SGRAメールマガジン バックナンバー

JIN Hongyuan “From Academia to Industry”

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SGRAかわらばん856号(2021年2月4日)

【1】エッセイ:金弘渊「アカデミアからインダストリーへ」

【2】国史対話メルマガ#26を配信:塩出浩之「国籍はいかに人の国際移動を左右するか」
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【1】SGRAエッセイ#659

◆金弘渊「アカデミアからインダストリーへ」

私は博士課程で基礎生物学の研究をしていた。主にチョウの色素の合成と紋様形成のメカニズムについて、研究生から修士、さらに博士まで6年間研究してきた。博士2年生の頃、将来の進路を真剣に考えはじめた。単純に研究室の先輩たちの進路を参考にしてみると、自分の業績で大学に残れるものであるかを懸念し始めた。研究室で1日を過ごして疲れてようやく家についてから、もし、自分がこのまま社会に出て仕事に就くと、何かできるだろうかと自分に聞いてみた。

答えはすぐには出てこなかった。そもそも社会経験が少ない院生の自分に対し、社会はどのような人材を求めているかがわからなかった。製造販売業のような自分の日常生活に近い業界は、実際に商品を使用したり、売買をしたりするので、製品を設計、製造、販売する人が必要であることをイメージしやすいが、モノを作らない業界(例えばIT、保険、コンサルティングなど)についてはよく知らなかった。

自己勉強のつもりもあるので、「業界地図」などの就職ガイドを購読し、ネットで新卒向けの業界説明サイトから、まず各業界に関わる基礎知識と特徴及び規模などを調査した。その結果、自分の専門にぴったり合う業界はないけれど、逆に色々試すことができると考えた。

2ヶ月後、当時の考えは甘かったと振り返った。その2ヶ月間、新卒で就職する学部生たちと一緒にリクルートスーツを着て、企業の説明会に参加するために東京に行って、履歴書の提出とウェブテストを受けて面接まで行った。一般的な企業においては、博士の学生は必要とされていないと感じた。自分が考えた理由として、その1つは新卒の博士は年齢的に30歳に近く、かつ現場の実務経験がないから、実務的に働けるまでトレーニングに必要なコストが高いということ。

例えば、商品の研究開発職に応募した同じ30代の候補者が3人いたとして、Aさんは大卒で8年の業界経験と現場での開発経験があり、課長代理と同等の管理能力が認められる;Bさんは修士卒で社会人歴6年、その内4年は日本の本社で勤務した後、2年間ドイツの支社に出向し、ビジネスレベルの英語力がある;Cさんは博士の新卒で、在学期間の成績が優秀で、良い論文も数本発表した。もし自分が人事担当だったら、短期間で商品の研究開発をするため、候補者が会社に入ってから、会社に価値が提供できるようになるまでの時間を計算し、又その期間内に生じる全ての人件費(給料、トレーニング費)を合算し、即戦力があるAかBのどちらかを選ぶと思う。社会に出たら、仕事の経験が学歴より重要だと認識した。

もちろん大卒の学生と一緒に入社し同じ仕事をすることは、自分にとっても会社にとってももったいないと考えて、新卒博士向けの職務にもたくさん応募した。そもそも博士向けのポジションは少なかったから、自分の研究から離れる業界にも応募してみた。企業は応募者の過去の研究業績より研究分野を重視すると感じた。特に自分の研究は生物の基礎研究で、医学的若しくは薬学的な研究ではなく、会社にとって最優先の人選ではないと言われた。

自分では、生物研究と医学的な基礎研究は、研究対象の違いに過ぎないと認識しており、数ヶ月の勉強さえあれば、同様の仕事ができない訳がないと考えていた。でもそれは違うらしくて、面接がうまくいったにもかかわらず、最終面接に落ちたケースは少なくなかった。その理由はいまだにわかってない。就活は面接が終わった時点で会社との連絡が不可能になり、フィードバックなどがほとんどもらえない状態だ。自分が後から考えた理由の1つは、日本の企業は、例えば海外の市場の進出のためというような特別な戦略上の必要がなければ、外国人の社員は特に必要ないということだ。それ以外は多分、「ご縁」しか考えられない。

1年間で2回も就職活動を経験し疲れた。最後の結論としては、特に国全体の経済が厳しい時には、求職者が受動的に会社側の要望に応じることが多いということだった。去年の年末(編者注:2019年末)に新しい仕事に就くことできた。それはコロナ禍で就職が大変になる前の不幸中の幸いだった。

<金弘渊(きん・こうえん)JIN_Hongyuan>
渥美国際財団2019年度奨学生。中国杭州出身。2019年東京大学大学院新領域創成科学研究科で先端生命科学を専攻し博士号(生命科学)を取得。専門は進化発生学、遺伝学。現在大阪で医薬品の臨床開発に携わる。

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【2】「国史対話」メールマガジン第26号を配信

◆塩出 浩之「国籍はいかに人の国際移動を左右するか」

私は学生時代から最近まで、近代のアジア太平洋地域における日本人移民の歴史について研究してきた。その私にとって、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが人の国際移動に全世界的な遮断をもたらしたことは、虚を衝かれたような衝撃であった。

確かに第二次世界大戦直後のように、人の国際移動が極度に制限された時期はある。日本の敗北に伴い、旧植民地にいた日本人は日本に強制送還され、日本からの出国は主権回復まで不可能となった。しかし、そのように人の移動が制限される事態は、このグローバル化の時代には起こらないと思い込んでいたのである。

私は時間が経つにつれて、今日の事態は、第二次世界大戦後の状況と同じように、近代世界におけるグローバルな人の移動の歴史の一部として説明されるべきだと考えるようになった。しかし、人の国際移動こそがコロナ・パンデミックをもたらした要因であり、それゆえに全世界で遮断されたことについては、いまさら論ずる必要はない。

ここで考えたいのは、人の国際移動において国籍がもつ意味である。コロナ・パンデミックのもと、世界各国は国境管理を著しく厳格化したが、共通して顕著にみられたのは、自国民と外国人との処遇の違いであった。自国民に関しては帰国を原則的に認めた上で、帰国後の防疫策が課題となった一方、外国人に関しては逆に入国の禁止・制限が基本とされ、事情に応じて入国を許可するという方針が採られたのである。

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