SGRAメールマガジン バックナンバー
Mohd Farez Syinon bin MASNIN “Disasters and Me: Differences Between Malaysia and Japan”
2025年7月24日 14:01:25
**********************************************
SGRAかわらばん1073号(2025年7月24日)
【1】SGRAエッセイ:ファリス「災害と私:マレーシアと日本の違い」
【2】催事案内:「第8回日韓青少年大学生歴史対話」(8月8日、福岡)
【3】SGRAフォーラム「なぜ、戦後80周年を記念するのか?」(7月26日、東京およびオンライン)へのお誘い(再送)
***********************************************
【1】SGRAエッセイ#799
◆マスニン、ムハッマド・ファリス・シノン・ビン「災害と私:マレーシアと日本の違い」
人生で初めて地震を経験した日のことを、今でもはっきりと覚えています。日本に来て間もない2016年11月末、夜中に激しい揺れで目が覚めました。寝ぼけていたため、何をすればいいのかわからず、揺れるベッドの上でじっとしていました。頭がうまく働かず、日本語の授業で習ったはずの「地震が起きた時にやるべきこと」を何一つ思い出せません。怖い気持ちもありましたが、それ以上に少し興奮している自分がいました。「地震ってこんな感じなんだ」と思いながら、新しい体験に胸が高鳴りました。外に出るべきか、部屋で待つべきか考えているうちに、揺れは収まりました。その後、すぐに眠ってしまいました。翌朝、マレーシアにいる家族や友人から、「大丈夫?」というメッセージがたくさん届きました。自分では大したことがなかったと思っていましたが、遠くにいる家族はとても心配だったようです。
日本に来てから8年以上が経ち、何度か地震を経験したことで、少しずつ慣れてきました。ありがたいことに、大きな地震にはまだ遭遇していません。これからも遭わないように祈っています。最近では、小さな揺れがあっても、以前のように驚くことは少なくなりました。「またか」と思うだけで、そのまま普通に過ごします。マレーシアは日本と違って、自然災害が少ない国だと言われています。よくある災害は洪水と地すべりですが、毎回同じような場所で発生するため、そこに住んでいない人にとっては、災害を実際に経験する機会はありません。多くのマレーシア人は、災害が起きた時にどう行動すればよいのか、よく分からないと思います。地震についても、私の知る限りでは過去に2回しか発生していません。1976年と2015年に、私の地元であるサバ州で起きました。
2015年に震度6の地震が発生したとき、私はクアラルンプールの大学にいました。当時、実家にいたのは高校生の妹だけです。妹は地震を経験したことがなく、戸惑って泣きながら職場にいた母に電話をかけたそうです。母も地震に詳しくなかったため、とりあえず家の外に出るように指示しました。幸い、家族全員が無事でした。後でニュースを見て、学校の建物が壊れたことや、登山中の人たちの何人か亡くなったことを知り、自然災害の怖さを改めて感じました。もしも自分の大切な家族がその場にいたらと思うと、本当に恐ろしいです。
マレーシア人の災害に対する考え方は、日本人と少し違うようです。マレーシアは多文化国家で、さまざまな民族が住んでいますが、ここで言う「マレーシア人」とは、主にマレー系やボルネオ島の先住民族のことです。彼らの多くは、自然災害を神からの罰や人生の試練の一つだと考えています。たとえば、2015年にサバ州のキナバル山で地震が起きる2~3週間前、山頂でふざけて裸で写真を撮った外国人観光客がいました。そのため先住民族の間では、「アキナバル(キナバル山の主)が怒ったのだ」と言われていました。日本にもこのような信仰を持つ人がいるかもしれませんが、それ自体がニュースになることはないと思います。一方、マレーシアでは、こうした話が当たり前のように報道されます。こうした文化の違いが、災害に対する捉え方にも表れているのかもしれません。
日本で8年以上暮らしてきて、災害が起きるたびに強く印象に残ったことが二つあります。一つ目は、政府の対応の素早さです。地震や台風、そしてコロナ禍でも、マレーシアと比べると、日本の救助や支援はとても迅速だと感じました。テレビのニュースでも、避難所の準備や支援物資の配布がすぐに行われている様子をよく見ました。「さすが日本だな」と思うことが何度もありました。二つ目は、災害に遭った人々の冷静さと前向きな姿勢です。どれだけ大きな被害を受けても、嘆き続けるのではなく、「これからどうすればよいか」を考えて行動する人が多いように感じます。支援物資を受け取る時も、列に並んで順番を待つ姿を見ると、日本人の規律正しさに感心します。こうした姿勢は、マレーシア人にもぜひ見習ってほしいと思います。そして私自身も、日本での経験を通して、災害に対する知識と心の準備を少しずつ身につけて、たくさんのマレーシア人と共有していきたいと思います。
<マスニン、ムハッマド・ファリス・シノン・ビン Mohd_Farez_Syinon_bin_MASNIN>
2024年度渥美奨学生。2016年マラヤ大学言語学部アジア・ヨーロッパ言語学科を卒業、2019年早稲田大学修士課程修了、2021年同大学博士課程入学、2025年4月から金沢星稜大学国際交流センターの特任講師を務めている。
——————————————
【2】催事紹介
SGRA「日本中国韓国における国史たちの対話の可能性」プロジェクトの一環として、日本と韓国の高校生と大学生の交流プロジェクトを共催します。参加ご希望の方は事前にSGRA事務局までメールでご連絡ください。
◆第8回日韓青少年大学生歴史対話
日時:2025年8月8日(金)10:00~12:20
会場:福岡大学図書館多目的ホール
共催:日韓青少年大学生歴史対話実行委員会、関口グローバル研究会(SGRA)
言語:日本語・韓国語(同時通訳)
参加:無料|参加ご希望の方は事前にSGRA事務局までメールでご連絡ください。
お問い合わせ・参加申込:SGRA事務局( [email protected] )
※会場参加の方で同時通訳を利用する方は、Zoomを利用するためインターネットに接続できる端末とイヤホンをご持参ください。
10:00 開会
10:10 趣旨説明
・柿沼亮介(早稲田大学高等学院教諭)
・鄭淳一(高麗大学歴史教育科教授)
10:20 日韓の学生による発表「これまでの歴史対話プログラムを振り返って」
・質疑応答
10:50 休憩
11:00 歴史対話の経験を聴く、経験から学ぶ
・三谷博(東京大学名誉教授)
・劉傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
11:40 質疑応答:青少年大学生と歴史学者との対話
12:00 日韓の青少年・大学生に伝えたい一言(参加教員からの提言)
・金キョンテ(全南大学歴史教育科副教授)
・柳忠熙(福岡大学人文学部准教授)
・坂村圭(東京科学大学都市・環境学コース准教授)
12:20 閉会
※午後はSGRAラーニングの動画「歴史の大衆化と東アジアの歴史学」を視聴した後、参加型のセッション(グループディスカッション)を予定しています。参加ご希望の方は合わせてご連絡ください。
——————————————
【3】SGRAフォーラムへのお誘い(最終案内)
下記の通り第77回SGRAフォーラム「なぜ、戦後80周年を記念するのか?~ポストトランプ時代の東アジアを考える~」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「なぜ、戦後80周年を記念するのか?~ポストトランプ時代の東アジアを考える~」
日 時:2025年7月26日(土)14:00~17:00
会 場:早稲田大学大隈記念講堂小講堂およびオンライン(Zoomウェビナー)
言 語:日本語・中国語(同時通訳)
参 加:無料/会場参加の方も、オンライン参加の方も必ず下記より参加登録をお願いします。
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_u5_wRtx1T6uAYZFIMhMe3w#/registration
※会場参加の方で同時通訳を利用する方は、Zoomを利用するためインターネットに接続できる端末とイヤホンをご持参ください。
お問い合わせ:SGRA事務局( [email protected] )
◇フォーラムの趣旨
80年の長きにわたる戦後史のなかで、アジアの国々は1945年の出来事を各自の歴史認識に基づいて「終戦」「抗戦の勝利」「植民地からの解放」といった表現で語り続けてきた。アジアにおける終戦記念日は、それぞれの国が別々の立場から戦争の歴史を振り返り、戦争と植民地支配がもたらした深い傷と記憶を癒やし、平和を祈願する節目の日であった。一方、この地域の人びとが国境を超えた歴史認識を追い求め、対話を重ねてきたことも特筆すべきである。
2025年は終戦80周年を迎える。アメリカにおける政権交替にともなって、アジアをめぐる国際情勢がより複雑さを増している。こうした状況のなか、多様性や文明間の対話を尊重し、相互協力のなかで平和を希求してきた戦後の歴史を本格的に検証する意味は大きい。本フォーラムは日本、中国、韓国、東南アジアの視点から戦後80年の歳月に光を当て、近隣諸国・地域と日本との和解への道を振り返り、平和を追求するアジアの経験と、今日に残る課題を語り合う。
◇プログラム
14:00 開会
14:20 基調講演Ⅰ
「冷戦、東北アジアの安全保障と中国外交戦略の転換」
沈志華(華東師範大学資深教授)
14:50 基調講演Ⅱ
「冷戦から冷戦までの間 第2次世界大戦後米中関係の展開と日本」
藤原帰一(順天堂大学国際教養学研究科特任教授・東京大学名誉教授)
15:40 オープンフォーラム
[若手研究者による討論]
権南希(関西大学政策創造学部教授)
ラクスミワタナ・モトキ(早稲田大学アジア太平洋研究科)
野﨑雅子(早稲田大学社会科学総合学術院助手)
李彦銘(南山大学総合政策学部教授)
[フロアからの質問]
16:50 総括・閉会挨拶 劉傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
プログラム(日本語)
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/06/SGRAForum77Program_J.pdf
中国語ウェブサイト
皆さまのご参加をお待ちしております。
*****************************************
★☆★お知らせ
◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応)
SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。
https://www.aisf.or.jp/kokushi/
◇SGRAの新規プロジェクト「SGRAラーニング」
SGRAレポートの内容をわかりやすく説明する10~20分の動画で、SGRAレポートのポイントを短くまとめた上で、それをめぐる多国籍の研究者による多様な議論を多言語で共有・紹介しています。高校生や大学低学年を対象に授業の副教材として使っていただくことを想定していますが、SGRAウェブページよりどなたでも無料でご視聴いただけます。国史対話のレポートと動画は日本、中国、韓国の3言語で対応しています。
https://www.aisf.or.jp/sgra/
●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。
●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。
●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。
●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/
●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。
関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局
〒112-0014
東京都文京区関口3-5-8
(公財)渥美国際交流財団事務局内
電話:03-3943-7612
FAX:03-3943-1512
Email:[email protected]
Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/
*********************************************