2026 新年会・偲ぶ会(1月例会)報告
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「冬の地下鉄は、ひとりで乗っている人を、より、ひとりにする。」と、どの小説で読んだ一節だったか思い出そうとしながら、ひとりで地下鉄に揺られ、渥美財団の1月の例会へと向かっていった。
渥美財団の1月の例会は、奨学生とラクーンが一堂に会する新年会であり、例会の中でも最も賑やかな会であると言ってよい。そのハイライトは、その年度の奨学生が伊都子顧問にお会いし、誕生日をお祝いすることであった。しかし今年の例会は、新年を祝う場であると同時に、伊都子顧問に別れを告げる偲ぶ会となった。
ウィーン国立歌劇場のシャンデリアを彷彿とさせる豪奢な照明が煌めく会場に足を踏み入れると、これまでの例会とは異なり、どこか静かな悲しみが漂っているのを感じた。
会場正面には伊都子顧問の写真が静かに飾られ、その前に名札がそっと置かれていた。「渥美伊都子」。その隣には、花を手向けるためのテーブルが用意されていた。奨学生やラクーンをはじめとする参加者が一輪ずつ持ち寄った花を置いていき、色とりどりの花が静かに重なり、そこにはそれぞれの記憶と感謝が積み重なっていった。
2025年度の奨学生として、私たちは伊都子顧問に初めてお目にかかり、直接お誕生日をお祝いできることを心待ちにしていた。その機会がこのようなかたちとなってしまったこと、そしてもはや言葉を交わすことがかなわないことが、ただただ悲しく、残念でならなかった。
まもなく新年会・偲ぶ会が始まる。写真の前に挨拶に向かうと、オレンジジュースが置かれていた。伊都子顧問がオレンジジュースを好まれていたと聞き、同じものを好きであったことに、ほんの少しだけ心が温かくなった。
今年の集いは渥美直紀理事長の挨拶から始まった。理事長は伊都子顧問の最期の日々についても温かく語られた。続いて1期生の施建明さんが奨学金創設以来、伊都子顧問がいかに奨学生を支え続けてこられたかを語った。
その後、2025年度奨学生一同より、感謝の気持ちを込めた贈り物として、大きな水色のバラが印象的な陶器の花瓶をお贈りした。本来はお誕生日のために用意していたものである。岡本さんと楊さんが代表して言葉を述べると、その花瓶の周りにはさらに多くの花が重ねられていった。
他の奨学生たちも次々と前に立ち、それぞれの記憶を語っていった。語られる思い出に耳を傾けながら、不思議なことに、私は伊都子顧問にお会いしているような感覚を覚えた。言葉の端々から、その人柄と志が伝わってきたからである。
伊都子顧問が願っていたのは、単なる奨学支援ではなく、言葉や文化を越えた人と人との触れ合いの場をつくること、そしてその交流が国際理解の礎となることであった。その思いが、会場のあちこちで確かに息づいているのを感じた。
やがて食事が始まり、歓談の中でもマイクに立って思い出を語る人が続いた。私はときおり写真の前に置かれた料理に目をやり、伊都子顧問と自分の共通点を探していた。海老がお好きだったと知り、また一つ、ささやかな親しみを覚えた。
最後は恒例のビンゴゲームである。番号が読み上げられる声と笑い声が交錯し、「ビンゴ!」と叫ぶ声があちこちから上がり、その賑わいの中に、伊都子顧問が長年かけて築いてこられたものを見る思いがした。
賑わいが静まり、ビンゴで当たったケトルとともに、私は地下鉄へ向かった。行きと同じくひとりである。しかし心は不思議と温かい。
冬の地下鉄は人をよりひとりにする。けれど、この帰り道は違っていた。
文責:シルウィーディー サラ(2025年度奨学生)
当日の写真
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