SGRAメールマガジン バックナンバー

XIE Zhihai “Go To School rather than Go To Travel”

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SGRAかわらばん850号(2020年12月17日)

【1】エッセイ:謝志海「GoToトラベルよりもGoToスクール」

【2】寄贈書紹介:田尾陽一『飯舘村からの挑戦―自然との共生をめざして』

【3】「国史たちの対話の可能性」オンライン会議へのお誘い(再送)
「19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」(2021年1月9日)
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【1】SGRAエッセイ#655

◆謝志海「GoToトラベルよりもGoToスクール」

少し前のことだが、大学1年生のお子さんを持つ母親が書いたと思われるブログに遭遇した。全く知らない方のある日のつぶやきだが、私の心に重くのしかかり色々と考えることになってしまった。その大学生の娘さんはこの春に入学して、まだ一度もキャンパスの門をくぐったことがないという。そしてそのまま後期が始まり、大学に行かないことが当たり前のように過ごす娘。そんな中、家に届いたのは来年度の学費の振込票だった。お母さんは「GoToトラベルもいいけど、GoToスクールもなんとかしてほしいものだ」と締めくくっていた。

きっとこれが学校に通えないお子さんを持つ親のリアルな叫びなのだろう。私はなんとも言えない苦い気持ちになった。以前「かわらばん」で、「大学はなにがあっても学生に学びの機会を提供できる場でなければいけない」と書いたが、去年の今頃と今を比べて、学生の勉強時間は減っていないかと心配になる。全国の大学教員は、講義を前もって録画してシステムにアップロードするなど、むしろ去年より授業の準備に手間がかかっている方も多いだろう。しかし保護者をはじめとする、学費を払う者と、学ぶ学生にそれが伝わらなければ意味がない。オンライン授業の早期普及は助かるが、それでも限界がある。早稲田大学の田中愛治総長が2020年10月13日の「週刊エコノミスト」で「社会が求めている人材はたくましい知性としなやかな感性を兼ね備えた人物だ。たくましい知性はオンラインで7割ぐらい身につけることができるが、しなやかな感性はオンラインでは無理だ」と語っていた。

登校できないこと、勉強時間の損失は大学生に限ったことではない。義務教育の学生、高校生、そして世界中全ての学生にとって、今年の学習環境と勉強時間は憂慮される。英エコノミスト誌(2020年7月18日)でも、新型コロナウイルスによって子どもたちが学校に通えないことは、世界中の生徒に大きなダメージを生むことを憂いていた。例えば、(家庭で)虐待を被る可能性があること、栄養不良、心の健康の低下などに陥りやすいと警笛を鳴らしている。また学習機会の損失が未来の経済にどのように影響するかも指摘しており、同記事では「世界銀行によると(コロナウイルスの影響で)学校が5ヶ月間閉鎖した場合、生徒たちの生涯収入は現在の額で10兆ドルの減少になるだろう」と予測している。

この世界銀行の試算を聞いて真っ先に思い出されるのが、冒頭のお母さんのブログの最後「GoToトラベルよりもGoToスクール」だ。目先の経済をまかなうより、将来を見越して持続可能な経済政策を打ち立てなければならない。特に日本は少子化が止まらないというのに。今いる子どもたちの将来の年収が減ったら、誰でも容易にいくつもの心配事が浮かぶだろう。今年の春先、「GoToトラベル」なんて存在していなかった。それがいまでは、日本国民でこの言葉を知らない人は皆無に等しい。ならば同じぐらいのスピードで全ての学生の学びの機会が追いつく施策も作れるはずだ。

もちろん、文部科学省が大学生の支援策として学生支援緊急給付金を交付したり、大学が個別に支援金を配布したりしている。例えば東京大学と早稲田大学は、経済的に困窮した学生に対し、前者は1人5万円、後者は10万円を支給し学生の退学を防ごうとしている。経済的な理由で大学を離れるのを防ぐのは大事だが、登校する機会が減り、オンライン授業ばかりになっても、学生たちが退屈することのない授業やプログラムを提供し、このコロナ禍でも自身の大学を選んでよかったと思えれば、「退学」の2文字はよぎらないはずだ。これもまた経済の話になるが、大学卒と高校卒の年収は100万円ぐらい違うという調査もある。そういうことを考慮し、大学生が金銭を理由に退学して大学を去ったとしても、休学システムを寛容化させる、もしくは復学のチャンスを与えてあげる対策も必要であろう。

GoToトラベルと同じぐらいのスピードと熱量で学生の学びを停滞させない政策を作るべきだ。厳しい冬の到来は目の前だが、この冬コロナが増えようが減ろうが、来年度は2019年に戻るか追い越すぐらい、学校に通う全ての子どもたちに学びのチャンスが到来することを願うばかりだ。これからも身を引き締めて、教育現場の活性化に努めたい。

<謝志海(しゃ・しかい)XIE_Zhihai>
共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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【2】寄贈書紹介

残念ながら今年は中止になりましたが、毎年SGRAが開催している「ふくしまスタディツアー」を共催していただいている「ふくしま再生の会」の田尾陽一理事長より、近刊書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。SGRAかわらばんでご紹介したSGRA会員による報告文も掲載されています。

◆田尾陽一『飯舘村からの挑戦―自然との共生をめざして』

学生時代に東大大学院で高エネルギー加速器物理学を研究していた著者は、福島第一原発事故に際して「被災地の放射線量はどうなっているのか」と疑問をもち、福島県飯舘村の農民と協働して再生への活動を始めた。ボランティアと研究者を結集して「ふくしま再生の会」を結成し、飯舘村で自然と人間の共生を訴える著者が、震災から十年の節目にこれまでの活動を振り返り、都市から地方への流れが進むポストコロナの時代に不可欠な、自然との共生理念とその実践の道を提示する。

発行:筑摩書房
シリーズ:ちくま新書
定価:本体940円+税
刊行日: 2020/12/07
判型:新書判 ページ数:320
ISBN:978-4-480-07363-1
JANコード:9784480073631

詳細は、下記リンクよりご覧ください。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073631/

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【3】オンライン会議「19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」へのお誘い(再送)

下記の通り第5回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。

◆第65回SGRAフォーラム/第5回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
テーマ:「19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」
日 時:2021年1月9 日(土)午後2時~5時15分(日本時間)
方 法:Zoom_Webinarによる
言 語:日中韓3言語同時通訳付き
主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)

※参加申込(下記リンクより参加登録をお願いします)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_qneDSQLgS4GWpaC1tLzuoQ

お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)

■概要

渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)では、2016年以来「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を4回実施してきたが、今回は初めて試みとしてオンラインで半日のプログラムを開催する。今回のフォーラムでは、3カ国の歴史研究者が近代史の中の感染症についての研究を発表し、東アジア地域の交流史としての可能性を議論する。
なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメルマガ等で広く社会に発信する。

■テーマ「19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」

東アジア地域で持続的に続く交流の歴史の中で、感染症の発生と流行が日中韓3国に及ぼした影響と社会的対応の様相を検討する。感染症はただ一国にとどまらず、頻繁に往来した商人たちや使節などに因って拡散され、大きな人的被害を招いた。感染症が流行する中、その被害を減らすために、各国なりに様々な対処方法を模索した。これを通じて感染症に対する治療方法のような医学知識の共有や防疫のための取り締まり規則の制定などが行われた。この問題について各国がどのように認識し、如何に対応策を用意したかを検証し、さらに各国の相互協力とその限界について考える。

■プログラム

第1セッション(14:00-15:40) 座長:村和明(東京大学)

【歓迎挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団)
【開会挨拶】趙珖(韓国国史編纂委員会)

【発  表】
韓国:朴漢珉(東国大学)「開港期朝鮮におけるコレラ流行と開港場検疫」
日本:市川智生(沖縄国際大学)「19世紀後半日本における感染症対策と開港場」
中国:余新忠(南開大学)「中国防疫メカニズムの近代的発展と性格」

【指定討論】
韓国:金賢善(明知大学)
日本:塩出浩之(京都大学)
中国:秦方(首都師範大学)

第2セッション(15:45-17:15) 座長:南基正(ソウル大学)

【論点整理】劉傑(早稲田大学)
【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者)
・韓国:
李命美(慶尚大学)、金甫桄(嘉泉大学)、許泰玖(カトリック大学)、崔ジョヒ(徳成女子大学)、韓承勲(韓国芸術総合学校)、韓成敏(大田大学)、金キョンテ(全南大学)
・日本:
向正樹(同志社大学)、四日市康博(立教大学)、八百啓介(北九州市立大学)、大川真(中央大学)、大久保健晴(慶応義塾大学)、青山治世(亜細亜大学)、平山昇(神奈川大学)
・中国:
鄭潔西(寧波大学)、孫衛国(南開大学)、孫青(復旦大学)、彭浩(大阪市立大学)、李恩民(桜美林大学)
・ゲスト:
明石康(元国連事務次長)、楊彪(華東師範大学)、王文隆(南開大学)、段瑞聡(慶応義塾大学)
・オブザーバー:
葛兆光(復旦大学)、祁美琴(中国人民大学)

【総  括】宋志勇(南開大学)
【閉会挨拶】三谷博(跡見学園女子大学)

※同時通訳
韓国語⇔日本語:李ヘリ(韓国外国語大学)、安ヨンヒ(韓国外国語大学)
日本語⇔中国語:丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学)
中国語⇔韓国語:金丹実(フリーランス)、朴賢(京都大学)

※プログラム・会議資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。
・プロジェクト概要
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/J_Kokushi4_ProjectPlan.pdf
・プロジェクト資料

第5回「国史たちの対話」オンライン会議資料


・チラシ
http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/J-Kokushi5-Poster-light.jpg

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★☆★お知らせ
◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応)
SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。
https://kokushinewsletter.tumblr.com/

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