SGRAメールマガジン バックナンバー

Liang Yihua “Some Thoughts about Cross-Cultural Experience”

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SGRAかわらばん786号(2019年8月29日)

【1】エッセイ:梁奕華「異文化体験についての雑感」

【2】「国史対話」メルマガを配信:徐静波「日本史との出会い」
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【1】SGRAエッセイ#608(私の日本体験シリーズ#35)

◆梁奕華「異文化体験についての雑感」

今年は私が日本に来て5年目である。博士課程まで進学するたくさんの留学生の中で、決して長くはないが、来日前に日本のことを中国の大学で4年間、大学院で3年間勉強してきたためか、いわゆる「カルチャーショック」というようなものはさして感じたことがない。一般的に中国人が驚くべきと思われることに遇っても、以前に習った知識で、その現象を――完全に解釈できなくても――歴史的面やら文化的な面やらからある程度理解することができる。だから、異文化を見たり触れたりした際に生じる大きな心理的ショックを受けたり戸惑ったりすることがない。

強いて言えば、正座という習慣の根強さにビックリしたということがある。私の理解では、本来、畳の上で、あるいは低い家具のある部屋の中で正座するのが一般的であろう。しかし、図書館で、ちゃんとした木製の高い椅子の上に正座して本を読んだり、パソコンで文章を書いたりする人をよく見かける。特に女子が多い。多分、日本の女性は小柄だから、そういうふうに座ったほうが楽なのであろう。ところが、図書館の椅子のみならず、パソコン室のオフィスチェアの上にも正座する。オフィスチェアは高さが調節できるのに、それでもその上に正座するの?キャスターがあるので、不安定ではないの?それで座り心地がいいの?もっと集中できるの?と、とても不思議に思える。多分、毎日長時間座って作業をする私にとっては、論文を速く書くために如何にして座り心地がよくなるかというところに興味を惹かれたのであろう。以前から日本人が正座の習慣を持っていると知っていても、日本人が背の高い椅子の上にも正座するということは、私にとっては割と強いカルチャーショックであった。

中国では、「万巻の書を読むは万里の路を行くに如かず」という言い習わしがあるが、理論より実際のほうが大事という趣旨である。私にとって、正座の件はまさしくその通りである。異文化体験の意義もそこにあるのだと考えている。外国のことをどれほど本で習っても、実際に体験しないと、到底完全に理解できないのであろう。

異文化体験は、一般的に次のようないくつかの段階があると考えられている。新鮮で楽しく感じる段階、戸惑ったり焦ったりする段階、不満や怒りが生じる段階、その不満や怒りが弱くなって沈静化する段階、ようやく全てを受け止めて消化していく段階、などがある。むろん、個人差があり、また誰でも同じ順序で全ての段階を経験するわけでもない。現に、不満や怒りが生じる段階にとどまり、異文化を受け入れて消化できない実例もたくさん見てきた。恐らく、私はどんな段階においてもあまり強烈ではないほうに属しているのであろう。しかしながら、さして「カルチャーショック」を受けていないとは言え、やはり異文化接触の利点をしみじみと感じた。

言うまでもなく、その利点の1つ目は、視野が広がること。自分が慣れ親しんでいる環境を離れて、外国に行ってみたら、必ず今まで自分が「常識」だと思っていた考えが覆される。そして、今までの常識が通じないことにあったら、別の角度から物事を考えるようになる。

以前、学部の時に、私たちを教えていた日本人の先生が帰国する前に、自分の異文化体験を話してくれたことがある。「世の中には違う文化があるのだと実感しました。そして、違いは単に違いだけで、違いはあるけど、決して「上下」がない、と初めて分かりました」、と。この話は今でも覚えている。異文化と接しはじめた時、どちらかが「正しく」「優れている」、どちらかが「間違っている」「劣っている」と判断しがちだが、しかし、異文化の中で長くいると、そのような上下関係で文化間の違いを考えるのではなく、単に違うのだ、と素直に受け入れるようになる。それは、他の文化を長く実感してきたから、別の角度から物事を考えることができるようになるからだと考えられる。そうすると、異文化、さらに他人に対する態度がより寛容的になり、より柔軟な思考もできるようになる。

また、異文化体験による2つ目のメリットは、自文化に対する認識がより深まる。自分を育ててきた文化や環境を今までずっと当たり前だと思っていたが、他の文化との比較によって、その良さや奥の深さを見直す。特に「逆カルチャーショック」を受けた時に、今まで見えなかった嫌な部分や、不可解なところにも気付くが、それもまた勉強の機会になる。

私は現在、平安朝の漢文学を中心とする和漢比較文学を専門としているが、本来は中国文学を専攻にしたかった。大学の入学試験がうまくできなかったため、中国言語文学科に入れずに日本言語文学科に入った。振り返ってみると、日本文学を勉強して本当によかったと思う。日本文学との比較を通して、中国文学の性格をより鮮明に理解することができたと感じる。例えば、中国文学の政治性が強いことと、日本文学の脱政治性が強いことがよく言われている。最初、日本文学に接した時、中国文学を比較の基準として日本のほうを眺めていたが、政治との関連を当たり前の前提と見なして、日本文学の脱政治性を不思議に思った。しかし、現在はむしろ、中国における文学と政治との関係の緊密さが異常に思え、その辺りに不可解な点が色々とあると考えるようになった。同時に、中国では文学はいつも政治の付属でありながら政治から脱出しようともしつつあるが、そのダイナミックな関係で生まれた緊張感こそ、中国文学の魅力だと感じる。日本文学に接触したからこそ、このような認識を持つことができるようになった。

大学院に入った当初から、私は人文系の研究者を目指しているが、同時に人文系の研究者はその殆どが教育者でもあるので、将来教育者として学生に何を教えればよいのだろうという問題もよく考えている。私が最も学生に伝えたい、しかも、伝えるべきことは、誰がどんな作品を著したというような知識ではなく、問題を取り扱う際に持つべき、より柔軟かつ包容的な思考の方式であると思う。これは私が日本に留学してから体得した最も重要なことであり、一生の宝物にしたいものでもある。

<梁奕華(りょう・えきか)Liang Yihua>
渥美国際財団2018年度奨学生。中国出身。2010年(中国)厦門大学卒業、2013年同大学修士学位(文学)を取得。2014年在中国日本語国大使館の推薦によって国費留学生として、東京外国語大学で博士後期課程を修業し、2019年3月満期退学、9月博士学位(学術)を取得予定。現在、同大学の国際日本学研究院の特別研究員。専門は、奈良平安時代の漢文学、和漢比較文学。

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