SGRAメールマガジン バックナンバー

KIM Woonghee “The 21st Japan-Korea Future Forum ‘Emerging Risk and Emerging Security’ Report”

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SGRAかわらばん970号(2023年5月25日)

【1】金雄煕「第21回日韓アジア未来フォーラム報告」
「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)―これからの政策への挑戦―」

【2】催事紹介:国際ソーシャルワーク研究セミナー(6月10日、オンライン)
「カナダにおける先住民ソーシャルワークの歴史的発展と進化する実践モデル」

【3】第71回SGRAフォーラムへのお誘い(6月10日、ハイブリッド)
「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」(再送)
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【1】金雄煕「第21回日韓アジア未来フォーラム報告」

長く続いたコロナ禍もようやく落ち着きはじめた2023年4月22日(土)、第21回日韓アジア未来フォーラムが渥美財団ホールにてハイブリッド・ウェビナー方式で開催された。2019年3月23日にソウルで第18回フォーラムが開催されて以来2回続けてオンライン開催だったが、今回は4年ぶりに日韓両国の研究者が顔を向き合わせて開催できるようになり、感無量の思いだ。

今回のテーマは「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)―これからの政策への挑戦―」。多岐にわたり複雑に絡み合う新しい安全保障のパラダイムを的確に捉えるためには、より精緻で包括的な分析やアプローチが必要であるという問題意識から、韓国における「エマージングセキュリティ「新興安全保障」」研究と日本における「経済安全保障」研究を事例として取り上げ、今日の安全保障論と政策開発の新たな争点と課題について考察した。

テーマ設定に際して以下のいきさつがある。渥美国際交流財団・SGRAはアジアの主要都市を巡回してアジア未来会議を開催しており、昨年は第6回を台湾で開催した。そこでコロナパンデミックに代表される安全保障への新しい脅威と新たな国際協力について、ソウル大学の金湘培(キム・サンベ)教授(韓国国際政治学会会長=当時)が非常に挑戦的で印象的な講演を行った。それが契機となり、さらに議論を深めるために今回のフォーラムを開催する運びとなった。

「エマージングセキュリティ」は新たな安全保障及びその創発メカニズムを指す新しい概念であり、韓国の学界や政界の一部では「新興安全保障」と呼んでいる。一般に新しい概念は受容と変形、または外部の衝撃とそれに伴う内部の対応から生まれるものだろうが、それにはさらに複雑な事情が介入してくる。新しい概念は、切迫した必要性がない限り導入されない。こうしたためか今回のテーマ名を決める際にも「新興安全保障」概念をめぐって相当の議論を重ね、最終的には「エマージングセキュリティ」にした。

フォーラムでは、韓国未来人力研究院の徐載鎭(ソ・ジェジン)院長による開会の挨拶に続き、韓国と日本から2名の専門家による基調講演が行われた。金湘培教授は「エマージングセキュリティ」創発の条件、そのメカニズムとプロセス、そして複合地政学との連携性、エマージング平和構想の必要性についての問題提起を中心に基調報告を行った。東京大学の鈴木一人教授は新たな安全保障の最前線に位置する経済安保について、地経学的観点から昨今の経済安保脅威の本質と日本の先導的対応について講演した。お二人の講演は問題認識が非常に似ていながらも、一方は理論的アプローチ、もう一方は具体的かつ政策的議論という違いがあったが、韓国と日本のそれぞれの現実に立脚した興味深い議論を展開した。

基調講演に続き、4人の討論者からコメントがあった。まず「エマージングセキュリティ」論や経済安保論の観点から見て、韓日関係の現在をどう評価できるのか、また韓日関係の未来ビジョンはどのように設計すべきかについて国民大学の李元徳(イ・ウォンドク)教授のコメントがあった。次に複合地政学への対応としての日韓協力とその可能性について慶應義塾大学の西野純也教授がオンラインでコメントした。公州大学の林恩廷(イム・ウンジョン)副教授は、韓国と日本の共通した挑戦とエマージング平和に向けた日韓協力の可能性の観点から興味深い議論を展開した。最後に釜慶大学の金崇培(キム・スンベ)助教授は複雑化する「安保」概念について、国内および国際関係におけるリベラリズム的思考と実践が持つ意味、そして韓日が協力可能な「安保」とは何かについて問題提起を行った。

振り返ってみると、鈴木一人教授を基調講演者として招待し、日本の経済安全保障に向けた政策的対応について具体的な話を聞くことができたことは、フォーラムをより豊かで有意義にする決め手の一つだった。鈴木教授を招待するのにご尽力くださった渥美財団の渥美直紀理事長、船橋洋一評議員に深く感謝したい。そして当日に台湾から会場に直行する厳しい日程を快く受諾し、万が一に備えてオンライン講演のための30分の録画まで準備してくださった鈴木教授にも感謝の言葉を申し上げざるを得ない。

素晴らしい総括を務めてくださった平川均先生、会議のために苦労を惜しまなかった渥美国際交流財団スタッフの皆さん、同時通訳のイ・ヘリさん、アン・ヨンヒさん、発表資料の翻訳を担当してくださった尹在彦(ユン・ジェオン)さん、Q&Aを翻訳してくださったノ・ジュウンさん、そして最後にコロナ禍の中でもフォーラムが持続できるように後援を惜しまなかった今西淳子常務理事と李鎮奎(リ・ジンギュ)教授に心より感謝申し上げたい。

忘れてはいけないことがもう一つ。帰国日の日曜朝、一人のパスポートがないことに気づき、大騒ぎとなった。フォーラム終了後に銀座の飲食店で落としたのではないかと思われるが、探す時間も方法もなく、韓国大使館領事部に緊急連絡し、臨時パスポートを作っていただき、予定通りの帰国便に乗ることができた。一時はパニックになったが、スリル満点だった。遺失物届け出で日本の交番にも大変お世話になった。この場を借りて感謝申し上げたい。

写真アルバムを下記リンクよりご覧ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/JKAFF21PhotosLite.pdf

アンケート集計結果を下記リンクよりご覧ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/JKAFF21Feedback.pdf

<金雄熙(キム・ウンヒ)KIM_Woonghee>
仁荷大学国際通商学部教授、副学長。ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、博士号取得。仁荷大学国際通商学部専任講師、副教授、教授を経て2022年9月より副学長。最近は国際開発協力、地域貿易協定に興味をもっており、東アジアにおける地域協力と統合をめぐる日・米と中国の競争と協力について研究を進めている。1996年度渥美国際交流財団奨学生。

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【2】催事紹介

SGRA会員で日本社会事業大学准教授のヴィラーグ ヴィクトルさんから研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申し込んでください。

◆国際ソーシャルワーク研究セミナー
「カナダにおける先住民ソーシャルワークの歴史的発展と進化する実践モデル―社会政策と先住民固有の知に基づく精神保健福祉アプローチに焦点を当てて」

日 時:2023年6月10日(土)13:00~15:30(オンライン)
言 語:日英同時通訳付き

【日本語チラシ】
https://www.jsssw.org/wp/wp-content/uploads/2023/05/International-Social-Work-Research-Seminar-2023-jp.pdf

【英語チラシ】
https://www.jsssw.org/wp/wp-content/uploads/2023/05/International-Social-Work-Research-Seminar-2023-en.pdf

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【3】第71回SGRAフォーラム「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」へのお誘い(再送)

下記の通り第71回SGRAフォーラムをハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。オンラインはカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。

テーマ:「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」
日 時:2023年6月10 日(土)午後2時~午後5時(日本時間)
方 法:会場参加(先着20名)とオンライン参加(Zoomウェビナーによる)のハイブリット開催
会 場:渥美国際交流財団ホール(プログラム参照)
言 語:日本語

※参加申込(クリックして登録してください)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_R5tHvBp_R8qo6r-uEIWyAQ#/registration

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

■フォーラムの趣旨

ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土にはあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。ほぼ同時期の1861年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し1870年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていた。
本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合いたい。

■プログラム

◆講演1「『緑のウクライナ』という特別な空間」
オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所)

1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「グリーンウェッジ」(森が多いので緑、ウェッジは農業ができるところ)と呼ばれていた地域に「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東にやっと定着した時、その政権の下に住みたくない100万人のウクライナの人はハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていたが、「緑のウクライナ」の夢を捨てられなかった。ロシア帝国でマイノリティ―だったウクライナ人は、極東に開拓民として移動し、初めていろいろな民族に対してマジョリティ―になり、初めて多くの今まで知らなった民族や文化に触れ合うことになった。新たなアイデアもたくさん生まれ、ウクライナのアイデンティティーを実感し、自分の国を作ろうとした。極東開発のプロセスで農民以外に、知識人の技師や鉄道関係者もウクライナからやってきた。第一次世界大戦と共に軍人の数も増えた。活発なボランティア活動のおかげで極東満州では20以上のウクライナ語のプリントメディアが出版された。
本フォーラムでは、そのメディアを起こした人達を紹介し、そこで想像されていた「緑のウクライナ」という特別な空間について考えたい。長らく忘れられていた人々―多民族国家の夢を見て「極東のウクライナ人」という新聞を自費出版していた技師のドミトロー・ボロウィックや「満州通信」の編集者だったイワン・スウィットの姿を見ながら「緑のウクライナ」について検討する。

◆講演2「マンチュリア(満洲)における民族の交錯」
塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部)

マンチュリア(満洲)の範囲は時代によって一定ではなく可変的であった。また、そこに住む人々の移動も激しく、日本のように単一的な人々が長く暮らした時期は少なかった。領域の範囲が変動したこと、住民の移動が激しかった地域の歴史は、民族自決による国民国家の形成という過程を主軸に理解することは難しい。
通説的な理解は、マンチュリアはもともと人口稀薄な場所(「無主の地」とも称された)であったが、中国人の移住が20世紀以降増加し、中華人民共和国の東北三省となり現在に至っているというものである。かかる中華人民共和国の一地域へと収斂されていく方向性、言い換えるならば最終的にマンチュリアは中国に統合され、中国人の地になるという理解は、マンチュリアの多様性を取捨している。中国への統合という側面だけではなく、マンチュリアを主体にした歴史理解を本報告は追究している。こうした議論の方向性は、現在世界各国で生じている多くの紛争の基底にある、同質的な国民国家を形成することが難しい地域の歴史的要因の認識につながる。

◆話題提供1「中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に」
ナヒヤ(内蒙古大学蒙古歴史学系)

ハルビン、長春、瀋陽を中心都市とした20世紀前半における中国の東北地域でモンゴル族は文化、教育、出版をはじめとする様々な活動を行なってきた。しかし、自力では強力な活動を展開するのが難しく、各地方政権と取引を行わざるを得なかった。張学良を理事長、メルセを校長とする東北蒙旗師範学校はその典型的な例である。

◆話題提供2「『マンチュリア』に行こう!」
グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院)

20世紀前半のマンチュリア(満洲)には、ロシア・「極東」・モンゴリア、中国(特に華北地方)・朝鮮半島・日本から、さまざまな人々が移住してきた。また、鉄道の発展によって国境を越える旅も盛んに行なった。本コメントは、視覚資料、小説、紀行文などを取り上げ、「マンチュリア」の日常生活空間の多様性を描き出す試みである。また、この「越境する現場」の多様的な空間の視覚表象は、日本帝国の拡張(のちに満洲国の成立)によって取捨され、そして単一化されつつあったことを明らかにしたい。

◆自由討論
司会/モデレーター:マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学)

※プログラムの詳細は下記リンクからご覧ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAForam71Program.pdf

※ポスターは下記リンクからご覧ください。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/05/SGRAFo71PosterLITE3.jpg

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