韮崎ワークショップ2025「創発×情報」報告(7月例会)
7月4日(金)の朝、新宿駅周辺の大工事のダンジョンを潜り抜けてきた参加者一行は、新宿センタービル前に集合した。今年は天候に恵まれ、夏らしい日差しと気温を感じながらのスタートとなった。渋滞で3時間ほどのバス移動の末、まず訪れたのは御岳昇仙峡(みたけしょうせんきょう)である。昼食会場に到着すると綺麗にお昼ご飯が準備されており、美味しい鮎など夏の旬をいただきながら、各テーブルで「初めまして」の挨拶・トークが繰り広げられていた。初対面であっても同じ食事を囲むと自然と共通の話題が生まれ、緊張していた肩の力が抜けていくのを感じた。食後は、「日本一美しい渓谷」と言われる昇仙峡を散歩し、影絵の森美術館にて洞窟のような空間でのアート作品を愉しんだ。渓谷で昆虫観察を行う者、美術館で涼しくアイスを頬張る者もおり、各々で自然、美術、食を満喫し、一行は渓谷を後にした。
シャトレーゼホテルにらさきの森に到着すると、今西さんの温かい笑顔と、シャトレーゼの甘いお菓子に出迎えられた。標高が高く森に囲まれたこの地は、都心の空気とは全く違う心地よい味がした。小休憩後、2006年ラクーンのシムさん、2017年ラクーンのシムさん(シンさんとも発音可)のシム・シムコンビによるアイスブレイキングが行われた。一人一人にお題が渡され、自分以外の全ての参加者の回答を集めるというインタラクションであり、必然的に参加者全員と話す仕組みが施されていた。筆者のお題は「自分の人生を映画にするとしたら、そのタイトルは?」であり、皆、回答に困りながらも、十人十色のタイトルを回答し、自らの人生の時間を大切にしながら過ごしている方達が集まっているんだなと感心した。その後、夕食へと移り、少しお酒も交えながら、参加者それぞれの自己紹介を終えた。夕食後は、メインファシリテータである2022年ラクーンの森さんの人となりを知るべく、先ほどのお題の回答を全て披露していただいた。その後、「創発とは?情報とは?」の軽いイントロダクションが行われ、1日目を終了した。延長戦では、ホテル周辺の夜散歩や夜飲みが有志によって開催されており、皆の緊張が解けた初日となった。
2日目朝、ラジオ体操で早起きをした人も、そうでなかった人も平等に富士山を望むことができ、清々しい朝食から1日をスタートした。ここで、2019年ラクーンの陳さん、2025年度奨学生の梅本さん、財団スタッフの川崎さんが合流し、参加者全員が揃った。
セッション1:「創発×情報」(2022年ラクーン: 森さん)
創発とは、対象物をマクロに捉える(粗視化する。例:リンゴ→赤い)ことで立ち現れてくる概念 (例: 色) のことであり、量子情報とは、全ての系、可能性を足し合わせた結果である、との定義の紹介から、実際にどう使うのか、森さんの研究との関連について講義がなされた。最後にインタラクションセッションでは、グループごとの個人の情報から、共通項の抽出、足し算、引き算を行うことで、最終的にどの様なネットワーク構造が創発されるかを実験した。渥美奨学生には珍しい理系のテーマであり、決して容易に理解できる概念であるとは言い難かったが、身近な事例紹介や、実験を加えることで、参加者の頭に新たな思考概念をインプットすることができた。
セッション2:「言葉とアイデンティティ」(2012年ラクーン: ソンヤさん)
個人に対するイメージを動物や植物に例えて表し、個人のもつ言葉がいかに他人と同じなのか、もしくは異なるのかをインタラクティブに体験することから始まった。「ハト」と聞いても平和の象徴、都会に群がるハト、小走りに動くハトなど捉え方、印象が様々である。そこから派生して、ジェンダーがもし割り振られた(男性、女性、X)としたら個人が感じる印象を共有した。男女のトイレシステムに関して、男性トイレはプライバシーがない等といった指摘が加わり、異なる性別、国で生まれ育った人が集まることによる多様性の議論が白熱し、昼食休憩中まで意見交換がなされた。
セッション3: 「From Chaos to Computation」(2024年ラクーン: スディーラさん)
AIの作ったものと、人が作ったものの見分けはつくのか?AIは概念や構造を理解できていないのではないのか?といった内容に関して、AIの情報処理概念が紹介された。その上で身近に個人が研究で行っている情報と、それに対する処理の方法を共有し、普段自分たちが頭で行っている情報処理について認識を新たにした。研究分野が理系文系で多岐にわたっているが、情報収集、整理、比較、発表の流れを汲んでいて、博士の論理思考構造が創発された様に感じた。
セッション4: 「自分自身を「情報×創発」と重ねて」(2019年ラクーン: 陳さん)
陳さんのセッションでは、個人がこれまで経験してきた原体験を情報源として振り返り、これまでの人生における創発の発見を試みた。特に対人関係について印象に残る体験をグループ内で共有した。個人的な話をする都合上、グループはバラバラになり、外で散歩をしながら話をするグループもあった。意見交換は敢えて行わなかったが、個人的に過去の対人関係を「創発」の観点から巨視的に振り返ることで、自分の他者との付き合い方が確認できる意義深い時間であった。
2日目のセッション終了後には、屋外でのBBQが行われた。今西さん始めスタッフの方々にお酒やおつまみをご用意していただき、設営が完了次第順次テーブルごとに乾杯が行われていった。充実した肉と野菜の最後には〆の焼きそばセットまでついており、2025年度奨学生の楊さんによる「楊さんの焼きそば店」が開店した。テーブルごとにリラックスして普段の研究の悩みから、子育てのほっこりした話題まで、様々な会話が夏の夕暮れ時に広がっていた。今宵も延長戦が行われ、筆者は11時半で失礼したが、深夜2時まで恋バナをするほどの仲になる面々もいたそうな。
最終日、朝食を終えた一行は、荷物をまとめてセミナールームに集合し、最後のセッションへと臨んだ。ここでは、A1サイズの模造紙1枚に2日間のまとめを自由に絵にしてくださいという創造性が要求されるテーマが与えられた。普段は文字や数字情報ばかりあつかう奨学生たちからすると絵での表現には苦手意識も感じられたが、クレパスで輪郭を描いたり、色を塗る心地よさを感じていると自然と白紙の模造紙がカラフルな色で埋め尽くされていった。どのグループも前向きな表現の形で締めくくられており、新しい知識を得て他者と考えを共有すると言うのは、ヒトをポジティブにさせてくれると改めて感じた。最後に、1年後の自分への手紙を残し、シャトレーゼホテルにらさきの森を後にした。
韮崎ワークショップ2025に参加することで、筆者は少し心が広くなった様に感じています。それは「創発」と言う新たな思考フレームを手に入れられただけでなく、異なる国籍、文化のメンバーと対話することで、自分の頭の中の多様性の引き出しを増やせたことにあると思います。また、このワークショップで奨学生同期、先輩ラクーン、財団スタッフの皆様との絆を深めることができました。改めまして、この素敵な3日間の場を作っていただきました渥美国際交流財団の皆様に深く感謝し申し上げます。
文責:西本 和生(2025年度奨学生)
当日の写真