができるようになる。また、東大のような「準男子大学」が多く存在するので、女子大はバランスを取っているのだ、という見方もあるということが紹介された。さらに女子大のメリットとして、少人数授業ができる点、女性の人生の選択肢を知ることができる点、女性研究者枠があるので女性に多くのチャンスを与えられる点、などが指摘された。 最後に、イギリスのサッチャー元首相や本財団の理事長をはじめ、女子大出身の素晴らしい女性リーダー達が紹介された。女子大は、普段の生活の場から離れて、女性だけで学問を学び議論することで、社会常識や「当たり前」を問う場となり、優れた女性を育てる場になる、ということが述べられた。 第2部のソンヤさんの発表はグループ・ディスカッション形式で進められた。まず、参加者が5~6人のグループに分かれ、「異性として生まれ変わったら、あなたの人生はどう変わる?」、「あなたの一番好きな映画は何?」、「その映画は、ベックデル・テスト(Bechdel Test)を合格できる?」という問題を一人一人が考え、グループ内で発表が行われた。ベックデル・テストによれば、「名前を持っている女性が二人以上いる」、「女性が互いに会話する」、「その会話は男性以外のものについてである」という基準を満たした映画が合格なのだそうである。 報告者が参加したグループには、日本人と中国人の女性が5人いた。日本人の女性は、男性に生まれ変わると、人生の道が制約される、社会のプレッシャーが強くなる、という可能性を話した。中国人の女性は、一人っ子政策のため男児は厚遇される傾向にあり、家族には愛される反面、責任も重いので、自由な行動ができないということを話した。また、ベックデル・テストをクリアできる映画が非常に少ないことも、ディスカッションンを通じて気付かされた。大学生を対象としたソンヤさんの調査では、男性が女性に生まれ変わると、内面的になり、逆に女性が男性に生まれ変わると、外面的になって夢が広がるという結果がでたという。 次に、「友だちが妊娠したら、子供の性別を知りたいか」という問題が出され、社会における性別の問題が議論された。知りたい理由として挙げられたのは、プレゼントの選び方にかかわる、将来を想像できるようになるなどだった。性別によって人々の子供に対する態度も変わる。それは性別によって趣味や扱い方が違うからだという。しかし、近年では男性と女性の役割も固定的ではなくなっている。男性も家事や子育てに参加するようになり、何かとメディアで取りあげられるようになった。しかし、子育てと仕事を両立する女性は全然注目されていない。このように、社会における性別意識は、当たり前のように既成観念になっている。それゆえに、社会的なジェンダーは女性だけの問題ではなく、すべての人間に関わっており、社会構造にもかかわっている問題でもある、ということが指摘された。 今回のカフェを通して、私たちは今まで疑問視されてこなかった性別にかかわる社会常識などについて深く考えさせられることになった。私たちはこうした社会問題に対して、「女」として、「男」として何をすべきか、さらに考えていく必要があるだろう。 当日の写真は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/?p=5495 ----------------------------------------- <胡艶紅(こ・えんこう)Hu_Yanhong> 2006年来日。2010年3月筑波大学人文社会科学研究科 国際地域専攻修士課程修了。同年4月同研究科 歴史・人類学専攻一貫制博士課程編入、2015年7月同課程修了。現在、筑波大学人文社会科学研究科、博士特別研究員。専門は、東アジア歴史民俗学。主要論文「現代中国における漁民信仰の変容」(『現代民俗学』4)。 ----------------------------------------- (2)新刊紹介 SGRA会員のエリック・シッケタンツさんより翻訳本をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆「女教皇ヨナンナ:伝説の伝記(バイオグラフィー)」 女性であることを偽って即位し出産した女教皇がいた――。 伝説の女教皇ヨハンナの鮮烈な生涯は、時代に応じて大きく異なる意味を託され、中世から現代まで語り継がれてきた。フィクションを現実の一部として扱う現代歴史学の手法を用いて「女教皇伝説」をひもとく。日本語版附録として「女教皇伝説・史料編」(藤崎衛+森本光訳)を収録。 著:マックス・ケルナー、クラウス・ヘルバース 訳:藤崎衛、エリック・シッケタンツ 発行所:三元社 発行日:2015年9月8日 定価=本体 3,000円+税 A5判上製 カラー口絵8頁+232頁 ISBN978-4-88303-388-1 詳細は下記リンクよりご覧ください。 http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/388.htm (3)第9回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通り、第9回SGRAチャイナ・フォーラムを開催します。参加ご希望の方は、事前登録は不要ですので、直接会場にいらしてください。 ◆「日中200年――文化史からの再検討」 【1】フフホトフォーラム 日 時:2015 年11月20日(金)15時~17時 会 場:内蒙古大学蒙古学学院2楼大会議室 【2】北京フォーラム 日 時:2015 年11月22日(日)15時~17時 会 場:北京大学外国語学院新楼501会議室 主 催:渥美国際交流奨学財団関口グローバル研究会(SGRA) 共 催:清華東亜文化講座 助 成:国際交流基金北京日本文化センター 協 力:北京大学日本言語文化学部(北京フォーラム)            内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部(フフホトフォーラム) ●フォーラムの趣旨: 従来、東アジアの歴史を語る時、ほとんどの識者が古代の交流史と対比して、近代の抗争史を強調し、両者の間に一つの断絶を見出そうとしてきた。たしかに政治、外交だけに目を向ければ、日中、日韓などの間に戦争も含む数多くの対抗や対立が頻発し、ほとんど正常な隣国関係を築くことができなかった。しかし、もしこの間の三国間の文化的交流、往来の足跡を精査すれば、そこには近代以前とは比べられないほど多彩多様な事実、事象が存在していることに気付くだろう。そしてその多くはいずれも西洋という強烈な「他者」を相手に、互いの成果、経験、また教訓を利用しながら、その文化、文明的諸要素の吸収、受容に励む努力の跡にほかならない。その意味で、東アジア、とりわけ日中韓三国はまぎれもなく古来の文化圏と違う形で西洋受容を中心とする一つの近代文化圏を形成していたのである。 また、従来、日本にせよ、中国にせよ、その歩んできた歴史を振り返る際に、往々にして周辺との関係を軽視し、あたかも単独で自らのすべてを作り出したかのような傾向も存在している。これはあきらかに近代以降のいわゆる国民国家という枠組みの中で成立したナショナリズムに由来する一国主義のもたらした影響である。ところが、多くの古代、近代の史実が示したように、純粋な国風文化はそもそも「神話」に過ぎず、われわれはつねに他者との関係の中で「自分」そして「自分」の文化を形作ってきたのである。近代日本にとって、この他者は、むろんまず西洋という存在になるが、ともにその受容の道程を歩んだもう一つの他者――中国や韓国も当然無視すべきではないだろう。 そして、昨今、とりわけ日中の間にさまざまな摩擦が生じる時に、よく両国の「文化」の違いが強調され、その文化の差異に相互の「不理解」の原因を探ろうとする動向も見られる。しかし、これもきわめて単純な思考と言わざるを得ない。文化にはたしかに変わらない一部の古層があるが、つねに歴史性を持ち、時代に応じて流動的に変化する側面も存在する。したがって共通する大事な歴史的体験を無視し、文化の差異ばかりを強調するのはいささかも生産的ではなく、結局は自らを袋小路に追い込むことにしかならない。 以上に鑑み、本フォーラムでは、いわば在来の一国主義史観、文化相互不理解論などの弊害を修正し、過去の近代東アジア文化圏、文化共同体の存在を振り返りながら、その経験と教訓を未来にむけていかに生かすべきかについて検討し、皆さんとともにその可能性を探ってみたい。 (参考文献:劉建輝著『増補・魔都上海――日本知識人の「近代」体験』2010年、同『日中二百年――支え合う近代』2012年) ●プログラム 【1】フフホトフォーラム(講演) 総合司会:宝音德力根(内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部) 講 演:劉 建輝(国際日本文化研究センター) 討論者:王 中忱(清華大学中国文学科)     周 太平(内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部)     蘇德華力格(内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部) 【2】北京フォーラム(パネルディスカッション) *日中同時通訳付き 総合司会:孫 建軍(北京大学日本言語文化学部) 問題提起:劉 建輝(国際日本文化研究センター) モデレーター:王 中忱(清華大学中国文学科) 討 論 者:王 京(北京大学日本言語文化学部)      劉 暁峰(清華大学歴史学科)      王 成(清華大学日本言語文学研究科) 日本語プログラム http://goo.gl/Y1gESy 中国語プログラム http://goo.gl/BxGuv2 ポスター http://goo.gl/JHLYlK ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第9回SGRAチャイナ・フォーラム<参加者募集中> 「日中200年―文化史からの再検討」 (2015年11月20日フフホト、22日北京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/5098/ ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Abdin “Questioning the Meaning of Election in Africa”

    ******************************************************************************** SGRAかわらばん594号(2015年11月12日) (1)エッセイ:アブディン「スーダンの選挙からアフリカでの選挙の意義を問い直す」 (2)第50回SGRAフォームin北九州へのお誘い(11月14日北九州)(最終)    「青空、水、くらし――環境と女性と未来に向けて」<当日参加も受け付けます!> (3)第9回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(再送)    「日中200年――文化史からの再検討」(11月20日フフホト、22日北京) ******************************************************************************** (1)SGRAエッセイ#473 ◆アブディン、モハメド_オマル「2015年スーダン総選挙・大統領選挙からアフリカでの選挙の意義を問い直す」 調査期間:2015年2月4日から3月26日 調査地:スーダン共和国ハルツーム 今回は、2015年4月に実施されたスーダン総選挙、大統領選挙に向けた各勢力の動員戦略に焦点を当てることが調査の大きな目的であった。特に、選挙キャンペーンの状況と各種政党のマニフェスト分析を調査対象の中心とした。選挙キャンペーンが始まる前、2月4日にスーダンへ渡航した。選挙キャンペーンが始まる2月中旬に向けて、毎日の新聞チェック、ラジオ、テレビのニュースや討論番組の視聴が欠かせなかった。さらに、政治家、研究者、ジャーナリストなどへのインタビューも重要な調査活動の一つであった。 しかし、私が調査地であるハルツームに到着すると、主要な野党の選挙ボイコットが確実となってしまっていた。調査する身として、何のために来たのかなと失望を覚えたが、念のためそのまま続けることにした。 まず、スーダン政治に詳しい研究者、ジャーナリスト、および若者への非公式なインタビューを通じて、今回の選挙の意義を問うことができた。しかし、5年前の2010年の選挙と比べて、インタビューの対象者は、匿名での取材を希望したり、慎重に発言したりしていると感じた。それは、政権が選挙キャンペーンに合わせて、締め付けをし始めたからである。 さらに、選挙キャンペーンの観察を通じて、与党の政治動員戦略に関する情報を手に入れることができ、それを分析して、現在論文にまとめる作業をしている。 さて、野党が不在ならば、はたして選挙キャンペーンの分析は意味のあることだろうか。最初はそう思ったが、野党の不在が、逆に現政権にとって思いがけぬ形で負の影を落としたといえる。 ◇選挙の正当性 特定の候補者の支持者が車列を作ってクラクションを鳴らしながら、候補者の宣伝をする姿は、過去に実施された複数政党制選挙の特徴だったともいえるが、今回の選挙においては、このような華やかなパフォーマンスが確認できなかった。選挙キャンペーンも、街頭演説もほぼ確認できなかった。 さらに、私が20名程の有権者に対して「投票する?」と聴いたところ、投票に行くという有権者は1名にとどまった。 以上のことから、今回の選挙が正当性を得られなかった原因は二つあると考えられる。一つ目は、2010年4月の選挙に勝利して大統領に再選されたバシール大統領は、2015年の大統領選挙に立候補しないと国民に約束したにも関わらず、2014年10月に、「国民の声に応えるよう、再度立候補する」ことを発表した。そのことが、国民の間でバシールへの信頼性に大きなダメージを与えたと考えられる。 二つ目は、2011年7月の南スーダン独立以後に、石油収入の激減の結果、スーダンの人々の暮らしが逼迫して、政府に対する不満が、若者を選挙ボイコットへと導いたといえる ◇分裂の危機 今回の調査の間、発行される新聞の選挙報道を毎日チェックしていたが、そこで以下のようなことがわかった。 野党の完全ボイコットが、政権党である国民会議党(NCP)内の足並みがそろっていない現実を露呈した。党内の意見の衝突がもっとも明らかになったのが、NCPの州知事の任命を巡るグループ間の意見の不一致である。 そもそも、2005年に制定された暫定憲法において、州知事は直接選挙で州民によって選ばれることになっていたが、NCPの州支部が党本部に推薦する候補者は、必ずしも党本部が予定していた候補者とは一致していなかった。州支部の推薦を受け入れれば、その分地元志向の強い知事が誕生してしまう。党本部の支持に完全には従わないことが党本部にとって懸念材料の一つであった。一方では、党本部が、別の立候補者を公認してしまうと、選挙における州支部のサポートを得られず、NCPの候補者が落選する可能性が高まるので、党本部は厳しい選択肢を迫られていた。 実際に、2010年の選挙以降、NCPの党本部の支持に背く州知事が多くあらわれ、大統領が憲法に反する形で知事を更迭したり、州の再編を行ったりして、党本部の考えに近い人物を、更迭した知事の後に据えるケースが紅海州、ゲジラ州、および、ダルフールの三つの州で見られた。 2015年選挙に先立ち、NCPが大多数派を占める連邦議会が、これまでに選挙で選ばれた知事を大統領任命制に選挙法を変更したことが、NCPの本部と地方との不和を物語っている。 ◇選挙の結果 私は3月中に調査を終えて日本に帰ってきたが、4月中旬に実施された選挙は案の定、バシール大統領の94%の支持率による再選と、NCPとともに与党を形成していた小政党の連合の圧勝に終わった。投票率は46%と選挙管理委員会が発表したが、この数字は多くの専門家によって疑問視されている。 ◇終わりに 選挙の意義は、国民の真意を問うことであるが、近年アフリカ各地でも見られるように、現職による選挙プロセスの操作、不正、野党政治家への暴力が、選挙本来の意義に大きな疑問を投げかけている。スーダンの選挙キャンペーンを通じて、ここでも、同じ傾向がみられたことを報告する。民意を反映しない選挙は、税金の無駄遣いだけといっても過言ではないが、このような選挙の結果でも、結局、国際社会は容認している。そのことは、現職による選挙操作に拍車をかけている。もう一度、アフリカにおける選挙の意義を問い直す必要が出てきているように思う。今後とも、学術雑誌において、積極的に論文を発表していきたいと思う。 <アブディン モハメド オマル Mohamed Omer Abdin> 1978年、スーダン(ハルツーム)生まれ。2007年、東京外国語大学外国語学部日本課程を卒業。2009年に同大学院の平和構築紛争予防修士プログラムを終了。2014年9月に、同大学の大学院総合国際学研究科博士後期課程を終了し、博士号を取得。2014年10月1日より、東京外国語大学で特任助教を務める。特定非営利活動法人スーダン障碍者教育支援の会副代表。 *本エッセイは、渥美国際交流財団の海外学会参加等奨学金の報告書としてご提出いただいたものですが、執筆者の了解を得てかわらばんで配信します。 (2)第50回SGRAフォーラムin北九州へのお誘い(最終) 下記のとおり、第50回SGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、SGRA事務局にご連絡ください。当日参加も受け付けます! ◆「青空、水、くらし――環境と女性と未来に向けて――」 日時:2015年11月14日(土)午後1時~5時 会場:北九州市立大学北方キャンパス_本館2階C-202教室 http://www.kitakyu-u.ac.jp/access/kitagata.html 参加費:フォーラム/無料、  フォーラム終了後の交流会/一般1000円、学生500円を予定 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局宛に事前にお名前、ご所属、連絡先をご連絡の上、参加申込みをしてください。 SGRA事務局([email protected] Tel: 03-3943-7612) ◇フォーラムの概要: 北九州市は大気汚染や水質汚濁など1950年代、60年代の経済成長に伴ってもたらされた深刻な公害を克服し、今日では国から「環境未来都市」に選定されるなど「世界の環境首都」を目指したまちづくりを行っています。 その礎を築いたのは、当時、子どもの健康を心配した母親たちでした。母親たちは「青空が欲しい」というスローガンを掲げ、「反対運動」や「告発」ではなく、母親たち自らの活動により、企業や行政に改善を求める運動を起こし、それが公害克服と環境再生の原点となったと同時に女性(母親)の社会参加の象徴ともなったのです。 今回のフォーラムは《青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて-》と題して、北九州市のみならず、中国、韓国などの事例をもとに、深刻化する環境問題に直面する女性や母親の意識の変化や社会参加の試みについて議論します。 ◇プログラム: 【事例発表】 事例発表1(日本) 「『青空がほしい』運動に学ぶ-現在に問いかけるもの-」 神﨑智子(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員) 事例発表2(中国) 「変わるのか、母親の意識-中国の母親の環境意識の変化と活動-」 斉藤淳子(北京在住フリージャーナリスト) 事例発表3(韓国) 「絶え間ない歩み-韓国YWCAの環境活動と女性の社会参加-」 李ユンスク(韓国YWCA運動局部長) 【オープンフォーラム】 モデレーター:田村慶子(北九州市立大学法学部教授) 神﨑智子(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員) 斉藤淳子(北京在住フリージャーナリスト) 李ユンスク(韓国YWCA運動局部長) 小林直子(特定非営利活動法人_里山を考える会) 【交流会】 希望者のみ(会費:一般1,500円、学生500円を予定) ◇プログラムの詳細は、下記のURLをご覧ください。 http://goo.gl/mYBk0g (3)第9回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い 下記の通り、第9回SGRAチャイナ・フォーラムを開催します。参加ご希望の方は、事前登録は不要ですので、直接会場にいらしてください。 ◆「日中200年――文化史からの再検討」 【1】フフホトフォーラム 日 時:2015 年11月20日(金)15時~17時 会 場:内蒙古大学蒙古学学院2楼大会議室 【2】北京フォーラム 日 時:2015 年11月22日(日)15時~17時 会 場:北京大学外国語学院新楼501会議室 主 催:渥美国際交流奨学財団関口グローバル研究会(SGRA) 共 催:清華東亜文化講座 助 成:国際交流基金北京日本文化センター 協 力:北京大学日本言語文化学部(北京フォーラム)            内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部(フフホトフォーラム) ●フォーラムの趣旨: 従来、東アジアの歴史を語る時、ほとんどの識者が古代の交流史と対比して、近代の抗争史を強調し、両者の間に一つの断絶を見出そうとしてきた。たしかに政治、外交だけに目を向ければ、日中、日韓などの間に戦争も含む数多くの対抗や対立が頻発し、ほとんど正常な隣国関係を築くことができなかった。しかし、もしこの間の三国間の文化的交流、往来の足跡を精査すれば、そこには近代以前とは比べられないほど多彩多様な事実、事象が存在していることに気付くだろう。そしてその多くはいずれも西洋という強烈な「他者」を相手に、互いの成果、経験、また教訓を利用しながら、その文化、文明的諸要素の吸収、受容に励む努力の跡にほかならない。その意味で、東アジア、とりわけ日中韓三国はまぎれもなく古来の文化圏と違う形で西洋受容を中心とする一つの近代文化圏を形成していたのである。 また、従来、日本にせよ、中国にせよ、その歩んできた歴史を振り返る際に、往々にして周辺との関係を軽視し、あたかも単独で自らのすべてを作り出したかのような傾向も存在している。これはあきらかに近代以降のいわゆる国民国家という枠組みの中で成立したナショナリズムに由来する一国主義のもたらした影響である。ところが、多くの古代、近代の史実が示したように、純粋な国風文化はそもそも「神話」に過ぎず、われわれはつねに他者との関係の中で「自分」そして「自分」の文化を形作ってきたのである。近代日本にとって、この他者は、むろんまず西洋という存在になるが、ともにその受容の道程を歩んだもう一つの他者――中国や韓国も当然無視すべきではないだろう。 そして、昨今、とりわけ日中の間にさまざまな摩擦が生じる時に、よく両国の「文化」の違いが強調され、その文化の差異に相互の「不理解」の原因を探ろうとする動向も見られる。しかし、これもきわめて単純な思考と言わざるを得ない。文化にはたしかに変わらない一部の古層があるが、つねに歴史性を持ち、時代に応じて流動的に変化する側面も存在する。したがって共通する大事な歴史的体験を無視し、文化の差異ばかりを強調するのはいささかも生産的ではなく、結局は自らを袋小路に追い込むことにしかならない。 以上に鑑み、本フォーラムでは、いわば在来の一国主義史観、文化相互不理解論などの弊害を修正し、過去の近代東アジア文化圏、文化共同体の存在を振り返りながら、その経験と教訓を未来にむけていかに生かすべきかについて検討し、皆さんとともにその可能性を探ってみたい。 (参考文献:劉建輝著『増補・魔都上海――日本知識人の「近代」体験』2010年、同『日中二百年――支え合う近代』2012年) ●プログラム 【1】 フフホトフォーラム(講演) 総合司会:宝音德力根(内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部) 講 演:劉 建輝(国際日本文化研究センター) 討論者:王 中忱(清華大学中国文学科)     周 太平(内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部)     蘇德華力格(内蒙古大学蒙古学学院蒙古歴史学部) 【2】 北京フォーラム(パネルディスカッション) *日中同時通訳付き 総合司会:孫 建軍(北京大学日本言語文化学部) 問題提起:劉 建輝(国際日本文化研究センター) モデレーター:王 中忱(清華大学中国文学科) 討 論 者:王 京(北京大学日本言語文化学部)      劉 暁峰(清華大学歴史学科)      王 成(清華大学日本言語文学研究科) 日本語プログラム http://goo.gl/Y1gESy 中国語プログラム http://goo.gl/BxGuv2 ポスター http://goo.gl/JHLYlK ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第50回SGRAフォーラム<参加者募集中> 「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて」 (2015年11月14日北九州市) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4961/ ◇第9回SGRAチャイナ・フォーラム<参加者募集中> 「日中200年―文化史からの再検討」 (2015年11月20日フフホト、22日北京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/5098/ ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Xie Zhihai “Speediness in USA”

    ******************************************************************************* SGRAかわらばん593号(2015年11月5日) (1)エッセイ:謝志海「アメリカに見るスピード感――同性婚の容認」 (2)新刊紹介:リンチン「現代中国の民族政策と民族問題:辺境としての内モンゴル」 (3)第50回SGRAフォームin北九州へのお誘い(11月14日北九州)(再送)    「青空、水、くらし――環境と女性と未来に向けて」 ******************************************************************************* (1)SGRAエッセイ#473 ◆謝志海「アメリカに見るスピード感―同性婚の容認」 アメリカ連邦最高裁判所は2015年6月に同性間による結婚を認めた。すなわち同性婚は全米50州と首都ワシントンで合法となった。この判決は、アメリカだけでなく、世界中で大きな反響を呼び、ソーシャルネットワーク(SNS)上ではLGBT(性的少数者)の象徴である虹色を自身のプロフィール写真にスクリーンカラーとしてのせる人がたくさん現れた。ホワイトハウスが虹色にライトアップされた写真も同性婚容認のニュースと共に世界中に配信された。この写真を見て、私は米国民と政府の距離に親しみを感じた。法の改正をホワイトハウスそのもので表わす。国民にとってとても伝わりやすい。このような光景を日本や中国で見られる日はいつ来るだろう。アメリカの多様性の受け皿の大きさを痛感する。アメリカという国を少しうらやましく思う。そしてこの判決は単に同性婚が認められたという一つの事実以上にたくさんの事を教えてくれる。 まず始めに、この同性婚容認で一番感心したのは、アメリカ政府が世論の急速な変化に対応したというスピード感だ。2004年にマサチューセッツ州で初めて同性婚が認められたが、保守的な州では根強く同性婚禁止が制定されていて、後が続かなかったイメージだったのに。単にオバマ大統領が同性婚の支持を表明したからというだけではない。何かもっと大きな目に見えないものに動かされた判決のような気がする。先述の通り世論の変化だ。 アメリカではドラマの中でLGBT役の人物がよく登場する。大抵はそのドラマを面白くするキーパーソンとして、まるで自分の周りにもこういう友達がいればいいなと思わせるキャラクターが多い。主役でも悪者役でもなく、物語に自然に溶け込んでいる。ドラマの中ではLGBTが「普通」に存在している。日本や中国のドラマを観ていても遭遇しない登場人物達だ。また実生活でも俳優に限らず有名人がLGBTであることをカミングアウトしている。勇気ある行動だと思う。このようにアメリカでは法で認められるよりずっと前からLGBTの存在が大きくなってきている。政府がその「普通」な存在を見逃さなかったことは、LGBTの人に限らず、アメリカ国民にとって大きな意味があるのではないだろうか。 もちろんアメリカが同性婚容認に傾いたのはメディアや有名人のカミングアウトだけでない。アメリカの大企業が同性愛者をはじめ人種差別などの社会問題に関わりはじめたことが大きい。今年3月の最高裁に提出した意見書には379の企業・団体が名を連ね、国際的有名企業も含まれている。同性婚容認は、大手企業の(社会問題に関わろうという)姿勢の変化が政府にちゃんと届くのだ、ということを証明したとも言えるのではないだろうか。もちろん、企業はあらゆる層の顧客を獲得しなければならないし、政治家は票が欲しいから同性愛者を支持するまでだという見方もできる。一理はあるだろうが、企業が世の中の変化に対応して、社会問題を経営のテーマに取り込むことは、利益ばかり追うだけよりもずっとよいことではないだろうか。 経済学や政治学というサブジェクトにとどまらず、それらに同性愛者、人種差別、男女の賃金格差等の社会問題が含まれることは、広い視野で物事をとらえるチャンスであり、今の時代には必要なことだろう。日本版ニューズウィークの2015年7月14号によると、実際のところ、アップルやウォルマート(米国小売最大手)のような大企業はできるだけ多様な人材を雇い、消費者の変化に対応しようとしているそうだ。大手企業が始めると世の中のトレンドになってゆくので影響は大きい。従業員を雇う際、人種どころか同性愛者を差別していては優秀な人材を見逃すかもしれない。その優秀な人材がオープンな社風の他社に採用されてしまったら?世の中の変化に敏感になっておくことは経営のリスクを避けることができるのだ。同性婚支持の意見書に署名した企業の一つであるゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOジェフ・イメルト氏は(LGBTについて)「ビジネスの観点で言えば、ダイバーシティは競争力であり、文化そのもの」と言う(日経ビジネス_2015年8月24日号より)。 もう一つ、アメリカらしいエピソードとして、政治家と国民の距離が近いと感じた瞬間を紹介したい。日本経済新聞2015年8月4日の記事「同性婚容認_米の変化」の中に、同性愛を公言する人が増えたことも世論に大きな影響を与えたとして、例を挙げている。同性婚禁止派のブッシュ政権時代のチェイニー元副大統領は、次女が12年に女性パートナーと結婚し、容認派に変わった。オバマ氏が同性婚支持を表明した理由も、娘からの抗議がきっかけ。娘の友人の両親が同性カップルで、「(同性婚禁止は)納得できない」と娘に言われたのだという。このような政治家、ましてや現職の大統領の私生活からのエピソードがアメリカ国民どころか、海を越えて日本の新聞にまで掲載されるとは。日本や中国の国民にとっては、首相や国家主席のプライベートな部分は知る由もないのだが。 世論の変化のスピードに国が追いつき、国を変える。日本や中国では国民の声が政治家に届くと国民が実感できるのはいつになるだろう。大国ゆえ解決すべき問題が山積みのアメリカ。同性婚が全州で合法にはなったものの、アメリカは州や裁判所の管轄区によって政令が違うので、LGBTに対する結婚以外の差別、例えば住居、雇用については完全に平等とはまだ言えない。引き続き、州や地方レベルで平等への戦いは続く。同性婚容認の流れに乗って、引き続き市民の声を吸い上げて欲しい。そしてそのムーブメントが今後アジアに影響を与えるようになるといい。 <謝志海(しゃ・しかい)Xie Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 (2)新刊紹介 SGRA会員で内モンゴル大学准教授のリンチンさんから新刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆リンチン(仁欽)「現代中国の民族政策と民族問題:辺境としての内モンゴル」 1950、60年代の内モンゴルは果たして「民族自治の黄金時代」だったのか? 放牧地開墾や漢人入植の実態と影響、末端地域における政治や言語政策、それに土地改革、反右派闘争、大躍進、文化大革命などの分析を通じて、中国でいち早く民族政策が実施された内モンゴル社会の変化を明らかにする。 発行所:集広舎 定価:5,500円+税 ISBN:978-4-904213-339 C0093 発行日:2015年10月28日 【目次】 序論 第1部 1950 年代の社会改革期における諸問題  第1章 綏遠省蒙旗土地改革における問題  第2章 牧畜業の社会主義的改造の再検討  第3章 牧畜業地域における人民公社化政策の分析  第4章 1950年代のモンゴル言語・文字使用の実態 第2部 経済的統合の拡大と漢地化の加速  第5章 「大躍進」期における放牧地開墾と人口の問題 運動の展開  第6章 国営農牧場・生産建設兵団の建設と漢地化の推進 第3部 政治運動の推進とイデオロギー的統合の強化  第7章 反右派闘争におけるモンゴル人「民族右派分子」批判  第8章 「四清運動」における民族問題  第9章 知識青年下放運動の検討 結論 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.shukousha.com/information/publishing/4307/ (3)第50回SGRAフォーラムin北九州へのお誘い(再送) 下記のとおり、第50回SGRAフォーラムを開催いたします。 参加ご希望の方は、SGRA事務局にご連絡ください。 ◆「青空、水、くらし――環境と女性と未来に向けて――」 日時:2015年11月14日(土)午後1時~5時 会場:北九州市立大学北方キャンパス_本館2階C-202教室 http://www.kitakyu-u.ac.jp/access/kitagata.html 参加費:フォーラム/無料  フォーラム終了後の交流会/一般1000円、学生500円を予定 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局宛に事前にお名前、ご所属、連絡先をご連絡の上、参加申込みをしてください。 SGRA事務局([email protected] Tel: 03-3943-7612) ◇フォーラムの概要: 北九州市は大気汚染や水質汚濁など1950年代、60年代の経済成長に伴ってもたらされた深刻な公害を克服し、今日では国から「環境未来都市」に選定されるなど「世界の環境首都」を目指したまちづくりを行っています。 その礎を築いたのは、当時、子どもの健康を心配した母親たちでした。母親たちは「青空が欲しい」というスローガンを掲げ、「反対運動」や「告発」ではなく、母親たち自らの活動により、企業や行政に改善を求める運動を起こし、それが公害克服と環境再生の原点となったと同時に女性(母親)の社会参加の象徴ともなったのです。 今回のフォーラムは《青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて-》と題して、北九州市のみならず、中国、韓国などの事例をもとに、深刻化する環境問題に直面する女性や母親の意識の変化や社会参加の試みについて議論します。 ◇プログラム: 【事例発表】 事例発表1(日本) 「『青空がほしい』運動に学ぶ-現在に問いかけるもの-」 神﨑智子(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員) 事例発表2(中国) 「変わるのか、母親の意識-中国の母親の環境意識の変化と活動-」 斉藤淳子(北京在住フリージャーナリスト) 事例発表3(韓国) 「絶え間ない歩み-韓国YWCAの環境活動と女性の社会参加-」 李ユンスク(韓国YWCA運動局部長) 【オープンフォーラム】 モデレーター:田村慶子(北九州市立大学法学部教授) 神﨑智子(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員) 斉藤淳子(北京在住フリージャーナリスト) 李ユンスク(韓国YWCA運動局部長) 小林直子(特定非営利活動法人_里山を考える会) 【交流会】 希望者のみ(会費:一般1,500円、学生500円を予定) ◇プログラムの詳細は、下記のURLをご覧ください。 http://goo.gl/mYBk0g ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第50回SGRAフォーラム<参加者募集中> 「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて」 (2015年11月14日北九州市) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4961/ ◇第9回SGRAチャイナ・フォーラム<参加者募集中> 「日中200年―文化史からの再検討」 (2015年11月20日フフホト、22日北京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/5098/ ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • SGRA Fukushima Study Tour #4 Report

    *********************************************************************** SGRAかわらばん592号(2015年10月29日) (1)第4回SGRAふくしまスタディツアー「飯舘村、帰還に向けて」報告 (2)エッセイ:金銀惠「飯舘村、再生のジレンマを乗り越えて」 (3)催事案内:講演会 菅野宗夫「ふくしま再生に向けて」(11月16日東京) *********************************************************************** (1)第4回SGRAふくしまスタディツアー報告 渥美国際交流財団SGRAでは、2012年秋から毎年、福島原発事故の被災地である福島県飯舘(いいたて)村へスタディツアーをしています。そして、一連のスタディツアーでの体験や考察をもとにしてSGRAフォーラムやSGRAカフェ、「アジア未来会議」での写真展示やセッションなど、さまざまな催しを展開してきました。 今年も、<飯舘村、帰還に向けて>をテーマとして10月2日(金)から4日(日)まで、飯舘村の視察、見学と協働作業体験としての「稲刈り」を中心とした4回目のスタディツアーを行いました。 参加者は渥美財団の仲間、そして早稲田大学の小林敦子先生、大阪大学の4回生宮野原勇斗君を含めた9名。受入は、毎年お世話になっている「ふくしま再生の会」にお願いしました。 参加者の内、ソンヤさんは3回目、李鋼哲さん、ジャクファルさん、金銀恵さんは2回目。このように、年ごとの移り変わりを知るために訪れるリピーターとの再会に、地元の方々の喜びもひとしおでした。 飯舘村のアチコチが除染土のピラミッドで覆われる様に心を痛める一方で、2017年3月の帰還を前にして、「次世代、次々世代のために」村の農業や酪農の再生に力を注ごうとする方々の意欲と切実な思いが感じられるツアーでした。 (渥美財団事務局長 角田英一) ツアー日程の詳細は、下記リンクをご覧ください。 http://goo.gl/KYUn5T ツアーの写真は、下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/?p=5383 (2)SGRAエッセイ#472 ◆金銀惠「飯舘村、再生のジレンマを乗り越えて」 1.日本研究者として福島にどう向き合うべきか。 震災から4年半、SGRAふくしまスタディツアーも4回目になりました。 私は、2011年の渥美奨学生として、東北大震災以降の、日本国内外での大混乱を生々しく経験しました。それは、一生忘れられない経験でした。その年、「石巻の炊き出し」にも参加して、震災地の住民たちの力になりたいという気持ちも少しは晴れました。一方で「福島原発事故」には、如何なる形で向き合うべきかと悩みましたが、その頃は、直後の事故収束で緊迫していて、「再生」は、まだ私の心には響かない言葉でした。 私は、帰国して博士号を取得した後、「グローバリゼーション時代の東アジア都市の危機と転換」というテーマの研究チームで、共存とサステナビリティが可能な東アジアの都市を模索しています。勿論、他の日本研究にも関りながら、原発が生み出す「危険景観(Riskscape)」を巡る北東アジア(日本・中国・台湾・韓国)での対応や変化を分析しています。特に、私は、「福島原発事故以後、日本市民社会の変化と模索」の研究に集中しています。 2.2014年冬、パイロットスタディ 私は、去年(2014年)12月に、初めて飯舘村を訪ねました。それまでも「福島の対応」に関心を持ちながら、マスコミ報道や資料を読み続けていました。だが、自分が現地で目の当たりにしたフレコンバックのピラミッドは、言葉に尽くせない凄まじい光景でした。2日間の訪問の中で「ふくしま再生の会」の田尾陽一さんが、最初の飯舘村民との出会いから、NPO法人に至るまでの経緯を詳しく説明してくれ、菅野宗夫さんは、事故直後の混乱から抜け出して、再生に向かう決意を語ってくれました。 何よりも私にとって印象的だったのは「科学技術への信頼回復」のために、被災した農民とボランティアと科学者が共同作業をする姿勢でした。 「反原発・脱原発」という言葉をよく使いますが、実際、現場で住民と手を組んで、一歩ずつ踏み出す団体は数少ないのが現実です。目に見えない放射能だからこそ、科学技術との連携が必ず必要です。その点で「ふくしま再生の会」は、世界最先端の集まりではないかと思いました。 その夜の交流会では、工学と農学・林学の研究者、そしてボランティアの方々が一緒に、原発事故の原因、事故収束などについて、激論が続きました。人災に近い原発事故。そこから立ち上がるため、農民の知恵と多様な専門の融合の中から生まれ出たアイディアを少しずつ実験して、そのプロセスや結果を世界に発信するという考えに、私も共感しました。特に、「農学(農業)の力で福島を再生したい」という熱い思いに感動し、自然の再生を生かす科学こそが、人を生かす学問になると思いました。雪が積もった寒い朝、管野さんの奥さんの千恵子さんから暖かい靴下を貰って、明大農学部が設置した「ビニールハウスでの作業」を手伝いしなら、「農学に才能がある」と褒められて、再生のための実験に少しでも力になりたいと思いました。 3.2015年秋、再参加と協働作業 今回のスタディツアーには、渥美財団の仲間や関係者など国籍や分野、性別も世代も多様なメンバー達と共に参加しました。ツアーの2週間前に「豪雨のニュース」を聞いて本当に心配でした。「再生の会」からのメールでは、「再生の会」の拠点である菅野宗夫さんのお宅の周りの道路は破壊され、実験用ビニールハウスから収穫前の田んぼまでが被害を受けたことも伝えられました。実際、行ってみたら、道路やビニールハウスは復旧されていましたが、力を注いだ田んぼの1/5位の稲は、降雨で倒れてしまっていました。 2日目の協働作業体験は、その倒れた稲を起しながらの稲刈り作業と収穫の祭でした。 慣れない農作業の途中、周りで落穂拾いをしている二人に出会いました。将来飯舘村長の夢を持つ若い世代の代表、佐藤聡太君は、不安や期待が交差しながらも、飯舘村の再生に熱い抱負を語ってくれました。もう一人は、千葉からのボランティアの方で、今回が2年目の「稲刈りへの参加」で、落穂をお宅に飾って「福島の再生」を祈念していると話してくれました。 正直、昨年初めて参加した時には、「再生」という言葉自体に大きな疑問もありましたが、今回は「再生の力は、人の力だ」と強く感じました。 「イネ(畑作)試験栽培」の田んぼの稲刈り作業の中で、「コオロギ、ミミズ、オケラ、お腹が赤いイモリ」まで生きていて、「こんなに多様な生き物の居場所でもあった」と日本語の名前や子供の頃の思い出なども話し合いました。「生命の居場所としての土地」を再生することが、本当の再生の第一歩だと再確認した瞬間でした。しかし、向こうの田んぼにはびこる雑草を除去する作業からは、一日中凄い音が聞こえていました。骨の折れる除染作業、私が出会った政府から派遣されている作業員も、みんな若者でした。こうした厳しい労働を「再生の喜び」と結び付ける政策は本当にないのかと思いました。 4.厳しい現状を乗り越えて しかし、「再生の念願」を無駄にしないためにも、幾つかの矛盾を考えたいと思います。 まず、直接に測ってみても「放射線量」はまだまだ高くて、場所や条件別に相当の差があり、その実態を乗り越える除染方法を政策に転換する制度改革が切実に求められているのです。東京に戻る新幹線の中では、TPPの交渉で日本の都市消費者は海外から安い食糧を輸入出来ることを喜んでいるというニュースが流れていました。 日本政府の無理な帰還政策だけではなく、厳しい現状に囲まれた「福島農業と住民に本当に役に立つ帰還政策の中身は何か」、「帰還した他の地域の問題(高齢者中心、訴訟など)と、飯舘村の帰還は、どのくらいの差別性をみせるのか」などを議論する必要があると思います。 最後に、国土面積に比べて世界で一番密集した「韓国の原発」、30km圏域だけで300万以上の人口が住んでいることを思い出しました。現在の日本が原発事故以降直面した厳しい現実から、挑戦しつつある科学的・社会的な実験をどのように活かすか、これからも飯舘村の再生の道に注目すべきだと思いました。 <金_銀惠(キム・ウネ)KIM Eun-hye> 韓国全州出身。ソウル在住。2013年に韓国ソウル大学社会学科より博士号(社会学)取得。専門分野は、都市・文化・日本社会学(メガイベント・世界都市論・開発主義)。現在、ソウル大学アジア研究所、SSK東アジア都市研究団選任研究員。最近は、東アジア都市の比較研究を発展させ、都市の危機を新しい転換の機会として模索している。SGRA会員。 (3)催事案内:講演会「ふくしま再生に向けて」 毎年、SGRAふくしまスタディツアーでお世話になっている、菅野宗夫さんと佐藤聡太さんの講演会です。今年のスタディツアーに参加した、早稲田大学の小林敦子先生が企画されました。ふるってご参加ください。 ◆「生きがいを求め 次世代に何を残す―原発事故の教訓を世界へ―」 福島と言えば放射能汚染。これが多くの人が抱くイメージではないでしょうか? しかし、福島県飯舘村では、農民自身による再生への取り組みが、力強く始まっています。 この講演会では、帰還と再生に向けて動き始めた菅野宗夫さんと、次世代を担う佐藤聡太さんをお迎えして、現地の方々の声に耳を傾けたいと思います。 講師:菅野宗夫(「ふくしま再生の会」、福島県飯舘村農民) コメンテーター:佐藤聡太(東京大学大学院農学生命科学研究院、福島県飯舘村出身) 日時:2015年11月16日(月)18時15分~20時15分 会場:早稲田大学早稲田キャンパス 14号館406号室 http://www.waseda.jp/top/assets/uploads/2015/08/waseda-campus-map.pdf 参加費:無料(直接ご来場ください) 問い合わせ:早稲田大学教育学部小林敦子ゼミ [email protected] チラシは下記リンクよりダウンロードしてください。 http://goo.gl/kDbhrR ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第50回SGRAフォーラム<参加者募集中> 「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて」 (2015年11月14日北九州市) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4961/ ◇第9回SGRAチャイナ・フォーラム<参加者募集中> 「日中200年―文化史からの再検討」 (2015年11月20日フフホト、22日北京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/5098/ ◇第15回日韓アジア未来フォーラム(2016年2月13日東京) 「これからの日韓の国際協力-ODAを中心に」<ご予定ください> ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • J.I.Forum Co-hosting Report

    ************************************************************************ SGRAかわらばん591号(2015年10月22日) (1)JIフォーラム『戦後70年Ⅱ:歴史記憶と歴史認識を考える』共催報告 (2)エッセイ:外岡豊「JIフォーラムに参加して」 (3)SGRAカフェへのお誘い(10月24日(土):当日参加受け付けます)   「女子大は、要る?~『女』、『男』と大学について考えよう~」 ************************************************************************ (1)JIフォーラム『戦後70年Ⅱ:歴史記憶と歴史認識を考える』共催のご報告 2015年9月28日、渥美財団評議員の加藤秀樹氏が主宰する構想日本のJIフォーラムを共催した。「事業仕分け」を始め、日本国内の課題について検討することが多い構想日本だが、国際的な課題も議論したいということで共催のお話をいただき、また、SGRAとしても国際的な問題をもっと多くの日本の方に考えていただきたいと思っていることから、このフォーラムが実現した。構想日本は7月に「戦後70年 戦前の昭和期に学ぼう」というフォーラムを開催したので、今回は、同じ時代を中国と朝鮮半島の方からみてみようということで、SGRAを長年応援してくださっている劉傑先生(早稲田大学)と木宮正史先生(東京大学)にお願いし、『戦後70年Ⅱ:歴史記憶と歴史認識を考える』というテーマが決まった。 劉先生は、1972年に毛沢東・周恩来と田中角栄・大平正芳が日中国交正常化した時の親密な写真と、昨年11月に安倍晋三と習近平がよそよそしい顔で握手をしている写真を比べ、日中友好の後退をビジュアルに示した。さらに、政治家だけでなく、両国の意識調査で80%以上の国民が、互いの国を嫌いだと言っていることに言及した。そして、近年中国の学会で歴史の再認識の動きがあることに触れたうえで、この状況を改善するためには、知的レベルの交流を推進し、日本研究においては、戦前も含めた日本の成功と失敗の経験をアジア全体で共有しうる公共知とする必要性を主張した。 木宮先生は、日韓関係は1965年の日韓基本条約で、それ以前の問題をきちんと解決できないまま締結したことが火種になっているが、現在の問題の背景には、垂直から水平へ(日本が旧支配国、経済発展先行国から平等な力関係へ)の日韓関係の変化があること、韓国の多様化、多層化に伴う韓国国内の対立が鮮明化していること、更には、批判を恐れて日本と妥協しにくい状況があることを指摘した。その解決方法として、日本は狭義の歴史問題に積極的に取り組み、一方、韓国は日本の取り組みを認めることで、日韓問題の「歴史問題化」を自制する必要がある、また、共に対中認識、対中政策における接近の可能性を追求すべきだと主張した。 モデレーターの加藤氏から、「歴史問題は、あまり細かいことにこだわらずに、大きく見るようにしたい」という前置きがあったが、両先生のお話はまさに現代史の大きな流れを俯瞰したものだった。アンケートにも「ディスカッションの通り、何が真実か分からず自分の意見が持ちにくいテーマです。こういう機会を増やし、少しでも真実に近づけるように、また個人の意見としてもはっきり言える考えが持てるようにしたい」というコメントがあり、主催者側の望んだ効果があったと思われる。「正義」とか「正しい」がでてくると窮屈になって自由な空間が失われる、外国はわからないが昨今の日本は確実に窮屈になっている、という加藤氏の指摘が印象に残った。当日ご参加くださった方、共催にあたってご協力いただいた方々に御礼を申し上げたい。 (SGRA代表 今西淳子) (2)SGRAエッセイ#471 ◆外岡豊「JIフォーラムに参加して」 SGRAと関係が深い2名の講師、木宮正史氏(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授、韓国政治史)と劉傑氏(早稲田大学社会科学総合学術院教授、近代日中関係史)を招いて、構想日本代表の加藤秀樹氏がコーディネータを務めたJIフォーラムに参加した。 私は、フォーラムの最後の質疑応答の時に、劉傑氏の言う公共知の構築による国民的和解をネット上のプラットフォームを作って推進すべきであるという意見を述べたが、その後の交流親睦会において自分の発言が意に反して逆の意味にとられかねないことが判明したので訂正しておきたい。 東アジアの歴史を概観すると、中国ではアヘン戦争以来の混乱があり、韓国では朝鮮戦争で南北に分断されたままの異常事態が続いており、日本は明治維新以来、日清、日露、日中戦争、太平洋戦争と戦争が続き、敗戦になったが、それらの社会的混乱はすべて欧米列強の植民地支配をねらった進出がもとになっている。 台湾、韓国、満州での異民族地域支配を決して正当化できるものではないが、日本はペリーの黒船来航以来、欧米人の東アジアへの進出に対して、アジア人として対抗する必要があり、侵略戦争とされている度重なる戦争も、各地への進出も(少なくとも初心においては)アジアを守るための戦いであったと、はっきり主張すべきであるとの意見も根強い。 日本における戦後の歴史教育はアメリカに都合のよいように仕向けられて、すべて侵略戦争だとして説明され、それが日本人に自虐史観を植え付けてきたという説もある。これは敗戦後、アメリカ占領軍がかつての日本人の団結力を恐れ、日本が再び好戦的な国として立ち上がることがないように、民族の誇りを持たせないように、ゆがんだ歴史教育を強いて、それが今も続いているのだ、という。世界の世論調査で国際比較すると日本の若者は愛国心が薄弱、親を尊敬しない、自分に自信がない点において先進国中突出しているというが、これはアメリカの占領後の対日戦略の結果だとされ、こうした現状を打破して日本人の誇りを取り戻そうとする活動も最近活発化しているようである。私は積極分子ではないが、いろいろな考え方の人がいることを知るために、この数年その手の勉強会にも参加している。 歴史は常に時の為政者に都合の良いように書かれるものだとされるが、それでは国民感情としての歴史認識問題は解決できない。劉傑氏の提案のようなアジアの公共知としての歴史を構築するには、そのための客観的な、各国政治に影響されない共通歴史資料の蓄積が必要である。残念ながら日本人は歴史基礎知識が不足していて、近隣諸国占領の歴史を知らない人も多く、まして占領支配された側の苦しみを実感できるような知識も情報も不足している。 政府はどうしても政権に都合のよい歴史を国民に押し付け、外国にも主張しようとするが、現在のネット社会では政府とは無関係な市民間情報の共有ができるので、国境を越えた客観的な歴史資料を公共知の基礎として市民が構築すべきである。矛盾する様々な説があるだろうが、それらを互いに客観的な根拠を添えて主張し、誰にもわかりやすく説明し、その基礎知識を提供する役割が歴史学者に求められている。各国市民はそれらを見て、政府発表とは違う諸説があることや、各国に様々な見方があることを知り、それらを総合した客観的な認識を得ることによって、政府の歴史観のもとに市民間で対立していても意味がないことと実感し、自然にわだかまりが解けるような効果を期待したい。 一方、歴史認識問題を含め政府間の対立を解決するのは外交官の仕事であり、最近、日中韓でそれがうまくいっていない現実は、各国ともに外交官の交渉能力が低下しているのではないかと懸念される。 毛沢東は「存在が意識を決定する」と言い、政治に関与する者は各階層(特に貧農下層中農)の人民の立場に立って考えよと説いたが、それは、意識しないと、とかく自分の立場の限られた視点だけでものを考えてしまいがちだという指摘である。支配される側の他国民の立場や感情を日本人が想像することは難しい。 このことが念頭にあったので、発言の中で、「日本人は植民地にされた経験がないので韓国、中国、台湾の非支配者の立場を理解しがたい」と言ったが、無頓着な態度を反省なく肯定しているかのように受け止められかねない言い方であったと後から気が付いた。 それは講演後の懇親会で、日本も米軍に占領支配された経験があるではないか、と言われて、その人と話すうちにどうも誤解を招く発言であったようだと思った。確かに沖縄では多くの市民が犠牲になった。本土では爆弾を落とされて市民多数(原爆と東京大空襲だけで30数万人)が死亡したが、長期間の植民地支配を受けたわけではないので、支配された経験がないと言ってしまった。 しかし、考えてみれば、戦後70年の日米関係は、巧妙な支配でいまだ敗戦国から抜け出せていない。70年経っても米軍基地は残り、いつなくなるのか展望もないままである。アメリカはイラクを日本のように柔軟に支配して何でも聞いてくれる国にしたかったのだ、という説も聞いた。日本は隠れ植民地支配されているも同然と言うべきかも知れない。 ローマ法王は現代の企業は人から収奪し環境を傷めつけていると明言している。現在の先進国の企業活動は合法的に巧妙に利益吸収して、1%の富裕層が貧しい99%を支配しているという構図はトマ・ピケティーが指摘している通りであり、金融派生商品の発達や、会社の重役の持ち株の売却に際して、その税制がアメリカでも大きな不平等を生んでいるとの指摘もある。世界的に一部の人が彼らの利益追求のために国家にも影響力を持ち暗躍していて、実はそれが世界各地の紛争をあおっているとするうがった説もある。 世界を支配する一部の人達のあくなき利益追求の下でアジア人同士がいがみあっていても始まらない。共に協力してより多くの収穫が得られるよう努力してきた稲作協働文化社会であり、儒教社会でもある日中韓においては和解しやすい基礎は元来あるはずである。 皆さん御承知のように渥美国際交流財団ではまさに劉先生が提唱する公共知構築に寄与する国際的な研究会を各地で開催してきていることは関係者として誇らしいものである。渥美財団の奨学支援で育った優秀な人材が各地で活躍しており、彼らと共に人の輪を広げて、相互理解を深め、アジアが率先して互恵社会を作り上げて行けるよう、EUに負けないアジア経済社会圏を早く実現できるように期待したい。この勉強会はその一歩となる有意義なものであった。 <外岡豊(とのおか・ゆたか)Yutaka TONOOKA> 神奈川県出身 湘南高校卒業、早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院終了、工学博士 埼玉大学大学院人文社会科学研究科教授 早稲田大学招聘研究員、大連理工大学と西安交通大学の客座教授、元Imperial College、Visiting Prof. 建築学会地球環境委員会、同倫理委員会委員、低炭素社会推進会議(18団体で今年設立)幹事、森街連携会議代表、エコステージ協会理事、日本都市問題会議世話役他 専門分野は都市環境工学、環境政策、とくにエネルギーと環境のシステム分析 最近は気候変動対策評価研究を発展させて、持続可能社会について考察中 SGRA会員 (3)第8回SGRAカフェへのお誘い(最終案内) SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回は、「性別やジェンダー(「女」「男」であること等)について、考えるきっかけをつくる」ことをめざし、シンガポール出身のシム_チュンキャットさん、ノルウェー出身のデール_ソンヤさんのお二人を中心とした座談会を開催します。 準備の都合がありますので、参加ご希望の方は、事前に、SGRA事務局へお名前、ご所属、連絡用メールアドレスをご連絡ください。 ◆「女子大は、要る?~『女』、『男』と大学について考えよう~」 日時:2015年10月24日(土)14時~17時 会場:渥美国際交流財団ホール http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 会費:無料 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected]) ◇講師からのメッセージ: 日本には、女子大学というものがまだ存在しています。男女平等という話題が盛り上がっている現在において、女性しか通えない大学は要らないと思っている人は多いかもしれません。男子大学はないし、男女平等の社会だったら、性別に関わらず誰でもどのスペースでも利用できるはずでしょう。 このカフェは、性別やジェンダー(「女」「男」であること等)について、考えるきっかけにしていただけたらと思います。大学というテーマを中心に、「女」である、または「男」であることと、その社会的な妥当性について考えましょう。 女子大や、大学でジェンダーの勉強することについての発表の後、このテーマについて話し合う場をつくりたいと思っています。このカフェは講演会ではなく、ディスカッションのためのカフェです。皆さんの積極的な参加をお待ちしています! ◇講師略歴 <シム_チュンキャット Sim_ChoonKiat 沈_俊傑> シンガポール教育省・技術教育局の政策企画官などを経て、2008年東京大学教育学研究科博士課程修了、博士号(教育学)を取得。昭和女子大学人間社会学部・現代教養学科准教授。SGRA研究員。 <デール、ソンヤ Sonja_Dale> 2014年上智大学グローバル・スタディーズ研究科博士課号取得。東海大学他非常勤講師。ウォリック大学哲学部学士、オーフス大学ヨーロッパ・スタディーズ修士。2012年度渥美奨学生。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第8回SGRAカフェ<参加者募集中> 「女子大は、要る?~『女』、『男』と大学について考えよう~」 (2015年10月24日東京)(当日参加を受け付けます) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4990/ ◇第50回SGRAフォーラム<参加者募集中> 「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて」 (2015年11月14日北九州市) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/4961/ ◇第9回SGRAチャイナ・フォーラム<参加者募集中> 「日中200年―文化史からの再検討」 (2015年11月20日フフホト、22日北京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2015/5098/ ◇第6回日台アジア未来フォーラム(2016年5月21日高雄) 「東アジアにおける知の交流―越境・記憶・共生―」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/taiwan/2015/4439/ 発表論文の投稿は締め切りました。 ◇第3回アジア未来会議「環境と共生」<発表要旨募集中> (2016年9月29日~10月3日、北九州市) http://www.aisf.or.jp/AFC/2016/ 一般の論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿締め切りは2016年2月28日です。 ☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。 ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2015/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email: [email protected] Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************