SGRAメールマガジン バックナンバー

LI Yanming “SGRA V-Cafe #13 Report”

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SGRAかわらばん833号(2020年8月20日)

【1】李彦銘「第13回SGRAカフェ『ポストコロナ時代の東アジア』報告」

【2】国史対話メルマガ配信:荒木和憲「14世紀の『唐船』と京都の感染症」

【3】第14回SGRAカフェへのお誘い(9月19日)(再送)
「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」
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【1】李彦銘「第13回SGRAカフェ『ポストコロナ時代の東アジア』報告」

今回のカフェはバーチャルカフェ(以下Vカフェ)という形をとり、延べ100名ちかくの参加が実現でき、SGRAカフェ史上最大規模となったといえよう。この成果は「ポストコロナ時代の東アジア」というタイムリーなテーマ、林泉忠先生をはじめとする講師陣、それからバーチャル形式という新しい実現手段の魅力を語ってくれた。

当日のVカフェは講演と懇親会の2部構成となったが、本レポートは講演内容を中心に報告し、懇親会については林先生のレポートに譲ろう。林先生の講演はまず現在の状況に対する見方、つまりグローバル時代の終焉から始まった。その具体例として、グローバルサプライチェーンの断絶や企業の自国内への回帰、人的交流の一時中断とナショナリズムの高揚、またウイルスに対する初動と「香港国家安全維持法」(国安法)の制定・実施をめぐって世界各国の中国に対する不信感が増長していることが挙げられた。

その後は、米中「新冷戦」が顕在化する状況における東アジア各国の関係性の変化について見解が述べられた。日韓にとっては、米中とどのようにバランスを維持していくのかが最大の問題であるが、中国が日韓と米国を分断させる戦略に乗り出している一方で、日韓の間で軋轢の深刻化が止まらない。日中は最近2年間の「疑似蜜月」関係から「中熱日冷」へと転換したと主張され、またこの日中友好の状態は主に中国主導によるものであったが、現在は日本の対中イメージが悪化する一途であり、習近平主席の国賓訪日もあやふやな状態になったと指摘された。中韓関係もまた、中国が主導しているように見え、韓国外交は主体性を持って臨んでいないと指摘された。

ではコロナが鎮静化したら中国の影響力は一気に強まるのか。まず香港に対し、中国政府は英米などの反発や批判を無視して権威主義体制へ移行させるだろう(1997年より以前の香港は行政主導+半植民地)。一方で台湾に対しては、新型コロナウイルス騒動は予想外の効果、つまり大陸と距離を維持することは悪いとは限らないという見方をもたらした。これは北京の「両岸融合」「恵台31カ条」のような急進的な政策による逆効果ともいえよう。これに加えて「香港統制」は台湾にさらなるプレッシャーをもたらし、また香港という緩衝地帯を失う結果、台湾の対米依存はさらに増すだろうという。

以上の議論を踏まえ、ポストコロナの時代は「新冷戦」時代が到来すると講演を結んだ。香港、台湾はこの新冷戦の激戦地になるだろう。11月の米大統領選の結果も注目しなければならないが、米国内では対中政策の合意がすでに出来上がっており、新冷戦はもはや回避できないと予測される。世界は米中2大ブロックに分割されるのか。今後日本に問われるのは主体性がある行動・リーダーシップである。

コメントとしてまず下荒地修二先生から、コロナの問題は国際社会に予想外のことをたくさんもたらし、相互不信もその一部ではあったが、現在はウイルスという共通敵にどう対処すればいいのかという段階に来ているではないかと指摘された。それから日中関係の改善は望まれる方向で、どちらが主導かということは重要ではなく、肝心なのは国際秩序をどのように建設的な方向へ持っていくのかであり、特に大国の間では議論をしなければならないと提起された。

南基正先生からは、ニューオーダー(new_order)としてポストコロナの国際秩序を考えるときに、国際政治のリアリズム理論の枠を超えなければならないと指摘された。コロナ問題によって各国では、アイデンティティ・ポリティックスから脱皮し、人々の生活を中心とする政治を構築する必要があることが浮き彫りになった。アイデンティティ・ポリティックスにこだわる結果、日韓関係には破綻が起るだろう。しかしコロナなど生活を中心とする政治の観点から見れば、ナショナリズムに訴えても問題は解決できない。アイデンティティやナショナリズムに訴えても票にならないことを、コロナは政治家に悟らせたのではないか。また政治家は政権のレガシーとして何を残すのかを考えるべきであり、特にミドルパワーの国々や日韓に期待したいという。

講演部分はここですでに1時間45分になり、一段落となった。個人的な感想は、まず長い時間をかけてさらに議論したい話題がたくさん出て、研究者として非常に興味深い集まりであった。もう一つは、一人の市民として、今後の国際秩序をどう展望し、そしてどう行動していけばいいのか、という大きな課題を改めて考えさせられたことである。一個人の力は本当に小さいものであり、そして懇親会でも指摘されたように、個人にとってアイデンティティは容易に越えられるものではない。まして政治情勢や情報制限、マイナスの歴史といった「人的操作」を受ければ、恨みや偏見が生まれやすい。しかしそこであきらめていいのか。この半年の間、外出自粛や会合自粛のなか、私も自分自身が閉塞感を感じたり事を悲観的にとらえやすくなったと感じたりしたが、そのバイアスで見落としてきた積極的な要素も現実に存在するのではないか。

当日の写真を下記リンクよりご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/08/13thSGRA-V-Cafe_Photo-1.pdf

<李彦銘(リ・イェンミン)LI_Yanming>
専門は国際政治、日中関係。北京大学国際関係学院を卒業してから来日し、慶應義塾大学法学研究科より修士号・博士号を取得。慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター研究員を経て、2017年より東京大学教養学部特任講師。

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【2】「国史対話」メールマガジン第20号を配信しました。

◆荒木和憲「14世紀の『唐船』と京都の感染症」

日本の中世(11~16世紀)は災害と戦乱の時代である。とくに中世後期(14~16世紀)は、地球規模の寒冷化にともなう天候不順と飢饉に幾度となく見舞われ、それに追い打ちをかけるように地震・津波、台風・洪水、感染症、そして戦乱があいついだ。いわゆる複合災害が中世を生きる人々を苛んだのである。そうした中世人の「日常」に思いをいたすにつけ、現今の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の世界的な感染拡大が少しでも早く終息し、複合災害へと展開しないことを祈るばかりである。

さて、私が専門としているのは、中世日本の対外交流史(東アジア交流史)である。これまで戦乱との関わりは多少考えてきたつもりだが、感染症の問題はどこか遠いものを感じていた。他の時代・地域を対象とした研究では、ありふれたテーマなのかもしれないが、少なくとも中世日本対外交流史の分野では特に議論されることがなかったからだ。ところが、COVID-19の感染拡大が国境をこえた人の移動・交流の拡大と不可分であること、そして都市社会がいかに脆弱なものであるかを目の当たりにするなかで、決して対外交流史と災害史は無関係ではありえないという気づきを得ることになった。そこで、これまであまり気にとめていなかった、感染症に関するひとつの記録をもとに、その接点をさぐってみることにしたい。

続きは下記リンクからお読みください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2020Araki2Essay.pdf

※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは20日ごとに配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。また、3言語対応ですので、中国語話者、韓国語話者の方々にもご宣伝いただきますようお願いいたします。

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【3】第14回SGRAカフェへのお誘い(再送)

SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす皆さまに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺い議論をする<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回はオンラインZoomと渥美財団の会場とを繋ぎ、バーチャルとリアルを組み合わせて開催します。皆さまのご参加をお待ちしています。

◆第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」

日時:2020年9月19日(土)(日本時間)15時00分~17時00分
参加方法:オンライン(Zoom)または渥美財団へご来訪かを参加登録時にお選びいただけます。
言語:日本語
会費:無料
定員:オンライン100名/渥美財団ホールでの参加15名
(人数に達した時点で申込を締め切らせていただきます)
参加申込(下記リンクから):
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_73VDxBKBTBWzXdhjhSh3ow

問い合せ:SGRA事務局 [email protected]

◇プログラム
14:45 Zoom接続開始
15:00 開会
15:10 講演:大曲貴夫「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」
15:40 各国リポート5ヵ国(1人5分程度)
16:20 質疑応答(会場+オンライン)
17:00 終了
17:00~ご希望の方々によるZoom懇親会(18:00頃終了予定)

◇趣旨
世界を席巻する新型コロナウイルス(COVID-19)。各国は感染拡大防止と社会経済活動の両立を目指して試行錯誤を繰り返しています。
今回のSGRAカフェでは、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫先生をお招きしてお話を伺うと共にアジア各国からのリポートを交えて、今世界で何がおこっているのか、どのように向き合うべきかを考えます。
更に「感染症とリスクコミュニケーション」、「防疫の国際協力」等の議論も行いたいと思います。

◆講演「国際的観点から見る日本の新型コロナウイルス対策」
大曲貴夫(おおまがり・のりお)国立国際医療研究センター国際感染症センター長
新型コロナウイルス感染症の診断、治療、感染防止対策が医療上の大きな課題となっている。この感染症が社会全般特に経済に及ぼす影響は極めて大きく、その影響が今後数年以上継続すると予想されているなかで、今後この感染症にどのように向き合っていくべきかについて、私の意見をお伝えしたい。

◇司会
尹在彦(ユン・ジェオン):一橋大学大学院国際関係論専攻/元新聞記者(2020渥美奨学生)

◇各国リポーター
【韓国】金雄熙(キム・ウンヒ):仁荷大学国際通商学科教授(1996渥美奨学生)
【台湾】陳姿菁(チェン・ツチン):開南大学副教授(2002渥美奨学生)
【ベトナム】チュ・スワン・ザオ:ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員(2006渥美奨学生)
【フィリピン】ブレンダ・テネグラ:アクセンチュアコンサルタント(2005渥美奨学生)
【インド】ランジャナ・ムコパディヤヤ:デリー大学准教授(2002渥美奨学生)

詳細は下記リンクをご覧ください。

第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」

【事前接続テスト】2020年9月7日(月)15:00~16:00にZoomの事前接続テストを実施いたします。テストをご希望の方は、SGRA事務局へ参加申込メールアドレスをお知らせください。担当者より折り返しご連絡を差し上げます。接続方法、ミュート機能のON/OFFの切り替え、チャットの見方などについてご不安な方はどうぞお気軽にこの機会をご活用ください。テスト時間内であればいつでも接続、参加可能、出入り自由です。

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★☆★お知らせ
◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応)
SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。
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