2025年度奨学生春季研究報告会報告


2026年3月7日(土)に鹿島建設研修施設KX-LabおよびZoom(ハイブリッド)で開催された2025年度渥美奨学生春季研究報告会は、ポーランド、モンゴル、韓国、中国、日本、エジプトからの8名の学生による、異文化コミュニケーション、人文学、史学、造形構想、助産学、生物科学、国際日本、脳病態制御学における研究成果が一堂に会する、極めて刺激的かつ学際的な場となりました。

冒頭では、ドムブロフスカ・フアニタ氏の発表において、日本語とポーランド語におけるモダリティ表現を比較し、丁寧さや発話意図がどのように言語的に構築されるかが分析されました。特に、「よう」「みたい」「らしい」といった日本語の表現形式が、認知や対人距離の調整において果たす役割を明らかにし、異文化間コミュニケーションにおけるミスコミュニケーションの生成過程に光を当てるものでした。理論的枠組みと教育実践を接続しようとする姿勢が印象的であり、外国語教育の現場における応用可能性の高さが感じられました。

続いて、私、エンヒバイヤル・ノミンエルデネの発表では、占領期日本における「子ども」カテゴリの再編成を、「移動」との関係において考察いたしました。敗戦後そして占領期には、日本の子どもは、戦災孤児や浮浪児、あるいは混血児童として、従来の家制度や国家の枠組みから切り離され、移動・浮浪する存在として立ち現れます。本研究は、戦後日本の「子ども」概念のラディカルなシフトを、国際養子縁組や移民といったトランスナショナルな移動のネットワークと結びつけて分析するものであり、戦後日本の子ども像を根底から問い直す試みでした。

三番手で登壇した姜錫正氏の発表では、醍醐寺における顕密教学史が膨大な文献史料をもとに再構成されました。特に、近代の宗教改革によって単一宗派へと再編される以前の醍醐寺が、多様な仏教教学を兼学していた点に注目し、その変遷を明らかにした点が重要です。長年にわたる現地調査と史料整理の成果が結実した発表であり、文献史学におけるフィールドワークの重要性を改めて認識させられました。

四番目の路夢瑶氏の発表では、「場所」と「雰囲気」の相互作用に着目した地域芸術活動の理論と実践が提示されました。東京都文京区根津でのプロジェクトを通じて、場所が固定的なものではなく、人々の記憶や身体的経験の中で生成される動的な存在であることが示されました。住民の語りや日常の営みを媒介とした表現の生成プロセスは、従来のアートの枠組みを超えた新たな実践の可能性を示唆していました。

休憩を挟んだ後半では、まず宮内愛氏が、帝王切開後の母乳生成を促進する医療介入について報告されました。準実験研究の手法を用い、電動さく乳器の導入によって母乳生成が有意に早まることを実証した本研究は、臨床現場に直結する重要な知見を提示していました。医療と研究の密接な連関を感じさせる内容でした。

野田智仁氏は、ゴキブリと微生物の共生関係に着目し、特にゴキブリ―ブラタ・バクテリウムの共生系を対象として、その進化過程の理解に寄与するとともに、細胞内共生の進化的基盤を明らかにすることを目指した研究を発表されました。身近な生物を対象としながらも、その内部に広がる複雑な共生システムを解明する本研究は、基礎科学の奥深さを感じさせるものでした。

シルウィーディー・サラ氏の発表では、太宰治文学における語りとパフォーマティビティの問題が取り上げられ、翻訳の可能性と限界が検討されました。文学作品を単なるテクストとしてではなく、上演的な実践として捉える視点は、文学・翻訳研究に新たな地平を開くものでした。
最後に、梅本育恵氏は、うつ病に対する効率型認知行動療法の有効性について報告され、臨床応用に向けた具体的な可能性が示されました。精神医療の分野において、治療法の実用性と持続可能性を問う重要な研究でした。

本報告会は、各発表が専門外の聴衆にも理解できるよう工夫されながら、限られた15分という時間の中で、いずれも過不足なく、まさに“effortless”に遂行されていた点が特筆されます。このような高度な内容を簡潔かつ明瞭に伝える力量には、研究への確かな理解が裏打ちされていることを強く感じました。また、各発表後に指導教官の先生方から直接コメントが寄せられたことは、聴衆にとって研究内容への理解を一層深める貴重な機会であったと同時に、発表者本人にとっても大きな励みとなる場であったのではないかと思います。

博士論文という大きな「山」を登り切った研究者の皆様と同じ場で発表の機会を得られたことを大変光栄に感じております。博士論文の執筆をもって、ようやくスタートラインに立ったばかりかもしれませんが、ここに至るまでの道のりがいかに険しく長いものであったかは言うまでもなく、改めてその努力と達成に深い敬意を表したいと思います。皆様、本当にお疲れ様でした。そして、心よりおめでとうございます。

今後、発表者それぞれがさらなる経験を積み重ねていく中で、その研究成果は国境を越えて多様なオーディエンスをインスパイアし、新たな知的交流を生み出していくことは間違いないでしょう。最後に、本報告会の実現および研究の継続にあたり、渥美国際交流財団のご支援とご後押しが不可欠であったことを改めて申し上げます。フィニッシュラインまで温かく寄り添い続けてくださるとともに、このような若手研究者にとって新たな出会いの場を提供してくださった財団関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。


文責:エンヒバイヤル ノミンエルデネ

当日の写真