SGRAメールマガジン バックナンバー

Motoki LUXMIWATTANA “Enjoy the Unexpected”

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SGRAかわらばん1061号(2025年5月1日)

【1】SGRAエッセイ:ラクスミワタナ モトキ「『予定外』を楽しむ」

【2】第76回SGRAフォーラムへのお誘い(5月2日、トルコ・チャナッカレ+オンライン)
「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」(最終案内)
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【1】SGRAエッセイ#790

◆ラクスミワタナ モトキ「『予定外』を楽しむ」

2015年、タイのチュラロンコン大学政治学部を卒業した。卒業したての若者の情熱と根拠のない全能感に満ちていた私は、そのまま学部の先生のリサーチ・アシスタントとして1年ほど働いて大学院に進み、タイの政治を変えてやろうと息巻いていた。ところが卒業前に、先生に「あの話はなかったことになってしまった」と申し訳なさそうに言われた。合同研究プロジェクトの別のメンバーが先にアシスタントを見つけてしまっていたらしい。私の出鼻をくじいた「予定外その1」だったが、調子に乗っていた若造にはいい薬だった。少なくとも今はそう思っている。

路頭に迷っていた(というのはさすがに冗談だが)私は、大学サークルの先輩の会社に就職した。業務は保育園の日本人対応窓口と、英語塾の講師である。正直、接客や営業など完全にゼロから学ぶものであったし、ましてや幼児の相手など想像したこともなかった。ところがどうして、今の私は子供と遊ぶことが非常に楽しく、有意義なことだと感じている。最終的にはアカデミアに勝手ながら逃げ帰ってきたが、この「予定外その2」で経験したことは今の私の大事な一部であると、自信を持って言える。

「予定外その3」は、東京大学法学部・大学院法学政治学研究科の修士2年の時、突然訪れた。当時の指導教員には、「博士課程は西洋の大学か、そうでなければ(現在在籍している)早稲田大学大学院アジア太平洋研究科を考えている」と伝えていた。先生も、最初にお会いした時から「定年退職予定だから、博士課程は面倒を見られないだろう」とおっしゃっていたので、自然な流れだった。そう、これが2020年だったことを除いては。あえて言う必要もないだろうが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が始まった年だ。

先生は、「退職後に東南アジア専門の教員が来るかもしれないから、急いで判断しなくてもいい」と言ってくれていたが、大学が閉鎖となるレベルの状況でその見通しはなくなり、他学部に移籍することになった。しかし、当時の米国や英国に渡航したかったかというと、無論ノーだ、単純に死にたくなかった。というか研究のためにタイに帰国することすらままならない状況だったのだ。今思い返しても、あの2020年はなかなかハードスケジュールだった。進学書類の準備をし、そのために家からTOEFLを受け、論文のためにアジア経済研究所の図書館に通いつめ…。正直もう体験したくはない「予定外その3」だ。

最新の「予定外」は、渥美国際交流財団の奨学生になったことに関係している。博士課程を3年で終えられるとは最初から思ってはいなかったが、実際に投稿論文が通らなかったり、自分の研究が上手くまとまらなかったりするのは楽しいことではなかった。そんな中、渥美財団奨学金を日本在住の先輩が勧めてくれたので、応募した。正直な話、「支援してもらえるならそれでいい」程度の気持ちだった。

しかし、蓋を開けてみれば、渥美財団での交流は楽しかった。あそこまで多岐にわたる学術研究の話を聞けるのは楽しかった。渥美財団の皆様や奨学生の仲間と真面目な学術的な話であれ酒の席であれ、時間を共にするのが楽しかった。完全に「予定外」な出会いであったが、あるいはだからこそ、ここまで楽しかったのかもしれない。この「予定外その4」が無かったら、私の2024年の印象はもっと暗いものであっただろう。

散らかった話になってしまったが、結論としては、今の私はいろんな「予定外」のおかげでここにいる、と言ったところだろうか。まだ博士号を取得出来ていないが(これは明らかに悪い予定外だろう)、この場を借りて多くの方々に深くお礼を申し上げたい。この先も、良くも悪くもいろんな「予定外」を楽しんで人生を歩みたいものだ。

<ラクスミワタナ モトキ LUXMIWATTANA, Motoki>
タイ、バンコク出身。2024年度渥美国際交流財団奨学生。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の博士後期課程在籍。2021年に東京大学法学部・大学院法学政治学研究科で修士号を取得。主にタイ政治における保守派・右派の政治思想の研究を行っている。

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【2】第76回SGRAフォーラム「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本」へのお誘い(最終案内)

下記の通り第76回SGRAフォーラム「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。オンラインで参加ご希望の方は、直接下記リンクよりお入りください。

テーマ:「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」
日 時:2025年5月2日(金)
第1部10:00~11:30(トルコ時間)/16:00~17:30(日本時間)
第2部13:30~15:00(トルコ時間)/19:30~21:00(日本時間)
方 法:会場参加とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催
会 場:チャナッカレ・オンセキ・マルト大学(COMU)アナファルタラル・キャンパス 教育学部4階セミナーホール
言 語:日本語

※オンライン参加の方は下記より直接おはいりください。
https://us02web.zoom.us/j/85115416326

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected]

◆フォーラムの趣旨
中近東や東南アジアでアニメ・マンガなど日本のポップカルチャーへの関心が急上昇している。日本語学習のきっかけとなることも多い。トルコ語に翻訳された日本のアニメや漫画が飛躍的に増えているように、日本ポップカルチャーはブームだ。日本研究においても、これらの地域でなぜ日本文化の受容が広がっているのか、なぜ若者が日本語に特別な関心を持つようになったのかをもっと議論すべきであろう。
一方、日本には中近東や東南アジアの国々から来た多くのイスラム教の移住者がいるが、日本語や文化、教育の環境に順応しようとしながら生活する中で、さまざまな困難に直面している。まずは言語の壁や文化的な違いによる摩擦が大きな課題だ。また、日本で生まれ育った子どもたちにとっては、自らのルーツに基づくアイデンティティーや宗教教育に関する問題も浮上している。
フォーラムでは、こうした課題に焦点を当て、第1部では中近東の日本語教育と日本研究を考える。第2部では、日本文化の受容と日本語教育を内側から議論をするために日本社会と共生する外国人コミュニティー、特に、イスラム文化圏から来た移民が直面する問題を深く掘り下げ、具体的な努力や解決策を模索する場としたい。
中近東や東南アジア地域における日本文化の需要を外側と内側からとらえることにより、今日の世界における日本のソフトパワーの位置づけが可能になるだろう。

◆プログラム
【第1部】中近東の若者にとっての日本語学習と日本文化
◇「トルコに於ける日本語教育と学習者の最初の混乱:カタカナ」
Levent_TOKSOZ(Tekirdag_Namik_Kemal_University・NKU)
◇「トルコの若者のアニメとマンガ関心:現実逃避、別世界とアイデンティティー」
Melek_CELIK(COMU)
◇「イランの若者と日本語・日本文化:メディア、教育、就職、そして未来展望」
Ayat_HOSSEINI(テヘラン大学)
◇討論「中近東の日本語・日本文化イメージを再考察する」
Jianjun_SUN(北京大学)、Miyuki_ICHIMURA(COMU)、Shorina_DARIYAGUL(筑波大学)

【第2部】日本におけるイスラムコミュニティーの日本文化受容と日本語教育
◇「在日の中東出身者における日本語習得過程の変容と影響要因に関する考察」
Akbari_HOURIEH(神田外国語大学)
◇「在日インドネシアコミュニティーと多文化共生:イスラム教育を中心に」
Mya_Dwi_ROSTIKA(大東文化大学)
◇【討論】「日本の国際化の中の外国人コミュニティーを再考察する」
Zeynep_GEN?ER_BALO?LU(Pamukkale_University・PAU)、Murat_?AKIR(関西外国語大学)

詳細は下記リンクをご参照ください。
※プログラム
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/04/forum76program.pdf
※ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/04/76_SGRA_ForumV8-scaled.jpg

皆さまのご参加をお待ちしております。

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★☆★お知らせ
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