SGRAメールマガジン バックナンバー

Naheya “Dialogue of National Histories”

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SGRAかわらばん696号(2017年10月26日)
【1】エッセイ:娜荷芽「国史たちの対話の可能性」
【2】第58回SGRAフォーラムへのお誘い(11月18日、東京)
「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
【3】第11回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(11月25日、北京)
「東アジアからみた中国美術史学」
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【1】SGRAエッセイ#549
◆娜荷芽「国史たちの対話の可能性」
近年になって、民族主義的歴史観とそれによる歴史教育の弊害についての議論が激しくなっており、その代案として、地域史研究の視点からその歴史的流れを把握することが強調されつつある。言い換えれば、ネーションと民族単位ではなく、共通の文化的同質性をもつ一定の地域を1つの単位としてまとめることによって、これまで意識されてこなかった新たな歴史像があるのではないかと期待されている。
ここで浮かび上がる主要カテゴリーの1つが東アジアである。これに該当する地域はモンゴルを含む、中国、朝鮮半島の韓国・北朝鮮、日本などである。モンゴルを除けば、該当する国々は伝統的には海路を通じて結びついている地域であり、漢字文化圏という呼称が示すように、数千年にわたって文化的交流が活発であり、文化的同質性を帯びている地域である。また、これらの地域の多くは13世紀から14世紀後半にかけて、モンゴルによって政治的に統合されたことがある。この期間の東アジア文化圏の文化的交流と融合は最も盛んで、その文化的影響は現在も引き続き残っていると考えるべきだろう。
高麗とモンゴルの出会いは、13世紀の初めころで、高麗側がモンゴルに貢物を献上することを約束したため、モンゴルからの使者が高麗を頻繁に訪れ、極めて横柄に法外な量の貢物を要求するようになった。そのような使者の代表格が、1221年から毎年のように貢物を受け取っては持ち帰る著古與という者であった。その著古與が1231年に貢物を受け取った帰路、鴨緑江を超えたところで死んでしまった。当時モンゴルでは、チンギス・カーンの後を継いだウゲデイが即位していたが、ウゲデイ・カーンはこの著古與の死の責任を高麗に問うて6回に亘って軍を送り込み、1259年、高麗はモンゴルに全面降伏する。
その後、済州(チェジュ)がモンゴルと出会う。済州は古くは耽羅国が成立していたが、高麗により合併。朝鮮半島と中国大陸や日本列島などをつなぐ中間地点であり、好むと好まざるとにかかわらず、周辺地域との交流が盛んになる地政学的位置にある。一方、国際情勢が揺れ動く時には激しい変化を経験することもあった。
これまで、済州とモンゴルの最初の交流については、対立と葛藤の関係と見て、それが済州社会に与えた影響は無視するか、極小化しようとする立場を取ってきたと言える。これには、民族主義的立場を揚げる歴史観と共に、モンゴル帝国没落以後の長い歳月の間、漢族を中国支配の正統と見なし、他の種族は夷であると見る華夷論が広く深く受け継がれてきた影響が大きく作用している。
しかし、最近になって、「翻って、国家と民族単位ではなく、済州の対外関係と済州の人々の生活と文化という観点から眺めてみた時、済州とモンゴルの最初の交流は済州地域のアイデンティティ形成に大きな影響を与えたのであり、これは今日でも見いだすことができる」という提案もある(金日宇・文素然著、井上治監訳『韓国・済州島と遊牧騎馬文化』)。例えば、済州にモンゴルから馬が持ち込まれて国営牧場が営まれていた。現在、韓国が国を挙げて保護に努めている「済州馬」は、済州島の在来種「果下馬」と北方から将来された外来種「胡馬」との混血種であり、モンゴル支配時代にモンゴル馬や西域馬とさらに混血し多品種化して残ったものだといわれている。
1265年、モンゴルのクビライ・カーンは、ある高麗人に、日本がかつては中国に使者を送って通好していたことを告げられ、翌1266年に高麗の元宗の所に使者を遣わした。その使者は2通の書簡を携えていた。1通は「日本国王」に通好を呼びかけるもの、もう1通はその使者を日本まで送り届けるよう元宗に命じるものであった。これに始まるクビライの数度の呼びかけに日本側が一切応じず、結果として日本遠征、日本で言うところの元寇あるいは蒙古襲来を引き起こすことになった。
2017年8月7日~9日に、「歴史家は東アジアにおける『歴史和解』にどのような貢献ができるのか」という趣旨で、「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」円卓会議が北九州市で開催された。東アジア全体の視野で、モンゴルの高麗・日本侵略は、文化的には各国の自我認識を喚起し、政治的には中国中心の華夷秩序の変調を象徴するため、立場によってさまざまな歴史があることと、「国史」と東アジア国際関係史の接点に今まで意識されてこなかった新たな歴史像の確認が期待され、4か国の学者による議論も一段と熱が入った。
翌日、「蒙古襲来」遺跡見学コースで元寇資料館、箱崎宮、松原元寇防塁跡などを見学したが、ここで得られたものも大きかった。NPO法人志賀島歴史研究会の岡本顕実さんや筥崎宮宮司田村克喜さんの歴史的感覚の豊かさに驚かざるを得ない。箱崎宮の楼門には、元寇の折亀山上皇が書かれた「敵国降伏」の額が掲げられている。この4文字は、一般的には日本に攻め寄せてくる敵国を降伏させようというお祈りのように考えられる。ところが、「敵国降伏」というのは、「敵国が我が国のすぐれた徳の力によって、おのずからに靡き、統一されるという『徳による王者の業なり』」という説明を受けた。
自国史と他国史との関係をより構造的に理解するために、さまざまな歴史があることをまず確認する必要があろう。しかし、それではいつまでたってもばらばらであるから、その上で、異なる立場の研究者同士が対話を進めて共有できるものを模索する知的な空間の創造が求められている。
<娜荷芽(ナヒヤ)Naheya>
内蒙古大学・蒙古学学院蒙古歴史学学部助研究員。専攻は東アジア近現代史、モンゴル史。2012年東京大学大学院修了(歴史学博士)。武蔵大学、和光大学講師を経て現在に至る。主な著作:「近代内モンゴルにおける教育・文化政策研究」(博士論文、2012年)、「満洲国におけるモンゴル人中等教育――興安学院を事例に――」(『日本モンゴル学会紀要』第42号、2012年、3‐21頁)、「1930~40年代の内モンゴル東部におけるモンゴル人の活動」(『日本とモンゴル』第49巻第2号(130号)、2015年3月、108-119頁)等。
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【2】第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」へのお誘い
下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。
◆テーマ:「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
日時:2017年11月18日(土)午後1時30分~4時30分 その後懇親会
会場:東京国際フォーラム ガラス棟 G610 号室
http://www.t-i-forum.co.jp/general/access/
参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected]、03-3943-7612)
◇フォーラムの趣旨
中国政府は2013年9月から、シルクロード経済ベルトと海上シルクロードをベースにしてヨーロッパとアジアを連結させる「一帯一路」政策を実行している。「一帯一路」政策の内容の中心には、中国から東南アジア、中央アジア、中東とアフリカを陸上と海上の双方で繋げて、アジアからヨーロッパまでの経済通路を活性化するという、習近平(シーチンピン)中国国家主席の意欲的な考えがある。しかし、国際政治の秩序の視点から観れば、「一帯一路」政策が単純な経済目的のみを追求するものではないという構造を垣間見ることができる。
「一帯一路」政策は、表面的にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)を通じた新興国の支援、融資、そしてインフラ建設などの政策が含まれており、経済発展の共有を一番の目的にしているが、実際には、貿易ルートとエネルギー資源の確保、そして東南アジア、中央アジア、中東とアフリカにまで及ぶ広範な地域での中国の政治的な影響力を高めることによって、これまで西洋中心で動いて来た国際秩序に挑戦する中国の動きが浮かび上がってくる。
本フォーラムでは、中国の外交・経済戦略でもある「一帯一路」政策の発展を、国際政治の観点から地政学の論理で読み解く。「一帯一路」政策の背景と歴史的な意味を中国の視点から考える基調講演の後、日本、韓国、東南アジア、中東における「一帯一路」政策の意味を検討し、最後に、4つの報告に関する議論を通じて「一帯一路」政策に対する日本の政策と立ち位置を考える。
◇プログラム
詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/10/SGRAForum58Program.pdf
【基調講演】
「一帯一路構想は関係諸国がともに追いかけるロマン」
朱建栄(Jianrong_ZHU)東洋学園大学教授
【研究発表1】
「戦後日本の対外経済戦略と『一帯一路』に対する示唆」
李彦銘(Yanming_LI)東京大学教養学部特任講師
【研究発表2】
「米中の戦略的競争と一帯一路:韓国からの視座」
朴栄濬 (Young-June_PARK) 韓国国防大学校安全保障大学院教授
【研究発表3】
「『一帯一路』の東南アジアにおける政治的影響:ASEAN中心性と一体性の持続可能性」
古賀慶 (Kei_KOGA)シンガポール南洋理工大学助教
【研究発表4】
「『一帯一路』を元に中東で膨張する中国:パワーの空白の中で続く介入と競争」
朴准儀(June_PARK)ソウル大学訪問学者
【フリーディスカッション:討論者を交えたディスカッションとフロアとの質疑応答】
「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
モデレーター:平川均(Hitoshi_Hirakawa)国士舘大学21世紀アジア学部教授
討論者:西村豪太 (Gouta NISHIMURA) 『週刊東洋経済』編集長
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【3】第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」へのお誘い
下記の通りSGRAチャイナ・フォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。
※お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected]、03-3943-7612)
◆テーマ:「東アジアからみた中国美術史学」
日 時:2017年11月25日(土)午後2時~5時
会 場:北京師範大学英東学術会堂
主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
共 催:北京師範大学外国語学院、清華東亜文化講座
助 成:国際交流基金北京日本文化センター、鹿島美術財団
◇フォーラムの趣旨
作品の持つ芸術性を編述し、それを取り巻く社会や歴史そして作品の「場」やコンテキストを明らかにすることによって作品の価値づけを行う美術史学は、近代的社会制度の中で歴史学と美学、文化財保存・保護に裏打ちされた学問体系として確立した。とりわけ中国美術史学の成立過程においては、前時代までに形成された古物の造形世界を、日本や欧米にて先立って成立した近代的「美術」観とその歴史叙述を継承しながらいかに近代的学問として体系化するか、そして大学と博物館という近代的制度のなかにいかに再編するかというジレンマに直面した。この歴史的転換と密接に連動しながら形成されたのが、中国美術研究をめぐる中国・日本・アメリカの「美術史家」たちと、それぞれの地域に形成された中国美術コレクションである。このような中国美術あるいは中国美術史が内包する時代と地域を越えた文化的多様性を検証することによって、大局的な東アジア広域文化史を理解する一助としたい。
◇プログラム
総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部)
【問題提起】林少陽(東京大学大学院総合文化研究科)
【発表1】塚本麿充(東京大学東洋文化研究所)
「近代中国学への架け橋―江戸時代の中国絵画コレクション―」
【発表2】呉孟晋(京都国立博物館)
「漢学と中国学のはざまで―長尾雨山と近代日本の中国書画コレクション―」
【円卓会議】
進行:王志松(北京師範大学)
討論:
趙京華(北京第二外国語学院文学院)
王中忱(清華大学中国文学科)
劉暁峰(清華大学歴史学科)
総括:董炳月(中国社会科学院文学研究所)
同時通訳(日本語⇔中国語):丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学)
※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。
日本語版プログラム
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/10/2017SGRAChinaForum11Japanese.pdf
中国語版プログラム
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/10/2017SGRAChinaForum11Chinese_revised.pdf
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★☆★SGRAカレンダー
◇第2回東アジア日本研究者協議会にSGRAより3パネル参加
(10月27日~29日、天津)

第2回東アジア日本研究者協議会へのお誘い


◇第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
(11月18日、東京)<参加者募集中>

第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」へのお誘い


◇第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」
(11月25日、北京)<参加者募集中>

第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」へのお誘い


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
<論文募集中(締切:2018年2月28日)>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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