SGRAメールマガジン バックナンバー

Chieko HIROTA “Me as a Part of the Universe”

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SGRAかわらばん986号(2023年10月12日)

【1】エッセイ:廣田千恵子「宇宙の一部としての私」

【2】寄贈書紹介:奥本素子編『サイエンスコミュニケーションとアートを融合する』

【3】第19回SGRAカフェへのお誘い(最終案内)
「国境を超える『遠距離ケア』」(10月14日、東京+オンライン)

【4】第10回日台アジア未来フォーラムへのお誘い(再送)
「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」(10月21日、島根県松江市)
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【1】SGRAエッセイ#748

◆廣田千恵子「宇宙の一部としての私―これまでの研究と財団での経験を振り返りつつ―」

先日、ご縁があってインド占星術というものを体験した。日本では日常的にテレビや雑誌で「占い」を目にするが、あれらはいわゆるライターによって書かれていると聞いてから、私は占いを「人生に対する上手なアドバイス」程度に捉えていた。そんな私がどうしてわざわざ自分を見てもらおうと思ったのか。それには2つの理由がある。

ひとつは、インド占星術そのものに関心を抱いたからだ。インド占星術とは、日本で一般的な西洋占星術よりも遥か以前に誕生していた星を読む方法である。インド占星術師は見る相手の生まれた時間の分数と場所を正確に知ることによって、その人が誕生したときにその人を中心とした空にあった星を調べ、この宇宙におけるその人の位置や人生の巡り方を示してくれる。それはまるで、私という人間がこの世に誕生した瞬間を覗くことのように思えた。

そして、もうひとつの理由は、ここ十数年程で目まぐるしく変化した私の人生が、自分の意思というよりはまるで何かに導かれているように感じていたことによる。

私の研究テーマは、モンゴル国にて少数民族として暮らすカザフ人の装飾・手芸文化の動態の解明である。具体的には、カザフ人が天幕型住居の内部を主な装飾の対象としている点に着目し、人々がなぜ住居内部を熱心に飾ろうとするのか、どのように装飾技法を継承してきたか、あるいはどのように変化してきたのかといったことを明らかにしてきた。

しかし、私は元々モンゴル好きだったから大学でモンゴル語専攻を選択したわけでもないし、ましてやモンゴルに行くまでカザフという人々の存在を全く知らなかった。とくに手芸に詳しかったわけでも、長けているわけでもない。つまり、この研究テーマを選んだのは、言ってしまえば不思議な偶然が重なった結果である。それでも、偶然の出会いは、今の私の人生を大きく動かしている。

振り返ってみると、私はある時期を境に、何かに導かれていると感じることが多々あった。今の研究テーマに出会うまでは、自分が研究者を志すとは夢にも思っていなかった。そうして調査や研究を進めていく中で、うまくいくときもあれば、困難に直面することもあった。しかし、その都度ぼんやりと、それぞれの出来事には何か理由があるように感じていた。

たとえば、渥美国際交流財団に採用されたことも、そう感じる出来事の一つだった。修業年限を超過していた私ははなから奨学金を受給することは無理だと思っていた。しかし、友人から渥美国際交流財団の募集要項を紹介され、まるで導かれるように面接を受けた。そして、この財団の奨学生として採用されたとき、「神様」が私に今が博士論文を終わらせる時期であることを教えてくれたように感じた。

神様からのメッセージは財団で出逢った人たちとのかかわりの中にも隠れていた。渥美財団で出逢った人たちは、所属も研究テーマもバラバラで、何一つ共通点はないようにみえる。でも「何かを深く探求する」という点において、私たちは皆同じだ。だからこそ、渥美財団で同期や他の奨学生に会って、それぞれの話を聞く時間は私にとっては楽しく、刺激的で、多くの学びを得た。良い同期に恵まれたことは偶然であり、しかし必然だったのかもしれない。

こうした中、博士論文の執筆が落ち着いて次の進路を意識し始めた頃から、公私共に明確に新しい変化が起こりだした。まるで何か大きな目にみえないものの動きの中で自分が流されているような感覚を覚えた。これがいわゆる「転機」というものなのだろう。そんな中で出逢ったのが、インド占星術だった。

占星術師から渡されたのは、私が生まれた時間に生まれた場所の空にあった星の位置を記号で示した紙数枚と、私が生まれてから120歳を迎えるまでの年月日が星の巡りごとに細かく分けられ示されたカレンダーだった。そして、その年月日の羅列こそが、私を最も驚かせた。カレンダーで示された私が生まれた時からの星の巡りの中で、「転換期」として示されていた時期は、いずれも私が初めて調査地を訪れた年、博士課程に進学した年、そして博士論文を提出した時期と一致していたのだ。私は人よりも時間をかけて得た博士号だったけれど、もしかしたらこれが私の星の巡りに合った時間の使い方だったのではと思うと、ふと笑いがこぼれた。私という人間の人生も、実は大きな宇宙の動きの一部に位置づけられているかもしれないと思えたからだ。

インド占星術ではその後の自分の行動に対して何か具体的な指針が示されることはない。けれども、私には十分すぎる体験だった。博士論文の執筆を終えた今、私は遂に一人の「研究者」としての道を歩いていくことになる。それは決して楽な道ではないかもしれない。しかし、自分の存在にこの宇宙の中で何かの使命が存在しているとするならば、私はただ恐れることなく、自分ができることにひたすら邁進して歩み続けるしかないのだ。

<廣田千恵子(ひろた・ちえこ)HIROTA_Chieko>
2022年度渥美国際交流財団奨学生。2023年3月千葉大学博士後期課程修了。博士(学術)。2023年4月より日本学術振興会特別研究員PD(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)。専門は文化人類学、民族学、地域研究。主な調査対象は中央ユーラシアにおけるカザフの装飾文化動態および牧畜研究。

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【2】寄贈書紹介

SGRA会員で北海道大学特任講師の朴炫貞さんから共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。

◆奥本素子編『サイエンスコミュニケーションとアートを融合する』

先端的な科学技術が社会に実装される際に、その間をつなぐものがサイエンスコミュニケーションである。そこにアートを取り入れたとき、どのようなコミュニケーションが生まれるのか。本書ではアートとサイエンスコミュニケーションの交差の歴史を紹介しながら、アートを活用した活動のデザインについても触れていく。
執筆者:奥本素子、仲居怜美、朴炫貞、室井宏仁〈日本学術振興会助成刊行物〉

発行 ひつじ書房
定価5000円+税 A5
判上製カバー装 272頁
ISBN978-4-8234-1175-5
ブックデザイン 三好誠(ジャンボスペシャル)

詳細は下記リンクをご覧ください。
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1175-5.htm

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【3】第19回SGRAカフェ「国境を超える『遠距離ケア』」へのお誘い(最終案内)

仕事や子育てなど日々の暮らしを支えている要素は様々ですが、自分を育ててくれた家族の存在も年齢を重ねるごとに実感します。コロナのように渡航ができなくなればなおのこと、そばにいないでどこまで家族をケアできるのかが問題になります。今回のカフェでは、進学やキャリアで母国から遠く離れて暮らす世代が、親や家族をどうケアできるかを出発点として、グローバル化、ITの力、そして、家族の寄り添い方など多様な観点からいろいろな体験談を交えて議論します。
参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。

テーマ:「国境を超える『遠距離ケア』」
日 時:2023年10月14日(土)14:00~16:00
方 法:会場(渥美財団ホール)およびオンライン(Zoomミーティング)
言 語:日本語
主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会[SGRA]

※参加申込:下記リンクより参加登録をお願いします。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZEldeGvqDIoHtGhPStPxtyAE8hKB4YAyGdw#/registration

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

■フォーラムの趣旨

社会がグローバル化する中で世界を移動する人々の数も急激に増加している。国連の2013年の調査によると世界人口の約3.2%が移動人口に当たると言われている。日本に目を向けると、外国人移住者数も年々増加しており、滞在の長期化も進んでいる。出入国在留管理庁のデータによると、2022年6月末の在留外国人数は296万人で、前年末に比べ20万人(7.3%)も増加したことが分かった。

こうした変化の中、在日外国人移住者もまた新たな課題に直面している。在日外国人移住者は日本での生活基盤を自ら構築することはもちろん、母国に残る家族の健康、介護問題も考えざるをえない。こういった外国人ならではのライフワークバランスはキャリアにも影響する。またコロナ禍では、日本における外国人の(再)入国制限のため自由に日本と母国の間に行き来できず、帰国したくてもできなかった事例や、家族のために日本での生活を諦めて帰国を選択した者も見られる。

今回のカフェでは
・日本における国境を超える遠距離介護の実態と背景
・海外における事例と取組み
・課題の改善策
の3点について参加者と一緒に考え、ディスカッションを通して継続的に成長するグローバル社会に有意な示唆を得る事を目的とする。

■プログラム

14:00 開会挨拶
14:05 ケア状況や遠距離ケア問題について紹介
14:55 質疑応答
15:10 ディスカッションの準備(グループ分けと課題の提起)
15:15 グループディスカッション
15:35 ディスカッション内容の報告
15:55 閉会挨拶

※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/Cafe19_Program.pdf

※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/09/cage19_poster.jpg

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【4】第10回日台アジア未来フォーラム@島根へのお誘い(再送)

日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため参加ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。

テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」
日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分
会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室(島根県松江市朝日町478-18)
https://goo.gl/maps/2GB6p1bUwVAAkaiG8
言 語:日本語・中国語(同時通訳)

※参加申込(クリックして登録してください)
http://bit.ly/JTAFF10

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

◆開催趣旨

東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書『古事記』にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。

◆プログラム

講演1:「近代山陰の酒と漢詩」要木純一(島根大学法文学部教授)
講演2:「島根県の日本酒について」土佐典照(島根県産業技術センター)
講演3:「台湾紹興酒のお話」江銘峻(台湾煙酒株式会社)
全体質疑応答

※詳細は下記リンクをご参照ください。

第10回日台アジア未来フォーラム「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」へのお誘い

※ポスターは下記リンクからご覧いただけます。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/06/JTAFF10PosterJ_Lite.png

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