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Choi Kyu-jin “Problems of Societies Found from Dealing with COVID-19”

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SGRAかわらばん823号(2020年6月11日)
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SGRAエッセイ#635

◆崔圭鎮「コロナウイルスへの対応から明らかになった社会の問題点―医療の空白と人権問題―」

(「2017年韓国研究財団」の支援を受け作成(NRF-2017R1C1B5075765)。原文は韓国語。長谷川さおり訳)

◇はじめに

現時点では、どの国にも新型コロナウイルス(以下コロナウイルス)対策の妙策があるようには見えない。スウェーデンの「集団免疫」や、初期対応の遅れが多数の死亡者を出したイタリアやイギリスなどの事例を見ても分かるように、感染の疑いがある人々を迅速に検査し、感染後は速やかに適切な対応をとること(行政力を動員した接触者の把握と隔離など)、そしてソーシャル・ディスタンスを徹底することくらいしか効果的な策がないのが現状だ。

こうした状況の中で、韓国の対応は世界的にも比較的高く評価されていると言っていいだろう。いわゆる「K防疫」と呼ばれる防疫モデルを成功事例として学ぼうとする動きもある。一例として「ドライブスルー」、「ウォークスルー」、「診断キット」などが世界的な注目を集めている。2020年に任期が満了する日本の後にWHO執行理事国を務めることになった韓国が、このような形で世界の防疫に貢献できることを嬉しく思う。

少なくとも、これまで「K防疫」が成功したのは事実だ。しかし成功の裏側に隠された問題を提起する声も徐々に上がってきている。本文ではこうした防疫対策の裏側に注目したいと思う。韓国の防疫モデルの粗探しをするのが目的ではなく、2次流行に備えさらに徹底した対応を行えるよう働きかけるため問題を提起するに至ったという点をご理解いただければ幸いである。

今後十分な検討が行われるべき部分もあるが、今回はいくつかある問題の中でも特に重要だと考える医療の‘空白’と人権について、「チョン・ユヨプ君(17)死亡事故」と「梨泰院(イテウォン)クラブ発コロナ拡散」という2つの事例をもとに見ていくことにする。

◇「チョン・ユヨプ君(17)死亡事故」を通して見た医療の‘空白’問題

高熱が出たチョン・ユヨプ君は午後7時頃、地域にある唯一の総合病院(民間病院)を訪れた。しかしPCR検査を受けるまではいかなる診療も行うことができないため、翌日検査を受けてから再訪するよう病院から門前払いされたユヨプ君家族は、結局この日はそのまま帰宅することになった。検査を行う病院の選別診療所が午後6時までしか運営していなかったためだ。

夜通し高熱に苦しんだユヨプ君は、翌朝再び病院を訪れPCR検査を受けた後、ようやくレントゲンを撮ってもらうことができた。しかしまたもやここで病院側から検査結果が出るまでは入院させることができないとの通達を受け、やむを得ず自宅へ戻ることになった。帰宅後高熱が下がらず、呼吸困難の症状が見られたためユヨプ君の両親はすぐさま疾病管理本部(保健福祉部傘下機関)に連絡した。その後疾病管理本部から該当地域の保健所に連絡が行ったものの、ここでも検査結果が出るまでは診療ができないとし、検査を受けた総合病院に問い合わせてほしいとの一点張りで時間だけがむなしく過ぎていった。再び総合病院を訪れた頃にはすでに時計の針が午後4時半を回っていた。この時になって初めて、ユヨプ君の両親は病院側から朝方撮影したレントゲンの検査結果が非常に思わしくないため嶺南(ヨンナム)大学病院へ行ってほしいとの指示を受けた。結局早期に治療を受けることのできなかったユヨプ君は2日後に死亡した。

今回の死亡事故をコロナウイルスの感染者が爆発的に増加している状況で起きた、やむを得ない事故であったとする人も多い。しかし本来ならば命を落とすことのなかった子ども(ユヨプ君には基礎疾患は一つもなかった)が死亡した今回のケースを「やむを得ない事故」としてやり過ごせば、今後数十人、数百人が犠牲になるかもしれない同類の事故を放置することになる。そして厳密に今回の事故を検証していくうちに、決して「やむを得ずして」起きた事故では済まされない点がいくつも明らかになった。PCR検査の結果が出ない限り、いかなる処置もとることが出来ないということが、地域に唯一存在する総合病院の方針であったというのも、コロナ対応策の大きな欠点を浮き彫りにしている。

民間病院の立場上、方針に従うほかなかったのならば、少なくともPCR検査を受けることのできる他機関を早い段階で家族に案内すべきだった。実際に病院からわずか5分足らずの場所に、夜間でも検査を受けることのできる診療所があった。翌日のレントゲン検査で肺炎の所見が見られたにもかかわらず、PCR検査の結果が出るまで自宅で待機するよう指示し、早期診療の機会を逃したのは病院側の明らかな過失と言っていい。自宅で待機している間、両親が連絡を取った疾病管理本部・保健所も該当民間総合病院へ再度問い合わせるよう指示するだけで、適切な介入を行なわなかった。地域の医療体系を正確に把握しているコントロールタワーが存在していなかったことが結局事故を招いたのだ。

実のところ、嶺南大学病院は検査結果が出ていなくとも入院することが出来る病院だった。つまり、疾病管理本部・保健所・民間総合病院のいずれかの機関が嶺南大学病院にすぐさま案内していれば、防ぐことが出来たかもしれない事故だった。そして、嶺南大学病院にも全く過失がなかったとは言えない。民間総合病院から検査結果が陰性であったという知らせを受けた後、嶺南大学病院側で実施した検査であらためて陰性が確認されたにもかかわらず、コロナウイルスによる肺炎を疑い、死亡するまで計13回も検査を行った上に、感染者の治療で医療陣が不足していたのが原因なのか現在真偽を確認中ではあるが、30秒間酸素マスクが外れる事態も起きた。

最も大規模な流行が起きた慶尚北道という地域の特殊性を考慮すべきだという声もある。しかし、こうした事故はどの地域でも再び起こりうる。コロナウイルスが流行している状況で、急遽PCR検査を受ける必要がある場合、どこに行けば迅速に検査を受けることができるのか、また緊急時には、どこの病院に行けば検査を受けていなくても診療を受けることができるのか、などを適切に把握している医療体系のコントロールタワーが存在しなかったという点は、韓国社会がしっかりと反省すべきだ。今回保健福祉部(日本の厚生労働省にあたる)の傘下機関であった疾病管理本部が疾病管理庁に昇格したことを肯定的にとらえる声が大半ではある。しかし一部から、民間医療機関に絶対的に依存している韓国の医療体系を問題視し、「公共医療庁」を同時に設立すべきだと主張する声が上がっていることも忘れてはならない。

韓国はOECD加盟国の中で最も公共医療の比重が低い国であり、その割合は2018年度時点で病床数基準10%、医療機関数基準5.7%に過ぎない。保守政党が政権を握っている慶尚北道の場合、従来あった公共医療機関さえも次々に閉鎖されたため、全体に占める公共医療機関の比重が他の地域よりもさらに低い。こうした状況が果たしてユヨプ君の死亡と無関係だと言えるだろうか。公共医療機関の‘空白’問題について、あらためて考えてみる必要がある。

◇「梨泰院(イテウォン)クラブ発 コロナ拡散」を通して見た人権問題

コロナウイルスの感染者数が1日あたり2桁以下に落ち着いていた5月初め、梨泰院(イテウォン)にあるクラブを訪れた人々の間で再び感染が拡大した。感染者数の急激な増加に伴ってマイノリティーに対する嫌悪・差別が深刻化し、今韓国では人権上の大きな問題が発生している。

実はこうした嫌悪や差別をめぐる問題は、防疫の初期段階からすでに影を落としていた。中国人に対する嫌悪・差別に続き、「新天地」という特定宗教に対する攻撃が社会全体から加えられた。政府が初期の防疫対応に集中しすぎたあまり、こうした問題を見逃してしまい、結局今回もマイノリティーに対する嫌悪・差別が起きた。特定集団をターゲットとした差別は防疫の妨げとなりウイルスの拡散にもつながるため、社会全体で取り組み確実に改善していくべきだ。

5月初めに感染者が発生した梨泰院のクラブは、マイノリティーの中でも特にゲイ、男性同性愛者が多く訪れるクラブとして大々的に報道された。一部メディアがクラブの利用者を性的に淫らな集団として描写するなど過剰なまでに攻撃を加えたため、結果として社会的な嫌悪を増幅させることとなった。特にクラブを訪れた利用者のうち、一部が自発的に検査を受けなかったことから感染者が増加すると、ゲイに対する嫌悪と差別はさらに深刻化した。今回のケースは、単純に彼らの道徳的価値観の不足のみを原因として論じることのできない、複雑な差別問題を内包している。一部の自治体で匿名検査などを実施しているものの、梨泰院のクラブを訪れたという事実だけでもゲイ扱いされ、差別される社会だ。そう簡単に解決できる問題ではない。

一旦検査を受ければ感染者との濃厚接触者でないとしても、検査結果が出るまで少なくとも1日から2日自宅で待機しなければならない。つまり、職場や知人に外出できない理由を説明しなければならない状況が生じることになる。しかしメディアがこれほどまでに憎悪を煽ってきた以上、該当クラブを訪れた人々が安心して検査を受け、職場に検査を受けた事実を告げるのはほぼ不可能と言っていいだろう。

マイノリティーに対する否定的な認識が依然として根強く残っている韓国社会では、こうした嫌悪・差別が人生を左右する問題になりうる。仁川(インチョン)地域の大学に通う塾講師の場合、調査の初期段階で「無職」と自身の職業を隠したことが災いし、結局職場の同僚や教え子までが感染する事態に発展した。仁川市はこうした事態を受け、該当学生を刑事告発することを発表した。学生は「卒業と就職に影響が出るのを恐れ」、事実を偽ったと後日告白している。しかし、果たしてコロナウイルスを広めたすべての責任が彼にあると言えるだろうか?

マイノリティーを差別してきた韓国社会、梨泰院のクラブを訪れた人々はマイノリティーで、マイノリティーは社会から排除すべき存在であるというステレオタイプを作り上げたメディア、そしてそうした報道を野放しにしてきた政治家が平凡な市民を「嘘つき」に仕立て、2次、3次感染を引き起こしたのではないだろうか?

誰よりも検査を迅速に受けることの重要性を理解しているはずの選別診療所で働く公衆保険医(兵役勤務として軍隊ではなく保健所に勤務する医師)も梨泰院のクラブを訪問した事実を4日も隠したまま、患者を診察していたことが明らかになった。選別診療所で活動する医師でさえも、ウイルスよりも差別の方が怖かったのだ。

このように、社会的弱者に対する嫌悪と差別は防疫にも大きな妨げとなっている。今、世界全体がコロナウイルスとの長期戦に備えている。長期戦で私たちが勝利するための方法は実は意外と簡単だ。感染の疑いがある場合迅速に検査を受けることのできる環境を整えること、それが勝利のための唯一の道だ。自発的に検査を受けることが出来ない、差別が渦巻く現状を改善するためにも国家レベルでの積極的な介入が必要だ。

◇おわりに

感染症人類を脅かす災いであることは紛れもない事実だ。しかし感染症にはネガティブな側面しかないとは一概には言えない。普段はよく見えなかった社会問題に気づかせてくれるからだ。問題を適切に解決することが出来れば、もうひと段階、成熟した社会へと発展することが出来るだろう。しかし問題を誤った方向に解釈している勢力も少なからず存在する。実際多くの企業や政治家が、業務外の健康上の理由で賃金や仕事を失うことなく休むことのできる有給病気休暇(韓国は恥ずかしながらOECD加盟国の中で唯一、有給病気制度と傷病手当の2つともない国だ)の実施や公共医療の拡張がされるべき領域に、遠隔医療やバイオ事業を取り入れようと躍起になっている。

現在韓国で行われているこうした議論は、それでも「K防疫」が成功を収めたという評価を前提にしている。防疫さえもしっかり実践できないまま、どこから、どのような議論をすべきか先が見えない国々よりはマシな状況にあると言えよう。しかし「K防疫の成功」にうぬぼれ、コロナウイルスの流行から学ぶべき教訓と、より良い社会へと発展することのできる機会を見逃してはいないか、心配が先立つこの頃だ。

<崔圭鎮(チェ・キュジン)Choi_Kyu-jin>
仁荷大学医科大学を卒業後ソウル大学大学院で人文医学を専攻。修士・博士を取得後、現在は母校である仁荷大学で医史学と医療倫理を教えている。「人道主義実践医師協議会」、「健康と代案」、「労働健康連隊」などの市民団体でも活動中。

<長谷川さおり Hasegawa_Saori>
獨協大学を卒業後、韓国の梨花女子大学通訳翻訳大学院で修士を取得した。現在は仁荷大学大学院博士課程にて医史学を勉強している。医学・歴史と関連した通訳翻訳を主に行っている。

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