SGRAメールマガジン バックナンバー
HE Xingyu “Is it Inappropriate to Speak to Children You Don’t Know in Public?”
2025年5月22日 16:21:18
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SGRAかわらばん1064号(2025年5月22日)
【1】SGRAエッセイ:何星雨「公共空間では、見知らぬ子どもに声をかけてはいけない?」
【2】国史対話エッセイ紹介:平山昇「大震災の副産物?」
【3】第8回アジア未来会議(2026年8月、仙台)論文募集のお知らせ(再送)
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【1】SGRAエッセイ#792
◆何星雨「公共空間では、見知らぬ子どもに声をかけてはいけない?」
休日のショッピングモール、私はふとしたことで一人の子どもと出会った。クレーンゲームの前の8歳くらいの男の子。取り出し口に詰まった小さなおもちゃを見つめて困っていて泣きそうだった。「もう一回やれば出てくるよ」と声をかけると、男の子は「コインがもうない。パパとママはあっちの喫茶店で働いている」と小声で言った。私がコインを購入してあげて、おもちゃを取り出すことができた。おもちゃを受け取った男の子は「ありがとう」と笑った。その後、私は残りのコインでぬいぐるみを取ろうとしたが、何度も失敗。フラフラと他人のゲームを眺めていた男の子に再び出会った。「難しかったわ。手伝ってくれる?」その子はまるで重大な任務を受け取ったような表情で、機械選びを経てぬいぐるみを取ってくれた。「家に帰ったらスマホ見るだけだから、ここにいた方が楽しい」とつぶやいた男の子。その子の表情・言葉・行動―それらは、単なる「子どもの遊び」ではなく、社会の中で誰かと関わり、やりとりをし、自分の存在を肯定された瞬間だった。
……だが、これは日本での出来事ではない。つい最近、母国の中国での出来事だった。これが日本であれば、見知らぬ子どもに声をかけていなかったかもしれない。
日本の公園で迷子になった子どもに気づいて声をかけようとしたら、一緒にいた日本人の友人に「不審者に思われるから、遠くから見守っていればいい」と言われ、登山している時に頑張っている小さな子どもの姿に感心して名前を聞いて褒めようとすると、「変な人と思われるからやめた方がいい」と止められた。このような経験が何度もあった。以来、「異文化理解」の姿勢を取り、見知らぬ子どもに声かけしたい気持ちを抑えるようにしている。
日本では、公共空間における子どもと他者の関係性が極めて制限されているように感じられる。大人と子どもが「適切」に関われるのは家庭・学校・児童施設など、厳密な制度に囲まれた空間の中だけだ。制度の外にある公共空間では子どもと出会い、関わり、お互いにケアを交わすことは、ときに「越えてはいけない線」のように扱われているのではないか。
私が経験した出来事は、まさに「制度外ケア」の実践だった。そこには管理者も教育者も両親もいない。あるのは困っている子どもと、それに気づいた大人との自然な応答だけだった。その時子どもはケアを受けた存在だけではなく、社会の中で「制度外の大人と関係性を築く主体者」として振る舞っていた。日本ではこうした「制度外の大人と関係性を築く主体者」としての子どもが、果たして容認されるのかとの素朴な疑問を抱えるようになった。
子どもの権利という視座からも考えてみよう。私は子どもの権利に強く関心を持っており、具体的な権利と実践について研究している。子どもの権利条約では「参加する権利」が一つの柱だ。「参加する権利」に関して第12条は、子どもが自分の意見を表明し、それが尊重される権利が保障されており、第15条は子どもが他者と集まり、自由に関わることが認められている。子どもが主体として権利を行使できる場は、本当に制度の内側に限られていいのか。私はむしろ、制度の外の公共空間こそが、子どもの「参加する権利」が日常的に試される、とても重要な実践の場だと考える。
公共空間において、目の前の子どもに関心を持っている大人を潜在的な不審者と疑い、「見知らぬ子どもに声をかけること」がリスクとみなす空気が日本社会でまん延している。子どもの「参加する権利」が公共空間では行使することが難しいと考えられる。この空気の背景には、制度依存的な安心志向と人間関係の希薄化、そして「子どもは所管されたもの」という、無意識のまなざしが潜んでいるのかもしれない。少子高齢化の中の「社会全体で子どもを育てる」というスローガンのもとで、かえって制度の外にいる子どもと大人の関係性が排除される危険性がある。
「制度に所管された子ども像」を問い直す時期に来ているのではないだろうか。子どもと知らぬ他者が自然につながれる空間をもっと寛容に受けとめられる社会。子どもに声をかけるという行為がケアとなり、他者との関係性の入り口となるような社会。それこそが、子どもが本当に「社会の一員」として生きられる参加の場なのだと思う。
目の前で困っている子どもに「大丈夫?」と、素晴らしいことをしている子どもに「すごいね」と、勇気を持って声をかけられる大人でありたい。日常のまなざしの中で、子どもと共に社会を編みなおしていく、そんな子ども研究者であり続けたい。
<何星雨(か・せいう)HE Xingyu>
中国・浙江省杭州市出身、2015年7月に来日。2023年度渥美財団奨学生。2024年3月に東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科を修了し、博士号を取得。日中両国の児童虐待予防に関心を持っている。現在は子どもの権利と保育に関する研究を続けながら東京家政大学、文教大学の非常勤講師として務めている。
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【2】国史対話エッセイ紹介
3月26日に配信した国史対話メールマガジン第65号のエッセイをご紹介します。
◆平山昇「大震災の副産物?」
私は2015年、博士論文をもとに執筆した『初詣の社会史 鉄道が生んだ娯楽とナショナリズム』という本を東京大学出版会から出版した。簡単に概要を述べると、副題が示す通り、明治期に鉄道の発達とともに庶民の娯楽として成立した初詣が、やがて皇室ナショナリズムともからみあいながら「国民」行事として定着していく過程を論じたものである。「上から」の強制ではなく、人々が自発的に楽しみながら毎年同じ行事を反復することで強固な持続性をもったナショナル・アイデンティティが形成されていく過程を、初詣の近代史から浮かび上がらせたと考えている。
もっとも、実を言えば、研究者を目指しはじめた頃は「初詣は鉄道が生んだ娯楽イヴェント!」という程度のことしか考えておらず、まさか自分の研究がこんなところにたどり着くとは夢にも思っていなかった。なぜナショナリズムなどという厄介な「怪物」と関わる方向へと迷い込んでいったのか。
学生当時、大学内では「ナショナリズムは時代遅れ」だとか「国民国家に捉われているのは愚か」といった類の言葉があふれかえっていた。私もその風潮にすっかり感化された。だが、その後(2000 年代)の日本社会は、国民国家が相対化されていくどころか、インターネットを通じて大衆ナショナリズムが戦後かつてない盛り上がりを見せていった。いったいこれはどういうことなのか、という「モヤモヤした違和感」がずっと頭にひっかかりながら大学院時代を過ごしたような気がする。
全文は下記リンクよりお読みください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2025HirayamaEssay.pdf
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【3】第8回アジア未来会議論文募集のお知らせ(再送)
アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心のある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。アジア未来会議は、学際性を重視しており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励します。第8回アジア未来会議(AFC#8)は、論文、小論文の発表要旨を下記の通り募集します。
第8回アジア未来会議
テーマ「空間と距離:こえる、縮める、つくる」
会期: 2026年8月25日(火)~ 29日(土)(到着日、出発日を含む)
会場: 東北学院大学五橋キャンパス(仙台市)
発表要旨の投稿締切:
・奨学金/優秀賞に応募する場合 2025年9月20日(土)
・奨学金/優秀賞に応募しない場合 2026年2月28日(土)
募集要項は下記リンクをご覧ください。
画面上のタブで言語(英語、日本語)を選んでください。
皆様のご参加をお待ちしています。
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