SGRAメールマガジン バックナンバー

KATO Kenta “Rethinking ‘International Exchange Concerns'”

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SGRAかわらばん987号(2023年10月19日)

【1】エッセイ:加藤健太「『国際交流への関心』再考」

【2】催事紹介:第18回INAF研究会(10月29日、オンライン)
「アメリカの政治情勢と対東北アジア戦略」

【3】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(最終案内)
「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市)
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【1】SGRAエッセイ#749

◆加藤健太「『国際交流への関心』再考」

2022年度渥美奨学金に応募する際に自己紹介文として「国際交流への関心」について書くように言われ、私は以下のようなことを述べた。少し長くなるが、部分的に抜粋し、引用しよう。

国際交流は、私にとって、青年期からの憧れであると同時に、それが故に批判の対象でもありました。[…]留学を二度経験し異文化交流の楽しさを享受してきた一方で、国際的な環境の内部に存在する力関係を感じ取るようになりました。特に大学院に進学し学問と真剣に向き合うようになってから、学術的な言説空間における英語中心主義を実感しています。[…]英語を身につけ、映画学の文献を英語の原書で読み、海外の学会において英語で発表することに奮闘していた修士課程時代の私は、すぐにアカデミアに存在する不均等な関係性に気付かされることとなります。国際的に活躍できる学者になりたいと夢見ていたものの、まさにその「国際」という言葉を疑問視することがなかったがために、自分もアメリカを中心とした知の秩序を無批判に受け入れていたのです。[…]国際的な学術活動に積極的に参加することで、常にその「国際性」を疑問視できるような研究者になりたいと考えています。

1年以上前の文章ではあるが、今読むとなんて生意気なことを応募書類に書いたのだろうかと思う。ただ当時の気持ちとしては「国際交流は他国の社会・文化の理解促進につながりとても有意義である」というお行儀のよい薄っぺらな文章は書きたくなかったのだ。仮にこれで奨学金をもらえなくても自分の意見をしっかりと表明したい、という妙な意地もあったかもしれない。いずれにせよ、こんな生意気な自分を快く迎え入れてくれた渥美財団の懐の広さには今でも驚いている。

渥美財団で1年間過ごして、私の「国際交流への関心」に何か変化はあっただろうか。奨学生としての期間を終えた今、簡単に振り返ってみたい。

正直に言えば、そこまでの変化はなかったように思う。2022年度は16人が奨学生として採用され、内11人が留学生、5人が日本人である。十分に「国際的」と言える環境ではあるが、他の奨学生と接する際は、留学生ではなく、同じく研究者を志す学生として、研究や大学の話をしていた印象が強い。また、2022年度は初めて日本人を奨学生として迎えた年でもあり、何かある度に「初めての日本人奨学生として…」というフレーズが頻繁に使われていた。しかし、これも一種の枕詞と化しており、留学生が多くいることで逆に自分が日本人であることを認識させられるような体験とは異なるものであった。もちろん、「国際性」を意識せずに済んだのは、自分が日本人であり、使われている言語も日本語であったからで、留学生は違う体験をしたかもしれない。それでも、最初の集いの自己紹介テーマが「あなたは犬派?猫派?それとも何派?」であったように、あまり国際交流という側面は強調されていないように感じた(このテーマは今でも強く印象に残っている)。

しかし、現在の社会では国内利益のための「国際化」がより強くなっているように感じられる。外国人技能実習生の過酷な労働環境や、外国人が日本の素晴らしさを褒めちぎるテレビ番組の氾濫などは、その最たる例であろう。また、「反日・親日」といった、特定の個人・国家を「日本のことが好きか嫌いか」という単一な尺度で判断する国家主義的な言説も多くみられるようになった。もちろん、「国際化」(inter-nationalization)という言葉の通り、それは国家間の交流であり、そこでは国の存在が前提として置かれている。したがって、「国際化」が「日本」という想像された共同体を構築することは自明のことである。しかし、「国際化」が相互理解ではなく、自国の利益のために促進される傾向が顕著になっているのではないか。

この1年で、自己紹介文に書いたような、「国際」という言葉の実践からその「国際性」を疑っていきたい、という気持ちは更に深まったように感じる。しかし、渥美財団の集いでは驚くほどにそういったことを考えなかったのも事実である。基本的に悲観的な性格ではあるが、奨学生として1年間過ごしたことで、一時的にでも楽観的にさせてもらえたかもしれない。

<加藤健太(かとう・けんた)KATO, Kenta>
2022年度渥美国際交流財団奨学生。2023年9月早稲田大学国際コミュニケーション研究科博士後期課程修了。博士(国際コミュニケーション学)。2023年4月より早稲田大学国際教養学部助手。専門は映画研究で、主に日本映画をクィア理論、男性学の観点から分析している。

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【2】催事紹介

SGRA会員で東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲先生から研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。希望者は主催者へ参加申込をお願いします。

◆第18回INAF研究会「アメリカの政治情勢と対東北アジア戦略」
講師:イマニュエル・パストリッチ(アジア・インスティチュート所長・理事長)
日時:2023年10月29日(日)17:00~18:30
方法:オンライン

パストリッチさんはアメリカ出身のユダヤ人で、中国語・韓国語・日本語が流暢で東アジアの文化に造詣が深い、ユニークな方です。現在のアメリカ政治に厳しい見解を持っており、前回のアメリカ大統領選挙にも出馬宣言されました。東アジア3国の協力を主張し、日中韓三カ国語で数多くの書籍を出版。

詳細は下記リンクよりご覧ください。
http://inaf.or.jp/

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【3】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(最終案内)

日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。

テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」
日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分
会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18)
https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8
言 語:日本語・中国語(同時通訳)

※参加申込(クリックして登録してください)
http://bit.ly/JTAFF10

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

◆開催趣旨

東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。

◆プログラム

講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授)
講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター)
講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社)
全体質疑応答

※詳細は下記リンクをご参照ください。

第10回日台アジア未来フォーラム「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」へのお誘い

※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png

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