SGRAメールマガジン バックナンバー

Dinu Bajracharya “Culture of Hakama and My Dream”

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SGRAかわらばん759号(2019年2月21日)

【1】エッセイ:ディヌ・バズラチャルヤ「袴の文化と私の夢」

【2】「国史たちの対話の可能性」メールマガジンを開始しました!是非ご購読ください。
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【1】SGRAエッセイ#587(私の日本留学シリーズ#27)

◆ディヌ・バズラチャルヤ「袴の文化と私の夢」

2006年3月18日に初めて留学生として来日してから12年、博士号を取得することができました。長期間の留学生生活から社会に出て、今後は母国で研究と仕事を頑張って行きたいと思います。そこで、この場をお借りして、日本で過ごしたこの12年間を振り返りながら、日本の大切な「袴」の文化と、高校生の頃からの私の夢とその実現についての感想を皆さんと共有したいと思います。渥美財団の研究報告会の「誰にでもわかるようにすることが重要である」ということに留意し、簡単明瞭な文章を心がけました。

私は子どもの頃から学校へ行くのが好きで、就学する年齢ではなくても、姉の代わり、また姉と一緒に学校へ行っていました。当時の公立学校では、1人の教員に対して50~65人の児童が1つのクラスで一緒に学習するのが普通であったため、バレることは無かったのです。勉強に対する私の興味に気付いてくれた父は私を基本就学年齢より1年早く就学させ、無事SLC(10年間の後期中学校)を卒業することができました。

私は子どもの頃、「いつか私も留学して、卒業式には黒い帽子とガウンを着て写真を撮る」と言う夢を持っていました。しかし、高校を卒業後、突然父が亡くなったために経済的な問題に直面し、留学する夢は叶いそうにありませんでした。働きながら経営学部で興味のないマネジメントを学んで卒業しましたが、2006年に偶然日本へ留学する機会がありました。日本は平和で治安の良い国なので、女性一人で留学することに母からも許可を得ることができました。

日本での生活では様々なハードルに直面しました。一番大変だったのは、日本語、ひとり暮らし、食文化の違いでした。日本語について12年経った今振り返ってみると、修士と博士論文を日本語で書いたことは自分でも信じ難いです。また、初めて日本へ来たネパール人に「日本でひとり暮らしをすることは一番安全で楽ですよ」とアドバイスができるようになりました。ところが、12年経っても日本の名物であるお寿司は食べられません。それから、ゴミの分別も未だに苦手です。

以上は、日本で経験した忘れられない思い出です。それとは別に日本へ留学して最高によかったことは、子どもの頃にずっと気になっていた友人の不登校・中退に関する問題の答えを得ることができ、それをテーマにした研究で社会学の博士号を取得できたことです。そして、博士専用のガウンと帽子を着用し、写真を撮る夢も叶えられました。

ここで、読者の皆さんはきっと「なぜ、ネパールの大学の卒業式や日本の修士課程の卒業式でガウンを着なかったのか」という疑問が浮かぶでしょう。ネパールの場合、卒業式はそれぞれのキャンパス別には実施しません。合格の成績を得てから約半年後、国立大学全体の卒業式を一度に実施します。私は卒業式の時にはもう日本へ留学していたため、ネパールの大学の卒業式に参加することができませんでした。日本の学部と修士を卒業したときも、亜細亜大学では、袴かスーツが普通でした。実は袴を着たかったのですが、そのレンタル代が高すぎて最終的にスーツで卒業式に参加しました。

2018年3月に博士課程を卒業することができ、今度こそ博士専用のガウンを着る夢を実現できると思っていましたが、残念ながら、お茶の水女子大学(以下お茶大)の卒業式でも主に袴かスーツを着用するのが一般的であることを知りがっかりしました。ガウンを着る夢はもう叶えられないと思いながら、最後の卒業式の良い思い出を作るため、たとえいくら高くても袴を着ることにしました。しかし、博士課程の卒業生は袴を穿かないという情報を事務の方から聞き、さらにがっかりしました。参考のためにお茶大の担当者から送ってくれた前年度の卒業式の写真を見たところ、確かに博士課程の卒業生は全員スーツ姿でした。

ところが、その写真であることに気付きました。それは、ある70歳代の卒業生がガウンの姿で写っていました。それを担当者に確認したところ、個人で用意できれば、ガウンでも大丈夫と言うことを聞き、本当に嬉しくてしかたなくなりました。早速卒業式の前日までにガウンの予約をし、自分の夢である博士課程専用の黒い帽子とガウンを着用し、卒業式に参加して、たくさん写真を撮りました。

また、ある留学生の友人の貴重な情報のおかげで、国立(くにたち)国際交流会の担当者と出会い非常に安く袴をレンタルすることができました。70代の先輩の写真一枚のおかげで、ガウンと袴を両方着用して卒業式を楽しく迎えました。ここでコミュニケーション及び情報の伝達は研究だけでなく、毎日の生活にも非常に重要であることを実感しました。お茶大及び他大学の友人や国立国際交流会の担当者とコミュニケーションを取り、相談をした結果、私の夢が実現しました。私の様に日本へ留学する多くの留学生は、日本の袴の文化も経験したがっていると思いますが、なかなか手が届きません。国立国際交流会のような情報をもっと広げることができれば、様々な国から来た留学生が日本の大切な袴の文化の経験もできると強く思い、このエッセイのテーマも袴を中心にしました。

以上のように、日本へ留学できたことと、留学中に支援してくださったたくさんの方々のおかげで、興味のある分野の研究ができ、中退・中退リスクまた不登校に関する知識を深めることができました。さらに、自分の夢も実現することができました。本当にありがとうございました。 (2018年3月記)

<ディヌ・バズラチャルヤ Dinu_Bajracharya>
2018年、お茶の水女子大学より博士号を取得。博士研究テーマは「ネパールの初等教育における中退リスクの規定要因」。修士論文のテーマはネパールの初等教育と社会経済開発。学部から日本留学をして博士号を取得するまでの期間(2008~2017年)、JASSO、小林国際奨学財団、とうきゅう奨学機関、本庄国際奨学財団、渥美奨学財団から奨学金を受給。現在、ネパールのR&D_Bridge_Nepalでプロジェクトマネージャーとして働いている。

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SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。これから毎月1回配信する予定です。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。

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■国史対話プロジェクトの経緯:

2015年7月の第49回SGRAフォーラムにおいて、「東アジアの公共財」及び「東アジア市民社会」の可能性について議論が交わされました。そのなかで、劉傑先生(早稲田大学教授)のイニシアティブにより、先ず東アジアに「知の共有空間」あるいは「知のプラットフォーム」を構築し、そこから和解につながる智恵を東アジアに供給することの意義を確認しました。

このプラットフォームに「国史たちの対話」のコーナーを設置したのは2016年9月の第3回アジア未来会議の機会に開催された第1回「国史たちの対話」でした。いままで3カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきましたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話はまだ深められていない、という意識から、先ず東アジアにおける歴史対話を可能にする条件を探りました。具体的には、三谷博先生(東京大学名誉教授)、葛兆光先生(復旦大学教授)、趙珖先生(高麗大学名誉教授)の講演により、3カ国のそれぞれの「国史」の中でアジアの出来事がどのように扱われているかを検討しました。

第2回国史対話は、自国史と国際関係をより構造的に理解するために、「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」というテーマを設定しました。2017年8月北九州にて、日本・中国・韓国・モンゴルから11名の国史研究者が集まり、各国の国史の視点からの研究発表の後、東アジアの歴史という視点から、朝貢冊封の問題、モンゴル史と中国史の問題、資料の扱い方等について活発な議論が行われました。この会議の諸発表は、東アジア全体の動きに注目すると、国際関係だけでなく、個別の国と社会をより深く理解する手掛りも示すことを明らかにしました。

第3回国史対話のテーマはさらに時代を下げて「17世紀東アジアの国際関係」と設定しました。2018年8月ソウルに日本・中国・韓国から9名の国史研究者が集まり、日本の豊臣秀吉と満洲のホンタイジによる各2度の朝鮮侵攻と、その背景にある銀貿易を主軸とする緊密な経済関係、戦乱の後の安定について検討しました。また、3回の国史対話を振り返って次に繋げるため、早稲田大学主催による「和解に向けた歴史家共同研究ネットワークの検証」のパネルディスカッションが開催されました。

国史対話円卓会議は2016年度から毎年1回、全部で5回開催する計画です。残りの2回は近現代をテーマとして取り上げます。3言語に対応したレポートの配布とリレーエッセイのメールマガジン等により、円卓会議参加者のネットワーク化を図ります。

■円卓会議のレポートは下記よりご覧いただけます。

SGRA_Report_no.79
「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性(1)」

レポート第79号「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」

SGRA_Report_no.82
「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
―蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」

レポート第82号「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性─蒙古襲来と13 世紀モンゴル帝国のグローバル化」

※第3回国史対話のレポートは2019年秋に発行予定です。

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★☆★SGRAカレンダー
◇第5回アジア未来会議「持続的な共有型成長:みんなの故郷みんなの幸福」
(2020年1月9日~13日、マニラ近郊)<論文(発表要旨)募集中>
※奨学金・優秀賞の対象となる論文の募集は締め切りました。一般論文の投稿(発表要旨)は6月30日まで受け付けます。

Call for Papers


☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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