SGRAメールマガジン バックナンバー

TAKEUCHI Kyoko “Continuing to be a ‘Researcher'”

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SGRAかわらばん989号(2023年11月3日)

【1】エッセイ:武内今日子「『研究者』を続けること」

【2】寄贈書紹介:小野亮介、海野典子編『近代日本と中東・イスラーム圏』

【3】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送)
「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」(11月25日、ハイブリッド)
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【1】SGRAエッセイ#750

◆武内今日子「『研究者』を続けること」

先日、母校の高校で大学の研究生活について講演する機会があった。学生たちは私の話に対して「研究者をやってきて良かったことはあるのですか?」と尋ねた。学生たちが研究者にマイナスのイメージを持っているということではない。私があまりにも過労、ハラスメント、経済的な課題など、研究職に関した多岐にわたるネガティブな側面に焦点を当てすぎてしまったということである。

考えてみれば、私は何かになりたいと思ったことがほとんどなく、研究者になりたいとも研究職に就きたいとも思ってこなかった。私の研究関心はジェンダー・マイノリティ-の経験に関するものなので、日常における性をめぐる規範と深く関わり合っており、研究と生活を切り離すことが難しい。そしてジェンダーやセクシュアリティを巡る社会の状況に許せないことがとても多いので、どれほど日本の研究者の環境が良くなくても、やむにやまれず研究しなければならない、という気持ちが強くあった。

研究以外の仕事があまりにも多いと言われる日本を脱出して英語圏の大学に行ったり、国外の大学に就職したりする知人もたくさんいる。国際的な場に研究を展開していくこと自体は重要だし、私も日本で生活しながらも英語を日々勉強し、国際学会やシンポジウムなど可能な限り国際的な交流や発表の場面に関わるようにしてきた。他方で、多少の違和感も覚えてきた。一つには英語至上主義がある。翻訳ソフトが発達してきている現在においても、非英語圏を対象とする調査研究をしている人でさえ、英語圏の情報や研究だけに依拠して議論を進めることがある。

もう一つには、コミュニティーへの貢献がある。調査研究をしているからかもしれないが、調査を終えて成果を発表すると日本から離れ、協力者との関係も途絶えてしまうというふるまいは問題含みだと感じる。少なくとも大学や研究機関だけでなく、日本にいる対象者が理解できるかたちで成果を報告する必要があるだろう。また個人的には研究環境が良くないからこそ、自分が大学の環境を変えていったり、非常勤などを含む授業で研究成果を学生に伝えたりできたら良いと思うし、将来的には性的マイノリティーのことを研究する人たち、国外からの多様なバックグラウンドを持つ人たちが所属しやすい研究室の候補を増やすことに貢献したい。

そう考えると、あまり明確に意識できるほど強いものではないが、研究者をやって良かったと思える未来を遠くに見据えていると言えるかもしれない。その道中ではしんどくなることも多かった気がするが、知らなかったことに気付いたり既存の知識を更新したりする楽しさやもどかしさ、授業で得られる手ごたえ、研究で得られる新たな可能性と出会い、それを日々の燃料とする側面もある。いずれにせよ、研究者であることを今のところ続けてみるという選択肢を可能にしてくれた渥美国際交流財団に感謝したいし、これからもラクーン(渥美奨学生)たちとの交流を続けて縁を活かすことができれば良いと思う。

<武内今日子(たけうちきょうこ)TAKEUCHI_Kyoko>
2022年度渥美奨学生。2023年東京大学大学院人文社会系研究科博士号(社会学)取得。現在、東京大学大学院情報学環特任助教。社会学・ジェンダー論の視座から、トランスジェンダー/ノンバイナリー史を研究。

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【2】寄贈書紹介

SGRA会員で日本学術振興会外国人特別研究員/国立民族学博物館外来研究員のモハッラミプール ザヘラさんから共著書をご寄贈いただきましたので紹介します。

◆小野亮介、海野典子編『近代日本と中東・イスラーム圏:ヒト・モノ・情報の交錯から見る』
MEIS-NIHU_Series,_no.6 Studia_culturae_Islamicae, no.116

本論文集は単に日本と中東・イスラーム圏の相互交流にとどまらず、日本人による一面的あるいは不正確なイスラーム理解や日本人とムスリムの間の交渉に見られるすれ違いにも焦点を当てている。…これまで見落とされてきたこの分野の諸問題に、我々は新たな史料的可能性とともに取り組まねばならない。それはイスラーム/ムスリムとその諸要素を単に日本の枠組みの中で理解するだけでなく、中東・イスラーム圏、さらにより広範な、世界規模での文脈に結び付けて同時代の日本の歴史や文化、宗教のあり方などを理解することにつながる。(編者による序章より)

発行者:人間文化研究機構地域研究推進事業「現代中東地域研究」
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所拠点
発行日:2022年3月
ISBN:ISBN 978-4-86337-374-7

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【3】第17回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送)

下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。

テーマ:「東南アジアにおける近代<美術>の誕生」

日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間)

会場:東京会場、北京会場、オンライン(Zoomウェビナー)のハイブリッド形式
◇東京会場:渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php
◇北京会場:北京大学外文楼206 ※北京大学関係者対象

言語:日中同時通訳

共同主催:
◇渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
◇北京大学日本文化研究所
◇清華東亜文化講座
後援:国際交流基金北京日本文化センター
協賛:鹿島建設(中国)有限公司

※参加申込(リンクをクリックして登録してください)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_G5EEnbsqQxSTV9xNknq-Pw#/registration

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

■要旨

東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。

フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。

こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。

この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。

■プログラム

総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA)

【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA)
【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)

【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」

【指定討論】
◇熊燃(北京大学外国語学院)
◇堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール)

【自由討論】
モデレーター:林少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座)

【閉会挨拶】王中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)

※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
日本語版
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/J_SGRAChinaForum17.pdf

中国語版
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/C_SGRAChinaForum17.pdf

ポスター
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/10/ChinaForum17_posterLITE.png

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