SGRAメールマガジン バックナンバー
GU Jiachen “Becoming a Scholar of the Displaced: ‘Searching for Pokémon’ as Methodology”
2025年4月24日 13:24:25
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SGRAかわらばん1060号(2025年4月24日)
【1】SGRAエッセイ:顧嘉晨「目指せ 遺民博士―方法としての『ポケモン探し』―」
【2】寄贈本紹介:武内今日子『非二元的な性を生きる』
【3】第76回SGRAフォーラムへのお誘い(5月2日、トルコ・チャナッカレ+オンライン)
「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」(再送)
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【1】SGRAエッセイ#789
◆顧嘉晨「目指せ 遺民博士―方法としての『ポケモン探し』―」
「テレビで映画をやってる!男の子が4人、線路の上を歩いている……僕ももう行かなくちゃ!」。
いつからだろうか、私の目標は子供の頃に憧れていた「ポケモンマスター(携帯獣達人)」から、「イミンドクター(遺民博士)」へと変わっていった。国が滅び、遺された民、縮めて「遺民」、この世の不思議な集団、「江南」に「中州」に「日ノ本」に、その数は100、200、300……いや、それ以上かもしれない。
私の研究対象はこの「遺民」と呼ばれている人たちだ。「遺民」とは何だろうか?簡単に言えば、「遺民」とは、旧王朝が滅びた後も生き残り、あるいは義を守り、新王朝に仕えることを拒んだ人々を指す。日本人になじみのある概念では、主家を失った「浪人」(例えば『忠臣蔵』)が最も近い存在だろう。中でも私は、漢人政権の明から満洲政権の清へという王朝交代を生き抜いた遺民、さらには中国大陸から逃れ日本へ渡った遺民たちを主な研究対象としている。
研究方法は主に文献学の手法を用いながら、フィールドワークも行う。歴史学者として遺民を追う作業は、私にとって「ポケモン探し」にとてもよく似ている。「遺民博士」の仕事とは、歴史の闇に埋もれてしまった未知の遺民を発掘し、図鑑を完成させることに他ならない。まず、膨大な古書の中から「野生」の遺民を探し出す。だが、注意を怠ると、彼らは逃げて行ってしまう。そして、古書だけではなく、山中の寺院、大名の屋敷、果ては墓地に至るまで、冒険の旅が必要になる。特に寺院においては、秘蔵の史料が外部に公開されることが少ない。まず「ミッション」をクリアしないと隠し場所に入ることすら許されない場合もある。
調査の途中では、遺民にゆかりのある庭園や橋、書道作品、石碑などに出会うこともしばしば。そうした瞬間、時を超え、昔の遺民たちと交錯する感覚に陥る。まるで彼らと「対話」をしているような不思議なひとときである。遺民を「捕まえる」ことに成功した後は、彼らを「遺民図鑑(遺民録)」に登録。その上で、分析と研究を重ね、論文として発表することで図鑑の説明文を埋めていく。最終的には、パートナーである遺民と学術成果を携えて学会に発表――ポケモンゲームのように「バトル」を行い、トレーナーやジムリーダー、さらには四天王に挑むことになる。ただし、ゲームと同様に、その遊び方や楽しみ方は人それぞれ。私の夢は「チャンピオン」になることではなく、図鑑を完成させ、本物の「遺民博士」となることだ。
私の研究の旅は、修士課程で明の遺民・王夫之という人物を選んだことから始まった。王夫之は顧炎武、黄宗羲とともに「明末清初の三大師(三大儒)」と称され、遺民の中でも最も著名な三人のうちの一人。私は彼らを明遺民の「御三家」と呼びたい(王夫之は当時あまり知られておらず、清末になって同郷の曾国藩によって発掘された人物)。この「御三家」を初期パートナーとして修士論文を完成させたことで、本格的に「遺民博士」への旅路を歩み始めた。博士課程に進学する前、指導教官の小島毅博士から「顧君も曾国藩のように、将来は王夫之に匹敵する遺民を発掘してほしい」と言われた。その言葉を胸に、博士課程では、さらに知られざる遺民たちを探し求めた。広く知られる南方の遺民だけではなく、北方の李楷や日本に逃れた戴曼公、張斐といった人物も対象とした。
遺民を発掘する際、よく使うのは「芋づる式」という「遺民捕獲」のコツだ。東洋文化研究所の大木康博士から学んだ方法で、遺民の友人たちもまた多くが遺民であることから、一人を見つけると、繋がりを辿って次々と新たな遺民を発見できるというものだ。この連鎖が続くと、時には非常にレアな「伝説遺民」に巡り会う。特に未知の遺民や未発掘の史料を第一発見者として見つける瞬間は、新種のポケモンを発見した時のような感動がある。最近、約400年前に明の遺民が記した『宋遺民広録』という失われた書物を再発見した。この発掘過程は、まるで「古びた海図」を手に「最果ての孤島」へ向かい、ミュウと出会う旅のようだった。遺民を探し出す過程は「ポケモン探し」のようなもので、その過程には驚きと発見が詰まっており、楽しさに満ちている。
幾多の試練を乗り越え、遺民研究学界の「マスター」になるために、そして最高の「ドクター」になるために、新たな出会いを繰り返しながら、遺民仲間たちとの旅は今日も続く。続くったら続く……
<顧嘉晨(こ・かしん)GU Jiachen>
2024年度渥美国際交流財団奨学生。東京大学大学院人文社会系研究科(アジア文化研究専攻東アジア思想文化専門分野)博士課程。日本学術振興会特別研究員DC1、国際日本文化研究センター特別共同利用研究員を経て、現在桜美林大学リベラルアーツ学群非常勤講師。専攻は遺民思想史。日本儒教学会賞受賞。
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【2】寄贈本紹介
SGRA会員で東京大学特任助教の武内今日子さんからご著書をご寄贈いただきましたので紹介します。
◆武内今日子『非二元的な性を生きる』
「Xジェンダー」「ノンバイナリー」「オーバージェンダー」「インタージェンダー」……「男」「女」に当てはまらない性のカテゴリーは、どのようにして用いられてきたのか?
30人ほどへのインタビューやミニコミ誌・インターネット上のテクストをもとに、1990年代から2010年代の日本におけるXジェンダーやノンバイナリーなど「男」「女」に当てはまらない非二元的な性概念が用いられてきた歴史をたどる。第五回東京大学而立賞受賞。
発行:明石書房
判型・ページ数:A5・360ページ
出版年月日:2025/03/20
ISBN:9784750359120
詳細は下記リンクをご覧ください。
https://www.akashi.co.jp/book/b659860.html
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【3】第76回SGRAフォーラム「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本」へのお誘い(再送)
下記の通り第76回SGRAフォーラム「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」
日 時:2025年5月2日(金)10:00~15:00(トルコ時間)/16:00~21:00(日本時間)
方 法:会場参加とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催
会 場:チャナッカレ・オンセキ・マルト大学(COMU)アナファルタラル・キャンパス 教育学部4階セミナーホール
言 語:日本語
※オンライン参加の方は下記より直接おはいりください。
https://us02web.zoom.us/j/85115416326
お問い合わせ:SGRA事務局([email protected])
◆フォーラムの趣旨
中近東や東南アジアでアニメ・マンガなど日本のポップカルチャーへの関心が急上昇している。日本語学習のきっかけとなることも多い。トルコ語に翻訳された日本のアニメや漫画が飛躍的に増えているように、日本ポップカルチャーはブームだ。日本研究においても、これらの地域でなぜ日本文化の受容が広がっているのか、なぜ若者が日本語に特別な関心を持つようになったのかをもっと議論すべきであろう。
一方、日本には中近東や東南アジアの国々から来た多くのイスラム教の移住者がいるが、日本語や文化、教育の環境に順応しようとしながら生活する中で、さまざまな困難に直面している。まずは言語の壁や文化的な違いによる摩擦が大きな課題だ。また、日本で生まれ育った子どもたちにとっては、自らのルーツに基づくアイデンティティーや宗教教育に関する問題も浮上している。
フォーラムでは、こうした課題に焦点を当て、第1部では中近東の日本語教育と日本研究を考える。第2部では、日本文化の受容と日本語教育を内側から議論をするために日本社会と共生する外国人コミュニティー、特に、イスラム文化圏から来た移民が直面する問題を深く掘り下げ、具体的な努力や解決策を模索する場としたい。
中近東や東南アジア地域における日本文化の需要を外側と内側からとらえることにより、今日の世界における日本のソフトパワーの位置づけが可能になるだろう。
◆プログラム
【第1部】中近東の若者にとっての日本語学習と日本文化
◇「トルコに於ける日本語教育と学習者の最初の混乱:カタカナ」
Levent_TOKSOZ(Tekirdag_Namik_Kemal_University・NKU)
◇「トルコの若者のアニメとマンガ関心:現実逃避、別世界とアイデンティティー」
Melek_CELIK(COMU)
◇「イランの若者と日本語・日本文化:メディア、教育、就職、そして未来展望」
Ayat_HOSSEINI(テヘラン大学)
◇討論「中近東の日本語・日本文化イメージを再考察する」
Jianjun_SUN(北京大学)、Miyuki_ICHIMURA(COMU)、Shorina_DARIYAGUL(筑波大学)
【第2部】日本におけるイスラムコミュニティーの日本文化受容と日本語教育
◇「在日の中東出身者における日本語習得過程の変容と影響要因に関する考察」
Akbari_HOURIEH(神田外国語大学)
◇「在日インドネシアコミュニティーと多文化共生:イスラム教育を中心に」
Mya_Dwi_ROSTIKA(大東文化大学)
◇【討論】「日本の国際化の中の外国人コミュニティーを再考察する」
Zeynep_GEN?ER_BALO?LU(Pamukkale_University・PAU)、Murat_?AKIR(関西外国語大学)
詳細は下記リンクをご参照ください。
※プログラム
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/04/forum76program.pdf
※ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2025/04/76_SGRA_ForumV8-scaled.jpg
皆さまのご参加をお待ちしております。
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★☆★お知らせ
◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応)
SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方はSGRA事務局にご連絡ください。
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