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Letizia Guarini “Will a New Post-Disaster Literature be Born from ‘Shared Pain’?”

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SGRAかわらばん699号(2017年11月16日)
【1】エッセイ:レティツィア・グアリーニ「『共苦』から新たな震災後文学が生まれる?」
【2】第58回SGRAフォーラムへのお誘い(11月18日、東京)(最終案内)
「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」(当日参加も受け付けます)
【3】第11回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(11月25日、北京)(再送)
「東アジアからみた中国美術史学」
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【1】SGRAエッセイ#551
◆レティツィア・グアリーニ「『共苦』から新たな震災後文学が生まれる?―福島県南相馬市に移住した柳美里を中心にー」
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(中略)南相馬に転居した、もうひとつの動機は、「共苦」です。
東日本大震災以降、「絆」「がんばろう」「寄り添う」という言葉があふれ返りました。どれも同情や善意に根差した言葉ですが、同情や善意というのは、外側から差し伸べられるものなんですね。
苦しんでいる人の苦しみは、その人自身のもので、他者であるわたしに同じ苦しみを苦しむなんてできっこない。
けれど、その苦しみに向かって自分を開くことはできます。
(柳美里『人生にはやらなくていいことがある』より)
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東日本大震災を契機に様々な意味で日本文学が動いたといえるでしょう。3・11以降、「震災後文学」というカテゴリーが誕生し、原発問題、政権への批判、放射線による生物の変容、復旧や復興などのテーマに焦点を当てる作品が次々に現れました。「震災後文学」を論じる著書やその翻訳の数もまたおびただしいです。東日本大震災以降、日本現代文学が新たな方向へと動いたと言っても過言ではないでしょう。
また、その「動き」は、文学と様々な行動や運動の繋がりにおいても見ることができます。ここで3つの例をあげてみましょう。2012年4月に、早稲田文学をベースとしたチャリティ・プログラムのために書きおろされた短篇やそれに付随して行われた座談・対談などが収められている『早稲田文学記録増刊 震災とフィクションの“距離”』が出版されました。その著書が英語をはじめ、中国語、韓国語、イタリア語などに訳され、世界中から東日本大震災のための寄付が集まりました。また、2012年10月に、文学者が発表する場を利用し、原発問題を伝え続ける必要性を強調する「脱原発社会をめざす文学者の会」が発足しました。さらに、2015年に日本外国特派員協会で「原発がない世界を実現するほかない。声を発し続けることが、自分にやれるかもしれない最後の仕事だ」と語ったノーベル賞作家の大江健三郎の言葉は海外でも大きな反響を呼びました。
東日本大震災をもって、もうひとつの意味においても日本文学が動いたと思われます。つまり、作家たちが移動したのです。福島第一原発の事故を機に避難をめぐる問題は福島県だけではなく、あらゆる地域で起こっていました。芥川賞作家金原ひとみをはじめ、放射能汚染を心配しているが故に東京から関西へ避難した作家たちも少なくありませんでした。柳美里もその一人でした。
インタビューで語っているように、柳美里は「子どもの安全を確保するためにできるだけ遠くへ避難させたい」という母親としての気持ちに動かされ、2011年3月16日に鎌倉から大阪へ向かいました。しかし一方、「今すぐ福島に行きたい」という物書きとしての気持ちもあったとか。同年の4月に鎌倉に戻った柳美里は、そこから地元の人々の話を聴くために福島県に通い始めました。そして、2015年4月に南相馬市へ移住することにしたのです。いったい何故その決心に至ったのでしょうか?
「住みたいけれど住めない」「住みたくないけど住むしかない」…原発事故とそれに伴う放射能汚染の問題が「住む」という問題に密接な関係を持っているのです。人によって故郷との絆が様々であり、その苦しみを理解するためにはそれぞれの人の声に耳を傾けるべきだ、と柳美里は主張しています。しかし、よそに住みながらその苦しみを聴いているうちに柳美里は違和感を覚え、地元の人々の痛苦を共感するためには、同じ土地を踏み同じ空気を吸わなければならないと覚りました。作者の言葉を借りると、「共苦」が必要だったのです。
では、その共苦から何が生まれるのでしょうか?今まで書かれてきた「震災後文学」は、「書けない自分」あるいは「無力な自分」にフォーカスを当てた作品が多いです。しかし、柳美里はまた違う形で物語を作ろうとしていると思われます。2016年12月まで、臨時災害放送局・南相馬ひばりエフエム(南相馬災害エフエム)の「ふたりとひとり」というラジオ番組において、柳美里は450人の地元の人々を取材してきました。それらの物語については作者が以下のように語っています。
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外から聴いた声ではあるけれど、いったん身体に取り入れて何日か経つと、いきなり内から声を聴くことがあります。そして、彼、彼女の痛苦が身体のそこから湧き上がり、彼、彼女が体験した光景が自分の記憶であるかのように広がる―
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柳美里はエッセイやインタビューにおいて南相馬市における生活を語っているものの、フィクションという形で福島県の人々の物語はまだ綴っていません。が、「同情」や「善意」、つまり外側から差し伸べられるものを捨て、共に苦しむ道を選んだ作者は、地元の苦痛とともにその希望や笑顔をいつか物語化し世界へ伝えてくれることを大いに期待しています。
〇参照文献
柳美里『人生にはやらなくていいことがある』ベストセラーズ(2016年)
「福島県南相馬市に移住した柳美里さんインタビュー」『通販生活』
https://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/150908/ (参照2017-10-23)
<レティツィア・グアリーニ Letizia_GUARINI>
2017年度渥美奨学生。イタリア出身。ナポリ東洋大学東洋言語文化科(修士)、お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科(修士)修了。現在お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科に在学し、「日本現代文学における父娘関係」をテーマに博士論文を執筆中。主な研究領域は戦後女性文学。
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【2】第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」へのお誘い(最終案内)
下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。当日参加も受け付けます。
◆テーマ:「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
日時:2017年11月18日(土)午後1時30分~4時30分 その後懇親会
会場:東京国際フォーラム ガラス棟 G610 号室
http://www.t-i-forum.co.jp/general/access/
参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected] 03-3943-7612)
◇フォーラムの趣旨
中国政府は2013年9月から、シルクロード経済ベルトと海上シルクロードをベースにしてヨーロッパとアジアを連結させる「一帯一路」政策を実行している。「一帯一路」政策の内容の中心には、中国から東南アジア、中央アジア、中東とアフリカを陸上と海上の双方で繋げて、アジアからヨーロッパまでの経済通路を活性化するという、習近平(シーチンピン)中国国家主席の意欲的な考えがある。しかし、国際政治の秩序の視点から観れば、「一帯一路」政策が単純な経済目的のみを追求するものではないという構造を垣間見ることができる。
「一帯一路」政策は、表面的にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)を通じた新興国の支援、融資、そしてインフラ建設などの政策が含まれており、経済発展の共有を一番の目的にしているが、実際には、貿易ルートとエネルギー資源の確保、そして東南アジア、中央アジア、中東とアフリカにまで及ぶ広範な地域での中国の政治的な影響力を高めることによって、これまで西洋中心で動いて来た国際秩序に挑戦する中国の動きが浮かび上がってくる。
本フォーラムでは、中国の外交・経済戦略でもある「一帯一路」政策の発展を、国際政治の観点から地政学の論理で読み解く。「一帯一路」政策の背景と歴史的な意味を中国の視点から考える基調講演の後、日本、韓国、東南アジア、中東における「一帯一路」政策の意味を検討し、最後に、4つの報告に関する議論を通じて「一帯一路」政策に対する日本の政策と立ち位置を考える。
◇プログラム
詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/10/SGRAForum58Program.pdf
【基調講演】
「一帯一路構想は関係諸国がともに追いかけるロマン」
朱建栄(Jianrong_ZHU)東洋学園大学教授
【研究発表1】
「戦後日本の対外経済戦略と『一帯一路』に対する示唆」
李彦銘(Yanming_LI)東京大学教養学部特任講師
【研究発表2】
「米中の戦略的競争と一帯一路:韓国からの視座」
朴栄濬 (Young-June_PARK) 韓国国防大学校安全保障大学院教授
【研究発表3】
「『一帯一路』の東南アジアにおける政治的影響:ASEAN中心性と一体性の持続可能性」
古賀慶 (Kei_KOGA)シンガポール南洋理工大学助教
【研究発表4】
「『一帯一路』を元に中東で膨張する中国:パワーの空白の中で続く介入と競争」
朴准儀(June_PARK)ソウル大学訪問学者
【フリーディスカッション:討論者を交えたディスカッションとフロアとの質疑応答】
「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
モデレーター:平川均(Hitoshi_Hirakawa)国士舘大学21世紀アジア学部教授
討論者:西村豪太 (Gouta NISHIMURA) 『週刊東洋経済』編集長
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【3】第11回SGRAチャイナ・フォーラムへのお誘い(再送)
下記の通りSGRAチャイナ・フォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。
※お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected] 03-3943-7612)
◆テーマ:「東アジアからみた中国美術史学」
日 時:2017年11月25日(土)午後2時~5時
会 場:北京師範大学後主楼419 ※会場が変更になりました
主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
共 催:北京師範大学外国語学院、清華東亜文化講座
助 成:国際交流基金北京日本文化センター、鹿島美術財団
◇フォーラムの趣旨
作品の持つ芸術性を編述し、それを取り巻く社会や歴史そして作品の「場」やコンテキストを明らかにすることによって作品の価値づけを行う美術史学は、近代的社会制度の中で歴史学と美学、文化財保存・保護に裏打ちされた学問体系として確立した。とりわけ中国美術史学の成立過程においては、前時代までに形成された古物の造形世界を、日本や欧米にて先立って成立した近代的「美術」観とその歴史叙述を継承しながらいかに近代的学問として体系化するか、そして大学と博物館という近代的制度のなかにいかに再編するかというジレンマに直面した。この歴史的転換と密接に連動しながら形成されたのが、中国美術研究をめぐる中国・日本・アメリカの「美術史家」たちと、それぞれの地域に形成された中国美術コレクションである。このような中国美術あるいは中国美術史が内包する時代と地域を越えた文化的多様性を検証することによって、大局的な東アジア広域文化史を理解する一助としたい。
◇プログラム
総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部)
【問題提起】林少陽(東京大学大学院総合文化研究科)
【発表1】塚本麿充(東京大学東洋文化研究所)
「近代中国学への架け橋―江戸時代の中国絵画コレクション―」
【発表2】呉孟晋(京都国立博物館)
「漢学と中国学のはざまで―長尾雨山と近代日本の中国書画コレクション―」
【円卓会議】
進行:王志松(北京師範大学)
討論:
趙京華(北京第二外国語学院文学院)
王中忱(清華大学中国文学科)
劉暁峰(清華大学歴史学科)
総括:董炳月(中国社会科学院文学研究所)
同時通訳(日本語⇔中国語):丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学)
※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2017/9574/
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★☆★SGRAカレンダー
◇第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」
(11月18日、東京)<参加者募集中>

第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」へのお誘い


◇第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」
(11月25日、北京)<参加者募集中>

第11回SGRAチャイナ・フォーラム「東アジアからみた中国美術史学」へのお誘い


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
<論文募集中(締切:2018年2月28日)>
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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