SGRAメールマガジン バックナンバー

Euiyoung Nam “What I Have Been Thinking in The Country of Peace”

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SGRAかわらばん673号(2017年5月18日)

【1】エッセイ:南衣映「平和の国で考えてきたこと」

【2】第7回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(5月20日、台北市)(最終案内)
 「台・日・韓における重要法制度の比較─憲法と民法を中心として」
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【1】SGRAエッセイ#534(『私の日本留学シリーズ#9』)

◆南衣映「平和の国で考えてきたこと」

米軍基地は、ある人々にとってはアメリカ文化を楽しめる身近な場所となっている。毎年、花見と花火の季節に開かれる開放イベントでは、戦闘機や軍艦を見物し、ホットドッグやピザを味わう人々で賑わっている。しかし、そこはどうしても忘れることのできない苦痛が始まったところでもある。米兵の犯罪や事故で生命と尊厳を奪われた女性たちにとってはそうである。この事実を知らない人はほとんどいないだろう。だが、何も言えず静かに涙を流すしかなかった人々がどれほど存在していたかを知ることはできない。また、一方には、経済的な事情などの理由で兵士になったが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)で苦しんだ末、自ら命を絶ってしまう若者たちがいる。米軍基地は軍産複合体(military-industrial_complex)であると論じられているが、それは苦痛と快楽の複合体(pain-pleasure_complex)でもあると私は思う。

米軍基地による安全保障が謳われている中で、こうした苦痛は語ること自体難しいものになっている。そのようにして、基地というのは多くの人々によって支えられている。私のように遠く離れているところに住んでいる者たちにとって、米軍基地とは何か。韓国と沖縄で基地のある日常を生きている人々の声を聞いて私はそう考えた。それからもう一度米軍基地に目を向けた。様々な人々がそれぞれ異なるかたちで関係しているこの巨大なシステムは、どのように形成されてきたか、その文化的基盤とは何かを考え始めた。具体的な事例として、東アジア最大の駐留地域である日本で、ミュージシャンによる公演活動や、FENとして知られている米軍ラジオ放送が、どのようにおこなわれてきたのかを研究してきた。このように文化を取り上げることで明らかにしたかったのは、米軍基地の明暗ではなかった。そうではなく、苦痛がどのようにして快楽と結び付くようになったかを考えたかった。そこで、第2次世界大戦期までのアメリカで何が起きてきたかを追跡してきた。

その過程で浮かび上がってきたのは、新しい史実よりも歴史とは誰の語りであるかという問いであった。資料調査中に訪れた米軍のミュージアムで、朝鮮戦争の最中を生きている少女の写真を見た。自身に銃口を向ける米兵の前で、チマチョゴリを着た少女は怯えていた。米軍はその姿をカメラに収め、「誰が敵であるかわからなかった」と伝えている。そこに写っている少女のことを、私は見たことも聞いたこともなかった。戦争は遠い過去のことのようである豊かな時代に生まれ育った私は、大学院に進学し米軍について研究をしている。だが、60余年前、私と同じところで生まれ育ったあの少女は、米兵に敵扱いされていた。この少女の姿が、韓国ではなくアメリカでこのように語られているのはなぜだろうか。

日本に帰ってアメリカで収集してきた米軍の文書を読んでいると、あるフレーズが目に入ってきた。「われわれはなぜ朝鮮で戦うのか」。戦場に派遣される兵士のため、こうしたタイトルの映画や冊子などが制作されていた。なぜアメリカの若者は朝鮮半島に来たのか。私はそのとき初めて問うようになった。戦争がどのように勃発したのか、どのように展開されたのかについては、小さい頃から聞いてきた。大学に入ってからは、戦争中に民間人の虐殺がどのように起きていたのか、米軍がその悲劇にどのようにかかわっていたかも知るようになった。しかし、米兵になった人々については考えたことはなかった。米兵はどのような思いで朝鮮半島に来たのか。アメリカの若者は、どのようにして見も知らぬ韓国人のために命を捧げるようになったのか。アメリカの青年が朝鮮の少女に銃口を向けるようになったのはなぜか。

その戦争は休んでいるものであれ、終わっていない。世界一平和が訴えられてきた国で暮らすことで、私は自身が世界一長い戦争が続いている国で生まれ育ったことに気付き、これまでの自身を振り返るようになった。それだけでなく、韓国の戦争も、日本の平和も、米軍基地という共通の土台の上に成り立っているのはなぜかを問うようになった。さらに、その土台が若者の苦悩と苦痛によって築かれてきたことにも目を向けるようになった。「基地問題」の対策が論じられても、基地というシステムが生み出す苦痛は、依然として語れないもの、聞こえないものになっている。米軍基地について何が見えても何は見えづらいのか。何が聞こえても何は聞きづらいのか。日米韓同盟の強化が推し進められる昨今の様子を見ると、平和なんて無理だという思いがしなくもない。しかし、他に選択肢があるのか。戦争による苦痛に満ちている社会で生まれ育った私は、やはりそう思うしかない。なかなか難しいものであるからこそ、平和は研究に値する対象ではないかと思う。

<南衣映(ナム・ウイヨン)Nam, Euiyoung>
東京大学大学院情報学環特任研究員。2006年、韓国ソウル国立大学社会学科卒業後、国費留学生として来日。2014年、東京大学大学院学際情報学府博士課程満期退学。19世紀後半以降のアメリカが軽武装国家から軍事大国へ変貌してきた過程を視野に入れ、第2次世界大戦以降の東アジアにおけるアメリカナイゼーションを考察している。

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【2】第7回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内)

下記の通り第7回日台アジア未来フォーラムを台北市で開催します。参加ご希望の方は、下記リンクよりご登録ください。

テーマ:「台・日・韓における重要法制度の比較─憲法と民法を中心として」
主 催:国立台北大学法律学院、公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
開催日:2017年5月20日(土曜日) 08:50-18:00
会 場:国立台北大学台北キャンパス(台北市民生東路三段67号)
申込みURL:https://goo.gl/forms/sx49qWfIx3KpYeQ13
申込み締め切り:2017年5月13日(土)13時まで

お問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:[email protected]

●フォーラムの趣旨:

第7回日台アジア未来フォーラムは、法制史の観点から、東アジア諸国における憲法と民法に関する法制度の比較をテーマとする。法領域のなかから、憲法と民法をピックアップした理由は、この2つの法律が我々の日常生活と緊密に関係する法であると共に、憲法は法領域のなかで、最も位階の高い法律であると言われており、憲法以外の法が憲法の規定に違反するとその法は無効となる。市民の基本的な権利を始めとして国家組織のあり方まで、国家の最も重要な事項の原則はすべて憲法に定められるといっても過言ではない。また、民法は市民生活における市民相互の関係(財産関係と家族関係)を規定する法であり、民事法の領域の憲法とも言われる。すべての人間は、その一生において、必ず民法と関わることは言うまでもない。

今回のフォーラムでは、日本、韓国、台湾の法学者をお招きし憲法と民法から、それぞれ一つの重要な論点をピックアップして議論していただく予定である。2つのセクションを通じて、日本、韓国と台湾における民法ないし憲法の論点について、お互いの相違点を見出し、お互いに自らの国の法制度の改正に示唆を得ることができると期待する。
(基調講演1は英語。基調講演2と報告は日中逐次通訳)

趣旨の詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/04/2017Taiwan-Shushi.pdf

●プログラム
  
【基調講演1】「立憲主義ー過去、現在および未来」
コーヤン・タン教授(ハーバード大学法科学院)

〇第1セクション【憲法】「台湾・日本・韓国の国会制度」

【報告1】「日本国憲法上の国会の現状と課題」
佐々木弘通教授(日本東北大学法学部)
【報告2】「韓国の改憲論における国会変化」
孫亨燮教授(韓国慶星大学法政大学)
【報告3】「台湾における国会議員定数の考察ーアメリカ法からの示唆」
林超駿教授(国立台北大学法律学院)

【基調講演2】「理由あるいは詭弁ー判決における外国法の引用についての論争」
頼英照教授(元司法院院長)

〇第2セクション【民法】「台湾・日本・韓国の民商統一・分離」

【報告4】「韓国における民商・分離立法の現状と課題」
権澈准教授(韓国成均館大学法律系)
【報告5】「日本における民商法の関係」
中原太郎准教授(日本東北大学法学部)
【報告6】「台湾民法における民商二法統一制度への懸念」
向明恩准教授(国立台北大学法律学院)

プログラムの詳細は下記リンクをご覧ください。
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2017/04/2017Taiwan-Program.pdf

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★☆★SGRAカレンダー
◇第7回日台アジア未来フォーラム<参加者募集中>
「台・日・韓における重要法制度の比較─憲法と民法を中心として」
(2017年5月20日、台北市)

第7回日台アジア未来フォーラム「台・日・韓における重要法制度の比較」へのお誘い


◇第4回アジア未来会議「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」<論文募集中>
(2018年8月24日~8月28日、ソウル市)
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
論文・小論文・ポスター(要旨)の投稿を2017年5月1日から受付けます。
☆アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心がある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。

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