SGRAメールマガジン バックナンバー

XIE Zhihai “Value of Information Sharing in the Coronavirus Era”

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SGRAかわらばん830号(2020年7月30日)
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SGRAエッセイ#641

◆謝志海「コロナ時代における情報共有の価値」

2020年が始まったかと思ったら、新型コロナウイルスに遭遇。中国に住む人以外の全ての人がこのウイルス感染を対岸の火事だと思えた時間は非常に短かった。店頭からマスクと消毒液が消え、学校が閉鎖され、都会にある企業に勤める人から、自宅勤務へと速やかにシフトした。そしてこの自粛生活、いつまで続くのだろうと思い始めた矢先、徐々に経済再開と職場へ復帰、お店は営業を復活、学校も段階的に授業を再開した。これは日本で暮らす私のざっくりとした肌感覚で語っている時間の流れだが、他国だと、隔離生活や自粛生活は日本より早く始まっていたところもあるし、現在も日々新規感染者数が右肩上がりの国もある。しかし最近の注目は経済活動を再開させた国々の状況で、どこでディズニーランドが再開したなど、ちょっと華やかなニュースも飛び込んでくるようになった。

だが忘れてはいけない。どの国もまだ収束したとは言えない段階にいて、コロナ収束の見本となれる国はまだ存在しない。それどころか、経済や活動を再開した国で、また感染者がまとまった数が出てしまい、その周辺地域は再び休校になるなど、緊張状態に戻るという状況も多い。我々が出来ることは2つある。1つは個人がまだまだ感染に気をつけながら暮らすこと。これは他者への優しさとなる。そしてもう1つの大事なことは、もしコロナの第2波が来る前にひとまず感染をねじ伏せることができた国があれば、その国から是非とも感染者の多い国を助けてあげてほしい。今は地球という1つの国として捉えるべきだ。移動に制限がかかっている分、我々はネット上ですぐに繋がれることを再認識できた。そしてネット上に国境はない。

世界がナショナリズムに傾倒するさなかに、彗星の如く現れてしまった新型コロナウイルス。我々は、このままやりたいように暮らしてはいけないんだよ、と教えてくれたのかもしれない。ならば、我々は現在唯一無二の共通の敵、コロナに勝たなければならない。自国ファーストとたかをくくっている国から負けを見るかもしれない、といったこれまでとは違う物の見方をするチャンスと捉えよう。

コロナ後の中国は、以前と様相が違う。国の狙いが分かりにくくなってしまった。まずコロナを機に、マスクを寄付するなどといった発展途上国への支援を積極的に展開し、一方で南シナ海への進出も積極的である。そしてWHOとは仲が良いようだが、アメリカには敵意を剥き出しにされている。しかし、今回評価されるべき点もいくつかはある。

例えば、武漢で発生した新型コロナウイルス、今回の中国はこのウイルスのゲノム情報を速やかに世界に公表した。それを受けて、各国の医療施設でPCR検査が可能となった。これは2003年のSARSの初動の遅れによる蔓延を省みてのことだったと言われているので、良い点と言えるだろう。実際、国連機関もこれは評価している。

もう1つは、武漢の都市丸ごと封鎖。湖北省最大の市、武漢市の人口は1100万人。これだけの人を自宅から出れないようにし、交通機関、道路は封鎖して外界から隔離してしまった。その人っ子一人いない町の映像が世界に配信された。かなりインパクトがあっただろう、「ここまでしないといけないウイルス?」と。実際のところ、その後すぐ世界は武漢と似たような対策をとり、在宅命令や飛行機をはじめとする公共交通機関を止める、または減便した。感染しなかった武漢の市民には申し訳ないが、中国が都市封鎖に踏み切らなければ、他国の政府は、都市封鎖や自粛という絵が描けなかったのではないだろうか?

今もなお新規感染者は出ている。いち早く、感染者が減り、経済を再開させた韓国だったが、たちまちいくつかの場所でクラスターが発生してしまった。北京も同様で、自粛解除直後にクラスターが発生し、学校はまた休校になった。そんな例を知りつつ経済を段階的に再開させた日本も、ここへきて連日まとまった感染者が見られる。アメリカも同様で、レストランやバーの店内で飲食ができるようになったのは束の間、感染者がいっこうに減らないことで、またデリバリーか持ち帰りのみになり、公園やビーチは立入禁止となった(感染の多い州のケース)。

ここで私が注目したいのは、各国が映像と共に現状を見せ合っていること。そんなこと前からやっていたじゃないか、と思う人も多いだろう。しかし国の移動に制限がかかっている今、これはとても尊い情報共有だ。もし韓国が、せっかく先陣切って経済再開したのに恥ずかしいと、ナイトクラブでのクラスターを隠していたら?中国が北京の生鮮市場のクラスターだけをこっそり隠したら?国が隠しても、インスタグラムやTik_Tokで市民がリアルに写真や動画を上げられる時代だから大丈夫と言う人もいるだろう。けれど、物事をそう捉えずに、この未曾有の状況下、共有できた情報に各国が賛辞を送り合うぐらいのことができたらいいのにと思う。現状だけに限らず医療情報、統計などを各国がしっかり集め、他国と共有することだって立派な外交と言えるのではないだろうか。なぜなら今、コロナは国際社会の共通の課題だからだ。引き続き中国がオープンにコロナと向き合い、医療、科学の情報共有、例えばワクチン研究の情報共有などを率先しておこなえば、これまでと違い、いい意味で世界での存在感が増し、より賞賛される外交が出来るのではないだろうか。

<謝志海(しゃ・しかい)XIE_Zhihai>
共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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