SGRAメールマガジン バックナンバー

TANG Rui “My Job Hunting Experience”

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SGRAかわらばん857号(2021年2月11日)

【1】エッセイ:唐睿「私の就職活動」

【2】催事紹介(参加者募集):シンポジウム「女性は世界を変える」(2月20日、オンライン)

【3】催事紹介(論文募集):「ガバナンスと開発」国際会議(論文募集締切2月26日)
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【1】SGRAエッセイ#660

◆唐睿「私の就職活動」

2019年4月、私は博士課程の最後の1年を迎えました。博士論文の審査に向けて準備を始めるとともに、卒業後のことも考えなければならなくなりました。それまではまじめに勉強と研究をすれば良かったのですが、今後のことについて考えたことが少なく、明確な目標も持っていなかったため、迷っていました。博士を取得した学生にとっては卒業後大学で「ポスドク」をやって、数年後助教か講師になって、一生懸命研究成果を上げて教授への昇進に向けて頑張るというシナリオが一番有り得そうな道です。20年間頑張れば、私もいつか教授になれるかもしれません。

しかし、現実問題として、今の中国も日本も大学教員採用の競争は非常に激しくなっています。特に中国の大学で理工学系の教員職に応募する場合『Nature』『Science』系の論文を持っていないと、良い大学で助教以上の職に採用されるのはとても難しいです。研究は非常に面白いことですが、科研費が足りないことと、テニュア(終身雇用)取得まで定期的に論文を出さないと首になることを常に心配しながら研究するのは好きではないため、民間企業に就職することを決めました。

しかし、どの国で就職するか、どのような企業に応募するかについて新たな悩みが出てきました。国に関して特にこだわりはありませんが、どの国の企業に応募してもそれぞれの問題があります。日本では、私の研究テーマ「光集積回路」に関連する業務がある企業は非常に少ないです。そして、多くの日本企業はエントリーの締め切りが3月中で、2019年3月末に米国留学を終えて日本に帰ってきた私は、すでに日本での就職活動のタイミングを逃していました。残る選択肢は博士課程の学生を通年採用しているわずか一部の企業だけでした。

米国では研究テーマと関連性の高い企業が多いですが、私は米国の大学の学位を持っていないため、卒業後すぐには米国で勤務できません。就労ビザを取れない可能性も高いし、取れたとしても勤務が始まるまで時間がかかるため、面接のチャンスももらえない可能性が高いです。

中国に帰る選択肢もありますが、正直近年の中国の通信とIT企業にはあまり就職したくないです。中国の通信とIT業界にはブラック企業が非常に多く、社会問題になっているからです。2019年に中国のIT企業の社員から「996,ICU」という有名な言葉が作られました。朝9時から夜9時まで週6日の労働を続けていくと、いつか病院の集中治療室(ICU)に運ばれるという意味です。ほとんどの中国IT企業では、こういった996労働が暗黙のルールになっています。明らかに中国の労働法に違反するものですが、政府が積極的に企業の違法行為を取り締まる気配は見られません。その理由は、中国の経済成長はITと通信企業に大きく依存し、残業を制限すると中国の経済成長に大きく影響するからだと思っています。

さまざまな問題があると言っても行動しなければならないので、とりあえず米国と中国、日本の企業にたくさん応募しました。最初に応募したのはたまたま見つけたAIチップを開発している日本のベンチャー企業です。やっていることが面白く、持っている技術も凄そうなので、ホームページに新卒の募集が出されていないにも関わらず、むりやりに応募して数回の面接を受けてから内定をもらいました。中国の企業には5社応募し、3社から内定をもらいました。一番驚いたのは、博士過程の研究と関連性の高い米国企業に10社以上応募しましたが、ほとんど電話面接の機会も与えてくれなかったことです。唯一面接のチャンスと内定をくれたのは、米国留学時にお世話になった先生がコンサルタントとして勤めているベンチャー企業でした。米国の学位を持っていない人にとって、就職活動をする際にコネクションがどれほど大事かを実感しました。

内定の中には、大手企業とベンチャー企業が両方ありました。大手企業に入れば安定した生活が過ごせるかもしれませんが、私は安定した生活よりも仕事のやりがいと面白さを重視しています。給料なども総合的に考えた結果、やはり量子コンピュータを開発している米国のベンチャー企業が一番魅力的だと思い、その企業の内定を受諾しました。

私の就職活動は終わりましたが、人生についていろいろ考えさせられました。もちろん不安はありますが、今後は新しい目標を立てて頑張っていきたいと思います。

追記:
残念ながら米国就労ビザの抽選に落ちました。2020年に米国に行くのは無理なので、とりあえず中国に帰って就職しました。深せんにあるディスプレイメーカーです。6月末に中国に帰る予定でしたが、コロナウイルス感染症の防疫のため予約した便が2回キャンセルされて、8月9日にやっと帰国できました。専用ホテルで2週間の隔離と帰省を経て、9月から深せんで仕事を始めました。ちょうど今「996」の部署で研修しているので、その大変さを痛感しています。サステナブルな働き方ではないので、この部署は毎年仕事を辞める人がたくさんいます。中国でも働き方改革がいつか必須となると考えています。

<唐睿(たん・るい)TANG Rui>
渥美国際交流財団2019年度奨学生。中国安徽省出身。2013年南京航空航天大学情報工学専攻学士課程卒業、2015年(日本)東北大学通信工学専攻修士課程修了、2020年東京大学電気系工学専攻博士課程修了。現在中国深せん市の企業でディスプレイの開発に携わる。

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【2】催事紹介(参加者募集):第4回シンポジウム「女性は世界を変える」

SGRA会員で昭和女子大学准教授のシム・チュンキャットさんから、非常にタイムリーなシンポジウムの案内をいただきましたのでご紹介します。シムさんが司会を務めるそうです。参加ご希望の方は直接お申込みください。

第4回シンポジウム「女性は世界を変える」
◆テーマ:「女性の高等教育と女子大学の将来」
開催日時:2月20日(土)16:00~17:30
開催方法:オンライン
言語:英語
共催:昭和女子大学:女性文化研究所、国際交流センター、現代ビジネス研究所
申込:https://forms.gle/hbmNSvxPzaarMeqM9

プログラム:
・ファシリテーター
昭和女子大学 坂東眞理子理事長・総長
・パネリスト
ケンブリッジ大学ニューナムカレッジ アリソン・ローズ学長
誠信女子大学校 楊普景総長
駐日ラトビア大使館 ダツェ・トレイヤ=マスィ特命全権大使

詳細は下記リンクをご覧ください。
https://univ.swu.ac.jp/news/プレスリリース/2021/02/08/41780/

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【3】催事紹介(論文募集):第2回「ガバナンスと開発」国際会議

SGRA会員でフィリピン大学ロスバニョス校准教授のフェルディナンド・マキトさんより、シンポジウムの論文・パネル提案の募集のお知らせがありましたのでご紹介します。ご興味のある方は直接応募してください。

第2回「ガバナンスと開発」国際会議
◆テーマ:「パンデミック後の共同社会におけるガバナンスと開発」
開催日時:2021年3月23日(火)~25日(木)
開催方法:オンライン
言語:英語
主催:フィリピン大学ロスバニョス校公共政策・開発大学院

※論文・パネルの提案を募集中。締め切りは2月26日(金)です。
https://www.facebook.com/uplb.cpaf/posts/3119307274962900

国際会議の詳細は下記リンクをご覧ください。
http://bit.ly/icgd2poster

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