SGRAメールマガジン バックナンバー
MA Geyang “What I Have Learned from My Studies”
2025年6月5日 11:41:05
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SGRAかわらばん1066号(2025年6月5日)
【1】馬歌陽「『学問』から学んできたこと」
【2】国史対話エッセイ紹介:青山治世「歴史と私~北京をめぐる奇縁と機縁~」
【3】SGRAラーニング紹介:動画「アジアの発明―19世紀におけるリージョンの生成」
※SGRAの新規プロジェクトです!是非ご覧ください。
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【1】SGRAエッセイ#794
◆馬歌陽「『学問』から学んできたこと」
2017年10月に来日して6年半、24年の春に念願の博士号を取得した。この出来事は私の人生においてまさに重要な節目といえよう。ただ、「いつ目指すべき道を見出したのか」、あるいは「いかなる必然がこの学問の森へと導いたのか」と問われても、まだ霧の中を手探りでいるような心境だ。この文章を綴る機会に答えを探してみたい。
幼少期の私にとって「学び」とは、「やるべきこと」に過ぎなかった。クラスの中ではあまり目立たず、成績もごく普通だった。鮮明に覚えているのは、毎日食事の前に必ず本を読んでいたこと。当時、共働きの母は私の健康のために昼と夜のご飯を作ってくれたので、帰宅してから食事が始まるまでの時間が、私の読書の時間となった。『中国少年児童百科全書』や『十万個のなぜ』などの分厚くて重たい本を抱えながら、無心にページをめくっていた記憶がある。当時の私は「本が好きな子供」と周りから言われて育ったが、まだ「知の悦び」は知らなかった。高校時代、友人たちが将来の夢を語り合う輪の中で、いつも奇妙な疎外感にさいなまれた。学部への進学も、「就職に有利」や「大学の所在地に親戚がいる」という周りからの助言に従ったに過ぎない。
転機は大学院受験で現れた。専攻変更を決断した時には、自分でも明確な動機を説明できなかった。しかし、受験勉強に費やした1年半の毎日5~7時間に及ぶ読書は、泉を求めて乾いた砂漠をさまようかのような飢餓感を伴っていた。知識を摂取する快楽は、草原を吹き渡る風のように私の精神をどこまでも駆け巡った。
振り返れば、この時期は「学問」の本質を捉えていなかったと言わざるを得ない。様々な思想体系を無秩序にのみ込む海綿のような状態で、確かに知的興奮に満ちていたが、単なる情報収集の段階を脱し得ていなかった。真の学問の営みが始まったのは大学院へ進学してからのことだ。
修士から博士課程にかけて、私は徐々に知の吸収者から生産者へと変わり、学問の扉を開けたかのような感覚を覚えるようになった。ある研究課題の終着点に近づいたと思いきや、新たな課題がやってくる。山頂に立つたびに、さらにより高く遠い風景が広がっていることに気付く。この繰り返しが、学問への畏敬の念を幾度となく私の胸によみがえらせてきた。ある頂上にたどり着いた時に振り返ると、道程に潜んでいた数々の危険や過ちが鮮やかに浮かび上がる。これらの誤謬を認識することが、再び山頂を目指す際の迂回路を照らす灯火となる。この気付きは、己の執着心を静かに手放すことを余儀なくさせた。研究にも生活にも、慎重かつ緻密な姿勢で臨まねばならない。思考の襞を絶えず研ぎ澄ますことで、不毛な混乱を避けながら歩みを進めていきたい。
<馬歌陽(ま・かよう)MA Geyang>
中国新疆ウイグル自治区烏魯木斉市出身。2023年度渥美国際交流財団奨学生。早稲田大学文学研究科美術史学コース博士課程を経て、博士号を取得。現在中国復旦大学文史研究院PD。専門は仏教美術史。
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【2】国史対話エッセイ紹介
5月26日に配信した国史対話メールマガジン第66号のエッセイをご紹介します。
◆青山治世「歴史と私~北京をめぐる奇縁と機縁~」
1976年9月9日、現代中国に多大な影響を与えた毛沢東が北京でこの世を去った。私はその1か月半ほど前の7月25日に岐阜県大垣市というところで生まれた。4年前に北京を訪れて日中国交正常化を成し遂げた田中角栄がロッキード事件によって逮捕されたのは、2日後の7月27日のことである。のちに私は以下で述べるようないきさつで、中国に関係する人たちに自己紹介をする時には「北京は第二の故郷です」とよく言うようになるが、研究はもちろん色々な場面で北京との奇縁を感じている。
最近はあまり言わなくなったが、10数年ほど前までは、「八〇後(バーリンホウ)」とよばれる1980年以降に生まれた中国人と初対面で話をする時に、私はよく「毛主席と1か月半同じ時代を生きた」と言って話を始めていた。毛沢東は海外への留学経験はないが、毛に次ぐナンバー2の位置にあった周恩来が20歳前後に日本に留学していたことはよく知られている。国交正常化に際して田中角栄と固い握手を交わした周総理は1976年1月に亡くなっており、残念ながら同じ時代を生きていない。
私は中国の近現代史、とくに政治外交史を専門にしている。私が中国に興味をもつようになったきっかけは、物心ついた頃から、満洲事変から日中戦争にかけて召集で中国に3度出征した祖父(1904~1996)からくり返し中国の話、戦争の話を聞いたことだった。日本の隣には中国という大きな国があり、身近な存在である祖父も関わって日本はその中国と戦争していた……。なぜそんなことになってしまったのか、そもそも中国とはどんな国なのか。そんな漠然とした疑問から、中国、そしてその近現代史への関心が深まっていった。
全文は下記リンクよりお読みください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2025AoyamaEssay.pdf
※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは隔月で配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方はSGRA事務局にご連絡ください。3言語対応ですので、中国語、韓国語の方々にもご宣伝いただけますと幸いです。
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【3】SGRAラーニング紹介
SGRAの新規プロジェクト「SGRAラーニング」は、SGRAレポートの内容をわかりやすく説明する10~20分の動画で、SGRAレポートのポイントを短くまとめた上で、それをめぐる多国籍の研究者による多様な議論を多言語で共有・紹介しています。高校生や大学低学年を対象に授業の副教材として使っていただくことを想定していますが、どなたでも無料でご視聴いただけます。国史対話のレポートと動画は日本、中国、韓国の3言語で対応しています。
◆動画「アジアの発明―19世紀におけるリージョンの生成」
東アジアの歴史に足を踏み入れ、「アジア」という概念がどのように生まれ、どのように展開したのか見てみましょう。
アジアの国々は人種も言語も宗教も多様ですが、そこに共通することは何なのでしょうか?
それは19世紀のアジアとどう違うのでしょうか?
下記リンクよりご覧ください。
この動画は、2020年1月にフィリピンで開催された「第4回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」フォーラムにおける三谷博先生の講演「アジアの発明」をまとめたものです。このフォーラムのレポートは日本語、韓国語、中国語で発行されていますので、興味のある方は各言語のレポートをSGRAのウェブサイトからご覧ください。
レポート第90号「第4回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性─『東アジア』の誕生-19世紀における国際秩序の転換-」
SGRAラーニングの動画へのリンクは、SGRAホームページからアクセスしていただけますので、先生方はご授業等でご利用いただけますと幸いです。どなたでも無料で視聴いただけますので、広くご宣伝いただきますようお願いいたします。
https://www.aisf.or.jp/sgra/
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★☆★お知らせ
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SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。
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